毎日連載小説「2月14日の嘘」 第176話 〜ダメ男、老いる〜
週末の歌舞伎町の夜はちょっしたカオスだった。
靖国通りでタクシーを降り、自ら人混みに突っ込んでいく。大半が酔っ払い、残りは夜の商売の住人だ。
ケバケバしいネオンのキャバクラの前で金髪のギャルと肩がぶつかって舌打ちされる。
「うざ! どこ見てんだタコ」
……タコ?
どう考えても古臭い表現だが、ギャルの間では一周してありなのだろうか。
「ふう」
思わずため息が漏れる。
到着して数分で疲れてしまう。街のエネルギーに負けるのは、老いた証拠だ。
もしくは、昨夜の杏との真夜中のカレーデートがうまくいかなかったダメージを引き摺っているのか。
僕は逃げるようにして、梶谷ひばりの事務所がある飲食ビルに逃げ込んだ。
「どしたん? そっちから来るなんて珍しいやん」
紺のカットソーと白のスキニーパンツ姿の梶谷ひばりがスツールに腰掛けて待っていた。
「頼みごとがある」
千円札を取り出し、カウンターに置いた。
「杏ちゃんのお金やね」
梶谷ひばりが悪戯っ子のような笑みを浮かべた。