毎日連載小説「2月14日の嘘」 第118話 〜ダメ男、切り替える〜
三日後。
杏との二回目のデートの日が来た。待ち合わせは渋谷駅のTSUTAYAに午後一時。僕は三十分前に着いてしまった。
一階のCDコーナーで、名前も知らないバンドのニューアルバムを試聴する。
どこかで聴いたことのあるメロディーと歌詞。ペラペラでまったく心に響かない。
音楽に集中できなくてスマホを開き、杏とのLINEのやり取りを見た。
《ボルダリング、とても楽しみです(^o^)/》
ニンマリとなるが、すぐに不安に駆られる。
果たして壁に登れるのだろうか?
一応、バッグにTシャツとジャージの短パンを持って来た。ホームページで、今から行くスタジオを調べたらシューズはレンタルできるらしい。
杏の前で無様な姿は見せたくない。かと言って、怪我もしたくない。
くそっ。やっぱり、練習しておくべきだった。
新しいアルバイトに忙殺されて、まったく時間が取れなかった。ホストクラブのツケを払わずに逃げている三人の女を探さなくてはならないが、一人も見つかっていない。手がかりゼロの状態だ。
そもそも、赤髪ホストのカフカから貰った情報の信憑性が薄い。
三人の女の写真は加工されているし、名前や仕事も本当とは限らないではないか。
一人は、ガールズバーの店員。あとの二人は、OLらしい。
アルバイトが決まったことを龍之介に連絡したが、「それ、逃げた女の子が見つからなきゃ働いたと言えないよね」と冷たい反応をされた。 とりあえず、今日はデートに集中しよう。
杏に会えると考えただけで溜まっている疲れが吹っ飛ぶ。
今は、「ママはボルダリングにハマっている」という龍之介のアドバイスをフルに活用するしかないのだ。
気持ちを切り替えたと同時に杏からLINEが入った。
《渋谷に着きました(*^^*)》