前職の始まりはタイムキーパーだった。
何をしているのかと言えば字のごとく番組進行における時間の管理である。
番組では、タイムキーパーが事前に準備したQシートという進行表に映像と音の管理をのせた紙に基づいて時間を読む。
例えば、スタジオにいる出演者が、取材したVTRを見ながらトークを繰り広げるが、途中インタビューが入っていると、そこにスタジオトークは被せないで欲しい。だから、インタビューまであと何秒なのか読む。
あるいはスタジオでのトーク時間をあと何秒使えるかなど知らせる、などである。
時間を読みながら、次のVTRの頭だしをしたり、次のテロップが準備されているか確認したりしている。
中継録画のあと編集して放送する場合は、ラップといって、何が何分何秒に起こったか記録を取り続ける。
スタジオ収録は、ほぼ生放送と同じ。
黒柳徹子さんが、徹子の部屋は生放送と同じように放送時間分収録して、編集はしないと仰っているが、まさにそのスタイルが多かった。
で、自然と何秒あればあれとあれとあれができるな、という感覚が身に付く。そして、5秒あればものすごく時間がたっぷりあるという感覚が養われる。
こうして、職を変えた今でも常にどこかで時間の感覚を確かめている。
何分あれば何ができるのか、今いる場所から目的地まで(よく通る道であれば)5分刻みではなく、1分刻みで何分には到達できるか、さんざん遊んだあとに今何時頃かな?と時間を当てるなど、常に時間が気にする自分を意識している。
この感覚は次第に身に付いたものだが、初めての全国ネットの中継に大失敗をしたことがある。
昔、だいぶ長いこと日テレの朝の番組は「ズームイン!朝」だった。
キー局と地方局をつなぎ、地方の情報を全国に届けるという画期的な番組で、地方局はエントリーが決まると、早朝から中継車をスタンバイして生放送に備える。
週に1度か2度のオンエアーがあって、地方局では中継のためにNTTから一定時間分の回線を買うので、時間通りに中継に乗せられないと途中で回線が切れるというハプニングが起こる。
時間通りに中継に乗せられないとは、第一に持ち時間より長く放送してしまうとき、第二に自分達の出番までに既に遅れているとき。
こういうハプニングを防ぐため、そして、何より生放送中にスポンサー様のコマーシャルが時間が足りなくて放送できないなどというハプニングどころか禁忌を回避するために、生放送では、必ず番組の所々に自動で強制的にコマーシャルに入る確定時間というものが設けられている。
その日、私たちの中継時間は3分半ぐらいだったか。
事前のリハーサルで段取りを確認し、中継に出ていただく一般の方とのやりとりも練習した。
初めての生放送の仕事。
上司もインカムをつけて隣にいた。
そして本番。
とあるお宅の庭をご紹介だったような気がする。
その庭の持ち主の方とのインタビューを短くまとめキー局と少しやり取りをして終了のはずだった。
ところが、そのインタビューの答えが延々と続いて終わらないのである。
ここでタイムキーパーは「何秒押し!」と叫ばなければならない。
しかし、話が終わらないことに気をとられ時間通りに終わらないことにパニックになった私はあわあわしているだけで、時間を告げられなかった。
押してます!とようやく言ったとき、
何秒?と素早く聞かれる。
しかし既に1分押していた。
中継の1分押しは致命的だ。
持ち時間3分半に対しての1分押し。
4分半ももう使っている。
中継車の中はディレクターはじめスタッフ全員が慌てた。
そして、無理やりゲストの話をアナウンサーに締めさせて東京のスタジオに戻した。
もう少し言うと、アナウンサーもデビューしたての新入社員枠で、この日の中継が数回目のことだった。
私自身は、何か大変なことをやらかしたという気持ちで怯えたし、たぶん上司にも怒られたのだろう。
そしてディレクターもきっとキー局から怒られたはずだ。笑い話になるには何年もかかる。
いま思えば、私たちの中継枠が確定CMの前だったら良かったのに。
また、なぜに上司は私より早く、20秒ぐらい押しはじめた時に伝えなかったのか。
初仕事だからと見守ったのだろうか、失敗しても?
しかし、それがトラウマになることはなく、以降、身の引き締まる思いで仕事に邁進したのも事実なのである。やはり、上司のお陰か?
と、まあ、こんな経験を20代前半から6年半続け私は辞職したわけだが、このままタイムキーパーを極め、東京進出し、記録担当となり、映画の世界に転職するという未来もあったかな?と、還暦をあと数日後に控え、考えたりする。