毎日連載小説「2月14日の嘘」 第30話 〜ダメ男、挑発する〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」 第30話 〜ダメ男、挑発する〜

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  僕もクラフトビールを飲み、ひと息ついた。
  梶谷の妹に任せるかどうかはまだ決めかねているが、娘のつむぎの話をした。
「なるほど。その歌舞伎町の怪しいジイさんの身元を調べればええんやね。さっそく、明日から取り掛かるわ。ちょうど新宿三丁目のビジネスホテルに宿取ってるから近くて助かるわ」
「宿?」
「うん。夕方に京都から着いたばっかりや」
「東京在住じゃないんだ……」
  たしか、梶谷の実家は京都だった。これで、ますます断れなくなった。
「こんなガサツな街に住めへんわ」
  亜紀が高い鼻を鳴らす。
  京都出身のハーフは、どうやらプライドがとんでもなく高そうだ。
「いつから、探偵をやっているの?」
「二十歳から」
「歳はいくつ?」
  初対面の女性に年齢を訊くのは失礼だが、致し方ない。
「二十五歳やけど、何か関係ある?」
  案の定、亜紀がムッとする。
「こっちは金を払うんだ。ど素人には頼みたくないもんでね」
「ふうん」亜紀がポッテリとした唇の端を歪める。「アニキが言うてた通り、変わった人みたいやね」
  梶谷の野郎、僕も変人として紹介していたのか。
「キャリア五年だとまだアマチュアのレベルだと思うが、どうなんだ?」
  僕はわざと挑発するように訊いた。
  どういう経緯で探偵になったのだろうか。しかも、キャリアスタートが若い。
「もし、三日以内に歌舞伎町の怪しいジイさんの正体を突き止められへんかったら依頼料はいらんよ」
  亜紀があえて挑発に乗ってくる。
「仁村先生、例の恋のことも相談したら?」 
  亜紀の美貌に正気を失ってるマスターが、出来上がったばかりのフィッシュ&チップスをカウンターに置きながら余計過ぎるひと言をぶっ込んできた。