日本人はその大半が無神教者と言える。

異国の聖人の誕生日の前夜は、
家族や恋人がチキンやケーキを食べ、
親はこどもの枕元にプレゼントを置き、
そして恋人たちは体を重ねる。

結婚式は教会で行い、
異国の神の前で、
そのみだりに口にしてはいけない神の名すら知らずに、
永遠の愛を誓う。

日本人はその大半が無神教者と言える。

異国の聖人の誕生日の前夜は、
家族や恋人がチキンやケーキを食べ、
親はこどもの枕元にプレゼントを置き、
そして恋人たちは体を重ねる。

結婚式は教会で行い、
異国の神の前で、
そのみだりに口にしてはいけない神の名すら知らずに、
永遠の愛を誓う。

正月になれば、神社に初詣に行き、
前厄、本厄、後厄には神社で厄払いをする。

そして家族が死ねば、
寺に葬儀を頼み、皆で念仏を唱える。

実に節操なく、
異国発祥の宗教をそのときどきにより使い分け、
神の存在をどこかで信じながらも、
その神がどの神なのかすら、わからないでいる。

この国がそうなってしまったのは、
太平洋戦争当時、この国独自の宗教である神道より、
神の血を引くとされる王族を現人神としてまつりあげ、
敗戦とともに行われた当時の王による
「人間宣言」に端を発する。

政治と宗教は、
一部の例外こそあるが切り離され、
戦後に生まれたこの国の民は、
この国の神のことを学ぶ機会が失われてしまった。

こどもが、最初にこの国の神や神話に触れるのが、
漫画やアニメ、そしてゲームだ。

イザナギやイザナミ、
アマテラスやスサノオ、ツクヨミ、といった
日本神話の中でも特に有名な神々と、
あとは三種の神器についての知識、
この国の民は、自国の神について、
せいぜいその程度の知識しかない。

だから、
日本神話の冒頭にだけその名が記される、
造化三神と呼ばれる、
始まりの三柱の神の存在を知る者は少ない。

アメノミナカ、

タカミムスヒ、

カミムスヒ、

高天ヶ原の最高神であるアマテラスでさえ、
重要な決断に迫られたときには、
アメノミナカに助言を請い、
その決定に従ったとされる、
表舞台に立つことのない真の最高神・・・

それが、造化三神である。


甲斐亨は、かつて
異世界の仮面ライダーたちと共に、
造化三神によって、
その力を分け与えられた仮面ライダーたちと戦った。

その戦いの場こそ、
後に九頭龍国と呼ばれるようになる亜空間であった。


「パパには、スペアとなる存在がいたと
 聞いたことがある。
 ママが晴美のスペアだったように。
 甲斐享、お前のことだな?」

「そうらしいな・・・」

自分の存在が誰かのスペアだなんて
考えたくもなかったし、信じたくもなかったが、
間違いなく甲斐享は、
ふたりの少女の父親である
九頭竜の化身のスペアとしてその存在があった。
 
「だからお前は、
 職業の名を関する仮面ライダーに
 ジョブチェンジすることができる。そうだな?」

「その通りだ」

「それは、
 仮面ライダーディケイドの能力に
 とても近いもの・・・」

「近いだけさ。
 ・・・いや、似ているだけだ。
 ぼくとあの男の・・・門矢士と言ったか
 仮面ライダーとしての能力は、桁違いだ。
 ぼくはあの男の足元にも及ばない」

「それは、晴美がお前を選ばなかったから。

 だけど、鳴滝はお前を選んだ。

 そして、ディケイドとディエンドは、
 本来ならひとりの仮面ライダーに
 与えられるはずだった力・・・
 その力を手にしたのが、九頭龍天禍天詠」


ふたりの少女の父は、
九頭竜の化身の仮面ライダーとして、
まず最初に禍津九頭龍獄という力を得た。
九頭竜の暗黒面の力だ。

そもそも九頭竜とは、
九頭龍伝承、
九頭龍伝説、
あるいは九頭龍大神伝承、
九頭龍大神伝説などと呼ばれる、
日本各地に残る九頭龍大神に関する
伝承・伝説に登場する神の名である。

長野県の戸隠山に伝わる伝承によれば、
鎌倉中期に記された『阿裟縛抄諸寺略記』の中に、
西暦800年代の中盤頃の話として、
「学門」という名の修行者の法華経の功徳によって、
九つの頭と龍の尾を持つ鬼がこの地で岩戸に閉じこめられ、
善神に転じて水神として人々を助けた
という言い伝えが残されている。

これを調伏善龍化伝承と呼ぶ。


つまり、ふたりの少女の父親である
九頭竜の化身の仮面ライダーが
最初に目覚めたのは、
九つの頭と龍の尾を持つ鬼の力である。

九頭竜の化身である
仮面ライダー禍津九頭龍獄は、
その後、天津九頭龍極へと進化する。
その力は、善神に転じて
水神として人々を助けた
九頭竜の力だと推測される。

調伏善龍化伝承によれば、
水神に転じた九頭竜は、
九頭龍権現として崇められ雨乞いが行われた。

雨と水を司る他、
歯痛の治療にも霊験があり、
好物の梨を供えると、
歯の痛みを取り除いてくれるとされている。
また、縁結びの神ともされている。

天津九頭龍極は、
その後さらに九頭龍天禍天詠へと進化し、
最強の仮面ライダーとなった。

九頭龍天禍天詠は、
本来ひとりの仮面ライダーに与えられるはずだった
ディケイドとディエンドの力を手にし、
そしてそれをさらに超えていった。

その力は、もはや神の領域に達していた。


「まさか、スペアである俺にも
 九頭竜の力を扱えるはず、
 とでも言いたいのか?」

甲斐享は手渡された
変身用のバックルを見つめながら問う。

「お前は千年細胞を持っているようだからな、
 可能性はあると思うぞ。
 でも、これは、
 パパを九頭竜の化身にした晴美からではなく、
 鳴滝からお前へのプレゼントだ」

二人の少女の父親か、甲斐享か、
どちらが九頭竜の化身となり、
どちらがそのスペアとなるか、
その選択は小久保晴美という
ひとりの天才女性科学者に委ねられた。

もし、小久保晴美が甲斐享を選んでいたならば、
彼が九頭竜の化身となり、
二人の少女の父親が彼のスペアとなっていた。

しかし、甲斐享は選ばれず、
九頭竜の化身のスペアとなった。
スペアである甲斐享には、
鳴滝という別の天才科学者が、
仮面ライダーダークナイトという力を与えた。

「これを、鳴滝さんが俺に?」

仮面ライダーダークナイトは、
職業の名を関する仮面ライダーにだけ
変身できる力を持っていた。
いわば、仮面ライダーディケイドの劣化版だ。

甲斐享の仮面ライダーダークナイトは、
その後ダークナイトジョーカーへと進化したが、
その力は九頭龍天禍天詠どころか
ネオディケイドライバーを手にしたディケイドの
足元にも及ばないものでしかなかった。

甲斐享が手渡されたのは、
ダークナイトの変身バックル「ヒドラギア」とも、
九頭竜の化身の変身バックルとも異なるものだった。

「カムイドライバーと、鳴滝は呼んでいた。
 九頭竜ではなく、カムイの力で、
 ディケイドとディエンドの両方の力を
 併せ持ちながら、それを制御し、
 最大限に力を発揮できる・・・

 仮面ライダー神威になれるらしい」


「神の威を借る仮面ライダーか・・・」


所詮スペアでしかない自分には、
神の威を借ることしかできない・・・
そう言われているような気がした。

しかし、

「同じ神威でも、
 意味は違うと鳴滝は言っていた。
 晴美は九頭竜とパパを選んだが、
 鳴滝は別の神の力とお前を選んだんだ」

麻衣は、そうではないことを、
鳴滝の代わりに告げてくれた。 

「そうか、あの人は
 とうとう完成させたのか・・・」

仮面ライダーディケイドとディエンドは、
そして、その力をふたつに分かつ前の本来の力は、
そもそも鳴滝が生み出したものだった。

小久保晴美が千年細胞を見つけ、
九頭竜の力を借りることにより、
適格者が存在しなかったその本来の力を、
二人の少女の父親に与えてしまったが、
鳴滝もまた別の観点から
スペアである自分に九頭竜の化身と
同等の力を与えようとしていたのだ。

「もう一度あの人に会いたかったな・・・
 直接お礼が言いたかった・・・」

「パパとママと晴美を探してくれるか?」

「引き受けよう」

それは、鳴海探偵事務所にとって、
その見習い探偵でしかない彼にとっては、
何の価値もないものだった。

しかし、甲斐享という
ひとりの仮面ライダーにとって、
それ以上に価値のあるものは、
この世界のどこにも存在しなかった。


「それにしても、君はまるで、
 あの加藤梨沙のような
 しゃべり方をするんだな」

「ママだからな」

「それは、加藤梨沙が
 君のママだからという意味か?」

「それ以外に意味はあるのか?」

「君の名前は、
 加藤梨沙の母親の名前と同じだな
 と思っただけさ。
 それ以上の意味はない」


この麻衣が梨沙を産み、
梨沙がまた麻衣を産む、
なんていうおかしなループが
また起きていなければいいな、
と思ったが、
甲斐享は口にはしなかった。


依頼を引き受けた直後、
カムイドライバーが、
おそらく甲斐享を適格者として認識したのだろう。

彼の体の中に埋め込まれた
ダークナイトジョーカーへと
変身するためのヒドラギアが、
光の粒子となってカムイドライバーに吸収された。


そして、


──甲斐享の、
  ヒドラギアでの戦闘データを含む
  すべてのデータを、
  神威システムにインストール完了。


「ベルトがしゃべった!?」

「鳴滝は、アイアンマンスーツに
 搭載されていたAIを参考にしたといっていた」

「これ、悦子の声じゃないか」

「悦子? 誰だ? 家政婦の人か?」

「その悦子さんじゃない。
 てか、なんで市原悦子を知ってるんだ?」

「ママが好きなドラマだったからな」

「悦子は昔の婚約者だ。死んだ。
 鳴滝さんも趣味が悪いな」


──8号ヤマタノオロチの
  ヒドラギアの存在を確認しています・・・
  ・・・発見しました。
  かなり損傷していますが、データは生きています
  8号ヤマタノオロチのヒドラギアの
  戦闘データもインストール完了

──仮面ライダー10号神威のシステムは
  これにより鳴滝様の目指した
  最強の仮面ライダーシステムとなりました。
  甲斐享の指紋、静脈、網膜をはじめとする
  あらゆる生体データの認証を開始します。
  神威システムの所有者として、

  甲斐享を登録完了。



「上がやけに騒がしいから来てみれば、
 依頼人が来ていたのか・・・」

地下室のひきこもりが、姿を現した。
そして、すぐに、
カムイドライバーの存在に気づいた。

「これは、素晴らしい。
 あの九頭竜の化身と同等、
 いや、それ以上の力を再現しているのか・・・」

地下室のひきこもり・・・
鳴海探偵事務所の探偵・左翔太郎の相棒であり、
魔少年と呼ばれるフィリップは、
一目でカムイドライバーの持つ力を分析し終えた。

それは、彼もまた、
左翔太郎とふたりでひとりの仮面ライダー、
Wと呼ばれる存在であるからであり、
そして彼はその脳内に
「地球(ほし)の本棚」という、
この星の誕生から現在に至るまでの
あらゆる情報がデータベース化された空間を
持つからこそ可能なことであった。

「彼女たちから依頼を受けてね、
 これはその依頼料と成功報酬の代わりだ」


「甲斐享、その依頼、
 ぼくにも手伝わせてくれないか?」


フィリップからの申し出に、甲斐享は困惑した。

「お前は左翔太郎と
 ふたりでひとりの仮面ライダーだろ?
 単独変身ができない」

九頭竜の化身であるあの男を探すのだ。
フィリップの探偵としての能力は頼もしいが、
捜査中に戦闘が発生する可能性が非常に高かったからだ。
九頭竜の化身と戦うことになる可能性もゼロではない。


「そんなことはない。
 翔太郎がロストドライバーと
 T2ジョーカーメモリがあれば
 仮面ライダージョーカーに単独変身できるように、
 ぼくもまた、仮面ライダーサイクロンになれる」

 初耳だった。

「それに、仮面ライダーWの
 サイクロンジョーカーエクストリームは、
 あくまでエクストリームの可能性のひとつでしかない。

 エクストリームには、
 翔太郎ではなく照井竜とぼくによる、
 サイクロンアクセルエクストリームという可能性が存在する。

 一度試してみたいと思っていた。
 照井竜にも声をかけよう」

「所長がもれなくついてくるぞ」

「亜樹ちゃんも必要だ。
 ぼくが照井竜とWになったときに、
 ぼくの体を安全な場所に
 避難させてもらわなけばいけないからね」

 やれやれ、と甲斐享は思った。



 三年前に起きたラグナロクの日以来、
 世界中にカオスと呼ばれる存在が現れ、
 アベンジャーズや仮面ライダーたちが
 世界中を飛び回っているというのに、
 この魔少年は相変わらずだ。

「ところで甲斐享、この女の子たちは誰だい?
 依頼の内容をそろそろ教えてくれないか?」

アカシックレコードという言葉を
その存在を、概念を、聞いたことはあるだろうか?

それは、元始から、つまりは
宇宙のはじまりからのすべての事象、
想念、感情が記録されているという
世界記憶の概念だ。

アーカーシャ、あるいは
アストラル光と呼ばれる未知の物質に、
過去のあらゆる出来事の痕跡が
永久に刻まれているという考えに基づき、
宇宙誕生以来のすべての存在について、
あらゆる情報がたくわえられているという記録層。

アカシャ年代記、アーカシャ記録、
アカシアの記録とも呼ばれる。

近代神智学の概念であり、
その他の現代オカルティズムの分野(魔術等)でも
神智学用語として引き合いに出されることがある。

また、陰に陽に神智学運動の影響を受けている欧米のニューエイジや、
日本の精神世界・スピリチュアル、占い、予言といったジャンルでも
使われる用語でもある。


しかし、アカシックレコードが存在する科学的根拠はない。


だが、それはあくまで、
西暦2027年現在の地球の科学技術において、
科学的根拠が見出だせていないだけであり、
アカシックレコードは確かに存在する。

それを証明する仮面ライダーもまた存在している。


仮面ライダー電王の有する、
列車型タイムマシン「デンライナー」は
アカシックレコードにアクセスし
歴史に干渉することの無いように運行しているという。

そして、甲斐亨の目の前にいる魔少年フィリップもまた、
ふたりでひとりの仮面ライダー、Wであり、
その脳内には「地球(ほし)の本棚」と呼ばれる
地球の記憶が本の形で保管されている本棚が存在する。

鳴海探偵事務所の探偵のひとりであり、
探偵はその捜査方法から、いくつかの分類分けをすることができるが、
彼はいわゆる安楽椅子探偵に分類される探偵である。

フィリップは、地球の本棚で
いくつかの「KEY WORD」を基に本を絞り込み、
それを閲覧することで事件の真相に迫っていく。

時の列車デンライナーが、フィリップの脳内に存在する
地球の本棚にアクセスしているわけではないことから、
アカシックレコードは複数存在することが判明している。

そして、現在その存在が秘匿されつつも判明しているものは、
その形状は様々だが、すべてがテラバイトの
さらに何段階も上の容量を持つ小型の情報端末であり、
総称して「匣」と呼ばれている。


匣は、外宇宙からもたらされた。


匣は、人の歴史と常に共にあり、
神が自らに似せて人を作ったというのならば、
神とは匣をもたらした高度な科学文明を持つ外宇宙からの使者そのものであり、
猿から進化したのが人であるのならば、
火や道具の使い方を教えたのが匣である。

どちらにせよ、
外宇宙からもたらされた匣により、人という存在が生み出された。


匣の持つテクノロジーには、いくつものロックがかかっており、
人の文明、科学の進歩に歩を合わせ、
一定水準に達すると、新たな技術の扉が開くように作られている。

そうしてもたらされたのが、
錬金術であり、蒸気機関であり、原子力であり、
そして、軌道エレベーターや、月や火星のテラフォーミングである。


仮面ライダーシステムもまた、そのひとつだ。


かつて小久保晴美が、
鳴滝から奪った仮面ライダーシステムの根幹になったものが、
その匣と呼ばれるもののひとつであった。

匣とは総称に過ぎず、ひとつひとつには異なる固有名詞が与えられている。
最も有名なものは、パンドラの匣だろう。
続いて有名なものは、メビウスの輪だろうか。


鳴滝が手にしたその匣は、クラインの壺と呼ばれていた。


鳴滝は、自らの名前や出自をはじめ、
自らが仮面ライダーディケイドであったことすら忘れ、
いくつものパラレルワールドをさまよう中、その匣・クラインの壺を手にした。

匣の持つ膨大な情報から、
ディケイドとディエンドのふたつに力が分かたれる前の、
神に等しき力を持つ仮面ライダーシステム
「クライン」を産み出した。

クラインの壺は、小久保晴美の手にわたり、
やがて九頭竜の化身の仮面ライダー、九頭龍天禍天詠を生み出すことになった。


三年前、
1989年に時間を逆行した九頭竜の化身、
仮面ライダー九頭龍天禍天詠は、
ディケイドとディエンドのふたつに分かたれる前の、
適格者の存在しなかったクラインと同等か、それ以上の力を手にした。


それによって、彼による歴史改変は、
門矢士の鳴滝化を防ぎ、
その妹である門矢小夜が別人格である小久保晴美を
生み出すことのないようにした。


世界は、1989年を分岐点として
新たな歴史を歩みだした。


しかし、
亜空間(後の九頭龍国)での戦いを終え、
それぞれの時代、
それぞれの世界へと帰還した仮面ライダーたちは、
新たな脅威を目の当たりにした。


それは、
教会が長年に渡り秘匿し続けてきた
ファティマの第三の予言、


ラグナロクの日


と呼ばれる、
神々との戦争の幕開けであった。

世界をまたにかけて暗躍する
死の商人、財団Xが、
資金提供を打ち切った組織のひとつであり、

宗教法人であることを隠れ蓑にした、
反社会的カルト組織、
「千のコスモの会」が開発した、
カオスシードと呼ばれる
混沌をもたらす種子。


かつて、小久保晴美も
それを何個か所持しており、
歴史改変の前に使ったこともある。


それは、
神話に語られる神や天使、悪魔を
生み出すものだった。


混沌の種子は、禁断の果実の種であり、
禁断の果実を実らせるのは、生命の樹であるセフィロト。


セフィロトの樹もまた、匣のひとつである。


地球の本棚という匣を脳内に持つ
フィリップを所有していたミュージアムに
財団Xが資金提供していたように、
財団は匣を所有する組織にのみ、資金提供を行う。

その混沌の種子は、
大陸間弾道ミサイルを利用して
世界中にばらまかれ、
種子から孵化したカオスたちによる、
無差別な破壊と殺戮が始まった。


なぜ、ファティマの地に降り立ち、
三人の少年少女に預言を与えたのが
聖人でもなければ天使でもなく、
聖母であったのか、
という長年の疑問の答えがそこにはあった。


そのときにはすでに、
聖母以外の存在はすべて、
カオスに堕ちていたのだ。


特に、四大天使と呼ばれる存在の力は、
あまりに圧倒的であり、
それぞれが、大陸のひとつやふたつ
簡単に消滅させるほどの力を持っていた。


左翔太郎が
鳴海探偵事務所に不在であったのは、
彼が、ローマ法王からの依頼を受けた
数人の名探偵のひとりであったからだった。


世界的な名探偵であるLの名を継ぐ二代目Lをはじめ、
旅行代理店に勤める金田一耕助の孫、
工藤や服部という名の高校生探偵や、

探偵ではないが、
警視庁の古畑任三郎や杉下右京という刑事にも
依頼があったという。


杉下右京の名を聞いたとき、甲斐亨の胸はチクリと傷んだ。

三年前、まだ亜空間でしかなかった、
後に九頭龍国が建国されることになり、
千年の時が流れたあの場所で、
甲斐亨は造化三神の一柱タカミムスヒの力を分け与えられた杉下右京と戦った。

その場には、神戸尊もいた。


その杉下右京も神戸尊も、
甲斐亨の知るふたりとは別の可能性の世界の存在であったが、
杉下右京は神戸尊を殺し、甲斐亨は杉下右京を殺した。

今でもそのときの感覚が、
手に、腕に、身体中に、脳に、心に残っていた。

この世界には、ちゃんと彼が知るふたりが生きている。

だが、それを知っても尚、
杉下右京を一度手にかけたことは、
彼にとって、大きなしこりとして残っていた。



左翔太郎は、日本国内にある
千のコスモの会の総本山にたどり着いた
という連絡を最後に
行方がわからなくなっていた。

他の名探偵や、刑事たちも同様だという。


国連は
トニースタークやキャプテンロジャース、
アスガルドの神であるソーの欠けた
アベンジャーズでは力不足を感じ、
X-MENやジャスティスリーグに協力を要請したという。


日本政府もまた、
仮面ライダーたちをはじめ、
スーパー戦隊、
宇宙刑事たちを召集した。


しかし、全員は集められず、
さらに彼らを世界各国に出現した
カオス鎮圧に向かわせるとなると、
少数編成にせざるをえず、
いくつかのチームはすでに連絡が途絶えていた。


アベンジャーズ最強の戦士、
キャプテンマーベルと、
ジャスティスリーグ最強の戦士
スーパーマンは、

それぞれ単独で行動し、
四大天使のうちの二天使と相討ちになったといえば、
カオスの恐ろしさがわかるだろうか。




鳴海探偵事務所の地下では、
魔少年フィリップによる
地球の本棚による検索が行われていた。

しかし、
九頭龍天禍天詠と、
小久保晴美、
加藤梨沙の三人は、
この世界にはもはや存在しないはずの人間たちだ。

地球の本棚には、彼らに関するデータは
何一つ残されてなかった。


しかし、九頭竜自体の目撃情報はあった。


中東に派遣された国連のチームは、
すでに全滅していたが、
その後カオスたちもまた消失していた。


亀山薫という
元警察官の国際ボランティアが、
九頭竜を目撃したという。


「亀山という男について調べたが、
 警視庁の特命係と呼ばれる窓際部署にいたらしい。

 特命係は、窓際ゆえか、人材の墓場と呼ばれてはいるが、
 捜査権すら与えられていないにも関わらず、
 数々の難事件を解決している。

 なるほど、
 だからこの特命係の杉下という刑事は、
 翔太郎のようにローマ法王の依頼を受けたわけか。

 特命係は、必ず二人体制で
 杉下刑事の相棒が存在しているようだ。
 亀山元刑事の後は神戸尊という男・・・、
 そしてその次は・・・」


「ああ、俺だ」

フィリップの言葉に、甲斐亨は答える。


「そのようだね。君は、亀山元刑事とは?」


「話に聞いたことがあるだけだ。面識はない。
 ただ、捜査一課の伊丹さんて人なら、喜んで東南アジアに
 行ってくれるんじゃないかな・・・
 仲が良かったらしいから」


連絡を受けた伊丹刑事が、
警察学校の教員である米沢という男をつれて、
東南アジア行きの飛行機に乗ったのは、
そのわずか数時間後のことだった。

「九頭竜の件については、
 とりあえず伊丹刑事と米沢という男、
 それから亀山元刑事に任せるとしよう。

 ぼくたちは行方不明の翔太郎を探そう。
 もうすぐ、照井竜と亜樹ちゃんがくるはずだ」



風都署の刑事・照井竜と、
その妻であり、鳴海探偵事務所の所長である
照井亜樹子が事務所を訪れたのは、それからしばらくのことだった。


「ねぇ、もしかして、
 竜くんとフィリップくん、
 千のコスモの会の総本山に向かうつもり?
 たしか・・・」

照井亜樹子が問う。



「ああ、N市八十三(やとみ)町だ」

照井竜が答え、


「かなり遠いわね・・・」

亜樹子が返す。


「遠いといっても、
 リニアモーターカーなら一時間、
 リボルギャリーを使えばもっと早いはずだ」

フィリップは淡々と話を進めていく。

「照井竜、
 ガイアメモリ強化アダプターは持っているかい?」

「もちろんだ」

「さすがは照井竜、用意がいいね」

「フィリップ、
 お前はロストドライバーで単独変身し
 サイクロンになるつもりか?」

「一応そのつもりではいるけれど、
 ファングもつれていく。
 それにエクストリームもね」

「エクストリーム?」

「一度試してみたくはないかい?
 ぼくと照井竜のふたりによる仮面ライダーWを
 サイクロンアクセルエクストリームを」

「だが、ダブルドライバーがないだろう?」

「翔太郎のを使えばいい」

「・・・まったく、左が聞いたら怒るぞ」

「翔太郎を助け出すためには、
 こちらも全力でいかざるを得ない。
 ただそれだけのことさ」




「わたくしたちは、どうすればよろしいのかしら?」

「そうだぞ、パパとママと晴美を探してくれるんじゃないのか?」


「その依頼を引き受けたのは、ぼくじゃない。
 甲斐享だ」

ふたりの女王の質問に対し、
フィリップは切り捨てるように言った。

甲斐亨は、嫌な予感しかしなかった。


「まさか、俺に伊丹さんや米沢さんと
 同じ飛行機に乗れって言うんじゃないだろうな・・・」

「そのつもりだが何か問題があるのかい?」

「いや・・・」

合わせる顔がない、なんて言ってはいられなかった。


「君と、鳴滝博士が用意したという
 そのカムイドライバーだけが、
 九頭竜の化身が万が一、
 かつてのようにマガツに堕ちていたとき
 対抗できる唯一の手段だ」

フィリップは、適材適所で人員を配置している。

そこに、甲斐亨の過去の記憶は含まれてはいなかったが。


「では、俺は、フィリップと所長と共に
 リボルギャリーでN市八十三町に向かう」

と、照井竜。


「俺は、この子たちを連れて東南アジアか・・・」

ため息をつきながら甲斐亨が続く。


「甲斐亨、伊丹刑事に
 万が一のことがあれば、これを使うといい」


フィリップは、甲斐亨にUSBメモリのようなものを差し出した。


「・・・ガイアメモリ?」


「彼は、神戸尊が仮面ライダー3号であったように、
 スーパーアポロガイストであったことがあるようだからね。
 随分とディケイドたちを苦しめたようだ」

それは甲斐亨の知らない世界での伊丹刑事の可能性なのだろう。

「使う機会がないことを祈るよ・・・」


甲斐享は、空港で数年ぶりに伊丹刑事と米沢守と再会することとなった。
伊丹刑事は一度は拳を振り上げたが、彼を強く抱き締めると、


「・・・生きていてくれてよかった」


男泣きした。

この人は、相変わらずだな、と甲斐享は思った。

 

甲斐享と伊丹刑事、米沢守、
そして九頭龍国のふたりの女王を乗せた
中東行きの飛行機の中での出来事だ。

伊丹刑事は挙動不審な男に声をかけた。

伊丹刑事は、長年の刑事の勘で、
その男がなんらかの犯罪に関わっていることを見抜いてしまった。

彼らがよく知り、
彼がよく「警部殿」と呼ぶ杉下右京のように、
普段から周囲に気を張り巡らせている人物ならまだしも、
こんなときに限って、彼の刑事の勘が働いてしまったのだ。

もっとも、杉下右京と比べるからいけないだけであり、
伊丹刑事も立派な刑事であるのだが。


その男は、カオスシードの売人であり、
自らカオスシードを体に撃ち込むだけでなく、
乗客の大半の体にも撃ち込んだ。

「まったく、伊丹刑事は
 いつも余計なことをしてくださいますな」

米沢守は呆れたようにそう言い、

「お嬢さん方、ここはひとまずふたりにまかせて安全な場所へ」

ふたりの女王をつれて、どこかに姿を隠した。



乗客の大半がカオスと化した機内で、


「ほんと相変わらずですね、伊丹さん。
 俺がいなかったら、この飛行機、
 数分後には某国に墜落してますよ」


甲斐亨は、そんな状況下にありながら、

何年たっても変わらない伊丹刑事と
そして米沢守に、懐かしさと嬉しさを感じ、

自然と顔がほころんでしまった。


「おい、カイト、
 まさかお前、こいつらと戦う気か?」

伊丹刑事は、
カオスの存在を資料等では知ってはいたが、
実際にその目で見るのははじめてだった。

おぞましい化け物だった。

すぐにでも拳銃を撃ちたかった。
それで倒せる相手ではないとわかっていたとしても。

しかし、伊丹刑事は拳銃を持ってはいなかった。

今回は捜査一課の刑事としてではなく、
なかなか消化できないでいた有給休暇を消化して、
プライベートで、何年も顔を見せにきやしない
小憎たらしいあの男に会いにいく、

ただそれだけのことでしかないからだ。




「伊丹さんのおかげで、こいつを試す、
 ちょうどいい機会になりました」

甲斐享は、カムイドライバーのバックルを腰に当てた。

神代文字が彫られたシルバーのベルトが
バックルから伸び、腰に装着される。


「なんだ、それ・・・まさかお前・・・」

伊丹刑事にとっては、
甲斐亨が取り出したそれもまた、
資料でしか見たことがないものだった。



「警視庁にも何人かいるから、珍しくもないでしょうが・・・」


――神威システムの起動シークエンスを開始。
――3,2,1
――起動シークエンス完了


「・・・変身!」


甲斐享は、仮面ライダー神威に変身した。





「カイトが、仮面ライダー・・・?」




「いやいや、警視庁に何人かいるらしいけど!!」


伊丹刑事に向かって飛びかかってきたカオスの一匹を
甲斐亨は、仮面ライダー神威は、拳の一撃で粉砕した。


「下がっていてください、伊丹さん」


「十分めずらしいからな!?」


「獄中自殺したと報じられた後、
 戸籍を失い、でも釈放されて・・・
 悦子と、お腹の中にいた俺の子どもが、
 死んだことを知りました。

 行くあてのなかった俺を、
 従姉妹の千尋がかくまってくれて、
 何年間か過ぎた頃にデシメーション(※)が起きました。


※アベンジャーズ・インフィニティウォーにおける
 サノスの指パッチンのこと。


 俺は、あの終末の世界で仮面ライダーになったんです。

 そして、これは、俺の新しい力・・・

 鳴滝さんは、とんでもないものを作ったんだな・・・
 ・・・ダークナイトジョーカーとは比べ物にならない力だ。

 確かに、この力なら、
 あの男と張り合うことができるかもしれない・・・」



その強化外骨格の配色は、
全身がエターナルブラックで統一されており、
見た目はダークナイトジョーカーとあまり変わらないようにも見えたが、


――補助アームを展開しますか?


ダークナイトジョーカーだけでなく、
ヤマタノオロチの力も吸収したせいか、六つの補助アームを持っていた。

両手と六つの補助アームが、それぞれに武器を持ち、
神威が最前列から最後列まで駆け抜ける間に、
それぞれが一太刀で数体のカオスを真っ二つに両断し、
すべてのカオスがその命を奪われていた。


甲斐享が変身を解除すると、
伊丹刑事は、口をあんぐりと開け、
呆然と自分を見ていた。


「警部殿が知ったら驚くな・・・」


「ちなみに、神戸さんも仮面ライダーです」


「ソンも!?」


でした、かもしれないが。


「さてと、問題は・・・」

甲斐亨は、カオス化しなかった乗客の安全を確認をすると、

「どうやら、機長と副機長、
 どちらもカオスとやらになってしまったようですな」

どこからともなく現れた米沢守と共に、操縦室を見つめた。

米沢の傍らには不安そうな二人の女王が無事でいてくれた。


「倒すのは簡単ですけど、おふたりは飛行機の操縦の経験は?」

「あるわけないだろ」

「残念ながら、、、鉄道なら少々心得はあるのですが・・・
 現実の刑事や探偵は、ハワイで親父に習った、
 なんてことはありませんからなぁ・・・」

「女王様たちは?」


ふたりは首を振る。
ふたりは、飛行機に乗るのも、見るのもはじめてだった。


――甲斐享、神威システムの主導権をお借りしても?

カムイドライバーの、サポートAIのようなものが
甲斐亨の脳に直接話しかけてきた。


「・・・操縦できるのか?」


――可能です。


「わかった。まかせる」


――かしこまりました。


「ところで、おまえ、名前はあるのか?」


――E2C-0です。


「声だけじゃなく名前まで悦子ってわけか。
 鳴滝さんも趣味が悪い」


――お好きなように呼んでもらってかまいません。


「なら、悦子だ。俺のことは亨でいい」


――かしこまりました。


飛行機は無事、中東の某国の空港に着陸した。

しかし、生き残った乗客やフライトアテンダント、
伊丹、米沢、ふたりの女王をおろすと、すぐにまた飛び立ち、
人型の機動兵器へと姿を変えた。

「驚いたな。
 仮面ライダー以外の存在を
 フォームライドさせられるのか」


「ミスター鳴滝は、あらゆる事態を想定し、
 神威システムを作りました。
 私の存在もまた、
 あらゆる事態を想定したがゆえのものです」


「最初は正直悪趣味だなと思ったが、
 悦子、お前が俺のそばにいてくれるのは心強いよ」


「亨、今のあなたと私なら
 九頭竜の化身を倒すことも不可能ではありません。
 ミスター鳴滝が想定した最悪の中の最悪の事態が、
 九頭竜の化身が人に仇なすこと・・・」


 そんなことが起これば世界は今度こそ終わりだった。

 その旅客機をフォームライドさせた人型機動兵器は
 カミシロと呼ぶのだという。

 甲斐享は、そのカミシロに「ナルタキ」と名付けた。


「索敵を開始します。
 九頭竜の化身のエネルギーを感知。
 モニターに映します」


 ナルタキのコクピットのモニターに映る
 九頭竜の化身は人の姿をしていなかった。


「人型じゃないのか・・・
 悦子、この巨大な九頭竜は、
 暗黒面であるマガツにとらわれているのか?」


「いいえ、マガツとアマツ、その両面を兼ね備えた、
 かつて後の九頭龍国となる亜空間で
 造化三神を撃ち破ったときと同じ状態です。
 ですが、」


「・・・人という存在に絶望している」


 だから人の姿を捨てたのかも知れない。


「その通りです」


「あの男が人に仇なす存在となったのなら、
 俺たちがやるべきことはひとつだ」





伊丹刑事と米沢守は、
空港でかなりの時間をとらされたものの、
数時間後、無事十数年ぶりに亀山薫に再会した。


亀山薫は、特命係にいたころに比べると、
顔や頭髪に多少の老いを感じさせるものの、
鍛え上げられた肉体は刑事時代と変わっていなかった。


ふたりの女王を見た亀山薫は、

「伊丹、お前の子か?」

と、笑った。


「違うよなあ、米沢さんのこどもだよなぁ」


しかし、そのとき、ふたりの女王は、体を震わせていた。


「どうした? 大丈夫か?」


亀山に続き、伊丹、米沢がふたりの女王を気遣う。



それは、ちょうど、
数十キロ先の場所で、九頭竜の化身が、
甲斐享の操縦する「ナルタキ」の攻撃を受けた
まさに、その瞬間の出来事だった。


心配する三人の言葉は、
ふたりの女王には、もはや届いてはいなかった。

ふたりの女王は身を寄せあい、
まばゆい光を放つと、


彼女たちもまた、九頭竜へと姿を変えた。


彼女たちの父親ほど巨大ではないが、
生身の三人からすれば十分に巨大な九つの首を持つ龍だった。


「おい、一体何が起こってる!?」

叫ぶ伊丹刑事を、九頭竜の尾が横殴りし、
彼は激しく吹き飛ばされた。

亀山薫がすぐに危険を察知して走り出さなければ、
伊丹刑事は孤児院の壁に衝突し、即死していたかもしれなかった。

亀山薫はすんでのところで、伊丹刑事を受け止めた。

「せっかくの再会だってのに、すまねぇな亀山」

伊丹刑事が、亀山に素直に言葉を口にするのは、
本当に生命の危険を感じたからだろうか、
それとも、亀山に会えた喜びで、
昔、彼に対してついていた悪態を忘れてしまっていたのだろうか。


米沢守は、ふたりの比較的そばにあった物陰に隠れていた。

「甲斐くんからは、伊丹さんか私が
 身の危険を感じたら使うようにと言われていましたが」

米沢守は、ガイアメモリを手にしていた。

「今がそのときということなんでしょうな・・・」


風都署からのガイアメモリ犯罪の報告書には
一応目を通していたが、米沢守もまた、
まさかその目で実物を見る日が来るとは思わなかった。

風都署にはガイアメモリ犯罪の専門部署が存在し、
風都以外でガイアメモリ犯罪が起きることは稀であった。

その場合押収されたガイアメモリは、
科捜研にすぐ送られてしまうのだ。


しかし、米沢守がおそるおそるガイアメモリを
伊丹刑事の背中に直差ししようとした瞬間、


「亀山さん、何が起こったんです?」


亀山薫が戦争孤児たちの面倒を見ている建物から、
ひとりの青年が飛び出してきた。


「映司か・・・」


亀山は、青年をそう呼んだ。


「なんだこいつは・・・グリード?
 いや、ちがう・・・」


九頭竜を目の前にし、戸惑う青年に、


「遅いぞ映司」


孤児院の敷地内に生えている樹の太い枝の根元に腰かけ、
アイスキャンディを食べていた、人相の悪い男が叫んだ。

その男は、右手だけが
まるで何かに寄生されているように、人のものではなかった。


「アンク、お前また勝手に
 こどもたちのアイスキャンディを・・・
 そんなこと言ってる場合じゃないか。
 おい、アンク! なんなんだこいつは」


「知らん。
 グリードじゃないことは確かだ。
 そいつらが連れてきたガキふたりが、
 突然姿を変えやがった」


 そいつら?
 アンクという名らしい青年の言葉に、
 映司という青年は、亀山薫のそばに
 見知らぬ男がふたりいることに気づいた。


「9つの首を持つ竜・・・
 この間亀山さんが見たっていう九頭竜か・・・」


 映司という青年は、竜の首の数を数えながら言う。


「どうする?
 相手は竜だが、こっちは恐竜でいくか?」


「プトティラはだめだ。
 タジャドルでいかせてくれ。
 お前のメダルが一番戦いやすい」


 アンクという青年の問いに、
 映司という青年が答える。

 そのやりとりは、
 伊丹刑事も米沢守も、亀山薫でさえ
 まったく理解できないやりとりだった。


「嬉しいことを言ってくれるじゃないか!
 ほらよ!!」


「さんきゅ」


映司という青年は、アンクという人相の悪い青年から、
三枚のメダルを受けとると、
腰に仮面ライダーの変身ベルトのようなものをつけた。

そのバックルにはメダルを入れる場所が三ヶ所あり、
そしてそこに差したメダルを、円形の道具でスキャンする。


『タカ、クジャク、コンドル!!』


ベルトから声がし、
三枚のメダルの名前だろうか、鳥の名前が呼ばれた。

そして、思わず口ずさみたくなるような歌がベルトから流れると、

「変身!」

 

火野映司は、仮面ライダーオーズ タジャドルコンボに変身した。

亀山薫の孤児院から出てきた青年は、
仮面ライダーオーズ タジャドルコンボに変身した。

全身が赤く、背中には大きな翼があり、空を飛ぶ仮面ライダーだった。

その光景に、伊丹刑事も米沢守も、亀山薫も唖然とした。

孤児院のそばの樹の枝から、アンクという青年が指示を出す。


「映司、奴には羽根がない。
 空から攻撃しろ」


「わかった」


「こういう首が長くて、しかも数が多い奴は、
 素早い動きで翻弄してやれば首と首が巻き付いて、
 自分じゃ取れなくなるのが相場だ」


翼を持つ赤い仮面ライダーは、
上昇と下降、接近と離脱を繰り返し、
その翼とスピードで九頭竜を翻弄する。



「亀山さん、彼は・・・?」

米沢が問う。


「火野映司と言う、日本人バックパッカーの青年です。
 紛争の多いこの地で、人助けをしています。
 あまり自分のことを語りたがりませんが・・・」

数週間孤児院で生活を共にしていたが、
亀山薫も、彼が仮面ライダーだということを知らなかった。


「火野・・・珍しい苗字ですな。
 確か政界に同じ苗字の政治家がおりましたな。
 瀬戸内米蔵とは真逆の立ち位置で、
 政界になんとしてもしがみつこうとしていた片山雛子を
 辞職に追い込んだひとりだったかと記憶しておりますが・・・」


特命係は、政界の重鎮である瀬戸内米蔵や、
元国会議員の片山雛子が関係者となる事件を、
過去にいくつか担当した。

そのため、ふたりとのコネクションがあった。
米沢守も、鑑識時代には、特命係との関係が深かったため、
政界についてそれなりの知識があった。


「言われてみれば、火野議員に顔がよく似ているな」

当然、伊丹刑事も政界についての知識はある。

亀山はうなづき、

「たぶん彼はその息子でしょう・・・
 ・・・それより、米沢さん、あの竜はなんです?
 俺は何週間か前にもあれに似た9つの首を持つ竜を見た」


「私や伊丹さんは、
 亀山さんからその話をうかがうために、
 はるばる日本から来たのですが・・・
 一番その話を聞きたがっていた人物が、
 現在、別行動しておりまして・・・」


「まさか右京さんじゃないですよね?」


「残念ながら警部殿じゃない」


「亀山さんのように特命係の配属となり、
 杉下警部とともに数々の難事件を解決に導いたひとりです。

 亀山さんを杉下警部の初代相棒とするなら、
 現在の冠城さんは四代目、
 今回私たちを連れてあなたに会いに来たのは、
 三代目に当たる甲斐享という人物です」


甲斐享・・・。一体どんな男なのだろう?

亀山は、甲斐享に非常に興味を持った。

日本を離れてもう十数年以上経つ。

自分の後にも、人材の墓場と言われていた特命係の
杉下右京に相棒となる存在がいたのは、
とても喜ばしいことだった。

ずっと、心配していた。

殺人事件の被害者となってしまった友人の仕事を
警視庁をやめてまで、引き継ぐことは彼の意思だった。
妻の美和子も反対するどころか、応援してくれた。

だが、彼の心の中のどこかで、ずっと
杉下右京に申し訳ないことをした
という気持ちがあったからだった。

もっと右京さんといっしょに、
仕事をしたかった、そんな気持ちもあった。




「映司、何をやってる!?
 お前にやれない相手じゃないだろ?」


「だって、お前はあの人たちが連れてきた女の子たちが、
 あれになるのを見たんだろう?」


「倒せばもとに戻る」


「そんな確証はどこにもないだろ」


「フン!」

と、アンクが鼻を鳴らした。


亀山たちの目の前にいる、一組の相棒は、
九頭竜を傷つけまいとする青年と、さっさと倒せという青年が
口論の真っ最中だった。


そして、


「お前がやらないなら、俺がやるだけだ」


アンクは、火野映司のものとは別のベルトを取り出した。


「アンク・・・?
 それは、まさかバースの・・・」


「鴻上の社長が、俺の復活祝いにくれたやつだ。
 相変わらずハッピーバースデーとうるさくてかなわんかったが。

 使うつもりはなかったが、しかたがない。
 バースやプロトバースはセルメダルを使っていたが、
 俺のこれは、コアメダルを使える。
 それがどういう意味かお前にわかるか?」


アンクは、バースドライバーによく似たベルトに
コアメダルを差し込むと、仮面ライダーリバースに変身した。


「つまり、このリバースは、
 オーズと同じ力を持つ、ということだ。
 お前はもう必要なくなるかもな」


「つまり、このリバースは、
 オーズと同じ力を持つ、ということだ。
 お前はもう必要なくなるかもな」


その言葉を言い終えるのが先だったか後だったか、
ふたりの幼い女王が合体するように姿を変えた九頭龍に
アンク=仮面ライダーリバースは、攻撃をしかけていた。


「やらせない」


しかし、火野映司=仮面ライダーオーズが
九頭竜を守るようにして立ちはだかった。


「どけ、映司」


「どかない。
 手の届くところにいる人を、
 助けられる力があるのに助けられないと、
 死ぬほど後悔するんだ」


「相変わらずそれか。
 だったら、リバースの力はお前で試させてもらうぞ」


かつてふたりは、世界の終末を目の前にして
意見の違いから、生身で殴り合ったことがあった。

あのときも本気で殴り合ったが、
今回もまた、お互いに本気だった。

アンクは人ではなく、
グリードという、自我を持った欲望の塊だ。
同時に鳥を司る。

彼は動物的本能から、目の前の九頭竜に、
かつての世界の終末の再来に近い危険性を感じていた。


米沢守、亀山薫は、一触即発にあるふたりを、
ただただ見ていることしかできなかった。

ふたりは、自分たちとは住んでいる世界が違う・・・

一警察官や、元警察官が
立ち入れる場所ではないところにふたりはいた。


「あの人相の悪い男は何です?
 彼もどうやら仮面ライダーであるようですが」


米沢守が亀山薫に問い、


「ふたりが仮面ライダーだということは、
 俺も今日はじめて知りました」


亀山薫が答える。

アンクもまた仮面ライダーになれることを、
火野映司も知らなかったようだったが。



「あのアンクという男についてだけは聞いていました。
 グリードと呼ばれる存在だと・・・」


「グリード?」


「錬金術が盛んに研究されていた時代に、
 ある錬金術師によって産み出された、
 欲望そのものが自我と肉体を持った存在・・・」


亀山は自分が話している内容を、
理解できてはいなかったが、
知りうる限りの情報を米沢に伝える。


「欲望そのもの・・・
 それはまた厄介ですな・・・」


米沢も理解はできていない。


ふたりが理解できたのは、

この世界には
自分たちの理解を超えた人外の存在がいる、

それだけだ。



そして、亀山は、


「米沢さん、そういえば伊丹は?」


伊丹刑事がいつの間にか
姿を消していることに気づいた。


「どこにもいらっしゃらないようですな・・・
 先ほどまで一緒にいたはずですが、
 一体いつの間に・・・」


伊丹刑事は、オーズとリバース、
そして九頭竜をぼんやりと眺めていた


「伊丹、何をしてる!?
 そこは危険だ、こっちへ来い!!」


亀山は伊丹刑事を見つけると叫んだ。

しかし、彼は聞こえているのかいないのか、
ぼんやりと、仮面ライダーたちを見つめるだけだ。


亀山は仕方なく、伊丹のそばに駆け寄った。


「伊丹・・・どうしたんだ?」


「不思議なんだよ、亀山・・・

 俺は、仮面ライダーをこの目で見たのは、
 カイトがはじめてで、これが二度目のはずなのに・・・

 仮面ライダーとは、何度も戦ったことが
 あるような気がするんだ・・・」


伊丹は本当に不思議そうにそう言った。
気にはなったが、しかし、今はそれどころではない。


「いいから、来い!死にたいのか?」


「亀山・・・聞いてくれ・・・
 俺なら、あのふたりや、
 九頭竜を止められるかもしれない・・・」


伊丹は、漠然とではあったが、
何かを思い出しつつあり、
そして、
何をすれば目の前で起きていることを
止めることができるのか、わかりつつあった。


「伊丹・・・?」

そんな伊丹に対し、亀山は何も言えなかった。

米沢が遅れて、ふたりのそばに来た。


「米沢・・・お前が持っているものを俺に寄越せ」

伊丹は米沢に手を差し出した。


「米沢さん、伊丹のことを何かしってるんですか?」

伊丹と亀山の言葉に、米沢は言葉に詰まった。

「お前の口癖を言い換えるなら、

『大いなる力には、大いなる責任が伴う』

 まるでアベンジャーズのスパイダーマンだな、
 お前のその生き方は。
 スーパーヒーローにでもなったつもりか?」


アンク=仮面ライダーリバースは、
火野映司=仮面ライダーオーズに言い。


「俺は自分のことを
 そんな大それた存在だとは思ってない。
 だけど、俺は仮面ライダーとして、
 オーズとしてやれることがある。
 ただそれだけだ」


オーズはリバースにそう言い返した。



伊丹刑事は、米沢守に手を差し出した。

米沢守は、伊丹刑事を中心に、
まわりの草木が次々と枯れていくのを見た。

まるで草木のエネルギーを
伊丹刑事が吸いとっているかのようだった。

伊丹刑事に何かが起きている、

米沢守にわかることはそれだけだったが、
九頭竜を目の前にして
仮面ライダー同士が争いはじめてしまった以上、
他にどうすることもできないと思った。


だから、米沢守は、甲斐享から預かっていたガイアメモリを
伊丹刑事に渡してしまった。

はじめて目にするはずのガイアメモリを、
そのUSBメモリのような形をしたものの端子に当たる部分を、
伊丹刑事は慣れた手つきで首筋に当てる。


『アポロガイスト!』


ガイアメモリは、伊丹刑事の首筋に吸い込まれ・・・
いや、皮膚を破ることなく、首筋にめりこんでいった。


まばゆい光が伊丹刑事を包み、米沢守が慌てて目を瞑った。


数秒か十数秒か、
まぶたがまぶしすぎる光を感じなくなり
米沢はゆっくり目を開く。



そこには、伊丹刑事ではない何者かが立っていた。



「・・・伊丹さん?」



まるで、悪の秘密結社の幹部のような姿に変化した
伊丹刑事の名前を、米沢守はおそるおそる呼んだ。


風都署から上がってくるガイアメモリ犯罪の報告書によれば、
ガイアメモリの直挿しは、身体と精神に大きな負荷がかかり、
身体は怪人のように変化し、精神は破壊衝動に支配されるとあった。


怪人のような姿にこそならなかったものの、
伊丹が正気を保てているのか、米沢にはわからなかったからだ。


「大丈夫だ、米沢・・・
 かろうじて、自我を保てている。
 俺は伊丹だ。

 アポロガイストなどという化け物では・・・
 くっ・・・ない・・・」


伊丹は戦っていた。

精神世界の中で。

彼の自我と、
それを奪わんとするアポロガイストなる存在が。


「・・・亀山の力になりたいとずっと思っていた。
 今がその時なんだ・・・」


彼の口から苦しそうに出た言葉に、
米沢は、そして亀山は、驚かされた。


「伊丹・・・お前・・・」


伊丹刑事は、
アポロガイストとなった自分の頭部に存在する
突起物に手を伸ばした。

その突起物は、まるで
彼らが子供のころに夢中で見ていたウルトラセブン、
その頭部にある武器「アイスラッガー」のように
取り外しが可能なものだった。


「こいつを使えばおそらく、
 九頭竜になったふたりの少女を元に戻せるはずだ・・・」


伊丹は、震える腕で、それを頭部から外した。


「これは一体・・・?」


「生命エネルギーを奪う装置だ・・・
 確か、パーフェクターとか言ったか・・・

 あの九頭竜から、命を奪わない程度の生命エネルギーを奪えば、
 もとのふたりに戻せるはず・・・
 それまで、俺の自我がもってくれればいいが・・・

 亀山・・・すまないが、肩を貸してくれるか?」


伊丹は今にも意識を失ってしまいそうだった。
まだ彼とアポロガイストという存在との戦いは続いているのだ。


「わかった、九頭竜のそばまで連れていけばいいんだな?」


亀山は肩を貸す。


「頼む・・・」


伊丹は亀山に体を預け、そしてふたりはゆっくりと歩き出した。



火野映司とアンクは、互いににらみあったままだった。
まるで先に動いた方が負ける、とでも言うかのように。


「映司、アンク、悪いが、今すぐ戦いをやめてくれ・・・
 伊丹を九頭竜のところに連れていきたい・・・」


亀山に声をかけられたふたりは、伊丹の姿を見て、


「亀山なんだ!? そいつは」


「まるでショッカーの改造人間だ・・・」


驚愕の声を漏らした。


「こいつは伊丹だ。
 俺の親友の邪魔だけはしないでくれ・・・」

亀山は、ふたりに頭を下げた。

最敬礼だった。



「・・・わかりました」


火野映司は、アンクの手を引き、亀山と伊丹に道を開けた。


「俺が、九頭竜はなんとかする、必ずだ。

 だが、九頭竜から奪った生命エネルギーが、
 今、俺が必死で押さえ込んでいる
 アポロガイストとかいう化け物に力を与え、
 俺が俺でなくなる可能性がある・・・

 そのときは・・・」


「わかった。
 そのときは、すぐ楽にしてやる」


伊丹がなぜそんな姿になってしまったのか、
その間ずっと、にらみあいを続けていた
映司やアンクにはわからなかったが、
彼の覚悟は、理解できた。

だから、アンクはそう返事をした。

映司には、できない、
自分がやらなければいけない、

アンクもまた、覚悟を決めていた。





伊丹刑事は、パーフェクターを使い、
九頭竜となったふたりの女王を元に戻すことに成功した。



そして、その後は伊丹刑事の予想通りの展開となり、
仮面ライダーオーズとリバースは、
アポロガイストとなった伊丹刑事を倒すことになる。




亀山薫の目の前で。

日本では、
照井竜・亜樹子夫妻とフィリップが乗るリボルギャリーが、
N市八十三(やとみ)町に着いていた。


「ここが、千のコスモの会の総本山か」

リボルギャリーから一番に降りた照井竜が物珍しそうに言い、
亜樹子とフィリップも後に続く。

「フィリップくん、千のコスモの会っていうのは、一体どういう宗教なの?」


「どこから説明したらいいかな・・・
 仏教やキリスト教、それから神道、
 この国にはいろんな宗教が混在しているのは
 亜樹ちゃんも知ってるね?」


「うん・・・」


「この国の多くの家は、仏教徒に属するのだけれど、
 仏教に関する知識をちゃんと持つ者はすくなく、
 人生における重要なポイントを
 他の宗教の儀式ですませてしまっているのが現状だ」


「確かにそうだよね・・・

 えっと、結婚式はウェディングドレスを着て
 教会であげるのがキリスト教で、
 着物を着てするのが神道?

 クリスマスは、キリストの誕生日だからキリスト教で、
 バレンタインももしかしたら関係あるのかな・・・

 厄払いは神社でしてもらうから神道で、
 初詣も神社だから神道・・・

 お葬式はお坊さんがくるから、仏教・・・
 確かにいろんな宗教がごちゃまぜだね」


「仏教ひとつとっても、宗派が別れていて、
 その家がどの宗派かによって、
 通夜や葬式は頼むお寺が変わってくるんだ」


「うちは、何の宗派だったっけ? 竜くん」


「鳴海壮吉・・・
 いや、お義父さん・・・の葬儀を上げたときに、
 一度調べたはずだが、忘れたな・・・」

照井竜は、亜樹子の父のことを、
恥ずかしそうに、お義父さんと呼んだ。


「どの宗教も、仏教の宗派のように、
 実際にはどれも細かく分かれているのが現状だ」


「千のコスモの会は、一応は
 キリスト教から派生した新興宗教になる。
 だが、その教えは、
 キリスト教のどの宗教とも大きく異なっている」


「どういうこと?」


「イエス・キリストが、
 使徒と呼ばれる弟子たちのうちのひとりに裏切られ、
 たった数枚の銀貨のために居場所を漏らされて、
 十字架に磔にされ処刑されたことは有名な話だと思うけど」


「うんうん、聞いたことあるよ」


「確か、そのときの処刑人ロンギヌスは、
 目が不自由だったが、
 返り血を目に浴びたことで、目が治ったらしい」


「うそ!?なにそれ」


「ロンギヌスが処刑に使った槍は、
 聖なる槍、ロンギヌスの槍と呼ばれ、
 手にした者は世界を制すると言われていたな・・・
 第二次世界大戦の最中、
 ヒトラーが血眼になってその槍を探したとか・・・」


「その通りだ、照井竜。

 そして、処刑された三日後にイエスは復活している」


「え?殺されたのに、生き返ったの?」


「らしいね。
 そもそも、彼は聖母マリアが、
 唯一無二の絶対神の子を処女懐妊して
 生まれた神の子だとされているから、
 それ以外にもさまざまな奇跡を起こしたとされている」


「で、それと千のコスモの会には、一体どんな関係が?」


「復活したイエスが、数人の使者を連れて、
 この日本にやってきたという説がある。

 日本人の始祖は、
 氷河期に大陸から移住してきたとされているが、
 そのイエスの来日説では、
 日本人の始祖はユダヤ人とされている」


「確か、イエスはユダヤ人だったな」


「実際に、この国にはイエスの墓とされるものがあり、
 各地にイエスの来日をにおわせるものが存在する。

 そして、日本の三種の神器のひとつである草薙の剣は、
 ロンギヌスの槍と同一のものであるという」


「馬鹿げた話だ」


「確かに、馬鹿げた話だが、この町の人々はそれを皆信じている。

 千のコスモの会は、イエスがこの島国の、
 後にこのN市八十三町となるこの地に来日し、
 彼がヨーロッパで説いた教えは間違っていたと、
 この地で新たに使徒たちに説いた教えこそが
 イエスの真の教えだと信じる宗教団体だ。

 宗教法人として認可されたのは、太平洋戦争後だが、
 代表の榊ユウキとその妻榊リコ、そして十人の幹部たちは、
 二千年の時を生きてきたイエスの使徒を自称し、
 千のコスモの会自体は二千年前から存在するとしている」


「・・・なるほど。
 ようするにバカの集まりか。
 宗教法人を隠れ蓑にしたテロ組織が」


「この町の住人のほぼすべてが、千のコスモの会の信者らしい」


「そんな町があるんだ・・・」


「別に珍しくもないよ。
 この国にはそういう市町村がいくつかあるんだ」


「へー・・・わたし、全然しらなかった」


「なるほど。だから町中の建物が、
 一般家屋を含めて、すべて作りや色合いが似通っているわけか」


「さすがのぼくも、少々気味が悪いけれど、
 何か宗教的な意味があるんだろうね。

 翔太郎はおそらく、この町のどこかにいるはずだ。
 他の名探偵たちといっしょにね」


「どうやって探す?
 あの一番大きな建物に
 軟禁されているのだったら話は早いが」


「乗り込んで助け出す、と?
 照井竜、実に君らしいね」


「監禁や軟禁程度ですんでいればいいが、
 拷問を受けている可能性がないわけではないからな」


「ご、拷問・・・」

亜樹子の顔が青ざめる。
だが、ありえない話ではない。


「そのために、ファングを連れてきた」


フィリップは、恐竜の形をした、
彼のもうひとりの相棒を取り出して見せる。


「変形と自立思考が可能なガイアメモリか」


「ファングは鼻がいい。
 ぼくの手のひらに乗る大きさだから、
 ぼくたちでは侵入できないところにも侵入できる。
 空からはエクストリームに探させる。

 エクストリームなら、
 翔太郎の肉体と精神を一度メモリの中に取り込んで
 ぼくたちのところまで運んでくれる。

 ファングとエクストリームには
 常に互いの持つ情報を共有できるようにしてある。

 だが、ひとつ問題があるようだ」


「なんだ?」


「もっと早く気づくべきだった。
 街全体に、ガイアメモリジャマーとでもいうべき
 妨害電波のようなものがでている。

 ファングやエクストリームが起動してくれない」


「変身もできないの?」


「それは試してみないとわからない・・・」


「試してみるか」


照井竜はアクセルドライバーを腰に当て、
ガイアメモリを取り出した。


『アクセル!』


『トライアル!』


どちらも、ベルトに挿入しても、
照井竜の姿が仮面ライダーアクセルや、
アクセルトライアルに変わることはなかった。


「アクセルメモリもトライアルメモリも駄目なようだ」


予想はしていたが、こいつは厄介だなと照井竜は思った。

しかし、フィリップは何か思いついたようだった。


「照井竜、ガイアメモリ強化アダプターを使ってみてくれたまえ」


かつて、ガイアメモリを風都にばらまき、
街と人を泣かせたミュージアム。

その壊滅後に、
試作段階にあったその強化アダプターが
何者かによって持ち出され、
さらなる悲劇を生んだ。

現在は風都署と照井竜が回収、管理している。


「わかった。やってみよう」


『アクセル、アップグレード!!』


照井竜は、仮面ライダーアクセルブースターへの変身に成功した。


「なるほどな・・・
 強化アダプターがあれば可能というわけか・・・」


「フィリップ、お前の分もある」


「さすが照井竜警視、用意がいいね」


『ファング、アップグレード!』


フィリップは、自らの変身のためではなく、
左翔太郎を探すことを選んだ。


「翔太郎のことは、ファングにまかせよう
 翔太郎ならファングを見れば、強化アダプターの意味に気づく。
 ジョーカーメモリで単独変身が可能だとわかるはずだ」


「なるほど、ファングを使って
 左に強化アダプターを届けるわけか。
 だが、強化アダプターはもうないぞ」


フィリップは、にやりと笑った。


「照井竜、答えは簡単だ。
 ぼくと君がダブルになればいい。

 アップグレードされたアクセルメモリを
 君が先にダブルドライバーにさせば、
 ダブルドライバーはおそらく
 この妨害電波を遮断した状態になるはずだ。

 そのあとで、ぼくがサイクロンメモリをさす」


「なるほど・・・そうきたか」


照井竜はアクセルドライバーをはずし、
愛妻亜樹子がバッグから取り出した
ダブルドライバーを受け取ると腰に装着しなおす。


『アクセル!』


ガイアメモリにアクセルメモリが差し込まれると、
フィリップの腰にもダブルドライバーが出現する。


「フィリップくんの推測通りになればいいんだけど・・・」

亜樹子が心配そうに見守る中、


『サイクロン!』


フィリップはサイクロンメモリをダブルドライバーに差した。


「変、、、身!!」


照井竜が二本のメモリがまっすぐ縦に、
並行にささったダブルドライバーを左右に展開する。



照井竜は「仮面ライダーダブル サイクロンアクセル」に変身した。



「よっしゃ~!! さすがフィリップくんだね!」


亜樹子は大喜びしたが、彼女は大切なことを忘れていた。

照井竜が変身した瞬間、フィリップの精神はその肉体を離れ、
ダブル サイクロンアクセルの中に移動していたのだ。


「おおっと!
 ひさしぶりだからすっかり忘れてた!」


亜樹子は、精神が離れてしまったため、
受け身をとることすらできずに倒れていく
フィリップの体を慌てて抱き止めた。


「所長、それ、胸がフィリップに当たってないか?」


「照井竜、安心したまえ。
 たとえ胸が当たっていたとしても、その感覚を今ぼくが感じることはない。

 ちなみに照井竜、亜樹ちゃんの胸は柔らかいのかい?
 ぼくはまだ、世の男たちが夢中になるという
 女性の胸の感触を知らないんだ」


「そうだな・・・どう説明したらいいか・・・」


「ちょっとあんたたち、何の話してんの!?」


「まあ、それなりに、な」


「それなりって! 竜くん、ひどい!!」


「亜樹ちゃん、そんなことより
 早くぼくの体といっしょに、安全なところへ」


「フィリップくんもひどい!!」


「所長、すまないが、それどころじゃないようだ・・・
 どうやら、俺たちはまんまと罠にひっかかったらしい・・・」


「どういうこと?」


「ガイアメモリジャマーともいうべき
 妨害電波が出ていたということは、
 千のコスモの会は、
 翔太郎がガイアメモリを扱う仮面ライダーダブルの片割れであり、
 ぼくたちが救出に来るだろうと予想していた・・・」


「そして、俺たちが、もしも
 ガイアメモリジャマーの対抗手段を持っていたら・・・
 そこまで想定していたというわけか・・・」


「おそらくだが、ガイアメモリの発動を
 関知した瞬間に孵化するよう作られた
 カオスシードを町中の住民に撃ち込んでいたんだろう」


亜樹子には、ふたりが何を話しているのか、まったくわからなかった。

だが、すぐに気づくことになる。


N市八十三町の住人は、およそ三万人。

今、そのすべてが、カオスとなり、
町中の建物の至るところから姿を現しはじめていた。





to be continued.....

N市八十三町。

宗教法人「千のコスモの会」本部施設最上階。

混沌と業の輪廻の間。


外から見える本部施設最上階は、
500坪ほどの広さであった。

しかし、実際のその混沌と業の輪廻の間は、
九頭龍国が存在した亜空間のような場所であった。

この星の中にありながら、この星とは異なる場所・・・

無限に広がり続ける別の宇宙のような場所だった。


そこには、九頭龍国から九頭龍の化身とともに
姿を消した小久保晴美と加藤梨沙がいた。

ふたりは無限に広がり続け、
重力も、空気もない場所に浮かんでいた。



「晴美・・・」

加藤梨沙は、以前と変わらぬ14歳の少女の姿のままだった。

「なあに、梨沙ちゃん」

小久保晴美もまた、一切老いてはいない。

それどころか、千年細胞によって、
女性として最も美しかった年齢にまで若返っていた。


「パパと晴美のこどもと、
 パパと梨沙のこどもが、九頭竜になったぞ」


「そうね・・・
 でも、甲斐享の知り合いが、
 命を懸けてあのふたりを元に戻してくれたみたい」


ふたりは、そのような空間にいながら
中東で起きたことを知っていた。
いや、感じていた、というべきか。


「パパはまだ甲斐享と戦ってるみたいだな」


「そうね。まさか鳴滝が
 あんなものを用意していたとは思わなかったわ」


「梨沙もパパのこどもだけど、
 九頭竜にはなれない・・・

 晴美や梨沙のこどもが、九頭竜になれるのは、
 九頭竜の化身になったあとのパパのこどもだからか?」


「そうね・・・
 あの子たちは、私や梨沙ちゃんとは違うの。
 九頭竜の力を受け継いだ特別な子。
 だからふたりとも女王になれた」


「梨沙、ちょっとうらやましい
 梨沙は九頭竜になれないのに、
 梨沙のこどもがなれるなんて・・・
 ママの名前をつけたりするんじゃなかった」


「やがて、あのふたりは、ライドレスの力に目覚めるわ」


「ライドレス?」


「女の子の仮面ライダーのことよ」


「ウェイターとウェイトレスみたいなことか?」


「そう、だから、仮面ライドレス
 強化外骨格だとか、パワードスーツなんていう
 むさくるしいものじゃなくて、
 ライドドレスって呼んだらかわいいと思わない?」


「かわいい・・・いいな・・・」


「でも、あの子たちだけじゃなくて、
 梨沙ちゃんも私もよ」


「ほんとか?」


「なあ、晴美、
 晴美は、どうしてラグナロクの日なんか起こしたんだ?」


「人という存在に、今度こそ本当に絶望したから・・・
 あの人と、梨沙ちゃん、
 梨沙ちゃんの中にいる亜美ちゃんや珠璃ちゃん、紫帆ちゃん、
 鳴滝、そして私・・・
 あの世界に私たちだけがいたころは、
 毎日がすごく幸せだったでしょう?」


「うん。梨沙たちは、みんな仲良しで、家族だった」


「でも、私や梨沙ちゃんが、あの人のこどもを産んで、
 そのこどもたちがまたこどもを産んで、
 あの世界に人が増えていくにつれて、
 家族の中から、わたしたちの幸せを壊す者が
 少しずつ増えていった。

 私の子か、梨沙ちゃんの子かで派閥ができて・・・

 人種も言語も同じで、九頭竜こそいたけれど
 信じる神や宗教も、歴史的な背景も、何もないというのに、
 みんなが平等だったのに、争いをはじめた」


「そうだな。
 おかしいな。
 仲良くしてたほうが楽しいのに。
 なんで家族なのに、仲良くできないんだろ。
 いがみあうんだろう」


その時、梨沙は、外界の異変に気付いた。


「・・・ん? 晴美、
 ガイアメモリジャマーに何か異常が出てるぞ」


晴美はそれが何を意味するか、すぐにわかった。


「左翔太郎のお仲間が来たようね・・・
 随分用意のいいこと・・・
 強化アダプターを持ってきてたのね。

 でも、残念。
 あなたたちは、左翔太郎やその他の探偵や刑事たち、
 たった数名の命と、この町の住人、三万人の命を
 天秤にかけてしまった。

 あなたたちの言葉を借りるなら

『さあ、お前たちの罪を数えろ』

 ってところかしら・・・ふふ・・・」


楽しそうに、晴美は笑った。

梨沙は思う。

晴美は変わってしまった。
千年以上前のかつての晴美のように。
いや、戻ってしまった。

晴美を、どうしたら、
自分の父親がしたように
救ってあげられるのか、悩んでいた。

このままだと、
晴美を嫌いになってしまいそうな自分がとても怖かった。



『エンジン! マキシマムドライブ!』


フィリップと照井竜による、
仮面ライダーWのもうひとつの可能性、
サイクロンアクセルは、

アクセルの武器であるエンジンブレードに、
エンジンメモリを差すと、
マキシマムドライブを繰り出した。

一撃で数体のカオスは倒せたが、しかし敵は三万もいる。


「照井竜、焼け石に水、という言葉は
 こういうときに使うのかい?」


フィリップは茶化すようにそう言い、


「俺に質問するな」


照井竜の、懐かしい口癖を彼は久しぶりに聞いた。



照井竜は怒っていた。



相手がドーパント、つまりはガイアメモリ犯罪者なら、
今の一撃で確実にメモリブレイクし、
犯罪者の変身が解け、逮捕できていたはずだった。

しかし、彼らが今、相手にしているのはカオスだ。

カオスは、
カオスシードが埋め込まれた人間の精神と肉体、
業を栄養として孵化し、
孵化する際にその人間はすでに死亡している。

目の前にいるのは、人喰いのただの化け物だ。

逮捕し、罪を償わせ、更正させることはできない。

そんな必要もなければ、意味もない。
それが悔しかった。


「照井竜、翔太郎ほどではないけれど、
 ぼくと君ももう長い付き合いだ。

 君が何を考えているか、ぼくは大体はわかるつもりだ。

 だから、ぼくから言えることはただひとつだけだ。

 カオスを倒すことが、
 犠牲になった者への唯一の手向けになる。

 そして、これ以上の犠牲者を出さないためにも、
 千のコスモの会は、今日ここで壊滅させる。

 カオスシードはすべて破壊、
 もしくは押収し、研究施設は破壊する。

 ぼくたちにできることはそれだけだ」


『ヒート!』


フィリップはダブルドライバーの
サイクロンメモリをヒートメモリに変えた。

ヒートアクセルとなったWのエンジンブレードが火をふく。


「これは・・・」


照井竜は驚いた。
エンジンブレードが、灼熱の焔に包まれ、
おそろしいまでのエネルギーを発していたからだ。


「仮面ライダーアクセルだけでは、
 君ひとりではできないことが、
 今のぼくたちならば可能だ」

火を噴き続けるエンジンブレードに、
フィリップはサイクロンメモリを差した。


『サイクロン!マキシマムドライブ!』


「照井竜、これがぼくたちのWの力だ」


照井竜がエンジンブレードを一振りすると、
炎の竜巻が巻き起こった。

それはまるで、炎を身にまとった龍のようだった。


「エンジンメモリによるマキシマムドライブは
 単体攻撃に特化しているが、
 これはさらに強力な攻撃を広範囲で行える」


照井竜は悟った。

おそらくフィリップは、これまでに、
自分との変身の可能性がいつ訪れてもいいよう、
相当な時間、研究とシミュレーションを重ねてきたのだ。


でなければ、はじめての変身で、
扱ったことのないエンジンブレードを
こんなにも自由自在に操ることなどできるはずがなかった。



そのきっかけは過去に一度あった。

かつて、
フィリップの相棒である左翔太郎は
ミュージアムの長、テラードーパントの発する
恐怖のエネルギーに負け、逃げ出し、
Wの変身者として失格の烙印を捺されたことがあった。

そもそも本来Wとは、
フィリップと鳴海壮吉による変身を想定し
ダブルドライバーが作られたという経緯があった。

左翔太郎は、死んだ鳴海壮吉の代わりにすぎなかったのだ。

左翔太郎は恐怖に打ち勝つことができたが、
もし、あのとき、彼が恐怖に負けたままであったなら、
フィリップの相棒は照井竜になっていた。

相棒である左翔太郎を信じながらも、
万が一のことを考え、
自分とのWへの変身をフィリップは考え、
研究とシミュレーションを行ったのだろう。

やがてそれは、フィリップにとって、
Wのまだ見ぬ可能性として、興味の対象となり、
ミュージアムを滅ぼした後も、
さらなる研究とシミュレーションを行っていたのだ。



『ルナ!』


フィリップはさらに、Wをルナアクセルへと変化させた。


『ヒート!マキシマムドライブ!』


エンジンブレードが、さらに大きな火をふく。

フィリップは、ルナメモリの
手足を自由自在に伸び縮みさせる力と
エンジンブレードのさらなる大きな火によって

カオスたちの群れで埋め尽くされた街の中に、
聖書にある、モーゼの話のように、
海を割るように、本部施設までの道を作った。


「照井竜、ファングから連絡が入った。

 翔太郎は、君の推測通り、この道の直線上、
 あの一番大きな建物の中らしい。

 すでにファングにつけた強化アダプターを使って、
 翔太郎が仮面ライダージョーカーに変身したようだ。

 ここを走って通り抜けるのも悪くはないが」


照井竜には、フィリップの
言わんとしていることがわかった。


アクセルドライバーだけが
アクセルメモリの能力を使えるわけではないのだ


「つまり、お前が言いたいのは、こういうことだな」


仮面ライダーダブル ルナアクセルは、
仮面ライダーアクセルが自らその形状を変化させるように、
バイク形態へと変化した。


「一気に駆け抜ける。
 邪魔をするカオスがいようがいまいが、一気にだ」


照井竜は、改めて、
フィリップという名の魔少年の天才的頭脳と
天才ゆえのおそろしさを垣間見た気がしていた。

彼は一体どこまで未来を見据えているのだろうか、と。

そして、その答えを、照井竜は知っていた。


どこまで、なんていう生易しいものではない。

どこまでも、なのだ。






to be continued.....

「ライダーパンチ!」

左翔太郎=仮面ライダージョーカーは、


「ライダーキック!!」

一緒に捉えられていた名探偵や刑事たちと協力し、


『ジョーカー!マキシマムドライブ!!』


ガイアメモリジャマー装置を発見し、破壊した。


翔太郎が強化アダプターを抜き取り、
そのためにジャマーのせいで動かなくなっていたファングが動き出す。


それを見た小学生の少年は、
先程までの名探偵ぶりをごまかすかのように、
わーいわーいと喜ぶ演技をした。


隣にいる関西弁の・・・名前をわすれた・・・

「せやかて工藤」

という何度も聞いた台詞のインパクトが強すぎたためだ・・・

その関西弁の色黒の高校生探偵が、

「わざとらしいねん」

と、彼が「工藤」と呼ぶ小学生に言う。


確かあの小学生は「江戸川コナン」と
名乗っていたはずだが・・・まぁ、いいか。


そして、その横では、


「なんで俺はいまだにこう、行く先々で
 いつもいつも事件に巻き込まれるんだろう・・・」


中年になったかつての高校生名探偵は、
うんざりしたようにため息をついていた。



「ファング、フィリップか
 エクストリームと連絡はとれるか?」


翔太郎に問われたファングは、イエスであろう鳴き声を上げた。


「携帯電話さえあれば、
 すぐに冠城くんに連絡をとりたいところですがねぇ」


杉下という警視庁の刑事と


「私も、連絡をとらねばいけない相手がいます。
 少し探してみましょう。
 大体の検討はついていますので・・・」


しゃべり方に特徴のある古畑という、
同じく警視庁の刑事のふたりが、

没収された携帯電話を探し始めたのを見て、
翔太郎はため息をついた。


「まったく、のんきな天才探偵と天才刑事さんたちだぜ・・・」


ファングやフィリップ、それにおそらく照井竜や亜樹子、
そして、ここにいる彼らの助けがなければ、
自分は今、仮面ライダージョーカーになれてはいなかったろう。


「オヤッサン、俺はすっかり一人前のつもりでいたけど、
 まだまだ半人前だってことがよくわかったよ」

翔太郎は、独り言のように小声でそう言うと、窓の外に視線を向ける。

ファングに呼ばれたエクストリームが彼らを迎えに来るのが見えた。




甲斐享=仮面ライダー神威が
その強化外骨格(パワードスーツ)の補助AI"E2C-0"と共に駆る
人型機動兵器=カミシロの「ナルタキ」。

神威システムは、仮面ライダーでありながら、
人型機動兵器のパイロットスーツでもあった。

人型機動兵器とは、早い話がガンダムのようなロボットだ。


人型で、全長数十メートル、
主に戦闘行為を行うために作られたロボットは、
SFの世界では大きく分けると三つに分類される。

マジンガーZやゲッターロボをはじめとするスーパーロボット、

そして、
ガンダムやマクロスのバルキリーをはじめとするリアルロボット、

その両面を、兼ね備えたエヴァンゲリオン、
(厳密に言えばロボットではなく人造人間だが)

といった具合だ。


カミシロ「ナルタキ」は、
その三番目のなんと呼べばよいのかすら
わからないカテゴリーに分類される。


神威システムは、飛行機や自動車、
あるいは建築物といったものを、触れるだけで
人型機動兵器に変形させてしまう力を持っていた。


神威システムを構成する、
神の金属ヒヒイロカネがそれを可能としていた。

ヒヒイロカネは、それ自体は金属ですらなく
(それゆえにその存在が確認されなかった)
千年細胞を持つ者の血液中にのみ存在する。

つまりは、人の血液中の鉄分が、
千年細胞を持つ者にとっては神の金属にあたるのだ。

血液そのものを神の金属といっても過言ではなかった。

千年細胞を持つ者の血液は液体金属であり、
甲斐享の場合、カムイドライバーによって血液が強化外骨格となる。


形状を記憶するだけでなく、設計図さえあれば、
脳からの、あるいはカムイドライバーのような
情報端末からの微弱な電気信号により
自らの血液でどんなものでも精製することができる。

さらには、
金属で構成された物質であれば、
ヒヒイロカネを侵蝕させることで、
カミシロ「ナルタキ」のような人型機動兵器に
フォームライドさせることができる。


カミシロ「ナルタキ」の攻撃を受けた九頭竜は、すぐさま反撃に出た。

9つの首が、同時に口を開き、
ナルタキに向けて熱線を放射した。


それぞれの熱線は色が異なり、
虹の七色と、白と黒の合わせて九色、

違うのは色だけではなく、
マイナス数千度から、プラス数千度の温度差があり、
その直撃を受けたナルタキは、
氷漬けになりながら燃えさかった。


フライトユニットやスラスターは爆発し、
人型であるがゆえの弱点である
関節駆動部分がちぎれとんだ。


かろうじて、コクピットのある胸部は無事だったが、


ーー享、コクピットから脱出を。
  半永久機関が損傷。自己修復は不可能です。
  現在位置、九頭竜直上、落下します。


E2C-0が甲斐享に脱出を促した。

しかし、甲斐享は言う。


「悦子、こいつに自爆スイッチみたいなものはあるのか?」


ーー存在します。


「俺たちの脱出後、
 九頭竜に直撃するタイミングで自爆させることはできるか?」


ーー可能です。


「脱出と自爆、双方の準備を開始します」


甲斐享と、彼を補助する神威システムのAI"E2C-0"は、
ナルタキから脱出後、地上へと落下しながら、
九頭竜に直撃するナルタキが爆発するのを見た。


「あの九頭竜、あのときのあいつなのか・・・?
 俺は・・・あいつを殺しちまったのか・・・?」


無事地面に着陸した甲斐享は、あたりを見回した。

ナルタキの爆発に巻き込まれた九頭竜の姿はどこにもなかった。



しかし、甲斐享の背後から、

「あの九頭竜は、俺であって、俺でないもの・・・」

数年ぶりに聞く声が聞こえた。

懐かしい、と思えるほどの関係性があったわけではなかったが。


「九頭龍 天禍天詠は、
 九頭竜と天禍天詠に分離することができる。

 俺が竜騎士のように九頭竜に乗って戦うこともできるし、
 先程のように別行動も可能だ。

 そして、今はまた共に存在する。

 九頭竜と天禍天詠は、片割れが死んでも、
 もう片方が生きていさえすれば何度でも甦る・・・」


数年ぶりに見る姿だった。


「久しぶりだな、甲斐享。千年細胞を持つ同志よ」


「3年前ならともかく、
 あんたの同士になったつもりはないけどな」


「鳴滝の目指していたものを、
 小久保晴美が完成させた俺と、

 鳴滝自身が千年以上の時をかけて完成させたお前・・・

 お前は、神々のゲームから万が一
 俺が脱落した場合のスペアだったな。

 だから、今、こうして、
 多少の能力の差異こそあれど、
 神に等しい力を得て、対峙している・・・

 甲斐享、俺といっしょに、
 神として人をすべてほろぼさないか?」


それは、甲斐享の知るあの男ではなかった。


「今のあんたは、まるで竜王だな」


「竜王?」


「俺の頭の右上あたりに、いま、

 はい
 いいえ

 の選択肢が出てる」


「ドラクエか・・・ガキの頃にやったな・・・
 ふっかつのじゅもんをよくまちがえたよ」


「かつて聖なる竜の女王が
 生んだ卵から生まれた子が、暗黒面に堕ちたのが竜王だ。

 まさに今のあんただろ」


「マガツに堕ちたわけではない。人という存在に絶望しただけだ」


「あんたに協力した場合の見返りは?」


「竜王らしく、世界の半分をお前にやるとしようか」


「人が滅んだ世界だろ。
 そんなもの半分もらったところで何になる?」


「それはお前がその世界の半分で何をするかによる」


「あんたが九頭龍国とかいう国を作ったようにか?」


「あれは失敗だった
 晴美か梨沙、どちらかだけを選べば、
 あんなどうしようもない結末を迎えずに済んだはずだった」


「それはどうかな・・・」


「それでも同じ結末をたどる、か」


「人ってやつは、そういう生き物だろう。
 自分より秀でた人間を妬み、自分より劣る人間を見下す。
 徒党や派閥をすぐに作りたがり、敵を作る」


「くだらない生き物だ」


「あんたは、その下らない生き物から進化した、
 神に等しい存在かもしれない。

 だが、その力をあんたに与えたのは、
 あんたが滅ぼそうとしいる下らない生き物だ。

 小久保晴美も加藤梨沙も」


「晴美と梨沙を愚弄するな」


「俺はあんたの娘たちに頼まれて、
 こんなところまであんたを探しに来た」


「さきほどからなんとなくは感じていたが・・・
 そうか、芽依と麻衣はあの亜空間を抜け出せたか」


「あんたが亜空間なんて呼んじゃだめだろう」


「九頭龍国は滅んだのだろう?」


「らしいな。消滅したそうだ。
 鳴滝も亜空間と共に消滅したらしい」


「そうか。彼は良い友人だった。
 ・・・それで、選択肢の答えは決まったか?」


「そうだな。竜王は、確か

 はい、を選べば、勇者を隙をついて殺し、
 いいえ、を選べば、臨戦態勢をとる勇者を
 殺すために戦闘になるんだったな・・・

 答えは最初から決まっている」


「これが答えだ」


甲斐享=仮面ライダー神威は、変身を解除した。


「人が滅んだ世界の半分なんて、
 いらないんじゃなかったのか?」


「いらないさ。
 だが、あんたと戦うつもりもない」


そして、甲斐享は言った。


「だから、話し合う。
 あんたと、今から、何時間でも、何十時間でも」


「変わったな、お前。
 とは言っても、俺はお前のことを元々よくは知らないが」


「変わりもするさ。あれから3年も経ってるんだ」