毎日連載小説「2月14日の嘘」 第164話 〜ダメ男とドラゴンフルーツ〜
は、張り切り過ぎてしまった……。
僕は自宅のキッチンで、自分自身に呆れ返っていた。食卓の上に買ってきたものが馬鹿みたいに並んでいる。
スペインのシャンパンであるカヴァ、同じくスペイン産のワインを赤と白と一本ずつ。そのワインに合わせて、スペインの生ハムのハモン・セラーノとスペインのチーズのマンチェゴ。
マンチェゴに関しては食べたことはないが、ワイン店のスタッフに勧められて思わず購入してしまった。
その店はワイン以外にも色々と品揃えが豊富で、バーニャカウダのお手軽セットが売っていた。
お手軽なら、買ってみるか。
バーニャカウダのポットとアンチョビソースが付いているので素人の僕でも作れる。
カレーの前の前菜だ。
野菜もこだわった。こだわり過ぎて、チコリまで買った。
意識高い系の野菜代表ともいえるチコリ……杏にカッコつけすぎだと思われてしまうかもしれない。
そして、極めつけはデザートだ。
プロのパティシエである杏に小細工は通用しない。熟考した結果、フルーツにした。
高級フルーツ店でスタッフに、「アサイーの次に来ますよ!」と熱烈に勧められて、ドラゴンフルーツを買ってしまった。
チコリとドラゴンフルーツ……。
僕は一体どこに向かっているのか。カレーが霞んでしまうラインナップではないか。
自己嫌悪の最中、ラインの通知音が鳴った。
もしや!
慌ててスマホを開くと、やはり杏からだった。
《カレーのお誘いありがとうございます。でも、今日はまだ行けません》