毎日連載小説「2月14日の嘘」 第146話 〜ダメ男、蹴られる〜
「はーい」
ドアの向こうから、女の声と近づいてくる足音が聞こえた。
声のトーンからして、僕を誰かと勘違いしているようだ。
「お帰りー! ダーリン!」
勢いよくドアが開き、チアリーダーの格好をした女が出てきた。化粧が濃く金髪の長いをポニーテールにしている。
「えっ?」
女が僕を見て固まる。
「松崎美樹さん?」
「そうですけど……ボブは?」
知らねえよ! 外国人の彼氏と朝っぱらから何をしようとしていたのだ。
「僕は新宿歌舞伎町の《ブラッドオレンジ》の代理人……」
言い終わらないうちに、松崎美樹が右足を蹴り上げた。見事、足の甲が僕の股間にヒットする。
いわゆる金的蹴りである。
この痛みは男にしかわからない。急所を攻撃されたオスは、どんな猛者であろうと戦意を喪失してしまう。
「があああ」
僕は首を締められたガチョウのような呻き声を上げ、股間を押さえて倒れ込んだ。
「ごめんなさい!」
松崎美樹が謝りながら、僕を飛び越えて裸足のままエレベーターへと向かう。
に、逃げるのか?
しかし、立ち上がることができない。目がチカチカし、全身から脂汗が流れ出す。