ソヴィエト連邦製の射撃が可能という非常に特異な性質を持つNRS-1とNRS-2、そしてその派生型を解説する。今回はNRS-1、次回はNRS-2を解説する。

時は遡ること冷戦真っ最中の1970年代のソヴィエト連邦…国防省とKGBからの命令で「シューティングナイフ」の開発が始まった。
設計者はラファイル・ドミトリエヴィチ・クリニンで、TOZにて開発作業が進められた。


クリニンがNRS-1と共に設計・発表した消音小型拳銃のMSP。同じプラスチックを使用しており使用弾薬も同じ。

最初期の試作型ではNR-40という大祖国戦争時代のナイフがベースとされていたが完全に独自で開発したモデルが1972年に完成。様々な特殊機関に採用され、配備されることとなった。



NR-40

 NRS-1


全長:290mm
銃身長:60mm
寸法
鞘入り:323mm×65mm×32mm
刀身:160mm×28mm×3.5mm
材質
刀身:25Kh17N2BSh
刀身コーティング:黒色クロムメッキ
重量(弾丸なし)
鞘入り:600g
本体のみ:330g
口径:7,62mm
使用弾薬:7,62×38mm SP-3弾
初期銃口初速:145 m/s
実用射撃速度:毎分2発

NRS-1または単にNRS(ロシア語:НРС-1
Ножа Разведчика Специального 特殊偵察ナイフの意味)(GRAU:6P25)
持ち手と鞘の大部分は緑色の耐衝撃プラスチックで構成されておりそれ以外の部品は金属で構成されている。このナイフには射撃機能の他にも鞘の一部を展開し、ペンチのように使用することで10mmの鋼棒、2.5mmの鋼線、5mmまでの電話ケーブル、400Vまでの電線を切断することができる。

NRS-1には本体だけではなくさまざまな装具や小物類が付属する。

1:NRS-1
2:鞘
3:銃身
4:弾薬ポーチ
5:ベルトに取り付ける用の革製留め具
6:腕や脚に取り付ける用の大型装具
7:インサート
8:クリーニングキット(分解用工具、清掃具、オイラーが収納されている)
9:ゴム製カバー(紛失などに対応するため予備が付属)


6の大型装具にNRS-1を設置した様子。上腕または前腕、太ももなど脚にもに取り付けることができる。


5の留め具を使用してベルトに取り付け携行する様子。



また拳銃用のランヤードを取り付けている例も存在する。奥がNRS-2(後述)、手前がNR-2(後述)。


ソヴィエト連邦国防省が発行した「技術的な説明と操作手順」には4つの基本姿勢が掲載されている。


①最高の威力を発揮する構え
②上からの脅威に対応する構え
③近接戦闘時の構え
④射撃時の姿勢

使用する7,62×38mm SP-3弾はソヴィエト連邦内で1965〜66年にTsNIITochMashによって開発された消音閉鎖型弾薬で、薬莢内のピストンが射撃時に作動することで発射ガスを薬莢内に封じ込めることでサプレッサーなどの外部装置なしで高い消音効果を発揮することができる。


7,62×38mm SP-3弾。上は射撃後のピストンが作動した後の状態(空薬莢)、中は内部構造を示したカットモデル。

射程距離は25mとなっているが実戦では超至近距離ではないと有効な攻撃手段にはならないことがほとんどで、陸上ではもちろん水中でも射撃することが可能だがその場合射程距離はかなり短縮する。また射撃ではなく投げナイフとして使用することも考慮された設計である。



ダーティーハリー持ち。大型装具を太ももあたりにつけている。


刃先を顔に向け、鍔の切掛けをリアサイト、グリップ下部の突起をフロントサイトとして狙いを定めることができる。

NRS-1は細部の資料が少ないため詳細な操作方法などについてNRS-2で後述する。

 NR-1



NR-1または単にNR(ロシア語:НР-1
Ножа Разведчика 偵察ナイフの意味)(GRAU:6P25U)
NRS-1から射撃機能を削除した通常のナイフ。NRS-1も前述したとおりインサートを取り付けることでほぼ同様の仕様にすることが可能だがこれは最初から射撃機能が削除されているので鍔の弾丸摘出用の切り込みがなく、グリップのフロントサイト削除、グリップ自体のデザインが変更されている。

次回はNRS-2とその派生型を解説する。