毎日連載小説「2月14日の嘘」 第96話 〜ダメ男、毒を食う〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」 第96話 〜ダメ男、毒を食う〜

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「何だ、その話は?  事実なのか?」
  鯉川は胡散臭いジジイだが、犯罪にがっつりま手を染めてるとまでは思っていなかった。
  もし、本当ならば、稲子の家から追い出さなくてはならない。
「事実かどうかはまだ判断できへん。だから、鯉川を調べたいねん」
「大金っていくらなんだ?  てか、そいつは何者だよ」
「情報提供者のことは守秘義務があるから教えられへん」
「教えろよ!  俺は依頼人だぞ!」
「元依頼人やろ。金はもういらんって言ったやん」
「ぐっ……」
  言い返す隙がない。残された選択は二つだ。
  亜紀と縁を切るか。鯉川の財布から金を持ってくるかだ。
「どう?  腹を括った?」
  ちくしょう。毒を食らわば皿までだ。
「一度だけ協力する」
「よっしゃ! それでこそ男や!」
  亜紀が顔を輝かせて、手を叩く。
「一度だけだぞ。次はないからな」
「じゃあ、三種類の札を抜いてきてな」
「三種類?」
「一万円札と五千円札と千円札。一枚ずつでいいから」
「わかった……」
「頑張ってな! パパ!」
  亜紀は他人事のように僕の肩を叩き、軽やかな足取りで去って行く。通りの酔っ払いたちが、亜紀のスタイルにあんぐりと口を開けた。