いつもの様に、自分の部屋を出るとブリンク家のおかみさんに挨拶をし、朝食をいただく。昨日の夜に声をかけてきたのもこのおかみさんだ。
朝食が終われば直ぐに出勤だ。歩いて数分だから直ぐに着く。
テオドールの俺としてはいつもの見慣れた街の風景だが、岩崎俊としては新鮮な街の姿だ。
ヨーロッパは現代(平成)も、19世紀も、街の造りは大きく変わらない。それゆえ、瑞樹と一緒に見た、パリやアムステルダムの街とここはそう変わらない風景なのだが、歩いている人々が違う。山高帽を被っている人や、ひらひらの服を着ている婦人たちを見ると映画の中に入った様な感じになるのだ。馬車も走っているしね。
俺のおじさんが出資した『グーピル画廊』はモンター・ニュ・ドゥ・ラ・クール街58番地にある。
画廊に着くと「おはようございま~す」とフランス語で元気いっぱいの挨拶を俺はした。
「おや、※※※××今日は○○※※※昨日○○」
早口のフランス語でジャンが話しかけてくる。
俺はフランス語や英語、ドイツ語など多少は習ったし、今はなるべくフランス語で話そうとしているから少しは分かるが、早口で喋られるとまったく分からない。俺が?という顔をしているとジャンは、今度は普通の早さで話しかけてきた。もちろんオランダ語ではなくフランス語でだ。
「おや、どうしたのだい。やけに今日は元気がいいな。昨日何かあったか」
ニヤニヤしながらだ。
「分かっているだろう。シュミットさんと一緒に行ったんだから」
「それでちゃんと大人になったのかい」
「当たり前だろう」
昨日の場所は娼婦館だったのだ。
『グーピル画廊』の責任者、シュミットさんは俺のことを気に入ってくれて、昨日は「テオも大人にならないとなあ」と言い、娼婦館に連れて行ってくれたのだ。
16歳で娼婦館、岩崎俊が住んでいた日本では絶対駄目だろう。
あ、言い忘れたけど、俺、今16歳。
日本だったら高校一年生だが、ここではもう社会人の年齢なのだ。
俺の家では、兄は結構優遇されていて、学業も親が便宜を図っていた。しかし、元々貧乏家庭だから俺までそういうわけには行かず16歳で社会に出ざるを得なかった。
俺の親の職業は牧師。聖職者だから社会的地位は高いかもしれないが、給料はすずめの涙ほどだ。それでも、俺がブリュッセルに働きに来たときは何と80フランも仕送りをしてくれていたのだ。そのとき姉のアンナにも寄宿料を送っていたのだから、俺の親の家計は火の車だったろう。何しろ子供が6人もいるんだから、ん……いたのだから、豊かな暮らしは一生無理だった。
俺がジャンに強がった返事をしているときにシュミットさんが店に入って来た。
「テオ、昨日は何て言うか、まあ、あせるな」
シュミットさんはそう言うと奥の部屋に入って行った。
ジャンはシュミットさんの言葉を聞いてゲラゲラ笑っている。殺していいかな。
「ジャン、いい加減にその馬鹿笑いを止めろ。口に靴を突っ込むぞ。それより、今日、例のメンバーでいつものところに集合な。みんなに声をかけておけよ」
「なんだよ、テオ。青年会の定例会議は三日前に終わったじゃないか」
「特別なことがあるんだよ。お前は言われたことをやればいいんだ」
ジャンは『グーピル画廊』の社員ではない。近くの薬屋の店員だ。歳が俺と同じ16歳でジャンも今年から働き始めた新入社員だ。店が近くどうしなので、しょっちゅう冷やかしに『グービル画廊』に顔を出しに来る。
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