毎日連載小説「2月14日の嘘」第10話 〜ダメ男、娘から説教される〜 | 木下半太オフィシャルブログ「どんなときも、ロマンチックに生きろ」Powered by Ameba

毎日連載小説「2月14日の嘘」第10話 〜ダメ男、娘から説教される〜

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「教師だと?  そいつの名前は?」
  怒りのあまり、こめかみの血管が切れそうになった。
「教えるわけないじゃん。パパ、どうせ学校に乗り込んでくるでしょ」
  つむぎが迷惑そうに顔をしかめる。
「当たり前だろ。そのスケベ教師を成敗してやる」
「スケベなのはパパも同じじゃん」
「パパは未成年には手を出さない。それがポリシーだ」
「偉そうに胸を張らないでよ。バカみたい。いつになったら大人になるんだろうってママも呆れてるよ」
「パパのことはどうでもいいんだ。スケベ教師が言い寄ってきてるのか?」
「クラスのグループLINEがあるんだけど……」
「ちょっと、待て。グループLINEって何だ?」
「マジで言ってる?  パパ、LINEは知ってるよね?」
  つむぎが心底呆れだ顔になる。
「……何となくな」
  自慢ではないが、スマホは持っていない。ガラケーだ。
「信じられない。よくそんな時代遅れで小説を書けるよね」
「時代の波に乗れないから書けるんだよ」
  しかし、五年間、スランプが続いている。書くべきものが見つからないのだ。
  書くという行為は、大海原で遭難するようなものだ。運良く通った船の救助を待つか、無人島を見つけるしかない。
「その教師は、気に入った女子生徒にだけ、個人的なLINEをしてくるの。『勉強、頑張ってるか?』とか、『進路の相談に乗ってやろうか?』とかね。下心丸見えでキモいよね」
「パパが抗議して、教師生命を終わらせてやる」
「やめてよ。向こうはパパみたいにバカじゃないから、他人に見られても平気なLINEを送ってきてるもん。生徒に手を出すわけでもないし」
「いや、だけど……」
「素直な生徒を演じてれば、いい成績くれるから逆にチョロいよ」
  恐るべき十四歳である。
  つむぎが五歳の頃、「つむちゃん、パパと結婚する!」と言ってくれたことを思い出し、僕は涙ぐんだ。