安江佳津弘さんは 今まで様々な人々を救ってきた
彼の編み出した不思議な養生法により
末期癌や糖尿病により失明した人など
現代医学でも治癒するのが難しいように思える人々が
あれよあれよと改善していくのだという
そして そんな彼の元へは
ドイツ NY インドなど
海外の演奏家やスポーツ選手などが
その助けを求めてやってくるのだそうだ
彼の指導により記録を更新した選手もいるらしいのだ
目の前で 立て板に水のごとく話続けるこの老人が
三十数年掛けて研究をしたというその技
いったい それは どんなものなのだろうか?
安江さんが自らその手で建てたという
八角形(六角形ではなかったと思うが記憶が不確か)をした
不思議な小屋は
人が3人入ればいっぱいになってしまうほど小さかった
そしてその部屋の中には
ところ狭しと並べられた雑誌や本があり
その壁には天皇ご一家のポートレートやカレンダーが
いくつもいくつも掛けられていた
私は そういった皇室のお写真が
こんなに掛けられているお宅にお邪魔したことがなく
それだけでも異質なところへきちゃったなーと
少し どぎまぎしてしまう
あまりきょろきょろするのも失礼かと思いつつも
好奇心が抑えられない私が
ふと横を見ると
なんだかへんてこりんな木のオブジェが
これでもかと並べられている
へんてこりんなのだけれども
非常に見たことがあるそのオブジェ
そう それは どう見ても
木で作られた小さな階段状のピラミッドなのである
さらにその横には一体のお不動さまが祀られており
その横にはふっくらとした一幅の勢至菩薩さまが掛けられていた
見上げれば 天井の一番高いところにも
その奇妙なピラミッド風オブジェが吊り下げられている
既に異質さを感じていた私は
それを見てさらに
(うわー オカルトっぽい ムーの世界やわー)
心の中で ついそうつぶやいてしまう
ところが そんな奇妙な室内にも関わらず
その部屋は あろうことか
程よく爽やかで心地よく
どこか 東南アジアの早朝のリゾートにでもいるような
私にくつろぎと和みを与えているのだった
「あんた 右足が悪いんだね」
その場で足踏みをしてみろと言われ
どすどすと足踏みをしていると
いきなり安江さんは
私にそんな言葉を投げかけてきた
「あんた 右足がね悪いの
そのせいでね 胃と十二指腸の神経を圧迫してるから
あんた胃がひどく痛んで潰瘍ができようるんよ」
私はきょとんとした顔をしてしまった
「それにね あんた 時々呼吸ができんかったり
胸が酷く痛むやろ
心臓もかなり悪くなっとるわ」
心臓・・・
確かに私は 時々酷く胸が痛み
呼吸が出来ないときがある
でも それは みんなそうなのかと思っていたのに
「あんた 運がいいわ
わし 出歩いてばっかやもんで
あんまり家におらんのやけど
たまたま 今日は家におる日やったんやわ」
そういうと 安江さんは
私をうつぶせに寝かせて
私の両足を引っ張って足先を合わせさせようとする
「あれま こんなにずれとるねー」
悪いと言われた右足が
なんと左足と比べて手の指4本分ほど短いのだという
「これはね 腰骨が右へずれているせいやから」
そういうと 安江さんは なんとなんと
こう言い放ったのである
「1分で治るでね」
1分!?
「それも自分で治せるんやでね」
自分で?1分?
腰や骨盤というのは
整体にいくなり せめて矯正ベルトをするなりしないと
治らないものじゃなかったかしらん??
私の頭の中は ハテナでいっぱいになっていく
「ほれみてみい こんなに開いとるよ」
言われてふと横になったまま
背中越しにふりかえってみると
なんと 安江さんが手にしているのは
ダウジングロッドである
ダウジングとは
地下水や貴金属の鉱脈など隠れた物を
棒や振り子などの装置の動きによって見つける手法であり
そのための道具の一つが
今 安江さんが手にしているロッドというものだ
名前はなんだか凄いのだが
実際は L字になった棒であり
それの短い部分を二本両の手にそれぞれ持って
地下水や貴金属の鉱脈など
地表に現れていない物に反応すると
勝手に棒が開いたりクロスしたりするのだ
数千年の昔より 主に水脈を探すのに使われてきたが
今でも水道管を探すためなどに利用されていたりもする
安江さんが手にもったダウジングロッドは
私の右足の上で これでもかと言わんばかりに
180度を少し超えたほど開いていた
そうしておいて 今度は左足の上に移動させると
ロッドは きゅうぅんと動き
すっとお行儀よく
間を1センチほど残して二本が平行に並ぶ
しかし 右足の上へ移動させると
ぎゅわんと 思い切りよく大開脚
「さて じゃあ 脚をそろえようかね」
山並みを抜けて田んぼを渡ってきた風が
少し高台になっている安江さんの地所へと吹き上げて
その軽く湿気を含んだ甘い風が
オカルトチックな治療室の真ん中にいる私を
まるで洗い上げるかのように
撫で清めて行過ぎていく
目に入る限り全てが 緑の山
どこからか聞こえてくるミンミンという
夏の終わりを知らせる蝉の声
時折 通りかかった猫が
そっと中を覗きこんでいった
「1分で治るでね」
1分・・・
疑い深い私だが
この場所の心地よさに
頭の芯まで弛緩し始め
(まな板の鯉 いや まな板のチャーシュー
どうとでも 調理してやってくださいや)
そう 心の中でひとりごちると
安江さんの言うままに
体を動かし始めた
(続く)
彼の編み出した不思議な養生法により
末期癌や糖尿病により失明した人など
現代医学でも治癒するのが難しいように思える人々が
あれよあれよと改善していくのだという
そして そんな彼の元へは
ドイツ NY インドなど
海外の演奏家やスポーツ選手などが
その助けを求めてやってくるのだそうだ
彼の指導により記録を更新した選手もいるらしいのだ
目の前で 立て板に水のごとく話続けるこの老人が
三十数年掛けて研究をしたというその技
いったい それは どんなものなのだろうか?
安江さんが自らその手で建てたという
八角形(六角形ではなかったと思うが記憶が不確か)をした
不思議な小屋は
人が3人入ればいっぱいになってしまうほど小さかった
そしてその部屋の中には
ところ狭しと並べられた雑誌や本があり
その壁には天皇ご一家のポートレートやカレンダーが
いくつもいくつも掛けられていた
私は そういった皇室のお写真が
こんなに掛けられているお宅にお邪魔したことがなく
それだけでも異質なところへきちゃったなーと
少し どぎまぎしてしまう
あまりきょろきょろするのも失礼かと思いつつも
好奇心が抑えられない私が
ふと横を見ると
なんだかへんてこりんな木のオブジェが
これでもかと並べられている
へんてこりんなのだけれども
非常に見たことがあるそのオブジェ
そう それは どう見ても
木で作られた小さな階段状のピラミッドなのである
さらにその横には一体のお不動さまが祀られており
その横にはふっくらとした一幅の勢至菩薩さまが掛けられていた
見上げれば 天井の一番高いところにも
その奇妙なピラミッド風オブジェが吊り下げられている
既に異質さを感じていた私は
それを見てさらに
(うわー オカルトっぽい ムーの世界やわー)
心の中で ついそうつぶやいてしまう
ところが そんな奇妙な室内にも関わらず
その部屋は あろうことか
程よく爽やかで心地よく
どこか 東南アジアの早朝のリゾートにでもいるような
私にくつろぎと和みを与えているのだった
「あんた 右足が悪いんだね」
その場で足踏みをしてみろと言われ
どすどすと足踏みをしていると
いきなり安江さんは
私にそんな言葉を投げかけてきた
「あんた 右足がね悪いの
そのせいでね 胃と十二指腸の神経を圧迫してるから
あんた胃がひどく痛んで潰瘍ができようるんよ」
私はきょとんとした顔をしてしまった
「それにね あんた 時々呼吸ができんかったり
胸が酷く痛むやろ
心臓もかなり悪くなっとるわ」
心臓・・・
確かに私は 時々酷く胸が痛み
呼吸が出来ないときがある
でも それは みんなそうなのかと思っていたのに
「あんた 運がいいわ
わし 出歩いてばっかやもんで
あんまり家におらんのやけど
たまたま 今日は家におる日やったんやわ」
そういうと 安江さんは
私をうつぶせに寝かせて
私の両足を引っ張って足先を合わせさせようとする
「あれま こんなにずれとるねー」
悪いと言われた右足が
なんと左足と比べて手の指4本分ほど短いのだという
「これはね 腰骨が右へずれているせいやから」
そういうと 安江さんは なんとなんと
こう言い放ったのである
「1分で治るでね」
1分!?
「それも自分で治せるんやでね」
自分で?1分?
腰や骨盤というのは
整体にいくなり せめて矯正ベルトをするなりしないと
治らないものじゃなかったかしらん??
私の頭の中は ハテナでいっぱいになっていく
「ほれみてみい こんなに開いとるよ」
言われてふと横になったまま
背中越しにふりかえってみると
なんと 安江さんが手にしているのは
ダウジングロッドである
ダウジングとは
地下水や貴金属の鉱脈など隠れた物を
棒や振り子などの装置の動きによって見つける手法であり
そのための道具の一つが
今 安江さんが手にしているロッドというものだ
名前はなんだか凄いのだが
実際は L字になった棒であり
それの短い部分を二本両の手にそれぞれ持って
地下水や貴金属の鉱脈など
地表に現れていない物に反応すると
勝手に棒が開いたりクロスしたりするのだ
数千年の昔より 主に水脈を探すのに使われてきたが
今でも水道管を探すためなどに利用されていたりもする
安江さんが手にもったダウジングロッドは
私の右足の上で これでもかと言わんばかりに
180度を少し超えたほど開いていた
そうしておいて 今度は左足の上に移動させると
ロッドは きゅうぅんと動き
すっとお行儀よく
間を1センチほど残して二本が平行に並ぶ
しかし 右足の上へ移動させると
ぎゅわんと 思い切りよく大開脚
「さて じゃあ 脚をそろえようかね」
山並みを抜けて田んぼを渡ってきた風が
少し高台になっている安江さんの地所へと吹き上げて
その軽く湿気を含んだ甘い風が
オカルトチックな治療室の真ん中にいる私を
まるで洗い上げるかのように
撫で清めて行過ぎていく
目に入る限り全てが 緑の山
どこからか聞こえてくるミンミンという
夏の終わりを知らせる蝉の声
時折 通りかかった猫が
そっと中を覗きこんでいった
「1分で治るでね」
1分・・・
疑い深い私だが
この場所の心地よさに
頭の芯まで弛緩し始め
(まな板の鯉 いや まな板のチャーシュー
どうとでも 調理してやってくださいや)
そう 心の中でひとりごちると
安江さんの言うままに
体を動かし始めた
(続く)