ベールンの外れ、イガルクストーンの近くでは何やら恐ろしい異変が始まった丁度その頃、月面のアームストロングではいち早くその異変を察知していた。

 地球のてっぺんが怪し気なピンク色の発光体によって何かが起ころうとしている。その情報は即座に月面政府機関に送られ、秘密裏ではあるが地球の中央政府と連絡を取り合っていた。だがどちらの政府機関もあまり大事とは捉える姿勢を見せず、互いに「静かに見守る」程度で簡単に合意をしてしまった。

 しかし政府以外にもこの異変に気づいた月面の住民は思いのほか多く、中でも月面一のグループ企業を率いる男、エイセイ・イナモリは一番興味を示していた。
 無理も無い。実はこの男こそアラリス・ハリアーに北米探索を依頼した張本人なのである。エイセイは独自のネットワークを駆使してこの異変を察知し、そのデータ収集を密かに行うこととした。

 さてそんな依頼を受けたばっかりにとんでもない事態に遭遇してしまったアラリスは、バヤックの運転するスノーモービルでイガルクストーンを目指した。前方にはアーエアを乗せたスノーモービルが。他にも犬ぞりなどで駆けつける村の男達もいる。

「しっかし・・・北米どころじゃねえな」
 アラリスがそう言うと、バヤックは、
「なんだか初めてですぜ。こんな意味不明な事は」
 と、困惑した面持ちであった。イガルクストーンまでは思いのほか速く到着したのだが、もうその場は異様というか、今までに見た事も無いような眩い光が辺りを照らし、石の周りの氷は解け、不気味な泡がぶくぶくと立ちこめていた。

 アーエアはそのぎりぎりの所でスノーモービルを停めると、その泡立つ冷たい海へと歩を進めたのである。アラリスはそれを見て、
「危ない!」
 と、叫んだ。するとアーエアは、
「大丈夫よ。あなたもついてきて!」
 とだけ言ってそそくさと泡立つ海を身軽に歩き、イガルクストーンへと辿り着いてしまったのである。アラリスは困った顔をして、
「ついてこいって言ってもなぁ・・・こっちはまだ氷漬けになりたかねえぞ?」
 するとアーエアは、
「普通に歩いても大丈夫だから!」
 涼しい顔でそう言い切る。アラリスは恐る恐る泡立つ海へと足を進めたら・・・。
「あら?」
 普通に渡る事が出来たのである。バヤックも同じように渡ってきた。
「うわ・・・・・初めてっすよ。ここまで来たのは。で、お嬢、他の連中はどうしまっさ?」
 その問いにアーエアは大声で、
「何人かは残って、他はみんな村に戻って!そして宿屋の探索をお願いするわ!」
 と、言うと、その通りに皆が動いた。残ったのは初老の男と、その弟と思しき兄弟のみであった。
「で、今からどうするんだ?っていうか・・・ワシとバヤックだけでいいのか?こんな怪しいもんを探索するのに」
 アラリスは訝し気な顔でアーエアに尋ねると、彼女は、
「あなたジャーナリストでしょ?」
 と、聞き返してきた。
「あぁ。そうだが。」
「だったら今から起こる事、全部を皆に伝えてほしいの。だから連れて来たの」
 彼女のその説明に、アラリスは少し納得した。
「お嬢、急ぎやしょう。この先に何が有るのか突き止めねえと!」
「そうね。じゃ、行くわよ!」
 3人はイガルクストーンを登り始めた。だがその時・・・。
 大きな揺れとともにイガルクストーンが崩れだし、そして急に沈み始めたのである。
「きゃっ!」
「危ない!!!」
 今度こそ危なかった。アーエアの体はイガルクストーンの上でバランスを崩し、そのまま背中から地面に叩き付けられそうになった。
 それをアラリスが何とか抱き止めると、バヤックが、
「旦那!こっちでっせ!こっちへ早く!」
 と彼が誘導する方へと急いだ。イガルクストーンは先ほどまでの姿はもう殆ど無く、石はどんどん崩れていく。

 アラリスは兎に角アーエアを抱えながらバヤックとともに走り、安全と思しき場所までどうにか逃げ切ると、再びイガルクストーンを見た。

 石は完全に沈み、跡地にはぽっかりと海面が見えた。先ほどまで氷の下をうごめいていた触手のような光は消え、再び夜めいた雰囲気へと変貌していたのである。
 あまりにも静かな周囲。アラリスは気絶してしまったアーエアを抱えながら様子を見ていた。
「・・・・・・・・まるで夢のような出来事だったな・・・」
 そう彼が言うと、バヤックは、
「・・・旦那、油断禁物でっせ。俺のカンが正しければ、あそこから何か出てきますぜ。」
 と、海面を指差した。と、その時。

 海面の部分だけ急に桃色の光に包まれ、そして重低音が辺りを震わせる。
「な・・・・・なんだ?」
 しばらくして海面から大きい人のような物が現れた。それは周囲を見渡すように首を廻し、やがてアラリスらを見つけると、急に目が光った。そして、
「ふふふ・・・アーエア、一歩遅かったようね。私がこの破壊兵器を貰って行くわ。明日から地獄を見せてあげる・・・。あ・・・でもその前に先ず・・・あなたから楽にしてあげるわ」
 と、こちらへ静かに浮遊しながら近寄ってくる。アラリスは守るようにアーエアを抱きしめ、バヤックはとりあえず腰に差していた大鉈を構えた。
「貴様は誰だ?」
 アラリスはそう巨人に尋ねると、
「あら・・・その声は月面から来た若い人ね。ねぇ、その娘を私に頂戴な。その娘がいると私達が厄介な事になるの。そうすればあなたの命だけは助けてあげるわよ?」
 と、巨人は言った。どうやらこの巨人が発している声ではなく、中で操作している人間の声らしい。
「その声は・・・ルカか?」
「ふふふ・・・残念でした。私はこの村で女将に変装していた女。名前は・・・そうね手みやげとして教えてあげるわ・・・。私はミワ。」
 その名前は、先ほどアーエアが発していた名前であった。あの女将がそんな事を企んでいたとは・・・とアラリスは半信半疑であったが、それも明確になった。
巨人はもう手前まで近寄っている。その姿はまるで不気味な生命体と奇妙な機械を取り混ぜたようなこの世の物とは思えない格好であった。
「この娘はやらん・・・と言ったらどうするつもりだ?」
「はぁ?簡単じゃない?あなた達全員、氷の海に沈めるだけよ?・・・そんなこと聞くって事はどうやらその娘を渡す気無いみたいね。」
 巨人はアラリスらの手前で動きを止めた。そして大きな雄叫びを上げると、右手の拳を思いっきり振り上げた。
「じゃあ、氷の下で私達の殺戮ショー、見ていなさいな」
 と、残酷な程優しい声で言うと、そのままその手を振りかざした・・・・・。

と、その時、空から光の筋がその手を打ち抜き、巨人はその反動で後ろへと転んだ。巨人はそのまま割れた氷の中へ沈みそうになっていた。

「くっ!・・・何者!?この私の邪魔をするなんて!?」
 ミワがそう悔しそうに叫ぶと、巨人はどうにか立て直し、氷から這い上がろうとするのだが、右手が先ほどの攻撃で使い物にならなくなっており、四苦八苦の状態であった。
「アラリス!今のうちに村へ逃げろ。ここは俺がどうにかしてやる。」
 頭上に巨大な銀色の翼。そして翼には「LUNATIC AIRFORCE」と書かれている。アラリスはその翼を見て、それが誰なのか一発で判った。
「恩に着るぜ!」
 と、独り言を言うと、そのままアーエアを抱えたままバヤックを伴ってスノーモービルまで走ると、一気にエンジンを噴かして走り出した。
「ええい!小癪な・・・逃がす物か!」
「おっとそこの巨人を操ってるお姉さんよ、俺が相手だぜ。こっちにこいよ」
 銀翼の戦闘機はそうミワを挑発すると、ミワはそれに簡単に乗ってしまった。
「このホムンクルスはそんなチャチな戦闘機ごときに倒されるもんではないわ!」
 すると銀翼は、
「ならばお手並み拝見といこうか?」
 と、レーザーガンをホムンクルス目がけて連射した。だがホムンクルスは一足早く飛び上がり、
「ふふふ・・・あなたの相手なんかする暇なんてなくてよ?・・・」
 そう言い残して大空へと舞い上がり、そのまま宇宙へと向かったのである。
「逃げる気か?・・・いいだろう」
 銀翼はホムンクルスを追うべく再び大空へと消えた。

 村に戻ったアラリスらは、長老の家に辿り着くと、アーエアをベッドに寝かせた。
 長老の家の別の部屋には村人によってアラリスの荷物が運ばれており、宿屋が使えない以上、ここを使えとのことである。台所では世話好きなバヤックの母親と姉が温かなスープを作ってくれていて、アラリスに飲めと勧めた。時間は既に夜明けを示していた。あっという間の出来事ではあったが、実際は相当な時間が経過していたのである。
 スープを飲みながらアーエアの様子を見る。寝顔が恐ろしい程美しい。
「・・・バヤック、このアーエアって娘は何者なんだ?長老なんかに化けてたり、変にミワとルカを意識したりしているが・・・。」
 その質問にバヤックは、
「それはこの娘から聴いた方がいいかもしれんぜ旦那。俺も実のところはよく知らないんでさ。」
 と、言った。

 アーエアの目が覚める気配が無いので、バヤックは家に帰り、アラリスは自分の部屋で仮眠を取った。

 疲れていたせいか、翌日は昼過ぎまで昏々と眠ってしまったのであった。
 ベールンの酒場は陽気であった。流行から少し遅れた音楽が流れ、客は一日の疲れを忘れるかのように酒を酌み交わしていた。

 アラリスとバヤック、そしてバヤックの仲間らは同じテーブルを囲み、強い酒を浴びるように飲んでいた。ただ、酒が苦手なアラリスはブランデーの水割りであったが。
 月面からやってきた客人ということと、北アメリカに向かうという目的が珍しいせいで、この村でも瞬時にアラリスの名前は有名になってしまった。そのせいなのか、今日の酒場は普段足を向けない女子供もやってきていた。無論アラリスの話が目当てである。

 アラリスがこの村に到着したのは実は1週間前。いきなりの来訪に村の面々は恐ろしく警戒心を募らせた。だが彼が泊まった宿屋の女将が、

「月面からやってきたジャーナリストで、話が物凄く面白いわよ。」

 という事をあちらこちらに言って以来、何人かづつアラリスの元を訪れ、あれこれと話をしているうちに打ち解けていったという。
 アラリスも打ち解けた所で本来の目的を話すと、その話に一人だけ賛同したのが先のバヤックであった。バヤックは幼い頃からイガルクストーンの周辺をいろいろと調べ、また、年に一度だけモスクワやらハバロフスクへと向かい、そこでイガルクに関する書物を見つけては買っていたという研究熱心な一面があったのである。
 今回アラリスが渡航を準備する上ではこの上なく役立ったのだ。そしてバヤックはベールン周辺のイガルクの痕跡へとアラリスを連れて行く他、一度北海の漁にも同行させている。
 この日の昼のイガルクストーンの調査は、その一環であるのと、装備をどれくらい装填すれば北極を越えられるか?というものを調べたかったというのがあるらしい。思いのほか楽だったら今宵の出発を予定していたのだが、まだかかるようだ。そもそも長老が「無理」と言った位だ。だとすれば無理なのであろう。

「しかし北アメリカなんざ調べて、それをどうするつもりなんだね?」
 初老のエスキモーの質問にアラリスは小さく頷き、
「とりあえず写真などで現状を記録し、文献のみでしか確認されてない事柄なんかを調査しようと思っている。実は月面から高感度カメラなどで北アメリカの各所を撮影したフィルムがあるんだけど、それだけでは全てが判らないってことになってね。・・・それを解明して全て雑誌なんかで紹介するつもりだ。勿論こちらにも贈らせてもらう予定だよ。」
 と、言った。すると別のエスキモーなんかは、
「なかなか真面目なんだな。でも月面を離れるのは寂しかったんじゃないかい?向こうに家族や恋人はいないのかい?」
 と、赤ら顔で質問すると、
「家族は月面から先日完成した人工コロニーに移住したんで今は一人で暮らしてます。恋人は数年前にふられたんですよ。」
 アラリスはそう笑いながら答えた。すると周囲の面子は大いに笑い、
「それだったらこっちで良い女紹介するよ!・・・そうだな・・・。あ、あのルルベチョフの娘なんかはどうだ?」
「おいおい、あそこの娘は気が強過ぎてこの旦那には無理だろ。う~んそうだな・・・ジルスキーんとこの三番目なんてのもいいな。」
「あれ?あそこの三番目は今度嫁に行くんじゃねえのか?」
「そうだっけ?」
 アラリスはその会話を大人しくにこやかに聞いていた。別に悪い気はしないなぁ・・・と思っている所に、バヤックがやってきた。どうやらお腹を下したらしい。
「おうバヤック、コパルヒンの食い過ぎで下ったのか?」
 酔っぱらいのエスキモーがそうバヤックをからかうと、
「なんだか今年のコパルヒンはあんまり出来が良くねえな・・・。で、何の話をしてたんだ?」
 少し具合悪そうにバヤックがそう尋ねると、先の初老のエスキモーが、
「この月面の若いのにここの村の女を紹介するとしたら誰がいいかってのを話し合ってたんだよ。」
 と、言うと、バヤックはにやりとして、
「はは~ん、そういう話か・・・。それだったらこの旦那、既にお気に入りがいるようですぜ?」
 するとアラリスは、
「え?・・・おいおい、まさか宿屋のあの娘の事を言ってるのかい?」
 と、手を振りながら否定すると、何故か水を差したかのようにバヤック以外の周りが静まり返った。
「・・・・・宿屋のルカ・・・か。」
 初老のエスキモーが重くそう言うと、バヤックは、
「あの娘だったらこの旦那とお似合いだろ?」
 と、明るく問うと先ほどまでずっと黙って話を聞いていた長老格のエスキモー、ハイドンがゆっくりと話を始めた。
「ルカは・・・・・この村の者ではない・・・。ルカの母親もここの村の者でなく、しかもルカと母親は血縁ではない・・・。」
 アラリスは先ほどのバヤックの話と一致するなぁ・・・と思いながら話の続きを待った。
「でも、そんな事はあまり関係ないだろ?」
「バヤック・・・お前はこの中で一番若く、一番あの親子の事を知らぬからそう言う事が言えるのだ・・・・・あの親子の素性を知らぬからな・・・。」
 いつの間にか来ていた長老は静かにそう言うと、アラリスは、
「何か・・・事情があるみたいですね。」
「そうだとも。・・・・・月から来た若いの。北アメリカへ向かうのはあまり良いとは思えぬ。興味本位であの大地に向かおうものなら・・・・・・命の無駄になる覚悟が必要ぞ。」
 もっともな意見だった。確かにここ数百年と人跡が絶えた場所に向かうわけである。何が起こっても不思議ではない上に、何が潜んでいるのかも不明である。
「それはごもっともです・・・確かに今回のミッションはいつものものとは訳が違いますから。」
 静かにアラリスがそう返すと、バヤックは、
「でもよ、アラリスの旦那が北アメリカへ向かうのと、宿屋の親子は関係無い話じゃねえんか?」
 と、つっかかった。すると長老は持っていた杖を床に一突きすると、
「黙って聞け。・・・あの親子は何処から来たのか定かではない親子だ・・・。大体の人間はモスクワだのハバロフスクだの、マンチューリーだのと思うだろうが・・・実際あの親子がこの街へやってきた最初の地点は・・・・・。」
 長老がその先を言おうとしたとき、地響きが鳴った。そして大きな爆音が村全体に轟いた。
 そのせいで店にあったものが全て床に落ち、そして窓の外からは夜の気配が一気に消えていた。

 アラリスは体が咄嗟に反応したのか、何も着ずに外へ出た。バヤックはそんなアラリスを見て、
「だ・・・旦那!何か着ないとダメでんがなっ!って旦那っ!」
 と、防寒着を2着持って外へ出た。

 外は夜とは思えない明るさとなっていた。アラリスはひたすらに街のはずれ、彼の勘が働く方角へと走った。その方角とは彼が昼間に訪れたイガルクストーンの方角である。

 ちょっとした高台になっている村の外れまで辿り着くと、そこには信じられない光景が広がっていた。


 イガルクストーンが煌煌と輝いていたのである。そしてイガルクストーンを中心に幾筋もの光が氷の下を走り、何か不気味な重低音が鳴り響いていた。光は生き物のようにうごめき、何かを探しているような風情である。実に不気味だ。
「旦那!待って下さいよ旦那!」
「バヤック!これを見てくれ!!!」
 ようやくアラリスの元へと辿り着いたバヤックは、一気に言葉を失った。
「な・・・なんでぇ・・・。」
 すると背後からは別のエスキモーの叫ぶ声がする。
「や・・・宿屋が燃えてるぞ!」
 その言葉にアラリスは即座に反応し、何も言わずにバヤックの手から防寒着をひったくると、一目散に宿屋へと戻った。

 宿屋は消火活動が早かったせいか、アラリスの部屋と女将の部屋がある1階部分は無事で、何事も無かったかのような雰囲気だったのだが、何故か2階の端の部屋、そう、ルカの部屋だけ燃え方が尋常ではなかった。火元はどうやらそこらしい。

「あ・・・アラリスの旦那、大変でっさ。」
 エスキモーの一人がアラリスの姿に気付いた。
「どうした・・・というか、こっちもこっちで偉い事になってる。」
「そっちでは何があったんですか?」
「・・・イガルクストーンが輝いている。そしてそれを中心に蛸の足のような光が氷の下を動き回っているんだよ・・・・・。」
「・・・・・・・・・・もしや・・・・・。」
 と、そこへ、長老がやってきた。あんだけ激しい揺れだったのに傷一つ無かった。
「・・・・・・・・・運命の光・・・終末の光を呼び覚ましたんじゃろう・・・。あやつが・・・。」
 その言葉にアラリスは首を傾げた。
「・・・そういや・・・宿屋の親子は無事だったんか?」
 バヤックは何とか追いつき、そう尋ねると、エスキモー全てが首を横に振った。
「それが・・・どこにもいねえ。燃えた部屋の中にも痕跡がねえんだよ。」
「行方不明ってことかえ?・・・てことは、宿に放火して何処かへ・・・・ってっか?」
 おどおどするバヤック。するとアラリスは長老に、
「この火事とイガルクストーン周辺の出来事は関係あるんですね?」
 と、単刀直入に尋ねると、長老は、
「あの親子、娘はダミー・・・あの女将の表の面もダミーじゃ・・・。」
 その場の面子が全員「何を言いだすんだ?この人は?」という顔をしている。
 だが長老は臆する事なく語り続けた。
「その昔・・・イガルクストーンの力を求めて沢山の科学者がここを訪れた。また、イガルクストーンの欠片を求めてやってきた面々もおった。だがワシ等・・・・・・・・。」
 と、いきなり長老の体が不自然な形でカクン・・・と動いた。まるで人形のように・・・だ。
「その中にどう考えてもおかしげな連中がおってな、奴らはイガルクストーンの下にある何かを求めるべく、日々この村を訪れた・・・。じゃがイガルクストーンの下にあるものは我々のタブー・・・いや、意図的にタブーにせねばならぬような恐ろしいものだったんじゃよ。そしてイガルクストーンそのものは確かに隕石の欠片じゃが、あれ自体は別に何の恐れもない・・・。イガルクストーンはあれを隠す為の墓標にしか過ぎなかったんじゃ・・・・・・・・。」
 そう一気に語ると、先ほどまで杖をつきながらよれよれと立っていたのがウソのように、スックと背筋を伸ばした。
「それを守れ・・・と、ワシはずっと死んだ長老から言われて・・・・・・。」
 長老はそう言うと、口の中から小型のマイクを吐き出した。
「長老は死に、その守りの役をウチに託したのよね・・・。だけど今はもうそんな悠長な事言ってる暇は無くってよ?」
 声が急に若い女のものになると、一気に長老・・・だったその人はカツラと仮面を脱ぎ捨てた。

 右目を隠す前髪、綺麗に靡く長い髪・・・そしてハッと息をのむ美しい姿。

 エスキモーの面々はその顔を見て驚いてしまった。

「あ・・・・アーエア様!」
「お嬢様、生きていたんですかっ!?」

 そんな声があちらこちらから聴こえてくる。だがアーエアはそれを一喝して、
「兎に角イガルクストーンへ急ぐわよ!・・・ほら、そこの月面のジャーナリストさん、あなたも手を貸して!ルカと・・・ミワを追うわよ!」

 と、変な展開にアラリスは面食らっていたが、どうにか我に返った。

「あ・・・あぁ、判った。」
「そうと判れば・・・そうね、バヤック、速く犬ぞりの・・・・・いや、オートモービルの準備をなさい!そうじゃないと間に合わないわよ!」

 と、命令すると、バヤックは言われるがままに自宅の小屋へと向かったのであった。

「ところで・・・君は何者なんだ?」
 アラリスはアーエアに尋ねると、
「話は後!先に行くから!」
 とだけ言ってその場を去って行った。

 アラリスはこの急転直下な展開に面食らいながらも、なんだかよく判らないワクワク感、ジャーナリストとしての血が騒ぎ始めた。
「こうなったらとことん付き合ってみるかね。」
 そう独り言を言うと、丁度バヤックがオートモービルに跨がって現れたのだった。
 アラリス・ハリアー

 27歳ジャーナリスト。月面の大都市、アームストロング出身。
 体は熊のように大きいが、性格は大人しい。今回は表向き「雑誌の取材で北アメリカを目指す」という理由で地球の北極圏に来ている。

 バヤック・バーコフ

 本文では年齢を書いていないが、実はアラリスと同い年。だがアラリスよりもずっと老けて見える。
 こちらは小柄で小太りなエスキモー。おまけに酒飲みである。
 ベールンという村に住んでおり、アラリスの北アメリカ渡航へ同行する予定である。

 ルカ

 19歳。宿屋の娘だが詳細は今の所不明。
 ロシア系というよりも、アジア系の美少女という風情らしい。