平成27年3月24日,石川町駅そばの司法書士会館において,「女性の貧困」というテーマで,静岡県弁護士会の丹羽聡子弁護士にご講演いただきました。丹羽弁護士は,日本弁護士連合会貧困問題対策本部に所属し,女性問題に熱心に取り組まれている弁護士です。困っている女性に一番アクセスしやすい場所で働こうと考え,法テラスのスタッフ弁護士として勤務されたご経験もおありとのことです。

 ご講演は,「女性の貧困」と一口に言っても,貧困とは何かを一言で言い表すことができないため,論者によって何を問題視するのかがまるで違っていることがある,というお話から始まりました。「女性の貧困」と聞いて何を問題視するか。私は,シングルマザーとして子供を一人で育てており,パートタイムで短時間しか働くことができないために所得が少ないというような女性をイメージし,保育施設の不足の問題が頭に浮かびましたが,皆様はいかがでしょうか。
丹羽弁護士は,女性が男性より貧困になりやすいという統計を紹介された上で,その原因について,労働問題,社会保障や税制の問題等を挙げられました。

 これらの内,労働問題については,男女雇用機会均等法等によって,性別を要素とした雇用は原則禁止されているということがある一方,実態としてはまだまだ意図的な差別が残っている場合があり,また,差別の意図があるかどうかはともかく,女性の多い職種は現実には賃金が低い傾向にある等,女性にとって厳しい現状を紹介されました。このような問題は,例えば保育施設の拡充だけでは解決することができない問題ですね。丹羽弁護士は,アマルティア・セン氏による貧困の定義を紹介され,自分の能力を発揮できないこと自体を貧困と捉えるべきであるとお話されましたが,社会で問題となっている女性の貧困の問題は思った以上に広く深く,何とも言えない思いを感じながら,丹羽弁護士のお話に聴き入りました。

 社会保障や税制については,「男性稼ぎ主」と「妻,子ども」 という家族形態がモデル世帯とされており,これに該当しない人には厳しい制度が取られているとして,配偶者控除の問題等を挙げられました。配偶者控除については,確かに,女性の労働意欲を抑制するディスインセンティブを与えるという観点から批判のあるところですが,単に配偶者控除を全廃すればいいかというとそう簡単な問題ではないようで,社会保障制度の設計の難しさを感じます。今後,モデル世帯の設定の仕方や,設定から漏れた人への手当をきちんとできるよう,より議論を深めていく必要があるのだと思います。

 本日は丹羽弁護士に女性の貧困問題全般についてお話いただき,女性の貧困には様々な原因が複合的に組み合わさっていることを勉強させていただきました。原因の一部を取り上げるだけではなく,様々な原因すべてについて取り組んでいかなければ,容易には解決できない問題なのだと感じました。

会場の参加人数は30名超で,どの方も熱心に耳を傾けられており,ご講演後の質疑応答も活発になされました。参加させていただき大変勉強になりました。

                                弁護士 伊 藤 正 篤