毎日連載小説「2月14日の嘘」 第64話 〜ダメ男、震える〜
「う、嘘だよな?」
僕は震える声で、つむぎに訊いた。
「本当だよ。ママはああ見えてシャイだからさ、間に入るのも苦労したよ」
「あのジジイ……」
「パパ、凄い顔になってるよ」
つむぎが笑いを堪えて言った。
「どんな顔だ?」
「鬼と獣と情けないオヤジがミックスしてる」
「どんな顔だ!」
「悔しいの? 悲しいの?」
「どちらでもない」
言葉にできない感情である。裏切りにあったのに、誰も責めることができないような気持ちだ。
「ママに恋人ができたのを喜んであげてよ」
「つむぎ、ウイスキーを頼んでいいか」
「こんな時間から、こんなオシャレなカフェで飲むの?」
「逃げないで。パパも恋人作ればいいじゃん」
「できないから悩んでるんだろ」
「諦めないで。ダメでも、すぐに次の恋に行けばいいじゃん」
「ダメ前提で話すな」
「これだけでショックを受けるのか……」
つむぎが言い辛そうに顔をしかめる。
「まだ、あるのか?」
「ママと鯉川さん、同棲するって」
秒速で、白州のソーダ割りを注文した。