毎日連載小説「2月14日の嘘」 第150話 〜ダメ男、即答する〜
ワゴン車が繁華街の外れにあるスナックの前で停まった。
「着いたぞ。降りろ」 迷彩柄が後部座席のドアを乱暴に開ける。
「降りろって言われても……」
「早くしろよ。てめえ」
さすがにまた殴られたくないので降りるしかない。
僕は渋々とワゴン車の外に出た。あとから松崎美樹も不貞腐れた顔で降りてくる。
潮の香りがする。海がすぐそこにあるのだろう。
スナックの名前は《実花》とあった。
ミカ……?
たしか、トランクスの男が自分の女をミカと呼んでいた。
「入れ」
迷彩柄の男がスナックのドアの鍵を開けて言った。
「嫌だ」
僕は正直に返した。これ以上、監禁はされたくない。
「次は鼻の骨を折るぞ」
迷彩柄が拳を握って距離を詰めてくる。
「わかった」
即答した。人間は痛みに弱い。