ギディオン・フェル博士シリーズの長編第4作。安楽椅子探偵。ドタバタ騒ぎ。船上の事件。正体不明の凶悪犯が乗船している。政治的に重要なフィルムが強奪される。エメラルドの象のペンダントが紛失し、戻される。女が殺されたらしいが、その死体は発見されず、行方不明の人物なし。女の正体は不明。[???]

ヘクター・ホィッスラー:クイーン・ヴィクトリア号船長
ヘンリー(ハンク)・モーガン:船客, 作家
カーティス(カート)・ウォーレン:同, 外交官
トマッセン・ヴァルヴィック:同, 元船長
フォータンブラ(ジュール伯父):同, 操り人形師
ペギー・グレン:同, その姪
オリヴァ・ハリスン・カイル博士:同, 著名な脳の専門医
スタートン卿:同, エメラルドの象の持ち主
チャールズ・ウッドコック:同, 殺虫剤のセールスマン
レスリー・ペリゴール:同, フォータンブラの操り人形について論文を書いている美学者
シンシア・ペリゴール夫人:同, レスリーの妻
“バーモンジーの恐怖”:同, ボクサー
サディウス・G・ウォーパス:ウォーレンの伯父, 政治家
アブドゥル:フォータンブラの相棒
ボールドウィン:二等航海士
スパークス:無線通信士
ベニト・フュリオソ・カンポゾッチ:操り人形の公演の関係者
ギデオン・フェル博士:探偵



船旅の最中に作家ヘンリー・モーガンは奇妙な事件に巻き込まれる。国際関係に危険なスキャンダルを巻き起こしかねないフィルムが強奪され、見知らぬ女が負傷しているのが見つかる。ところが寝かせておいたその女はいつの間にか姿を消し、そこには凶行の跡と、盲目の理髪師が描かれた剃刀が残される。

それと同時にエメラルドの象のペンダントが紛失事件も発生。ところがエメラルドはいつの間にか持ち主のもとに戻っている。しかしまたそのエメラルドが…。


モーガンから話を聞き終えたフェル博士は、その犯人の名を告げる。


※以下反転表示部のネタバレ注意。



カーの作品中でも最もファース味の濃いものとして有名だが、それと同時に駄作としても有名?w フェル博士が安楽椅子探偵として事件の謎を解き明かすが、それには題材が相応しくないと思うw ドタバタ劇の合間に手がかりが紛れ込んでいるのだが、事件の説明者がそんなことまで細かく説明できるとはとても信じられない。

フェル博士は16のヒントを提示し、読者の推理を手助けしているが、こんなドタバタ劇を根気よく読みつつ推理に集中する読者はさほど多くはないのでは? 楽観的で阿呆な登場人物たちが思慮の浅い行動を繰り返し、失敗を穴埋めするためにまたトラブルを引き起こす様を眺め続けるのにも限度がある。これをユーモアとして楽しむには、読者は推理を放棄するか、あるいは真相を読み終え、もう頭を悩ませる必要もなくなってからの、安心してのんびりと読める再読じゃないと無理じゃないだろうか。

16のヒント(鍵・手がかり)もいまいち。あまりにも曖昧すぎて、各々のヒントから、それぞれが指し示すものをすべて当てるのはまず無理。この名を挙げるのもなんだが、これがもし(当時の)エラリー・クイーンなら、もっと具体的な、読者の挑戦心をくすぐるようなものを提示して、もうちょっと上手く処理したと思う。


登場人物の中に一人くらいならまた別なのかもしれないが、これほどまでにおバカさんばかりが揃ってると、どいつもこいつもうんざりするような人物としか思えない。特に、他人の船室に盗品を投げ入れる女とか、相手も確かめずにいきなり気絶させるほどの一撃を食らわす男なんて最悪。船室の人物がそれを届け出て万事解決なわけないだろ。間違いなく強盗の容疑者になる。気絶させるほどの一撃を不意に食らわせば、ヘタすりゃまったく無実の人間が即死だよ。考えてみると、ホイッスラー船長は特に悪いこともしてないのに散々な目に遭ってるなぁ。


僕はブラック・ユーモアも好きだけど、これはなんか違うんだよなぁ。


あと、これは僕の勝手な思い込みだが、“盲目の理髪師”なる謎の殺人鬼が次々と人を殺していく話を期待してしまったところ、実際には最後まで殺人があったのかどうかすら曖昧なまま進行していく展開に肩透かし。



[Ⅰ 1 奇妙な船荷] <クイーン・ヴィクトリア号>に客たちが乗船する。その中には秘書を連れた大金持ちのスタートン子爵もいる。彼は大きなペンダントのようなエメラルドの象の持ち主で、大物政治家サディウス・G・ウォーパスの知人でもある。そのウォーパスの甥カーティス・ウォーレンもこの船に乗り合わせている。
[2 ウォーパス伯父の無分別] ウォーパスが内輪のパーティーで一席ぶった際、ウォーレンはそれを撮影した。表に出るとまずい内容だったので処分したつもりだったそのフィルムが、ウォーレンの荷物に紛れ込んでいた。船に届いた電報によりそれを知ったウォーレンはすぐにそれを処分しようと自室に戻ったが、そこで襲撃を受け、フィルムの一部を奪われた。襲撃者は誰なのか不明。
[3 フィルムどろぼうへの罠] フィルムが荷物にウォーレンの紛れ込んでいるという電報が届いた際、無電室には無電技師やホイッスラー船長、殺虫剤のセールスマンのチャールズ・ウッドコック、著名な脳の専門医のオリヴァ・ハリスン・カイル博士、そしてウォーレンの見知らぬ女がいた。ウォーレンと、彼から襲撃の一件を聞かされた、ヘンリー・モーガン、トマッセン・ヴァルヴィック、ペギー・グレンのチームは、泥棒に罠を仕掛ける。ウォーレンは病室で寝込んでいるということにして、残りのフィルムも欲しいであろう泥棒おびき寄せる。チームは隣室で待機する。
[4 頭の問題] 正体不明の凶悪犯が、偽名を用いて乗船していることが判明。その人物は用心もしていた有名な宝石鑑定家を簡単に襲撃している。スタートン卿のエメラルドの象が狙われている。泥棒を待ち伏せするウォーレンたち。ついに人の気配。呻き声が聞こえた。「ウォーレン…」
[5 エメラルドの象登場] 鼻と口から血を滴らせ、部屋の外に倒れていたのは、ウォーレンが無電室で見かけた女。後頭部に打撃を受けた様子。ウォーレンたちは彼女を部屋の中に運び込み、ベッドに寝かせた。再び人の気配を感じて部屋を出るが、相手に気づかれたのか、気配は離れて行く。その人物に追い着いたウォーレンは、相手を確かめることもなくノックアウトした。その人物はホィッスラー船長。保管するためにスタートン卿から預かってきたエメラルドの象を持っていた。
[6 消えた死体] どうやら船長はウォーレンが負傷したと聞いて様子を見に来ただけらしい。ウォーレンたちは間違いに気づき、どうしたらいいものかと慌てる。そして船長が意識を取り戻した。返しそびれてしまったエメラルドの象の扱いに困ったペギーは、手近な船室の窓の中にそれを放り込む。明日になればその部屋の人物が気づいて届けるだろうと楽観する。先ほど倒れていた女が消え失せる。血痕も残っていない。
[7 どっちの船室に?] エメラルドの象を放り込んだ船室がどこなのか、ペギーははっきり覚えていない。
[8 毛布の下の血] ペギーがエメラルドの象を放り込んだ部屋の候補を、カイル博士のC46号室とペリゴール夫妻のC51号室とに絞る。女が消えた部屋のベッドのシーツをはがすと、隠されていた血痕が見つかる。それはかなり大きな染み。寝ている女を再び誰かが襲撃した可能性。血の付いたかみそりも見つかる。それはかなり凝った作りで、本来は七つで一組のもの。意匠として、そこには盲目の理髪師が描かれている。それにちなみ、謎の泥棒、そしてあるいは殺人者を“盲目の理髪師”と呼称する。
[9 疑惑ます朝] 翌朝。昨夜の騒ぎが、多くのおかしな噂を生み出している。カイル博士もペリゴール夫妻も含め、自室にエメラルドがあったと申し出る者は現れない。
[10 登場人物] 無電室にいた女の正体は不明だが、彼女は大量の書類を抱えていた。騒動の夜、カイル博士の部屋は一度も開かなかったと、通称“バーモンジーの恐怖”というボクサーが証言する。
[11 盲目の理髪師を見た男] ウッドコックは盲目の理髪師がウォーレンのフィルムを奪うのを目撃していた。それはウッドコックが知らぬ人物だが、顔は見たのでもう一度会えばわかるという。ウッドコックは、フィルム奪還に協力する代わりに、ウォーレンの伯父のウォーパスの名を使って、商品の宣伝に協力してもらいたいと、取引を持ちかける。
[12 カーティス・ウォーレンの軽挙] ウォーレンがいじっていたウッドコックの商品が暴走し、そこに現れた船長が被害を受ける。あまり良くないウォーレンの心証はますます悪くなる。ちょうどそこに、船内で行方不明になっている者なしという報告が入り、女が殺されたと主張していたウォーレンは船倉に閉じ込められる。
[幕間狂言――フェル博士の所見] 船でのいきさつをモーガンから聞かされたフェル博士は、殺人はあったと断言する。事件を解き明かすための八つの鍵を披露する。「①暗示 ②機会 ③友愛的信頼 ④見えざるもの ⑤七本の剃刀 ⑥七通の電文 ⑦消去 ⑧省略文」
[Ⅱ 13 ふたつの首ふり人形] スタートンの部屋には、目にルビーをはめ込んだ首振り人形が置かれている。エメラルド盗難について船長をひとしきり絞り上げた後、スタートンはポケットからエメラルドを取り出す。いつの間にか部屋に戻っていたという。
[14 こんなことがあろうか?] ペギー、伯父のフォータンブラがこっそり酒を飲もうとしているところを見つけて咎める。フォータンブラは酒癖が悪いらしく、ペギーによって飲酒を禁止されている。
[15 いかにしてペリゴール夫人シャンペンを注文し、エメラルドがふたたび現われたか] 操り人形の公演を前にして、フォータンブラが飲酒し、眠り込んでいるのが見つかる。船倉に閉じ込められていたはずのウォーレンが現れる。
[16 C四六号船室の危険] ウォーレンは策を弄して船倉を脱出し、カイル博士の部屋に忍び込み、その中からエメラルドを見つけて取り戻してきた。その際、ウッドコックを殴りつけ、縛り上げてきた。ウォーレンは閉じ込められていたので知らなかったが、エメラルドはすでにスタートン卿の手に戻っていたはず。それがなぜカイル博士の部屋にあったのか、謎。フォータンブラの相棒のアブドゥル、喧嘩によって声が出なくなってしまう。公演は絶望的。モーガンとヴァルヴィック、ともかくエメラルドをカイル博士の部屋に戻すことにする。部屋に入ってみると、窓の下にはトランクがあり、エメラルドはその後ろに落ちた可能性が高い。もしそうなら、そこのエメラルドの存在にカイル博士が気づかなくてもおかしくない。モーガンたちがエメラルドを戻そうとする場面を目撃した船長は、この二人が泥棒と確信する。
[17 バーモンジーの恐怖あとを引き受ける] バーモンジーの恐怖が船長たちをノックアウトし、モーガンたちはその場をとりあえず逃れる。フォータンブラもアブドゥルも使いものにならないので、モーガンたちが彼らに成り済まして、操り人形の公演を行う羽目になる。
[18 金時計と失踪] 酔いつぶれていたフォータンブラと、そしてエメラルドやら何やら、雑多な小物がいつの間にか消え失せていた。
[19 ジュール伯父の無分別] ウッドコックは食堂などを散々見て回ったが、フィルムを盗んだ男は見つからなかった。以前にフォータンブラは酔っ払って、駐車中の車の鍵を片っ端から抜き取っては塀の向こうへ投げ入れたこともある。フォータンブラ、エメラルドを海に投げ入れる。エメラルドが海に落ちたと大騒ぎになるが、スタートン卿の手には当のエメラルドがある。
[20 解明] モーガンから話を聞いたフェル博士、追加の八つの鍵を述べる。「⑨間違った部屋 ⑩明かり ⑪個人の趣味に関して ⑫回避された弁明 ⑬直接 ⑭わかっている替え玉 ⑮誤解 ⑯決定的」
[21 殺人犯] モーガンの話を聞き終えたフェル博士、犯人の名を明かす。警官がその人物を連行してくる。フェル博士、推理を披露する。「別人に変装するのは滅多に人と会わない者でなければ難しいが、乗船客の中に誰とも友人付き合いをしない人物がいる。その人物はウォーパスと繋がりがある。用心していた宝石鑑定家が簡単に襲われたのは、その犯人が彼の知人だとすれば容易に説明できる。ベッドに寝ていた女を殺した人物がその痕跡を隠したのは、当人は死者と直接結びつきがあり、彼女の不在を隠し通せる自信があるから。証拠品の剃刀は値の張る珍品で、そんな物を持つ人物は限られる。両手に抱えるほどの電報となると、単なる個人の用件よりも事務仕事が相応しい。となると、その女の正体は…」
[22 ネモ退場] 犯人は再びミスを犯す。