1昨年から

高校の家庭科で金融教育が始まった。

 

この金融教育について

文科省の指導要領を読むと、

投資について

書かれていることはごくわずか

でしかない。

 

ところが、

銀行などの金融関係者たちは

「高校でも投資教育が始まった」

と言って張り切っている。

 

若い顧客を囲い込もうとでも

思っているのだろうか。

 

彼らのせいで

教育者も含めて金融教育=投資教育

だと勘違いしている人たちも多い。

 

話は変わるが

迎賓館赤坂離宮をご存じだろうか?

 

バッキンガム宮殿や

ヴェルサイユ宮殿を参考に

建てられたこの建物は、

現在では世界各国の賓客を

もてなすために使われている

日本の迎賓館である。

 

昨年10月5日、

この迎賓館で夕食会が開かれた。

 

世界の機関投資家が集まった

この夕食会に参加した岸田首相は、

海外の投資マネーを

日本に呼び込むと張り切っている。

 

日本のために

リーダーシップを発揮しているように

見えるのだが、

僕には違和感にしか映らない

 

この夕食会の主催者は

岸田首相ではなく、

アメリカの資産運用大手

ブラックロックなのだ。

 

つまり、岸田首相は

客人として呼ばれていたのだ

 

個人レベルでも国レベルでも

「投資」という単語を

よく聞くようになった。

 

「貯蓄から投資へ」は、

国民の資産所得倍増を目指す

政府のスローガンになっている。

 

僕はFPの仕事もしているが

どこに行っても

 

「柊さんはどんな投資を

しているのですか?」

 

と聞かれることが多くなったのも

こういう事情があるのかもしれない

 

一方で

銀行に眠っている預金が

投資に回れば、

日本経済はいっきに回復すると

主張する人は多い。

 

そして、その実現のために

投資教育をすすめて

マネーリテラシーを

底上げする必要があるそうだ

 

投資教育で

日本が回復するなら嬉しい話だが、

残念ながら実態はまったく異なる

 

その主張をする人たちこそ、

マネーリテラシーを上げるべきだ。

 

彼らの考える投資教育とは、

「投資をする側」だけの

偏った教育だ。

 

この教育が日本の凋落を

さらに加速させることは必至だ。

 

この20年ほど、

アメリカでは情報技術への

投資が盛んだった。

 

Googleなどのいわゆる

「GAFA」がアメリカの株価を

押し上げたのは紛れもない事実だ。

 

GAFAの先頭にあるG、

つまりGoogleという検索エンジンを

開発したのは、

ラリー・ペイジと

セルゲイ・ブリンの2人。

 

開発当時、彼らはまだ

スタンフォード大学の学生だった。

 

1990年代に

インターネットが普及し始めたころ、

インターネット上の

検索エンジンの精度は低く、

検索ワードと関連の少ないページが

検索結果の上位に

表示されることが多かった。

 

その不便さを解消しようと

彼ら2人が立ち上がった

 

彼らの研究が評価されたことで、

投資マネーが集まった。

 

多くの人を雇うことができて、

Google Mapなどの

さまざまな製品を

開発することに成功した。

 

彼らのように、

社会に存在する不便さや

問題などの解決に

取り組もうとする人がいるから、

社会は暮らしやすくなっていく。

 

そして、

世界の大富豪の上位は、

そのほとんどがこの2人のような

起業家たちだ。

 

彼らは「投資する側」にいて、

お金をもうけたのではない。

 

自分たちで問題を解決しようとして、

「投資される側」に回ったのだ。

 

今でもスタンフォード大学では

優秀な学生ほど起業家を目指すそうだ。

 

こんな会話がある

 

投資銀行で働く女性が、

投資への誤解を反省するシーンだ

 

「投資の目的は、

お金を増やすことだとばかり

思っていました。

 

そこまで社会のことを

考えていませんでした。

 

大切なのは、

どんな社会にしたいのかって

ことなんですね」

 

苦笑いで恥ずかしさを隠す彼女に、

ボスが優しく声をかける。

 

「そう思ってくれたんやったら、

僕も話した甲斐があったわ。

 

株価が上がるか下がるかを

あてて喜んでいる間は、

投資家としては三流や。

 

それに、投資しているのは

お金だけやない。

 

Googleの創設者の2人は、

もっと大事なものを

投資しているんや」

 

ボスはゆっくりと続けた。

 

「それは、彼らの若い時間や」

 

 

残念だが、現在の日本の

投資教育を受けていると、

「投資=お金を増やすこと」だと

インプットされる。

 

投資の実態を知らなければ、

「投資される側」

回ろうとする発想も浮かばない。

 

働けなくなった高齢者が

投資をして

お金を増やそうとするのはわかるが、

問題を解決するために

「投資してもらう側」になるべき若者に、

アメリカ株への投資を教えることが

いかに馬鹿げているかは明らかだと思う。

 

お金ではなく

「若い時間」を

投資することが重要なのだ。

 

もちろんお金が余っているのなら、

「投資する側」に回るのもいいだろう。

 

しかし、「投資される側」の

存在を教えていないのは危機的状況だ。

 

そして、

国レベルでも同じ過ちを犯している。

 

1昨年、資産所得倍増計画を

掲げた時はまだよかった。

 

スタートアップを育成することにも

力を入れようとしていた。

 

「投資する側」だけでなく

「投資される側」も

育てることができれば、

日本にGoogleのような

会社を作ることも可能だ。

 

ところが、最近では

「資産運用立国」と言い始め、

投資するお金が増えれば成長できる

と言い始めた。

 

投資するお金が増えたところで、

投資される側がいなければ

何も生み出さない。

 

個人の資金で日本株を買っても、

大企業が新しく株を発行でもしないかぎり、

その資金が企業に流れることはない

 

株の購入に支払った100万円は、

その株を売った株主に

流れるだけだ

 

さて、岸田首相は

海外の投資マネーを

呼び込むと言っているが、

お願いされる側の

ブラックロックが迎賓館での

夕食会を主催したというのは

とても不自然だ。

 

ブラックロックが期待しているのは、

日本の1000兆円以上のお金が

「貯蓄から投資へ」流れることだろう。

 

そうなれば、

彼らの運用するお金も増え、

手数料が彼らの懐へと入っていく。

 

日本を代表する岸田首相は

彼らの大事なお客様だという事に

気づいているだろうか

 

そもそも海外の投資家に

投資してもらうこと自体が

不自然だ。

 

仮に、日本の企業が

投資マネーを

求めていたとしても、

1000兆円の預金が

眠っているのだから、

わざわざ海外の投資マネーを

呼ぶ必要などない

 

何度も繰り返すが、

日本に足りないのは投資マネーではなく、

新しい製品やサービスを

生み出そうとする人たちの存在だからだ。

 

「何を言っているんだ。

多くのお金が日本の株に向かえば、

株価が上がるじゃないか」

という人たちもいる。

それもまた馬鹿げた話だ。

 

最近は

新NISAが話題になっているが

年間の上限があるし

良い事づくめではない

 

1年で1000兆円の預金が

日本株などの投資へ

流れることはない。

 

ゆっくりと

日本株の購入が進んでいく。

 

あらかじめ株の購入が

わかっていれば、

海外の投資家は

先回りして株を買っておく

 

国内の預金や

海外の投資マネーによって

株価は上がるだろう。

 

値上がりしたところを、

来年、再来年にNISA枠で

株を買い続ける日本人に

売ればいいのだ。

こんなに簡単なゲームはない。

 

 

そして、日本の預金は

海外への投資にも向かう

これもまた問題だ。

 

アメリカにはスタンフォードを出て

起業した人たちや

ドル資金を必要とする新興企業が

ごろごろいる。

 

彼らに資金を提供するためには、

ドルを購入することになるから、

さらに円安が進むことは

避けられない。

 

そして、

その投資が成功するとき、

アメリカには

第2、第3のGoogleや

Appleが生まれている。

 

投資ではもうかるかもしれないが、

消費者は今まで以上に

アメリカから

輸入をしないといけなくなる

 

そこまで岸田総理は

わかっているのだろうか?

 

新しい製品やサービスを

作ろうとする

若い人たちが育たなければ、

国内産業はどんどん衰退していく。

 

岸田総理は「お金」が

投資できる環境を

整備しようとしているが、

それよりも重要なのは、

 

若い人たちの「時間」が

投資できるような

環境を整えることだ。

 

「投資される側」になることを

金融教育で教える必要がある。

 

文科省も金融庁も

早くこの問題に気づき

 

「お金を学ぶという事は

どういうことなのか?」

 

投資する側と

投資される側との違い

 

今盛んにおこなわれている

金融教育に警鐘を鳴らす人は

まだまだ少ない

 

未来を担う子供たちだからこそ

正しい金融教育が

必要だと思えてならない