毎日連載小説「2月14日の嘘」 第140話 〜ダメ男、熱海に着く〜
熱海と名古屋と新潟。
まずはどこに行くか少し悩んだが、距離的には一番近い熱海にすることにした。
品川からなら、新幹線で一時間もかからずに行ける。あと、名古屋と新潟と比べて街の規模が狭いので、逃亡している女が隠れる範囲も限られてくるはずだ。
とにかく、一人目を早く捕まえて結果を出さないと。
僕は、午前九時の品川駅のホームでひとりごちた。
冷静に考えれば、二日で三人から掛け金を回収するのら不可能ではないか。そもそも、金がないから逃げているわけだから、捕まえたところでどうしようもないではないか。
ひばりのやつ……一番しんどい仕事を押しつけやがって。
文句を零しても仕方ない。やるしかないのだ。
五分後に到着した《こだま》に乗り、朝ごはんとして買った幕の内弁当を食べながら熱海に向かった。
満腹になって、ウトウトしかけたタイミングで熱海に着いた。本当にあっという間である。
だいぶ、イメージと違うな。
熱海駅を降りて、驚いた。新しい駅ビルが建ち、まだ午前中だというのに観光客がそこそこいる。外国人の観光客も多く、まったく寂れていない。
できることなら温泉にゆっくり浸かって、昼からビールを飲みたい。もちろん、そんな時間があるわけない。
僕はスマホを開き、ひばりからのメールを確認した。
松崎美樹。二十五歳。
逃げた女の一人だ。地元は沼津だが、知り合いのツテで、熱海のスナックで働いているらしい。
本来なら、スナックが営業している夜のほうが見つけやすいが、周りにどんな人間がいるかわからないで近づくのは危険だ。
この時間なら、スナック勤めの松崎美樹は寝ているはずだ。
寝ぼけているところを押さえてやる。
それはそれでヤバそうだけれど、ここまで来て退いてたまるか。