ーー甲斐享、神威システムのリミッターを解除します。

E2C-0が告げた。


「リミッター? 悦子、神威システムには、
 まだ、これ以上の力があるのか?」


「あなたの贖罪の旅路は、今、終わりを告げました。
 おめでとう、亨。良かったわね」


「その口調、まるで本当に悦子みたいだ」


神威の、甲斐享の体内で何かが起きていた。


「くっ、ぐ・・・」

立っていられないほどに。


「体が、熱い・・・
 ま、待ってくれ、悦子。
 俺は今、戦わなきゃいけないんだ。

 やっと杉下さんが俺を許してくれたんだ。
 いや、俺が許してもらえないと思っていただけで、
 とっくに許してくれてたことがわかったんだ。

 杉下さんが、また俺と並んで立つことを、
 今日という日を、ずっと待っててくれたんだ。

 だから、俺は今、ここで倒れるわけには・・・」


ーー大丈夫よ、亨。
  ここはさっき、亨がダークナイトだった頃の自分と
  戦っていた空間のようなものだから。


「精神世界みたいなものか?」


ーーそう、だから今、
  あなたの隣に杉下さんはいないでしょう?


「ほんとだ・・・
 でも、ゆっくりはしてられないんだ、悦子。
 お前ともっと話していたいけど、
 ぐっ、ぐああっ、す、杉下さんが待ってるんだ・・・」


ーーすぐに終わるわ、だから大丈夫
  それに、ここでの時間は、静止した時の中での出来事だから


「静止した時の中・・・?」


ーーあなたの肉体は、今もN市八十三町の
  絶対神との戦いの場にあり、隣には杉下さんがいる。

  正確には、外の世界の時間は止まっているわけではないわ
  ただ、この亨の精神世界のような場所での出来事は、
  外の世界の時間の流れとは関係がないの。

  あなたが、ここから出たとき、
  外の世界ではコンマ一秒の時間も経過してない。
  それだけのことよ。

  甲斐享の千年細胞の活性化を確認。
  血液中のヒヒイロカネの純度が200%を越えました。
  225%、250%、300%、400%、600%、、、

  ダークナイトシステムの変換可能域に到達、
  甲斐享の業(カルマ)を変換します。


「カルマ・・・?」


ーーダークナイトシステムは、
  あなたの罪そのもの、すなわち、業。

  カムイドライバーが、
  一時的に保管、能力の一部を使用していた
  ダークナイトシステムを完全に取り込んだことで、
  神威システムは、今、神威之弐式(カムイノニシキ)へと進化しました。


甲斐享は、自分が今、神威ではなく、
生身(ただし精神体だが)であることにそのときはじめて気づき、
突然傍らに現れた神威に驚いた。

ダークナイトやダークナイトジョーカーと変わらぬ
漆黒の強化外骨格だった神威は、
神威之弐式となることで、パールホワイトホワイトへと変色した。


「桁外れの力だ・・・」

そばにいるだけで、
神威之弐式から発せられているオーラのようなものに、
甲斐享の精神は吹き飛ばされてしまいそうだった。


「これが神威システムの本当の力なのか?」

ーーいいえ、甲斐享、
  神威システムには、複数のリミッターが存在します。
  今のあなたは、さらにもう一段階、リミッターの解除が可能です。
  解除しますか?


「複数のリミッターって、一体いくつあるんだ?」


ーー詳しい数は判明しておりませんが、
  ミスター鳴滝が遺したメモのようなものには、
  ファティマの預言の数と同じだけ存在するとあります。


「つまり・・・少なくとも、あと4つか」


ーーそのあと4つのうちのひとつが解除可能です。
  もう一度お聞きします。
  リミッターを解除しますか?


「解除してくれ」


ーー甲斐享の承認を確認。
  千年細胞のさらなる活性化と、
  血液中のヒヒイロカネの純度、1200%到達を確認。

  ヒドラギアシステム・ヤマタノオロチの
  変換可能域に到達、甲斐享の混沌(カオス)を変換します。


そして、甲斐享の傍らに立つパールホワイトの神威之弐式は、
ケンタウロスのような四本足となり、神威之参式へと進化した。


ーーまた会いましょう、亨。




甲斐享の精神世界での出来事など、
知るよしもない杉下右京と亀山薫は、

甲斐享=仮面ライダー神威の姿が、
突然、漆黒の甲冑のような強化外骨格から、
神々しく美しいパールホワイトの鎧をまとった
ケンタウロスのような姿に変化したことに驚きを隠せなかった。


「カイトくん、その姿は・・・?」


「・・・神威之参式、ケイローンだそうです」


「ケイローン・・・
 確かギリシア神話に登場する、
 半人半馬の怪物、ケンタウロス族の賢者の名前ですね。

 それにしても、ぼくの目の前で
 突然姿が変わったから驚きました。
 神威之参式ということは、
 先ほどまでの姿は神威之弐式だったというわけですね」


「いえ、さっきまでのは、無印というか、
 壱式というか、第一形態というか・・・
 俺は階段を一段飛ばしたんです」

仮面をしているのに、杉下右京が
意味がわからないという顔をしているのが、よくわかった。

甲斐享ですら、意味がわかっていないのだから、仕方のない話だった。


「賢者か・・・
 魔法使いと僧侶の魔法を使いこなす上級職、
 ゲームの中ではそうだったな・・・
 悟りの書を手にいれて悟りを開いて・・・」

これは、
職業の名を冠する仮面ライダーに変身できた
ダークナイトのジョブチェンジシステムが
神威システムの中で生かされている、
そういうことなのだろうか?

四本足になったのは、ヤマタノオロチの力?

いや、ヤマタノオロチの力は
神威システムの第一段階で
すでに六つの補助アームを展開可能なようにしていた。

だが、それは神威システムが
ダークナイトやヤマタノオロチと完全融合する前の話だ。


「ヤマタノオロチ・・・
 8つの首と尾を持つ大蛇・・・」

何もわからない今は、尻尾が生える程度ですんでほしいと思った。
尻尾なら8つでも9つでも生えてくれてかまわない。

だが、首が増えるのだけはごめんだった。

甲斐享は、まだ気づいていなかった。

神威之参式には、すでに尾があった。


「一般に野蛮で粗暴なケンタウロス族の中で、
 ケイローンは例外的な存在であったとされていますねぇ。
 アポローンから音楽、医学、予言の技を、
 アルテミスから狩猟を学んだといいます」

アポロンやアルテミスの名は聞いたことがあった。
学生時代に散々やりこんだゲームの知識程度しかなかったが。
竪琴や弓矢にその名前がついていた。

だが、ケイローンという名を甲斐享ははじめて知ったし、
ケンタウロスが、神の名前ではなく、
一族の名前だということははじめて知った。


粗野で野蛮・・・まるで昔の自分のようだと思った。

だが、今は賢者だという。

自分は賢者になれたのだろうか?
いや、そんなわけがない。

賢者は、すぐそばにいた。


「杉下さん、乗ってください」


「はい?」


「翼こそありませんが、
 神威にはスラスターがいくつかついています」


「スラスター、・・・つまり、
 ジェット噴射のようなもので、空を飛べると?

 しかし、ファンタジーの世界では
 竜やペガサスに乗って戦う戦士がいますが、
 ケンタウロスに乗って戦うというのは、
 いかがなものでしょうねぇ・・・」


「ケイローンは賢者かもしれません。
 ですが、俺は賢者じゃない。
 賢者はあなただ」


「ぼくも賢者などではありませんよ。
 ぼくの知識なんて、広く浅い、ただの一般教養です」


「嫌味にしか聞こえませんよ、右京さん。

 右京さんと、ぼくらみたいな体育会系は
 一般教養のラインが違うんです。

 警察官採用試験の一般教養だって、
 問題のレベルが違うんですから

 絵画や短歌の作者の名前を
 選択肢から選ぶだけの問題に頭を悩ませるのが、
 ぼくらなんですよ」

亀山薫が我慢できなくなり横から口をはさんだ。


「そうですか・・・それは困りましたねぇ」


「亀山さん、杉下さんは今何を困ってるんです?」


「ケンタウロスの君に乗るか、
 俺たちの頭の悪さか・・・
 あ、悪いね、勝手に仲間にしちゃって」


「いえ、別に大丈夫です」


「いや、あれだな・・・」


「あれ?」


杉下右京は真正面を見据えていた。

その視線を、亀山薫に続き、甲斐享も追う。

なるほどと思った。


唯一無二の絶対神は、

小久保晴美の体を完全に乗っ取り、
姿を大きく変えていた。

その姿を形容する言葉を人は持たない。

もしあるとすれば、

神そのもの。


もはや小久保晴美でも天照輪廻でもない。

神は、身体中から無数の触手のようなエネルギー体を放射した。

その数は、数十、いや、百を越えていた。


「くそっ、いきなり無差別攻撃かよ!」

甲斐享も亀山薫も、杉下右京も、
他の仮面ライダーたちも、
九頭竜の化身であった男も、
彼と同じパワードスーツの星条旗の盾の男も、
全員が音速を超えるスピードで迫るその触手を
かわすだけで精一杯だった。


「亀山くん、カイトくん、みなさん、
 ただの無差別攻撃ではありませんよ!
 追跡してきます!」

杉下右京の言葉にすぐに反応したのはフィリップだった。


「照井竜!」


「わかっている!」


仮面ライダーW サイクロンアクセルエクストリームは、
プリズムビッカーのシールドから、ビームを発射した。


「石ノ森さんもやってくれ!」


「左くん、君も剣で同時攻撃を」

クリエイタージョーカーアメノミナカもそれに続く。


追跡してくるエネルギー触手は、
スピードはともかく、それ自体は大した強さではなかった。

プリズムビッカーやスターダスターで
消滅させることが可能だった。

しかし、それは、二人のWのように対抗手段を持っていたらの話だ。


アンク=仮面ライダーリバースには、その対抗手段がなかった。

いや、先ほどまではあったのだが、すでに使ってしまい、
使い物にならなくなって、棄ててしまっていた。


「アンクーッ!」

リバースは、触手エネルギーに串刺しにされると、
さらに何本もの触手エネルギーがその体を貫かれ、

変身が解除された。


あとには、無数のメダルが散らばっているだけで、
アンクの姿はどこにもなかった。


「アンク!アーンク!」

かつてアンクを失ったことのある火野映司は取り乱し、

そして、彼もまた、触手エネルギーに貫かれた。






to be continued....