あれから不思議なことは起こっていない。何となく拍子抜けである。しかし、ゴッホに関してはかなり勉強した。ゴッホおたくと言ってもいいかもしれない。俺は興味を持ったら徹底的にやるタイプである。それに記憶力も抜群にいい。一度見たらすべて忘れないというレベルではないが、意識して集中して覚えたことはまず忘れない頭脳は持っている。

それにしても、あのときの出来事は何だったのだろう?

俺があのときに見た絵は『糸杉のある道』だと分かった。

あの、大きなうねっている木は糸杉と言う木だった様だ。

生まれてから、あれだけの不可思議の経験は初めてだった。だからこそ、ゴッホの勉強もすることにしたのだが、それだけでは満足できず、印象派のことや、それに付随する細かいことまで勉強した。それでも満足できず、あの絵をもう一度見に行こうと考えた。

東京の有名な美術館で行われた『ゴッホ10年の歩み』と言う企画展は、企画展ゆえに、その美術館でゴッホの絵が常設されているわけではない。企画展が終われば集められたゴッホの絵はそれぞれの美術館に返される。

『糸杉のある道』はオランダのクレラ―・ミュラー美術館というところから借りてきたのだそうだ。

つまり、『糸杉のある道』の絵をもう一度見たかったら、オランダまで行かなくてはならないということだった。

瑞樹とはいつか二人でヨーロッパ旅行をしようと言っていたので、フランスとオランダに行こうと俺は提案した。両国ともゴッホにゆかりのある国だからだ。

瑞樹は賛成した。二人で旅行資金をためるために貯金もした。まあ、これはデート代を安く済ませれば問題はなかったし……と言うことなんだが、本当はソコソコ稼いでいたので、気分で貯金とかデート代を安く済まそうなんて言って資金作りを瑞樹と一緒に楽しんでいた。

そして、あれから一年後、正確に言えば一年と二ヶ月後なのだが、瑞樹と二人で十月にフランスとオランダに行くこととなった。