毎日連載小説「2月14日の嘘」 第46話 〜ダメ男、動悸が乱れる〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」 第46話 〜ダメ男、動悸が乱れる〜

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  午後三時。
  僕は歌舞伎町に来ていた。亜紀に指定された映画館の斜め前にある二階の喫茶店に入る。
  店内は満席だった。
  サボっている営業マン、出勤前のホスト、キャバ嬢、高級スーツを着こなしているがどう見ても怪しいインテリアヤクザ、出会い系サイトの待ち合わせをしている中年オヤジ。
  いつも思うが歌舞伎には様々なタイプの人間が集まっている。
「先生、ここやで!」
  亜紀は一番奥の席にいた。白いタートルネックのセーターに、細身のデニムを合わせている。どこでも目立つ亜紀でさえも、この街では存在感は薄い。
「どうだった?」
  僕は席につくなり、注文もせずに訊いた。
「ほんまに普通の占いやった」 
  亜紀が拍子抜けした表情で肩をすくめる。
  三時間前、亜紀から「鯉川の占いにキャンセルが出たから行ってくるわ!」と連絡があったのだ。どうも人気らしく、なかなか予約が取れないらしい。
「普通って、具体的には?」
「自分でたしかめたら?」
「ん? 」
「直接、鯉川に会ってみる?」
「どうやって?」
  亜紀が玩具を前にした子供のような顔で言った。
「キャンセルされたのが四時間分やから、今からなら、まだ占いの予約はできるはずやで」
  直接、対決?
  予想外の展開に動悸が乱れる。喉がカラカラになり、亜紀の水を勝手に取って飲み干した。