毎日連載小説「2月14日の嘘」 第36話 〜ダメ男、勘が働く〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」 第36話 〜ダメ男、勘が働く〜

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「杏か……」
  素敵な名前だ。つい口に出し、しみじみとしてしまう。
「おじさん、名前だけで感動しないでよ」
  龍之介が呆れた顔で、僕を見る。
「これが恋なんだよ。ガキにはわからん」
「わかんなくていいよ」
「好きな子はいないのか? ん?」
「いねーよ」
  たったこれだけのやり取りで、龍之介の顔が真っ赤になった。やっぱり、まだ子供だ。可愛いではないか。今日こそは、主導権を握ってやる。
「本当はいるんだろ?  素直になろうぜ、少年よ」
「いねーって言ってんじゃん。しつけーな」
「じゃあ、龍之介のことを好きな女子はいないのか?」
「オレ、学校ではそんなんじゃねーから」
  龍之介の顔が曇る。スケボー少年には似合わない覇気のなさだ。
  もしかして……学校でうまくいってないのか?
  勘だが、イジメにあっているのかもしれないと感じた。しかし、ナイーブな問題だけに、簡単に訊くことはできない。
「そうか。スケボーに夢中だもんな」
「オレのこと何も知らないくせに。まあ、教えるつもりもねーけど」 
「俺が知りたいのは、お前の母親の情報だ」
「自分で訊けばいいじゃん。手紙書けば?」
「読んでくれないんだよ」
「オレが母さんに読むように言ってやろうか?」
  あっと言う間に、主導権を奪われた。