カーター・ディクスン名義の第1作。探偵はジョン・ゴーント博士。古城内の薄暗い甲冑室での密室殺人。第一の被害者は変わり者の当主。第二の被害者は妊娠し、暇を出される寸前だった女中。なぜかその死体は見つけてくれと言わんばかりに通路に置かれていた。第三の死者も殺害現場から引き離されていた。(∪^ω^)わんわんお! [???]

ヘンリー・スタイン:レイル卿, 弓弦城の主
アイァリーン:レイル卿の妻
フランシス・スタイン:レイル卿の息子
パトリシア・スタイン:レイル卿の娘
ブルース・マシイ:レイル卿の秘書
ソーンダーズ:フランシス付きの召使
ウッド:弓弦城の執事
カーター夫人:弓弦城の女中頭
ドリス・マンドオ:弓弦城の女中
アニイ・モリスン:同
ホレイショ・マニング:医師
ジョージ・アンストラザー卿:英国博物館長, 準男爵, レイル卿の友人
マイクル・テヤレイン:英文学教授, アンストラザー卿の友人
ラリー・ケストバン:映画俳優
ジョン・ゴーント:犯罪学の権威
テイプ警部:地方区の警部



城主の友人によって古城に招かれたマイクル・テヤレインは、その当主レイル卿に甲冑室を案内されることとなった。そこでテヤレインは甲冑室に面した図書室でレイル卿を待っていたのだが、その前を素通りし、まっすぐ甲冑室に入ったレイル卿は、二度と再び生きた姿を見せることはなかった。

悲鳴を上げ、甲冑室から飛び出してきたのは当主の娘パトリシア・スタイン。そのただごとならぬ様子に、テヤレインたちが甲冑室に入ると、そこには絞殺されたレイル卿の死体があった。甲冑室の出入口はテヤレインが見張っていた一つきりしかなく、室内には隠れている者はいなかった。

体力的にも性格的にも、パトリシアが彼を殺したとは誰も考なかった。では誰が、どうやって彼を殺し、そして部屋から消え失せたのか?


※以下反転表示部のネタバレ注意。



「大きなのっぽの古時計 おじいさんの時計~♪」

そんな平井堅の歌声が聴こえてきそうな導入から始まる本作は、ジョン・ディクスン・カーが初めて「カーター・ディクスン」名義として発表した作品。別名義になったのは契約上の都合のため。カーは金銭面で鷹揚な人物だったので、必要に迫られてのことだったという。本作は英米初版発行時には「カー・ディクスン」名義だったが、その後、「カーター・ディクスン」名義で統一されている。

最初期のカーは主にアンリ・バンコランを名探偵として書いていたが、この時期のカーは方向性を新たな探っていたのか、作品ごとと言えるほどに新たな探偵を次々と生み出している。その中には、ギディオン・フェル博士とヘンリー・メルヴェール卿といった、後に彼の代表的名探偵となる者もいるが、「毒のたわむれ」に登場するパット・ロシターのような地味な存在もいて、本作に登場するジョン・ゴーント博士も同様。


面白く読めたんだけど、粗が目立つ。

図書室で待つテヤレインの視界をレイル卿が通り過ぎて行った記述はどう考えてもアンフェア。作中でゴーントがアンストラザー卿に城の見取り図を描かせるが、それは読者には示されず、部屋の配置など、城内の構造を読者の目からなるべく隠しているのも頂けない。(それが最重要ポイントとなっている犯行もある) 構造がよくわからないのは甲冑室内も同様で、90フィートの部屋とされているが、果たしてそれは正方形に近いものなのか、それとも長方形なのか、その周囲の部屋の位置関係など、細部がはっきりしない。もし正方形だとすれば、真相を読む限り、甲冑室の中央辺りに死体があったという状況は想像しがたく、犯人はどんだけ力持ちなのか、あるいはよほど特殊な構造の部屋なのかとツッコミたくなる。甲冑室内でパトリシアが聞いた物音の正体もはっきりしない。そしてそのパトリシアをあっさりと容疑の圏外に置いてしまうのもどうかと。



[第一章 弓弦城(ボウストリング)] 弓弦城を引き継ぎ、新たなレイル卿となったヘンリー・スタインは変人で、新しいものを好まぬどころか忌み嫌うようでさえあった。渋々電燈を取り付けることは受け入れたものの、図書室やその先にあるだだっ広い甲冑室のそれを点けることは極力避け、また彼の許可(まず許可されないのだが)なくしては客がそれを点けることも許されなかった。甲冑室――そこには彼の愛する古い甲冑が多数収められていた。奥行き90フィートほどの甲冑室は、真ん中辺りよりも先に進むと、外の滝の音が大きくて物音はあまり聞こえなくなる。城でのちょっとした事件――女中ドリス・マンドオが甲冑姿の幽霊を見た。弩の弦が盗まれた。古い貴重な弦ではなく、新しく丈夫で大した価値のないもの。
[第二章 消え失せた籠手] ひどく汚れた白い僧衣を身に着け、頭巾を被り、山羊髭を生やし、なぜか手にハンマーを持った小男のレイル卿が騒いでいる。籠手がなくなったという。彼に怒鳴り散らされ、困った様子なのが彼の秘書ブルース・マシイ。鞄の留め金を鳴らして書類鞄を開き、その中の事務上の書類を読むように主人に頼んでいるが、籠手をなくしたほうが重要な主人はなかなか耳を貸さない。
[第三章 何か気狂いじみた、恐ろしい、危険なこと] 食事会。レイル卿が突然にドリスの妊娠を告げる。相手は不明だという。客人たちが応接室へと向かうとき、マシイはようやくレイル卿から書類に目を通す約束を取り付け、反対側の大広間のほうへと向かう。レイル卿、客人のマイクル・テヤレインを甲冑室に案内する前に事務仕事を片付ける必要があるので、彼を図書室に待たせ、マシイを捜しに行く。テヤレイン、図書室でレイル卿を待つ。ところがようやくレイル卿がやって来たかと思うと、その彼はテヤレインに目もくれず、そのまま素通りして甲冑室への扉をくぐり抜けた。マシイがレイル卿に書類に目を通すように嘆願しているらしき声がする。内容は不明なものの鋭い口調の返答が響く。マシイは甲冑室から追い出されるように図書室に現れる。扉は閉まる。マシイが言うには、レイル卿はいよいよおかしくなったような表情で、真珠がどうのこうのと喚いていた。テヤレインとマシイが話していると、フランシス・スタインがやって来た。そして甲冑室から悲鳴。扉が開き、パトリシア・スタインが出て来る。フランシスが中の様子を見に行くと、その奥にはレイル卿の死体。
[第四章 釘づけの扉] レイル卿の死体は、90フィートほどの奥行きのある甲冑室のほぼ中央に位置する、巨大な人馬像の台座の上に倒れていた。その首には弓の弦が巻き付いている。死体の状態をもっとよく確認するために電燈のスイッチを入れると、「カチリ」と音がした。テヤレイン、いつだったのかはっきりしないが、こんな感じの音を図書室にいたときに聞いたことを思い出す。パトリシアは甲冑に興味はなく、なぜ甲冑室にいたのか不明。甲冑室は2階まで吹き抜け。バルコニーの窓の向こうはレイル卿の寝室だが、向こう側から固く閉ざされている。幅4フィート、手すりの高さは3フィートのバルコニーにはそこらじゅうに埃が厚く積もり、しばらくは誰もそこに触れてさえいないことが確かめられた。図らずもテヤレインは、死体発見の直前まで甲冑室の扉を見張っていた。殺人犯が彼の目に留まらずにそこから逃げ出せたはずはない。甲冑室の中に隠れている人物はいなかった。フランシス、甲冑室と城の本丸との間の秘密の扉を思い出すが、そこは両側から釘が打ち付けられ、塞がれ、開かなくなっていた。その日、レイル卿が急に思い立ち、そうしたという。レイル卿がその手にハンマーを持っていたのはそのため。それを知っていたのはソーンダーズだけだった。
[第五章 真珠の首飾り] パトリシアの証言。「図書室でうとうとしているテヤレインの前をこっそり通り過ぎ、甲冑室の奥へと入り、ただそこにいた。室内で何かが動くような気配を感じたが、滝の音が大きいため、それが何なのかわからない。それから大声と扉が閉じる音を聞いた。(レイル卿とマシイとのやり取りであろう) パトリシアはストーブの後ろで縮こまっていたので、特に何も目撃していない」 パトリシアは甲冑室にいた理由を明かさなかったが、フランシスには心当たりが付いた。彼女が甲冑室に入り、映画俳優ラリー・ケストバンは裏庭へ。秘密の扉を使えば、二人は怪しまれずに容易に密会できる。それを察したレイル卿が扉を塞いだのだろう。絞殺されたドリスの死体が、両側に部屋の窓が並んだ、屋根のない通路で見つかる。その手には真珠の首飾りを持っている。
[第六章 召使いの部屋] 執事ウッドは自室にいたというが、フランシスの呼びかけに応えなかった。レコードの音で聞こえなかったという。金庫から、現金と無記名債券がなくなっている。
[第七章 ジョン・ゴーント登場] 妊娠したドリスはレイル卿に暇を出されることになっていた。そこで彼女はアイァリーンの部屋にやって来て、取り成して欲しいと頼んだが、アイァリーンはそれは無理だと断った。ドリスはすぐに部屋を出て、その後、殺された。犯罪学者の権威ジョン・ゴーントが、捜査を請われてやって来る。
[第八章 カチリという音の正体は?] ゴーント、テヤレインが聞いた甲冑室の中で響いたらしき「カチリ」という音に興味を示す。もし扉が閉じていればそんな音はまず聞こえない。だとすると、それが聞こえたのは、扉が開いていたとき、レイル卿とマシイのやり取りの前後と思われる。テヤレインは、それは電燈のスイッチの音なのではないかと思っていたが、もし扉が開いた状態で電燈が点いたりすれば、薄暗い図書室では、甲冑室から漏れるその明りはまず確実に目に入る。その記憶がテヤレインにはないのだから、その音が電燈のスイッチによるものである可能性は低い。甲冑室の奥のほうでは滝の音のために少々の音はかき消されてしまう。ゆえに謎の音は部屋の手前に近いほうで発生したもの。
[第九章 籠手発見さる] レイル卿の死体は、まるで弓の弦で首を吊られ、落とされたような格好。彼は首を絞められ殺されているが、弦は彼の死後に巻きつけられたもので、それが死因ではない。ドリスの部屋から籠手が見つかる。
[第十〇章 開いた窓] 格闘の際にちぎれたと思しき、レイル卿のカフスボタンなどが、なぜか彼の服ポケットの中に入っている。見つかった籠手は割と小さめ。それを各人が嵌めてみる。テイプ警部とジョージ・アンストラザー卿には小さすぎて無理。フランシスはなんとか嵌めた。マシイ、テヤレイン、ケストバンは簡単に嵌めることができた。ドリスは元々、別の女中アニイ・モリスンと同室だった。しかし悪影響を与えかねないとして、アニイは他の女中たちの部屋に移されており、ドリスの部屋は彼女一人の個室となっていた。その部屋の窓の真下には、彼女の死体があった通路。犯人は部屋で彼女を絞殺し、窓から落としたと説明がつく。しかしそうであるならば、死体が発見されやすくなる、あるいはその落とす瞬間を目撃される危険さえある行為をなぜ行ったのか不明。
[第十一章 甲冑の幽霊] 紛失したもののうち、500ポンド以上の現金はともかく、1万ポンドにも達する無記名債券についてはマシイが番号の控えを持っているので、犯人が現金化するのは容易ではないはず。フランシスはアイァリーンが籠手を使って迷信深いドリスを脅かして楽しんでいたのではないかと疑っている。
[第十二章 明りのついた窓] テヤレイン、アイァリーンの飼い犬の鳴き声を聞く。しばらくして、女中の絶叫が響く。アイァリーンが自室で射殺体となって見つかった。
[第十三章 レイル卿の押入れ] アイァリーンが殺された夜、テヤレインは犬の鳴き声はかすかに聞いたが、銃声は聞こえなかった。アイァリーンは彼女の部屋から続くレイル卿の寝室から物音を聞き、銃を手にその様子を探り、押入れの中に隠れた犯人を見つけたが、その人物によって押入れの中に引きずり込まれ、射殺され、それから彼女の部屋に運び込まれたらしい。テヤレインは押入れの中に、以前見たときとの微妙な変化を感じた。長衣の一枚がやけに皺だらけだった。アイァリーンの着衣は、親しい間柄の男に会いに行くようなものではない。
[第十四章 嘘の分析] 犯行に使われた銃についての調査。城内には銃はそれほど多くはない。フランシスが所有する拳銃が手頃だが、その所在は不明。フランシスの忠実なる召使ソーンダーズによると、海に沈んでしまったというが、その説明は明らかに怪しい。ゴーント、嘘についての講義をする。とっさの嘘の中には、真実の断片が現れると。
[第十五章 ピストル発見さる] ゴーント、レイル卿の寝室にある、高さが3~4フィートほどの櫃が動かされていたことを指摘する。この城は隠し場所には事欠かず、犯人が現金や債券を一時的に隠しておくのも難しくはない。ソーンダーズの上着からフランシスの拳銃が見つかる。
[第十六章 庭園の散歩] テイプ警部としてはソーンダーズを逮捕せざるを得ないが、ゴーントはまったく彼が犯人とは信じていない。忠実なるソーンダーズはフランシスをかばうためなら自ら罪を被るのも厭わない人物。ゴーントは、犯人がフランシスに罪を被せようとしていると語る。
[第十七章 時計止まる] ゴーント、犯人を罠に掛ける。
[第十八章 ゴーント、謎を解く] ゴーント、レイル卿とその他諸々についての時間経過の中の、噛み合わない点を指摘する。
[第十九章 解決] ゴーント、自身が仕掛けた罠の正体を明かす。