ギディオン・フェル博士シリーズの長編第1作。かつて魔女を絞首刑にした<魔女の隠れ家>に建てられた絞首台と監獄、そして絞首台からそのまま死体を落とすための大きな堀。当主が首を折って死ぬと伝えられる、監獄の長官の家系。長男は25歳の誕生日の晩に、一人で長官室に入る義務を負う。長官室の金庫の中身は、代々の当主しか知らない。先代は全身の骨を折って死亡。その事件性は不明。その跡継ぎであるマーティンが儀式の夜に、長官室のバルコニーの下で首を折って死んでいるのが見つかる。それと同時にいとこのハーバートが姿を消している。[???]
ドロシー・スタバース:スタバース家の娘
マーティン・スタバース:ドロシーの兄
ハーバート・スタバース:ドロシーのいとこ
ティモシー・スタバース:スタバース家の先代, 故人
アンソニー・スタバース:チャターハム監獄の初代長官, 故人
バッジ:スタバース家の執事
バンドル夫人:スタバース家の家政婦
マーサ:女中
ペイン:チャターハムの弁護士
テオドシア・ペイン:ペインの妻
トーマス・オードリー・ソーンダーズ:チャターハムの牧師
マークリー:チャターハムの医者
タッド・ランポール:アメリカの青年
ギディオン・フェル博士:辞書編纂家, 探偵
ベンジャミン・アーノルド卿:警察長
ジェニングス:警部
かつて魔女を絞首刑にする場所として使われていた<魔女の隠れ家>。そこには絞首台が建ち、監獄が併設され、囚人の逃亡防止と死体処理を兼ねて大きな井戸のようなものが掘られた。しかしそれが使われていたのももはや昔の話で、伝染病の流行をきっかけにそれは閉鎖された。しかしその土地・建物は監獄の長官の家系であるスタバース家の所有となっており、取り壊されることもなく、今もその姿を留めていた。
初代長官アンソニーは奇矯な人物であり、子孫たちにある義務を負わせていた。長男は25歳になった晩に、独りで長官室に篭り、金庫の中の物をその証として持ち帰らねばならないのである。
そしてマーティン・スタバースが25歳になった。
この地域では、スタバース家の代々の当主は首を折って死ぬという噂が囁かれていた。実際のところ、それがぴったり当てはまるのは監獄の初代長官アンソニーのみなのだが、マーティンの先代ティモシーが全身の骨を折って死んだことが――首は折らずに死んだのだが――その噂に拍車を掛けていた。そんなこともあり、マーティンは儀式の日が近づくに連れ、落ち着きを失いつつあった。
そんな彼を心配して、儀式の晩には近所のフェル博士宅に、ランポール青年とソーンダース牧師も集まり、彼らは監獄の長官室の窓を眺めていた。すると窓に明かりが灯った。順当に進めば午前0時にマーティンは長官室を出るはずだったが、明かりはその10分ほど前に消えた。異変を察したランポールとソーンダースは監獄へと走った。(フェル博士の脚では、その後ろ姿が離れて行くのを眺めるのが精一杯である)
そしてランポールは長官室のバルコニーの真下で、マーティンの死体を発見した。マーティンの首は折れていた。それはまるでアンソニー・スタバースの死に方を再現したかのようだった。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
ディクスン・カーの長編第6作にして、ギディオン・フェル博士の登場作。カーはほかにもアンリ・バンコランやマーチ大佐などの名探偵を創造しているが、彼の名探偵の代表と言えば、やはりこのフェル博士と、そしてもう一人、後にカーター・ディクスン名義で生み出されるヘンリー・メルヴェール(H・M)卿。
フェル博士の容貌は、作者が敬愛するG・K・チェスタトンをモデルにしていると言われている。
フェル博士はかつて国家の諜報活動にも関わっていたらしく、「英国じゅうの人間と親しく」、「ロンドン警視庁の高官ウィリアム・ロシター卿という後ろ盾がある」ので、地元の警官もおいそれと口出しできない。そのため、表向きの肩書きとしては民間人ながら、かなり好き勝手に事件を調べ回ることができる。
ちなみにこの「ウィリアム・ロシター」というのは、カーの長編第5作「毒のたわむれ」に登場する探偵パット・ロシターの父親らしい。そこにはバンコランの相棒ジェフ・マールも登場することから、バンコランとフェル博士は、互いに相まみえることはなくても同一の世界で活躍していたということになる。
最後は犯人の自白で事件の真相が明かされるというのは残念だが、本作にして、ようやく雰囲気に見合った内容になったという印象。これ以前のカーの作品は、雰囲気の割に内容はいまいちで、それがどうにももどかしかったのでw
記述の中に手掛かりを潜ませるのが上手いのはいつも通りで、犯人の視点で再読すれば、その言動にどれほどの焦りが込められていたのかよくわかるw 他人を心配するような言動も、実は犯人はそれを意図しておらず、まったくの保身からのものなのに、受け手が勝手に勘違いしていたりする。
マーティン殺害のトリックは目撃者の思い込みを利用したもの。定刻通りに窓に明かりが灯り、定刻通りにそれが消えれば、その時間帯にはマーティンは生存していたと見做され、犯人にアリバイができる。ところが時計が一つ狂っていたために、犯人は計画変更を迫られる――
本作は決して傑作ではないが、重くなりすぎない怪奇趣味に、トリックを用いた犯行、若い男女のちょっとしたラブ・ロマンスというカーらしい娯楽性が存分に発揮された、バランスの良い代表作の一つ。H・M卿シリーズに特に顕著なドタバタ喜劇もここでは抑えられているため、ファン以外にも取っ付きやすいと思われる。端役的な執事の活躍も、作品を複雑化させずにちょっとした華を添えているようで好ましい。
[1 灰色のコートをまとった娘] タッド・ランポール、フェル博士らと知り合う。
[2 おぞましく濡れそぼったもの] かつて魔女を縛り首にした場所として知られる<魔女の隠れ家>には絞首台がある。そしてそこに監獄が併設されており、囚人の逃亡防止と処刑後の死体の処分の手間の軽減(そのまま綱を切るだけでいい)も兼ねて、大きな井戸のようなものが掘られている。2代に渡ってスタバース家の当主が長官(典獄)を務めた後、伝染病によって監獄は閉鎖されたが、その建物と土地の所有権はスタバース家が保持している。スタバース家には相続についての義務が伝わっている。25歳を迎えた晩に、長男が監獄の長官室に入り、金庫を開け、それを証明する物を持ち帰らねばならない。金庫の中身は、後継者以外には決して口外してはならない。近隣では、スタバース家の当主は首を折って死ぬと言い伝えられている。(実際にはそれは初代長官アンソニーだけで、ティモシーは全身の骨を折って死んだが、首は折っていない)
[3 恐怖の顔] ティモシーは<魔女の隠れ家>の近くで、全身を骨折しているところを発見された。そのときはまだ息があり、屋敷に運び込まれた。そして彼は「倅への書き置き」を書いた。彼のもとを訪れた神父ソーンダーズによると、ティモシーはまるで気が触れているようなことを口走り、その内容を他言しないように釘を差したという。その後、ティモシーは娘ドロシーと二人きりで話し、次に弁護士ペインと話した。そのときにティモシーの臨終は近づき、皆が集まった。ティモシーは死の直前、ニヤッと笑うようにはっきりと「ハンカチーフ」と言った。ティモシーは決してそう言わなかったが、他殺の疑いは消えなかった。ティモシーが被害に遭った晩には、なぜか長官室の窓から明かりが漏れていた。アンソニーは詩作を好み、その作をからかう身内の者を憎んでいた。ランポール、マーティンとハーバートの会話を立ち聞きする。「暗号はGallows(絞首台)だぞ」
[4 黒い遺産] マーティンは長官室での儀式を控え、落ち着かぬ様子。
[5 死の試練] フェル博士宅。ここから長官室が見守れる。午後10時半。雷鳴が近づいている。フェル博士とランポール、長官室の窓にまだ明かりが灯っていないのを見る。ソーンダースが車でやって来る。マーティンが屋敷から出て、徒歩で監獄へと向かったと、ドロシーから電話。午後11時。予定通りに長官室に明かりが灯る。11時50分の少し前。長官室の明かりが消える。予定の0時よりも早い。異変を察し、ランポールは監獄へと向かって激しい雨の中を走り出し、ソーンダースもそれに習う。ランポールはこの辺りの道を知らないので、誤って<魔女の隠れ家>へと着いてしまう。長官室のバルコニーのほぼ真下で、マーティンの死体を見つける。
[6 早すぎた真夜中] それに先立ち、ハーバートは小さな鞄に荷物を詰め、オートバイでどこかへと出掛けていた。屋敷の金庫が開放されたままになっている。執事バッジ、屋敷の大時計が10分進んでいることに気づく。
[7 長官室で] マーティンの死体は首が折れ、ほかにも打撲痕がある。誰かに殴られたのか、墜落によるものか、どちらなのかは不明。死体発見の翌朝、長官室を調査。格闘の跡はない。バルコニーの窓は開いており、その下の床には吹き込んだ雨水が残っている。金庫は文字合わせと鍵による二重ロックのもの。文字板は「S」で止まっており、扉は開いた。中には何もない。
[8 “殺人装置の仕業では?”] 室内には人が隠れていたような形跡なし。マーティンが長官室に入り、隠れていた誰かに襲われた可能性は低い。ベンジャミン卿、機械的な“殺人装置”の可能性に言及。もしマーティンがランプを手にバルコニーまで来れば、フェル博士宅からもそれが確認できたはずだが、それはなかった。バルコニーの縁には親指大のすり減った跡がある。
[9 呪われた血] マーティンのポケットの中の時計はまだ動いている。マーティンの所持品の中に鍵がない。屋敷の金庫の組み合わせ文字を知っているのはドロシー、ペイン、ハーバート。マーティンはしばらく屋敷を離れていたので知らないはず。ティモシーが複写した、アンソニーの詩が見つかる。
[10 殺人の自伝] ドロシーの証言。「午後9時少し前に夕食を終え、マーティンはすぐに自室に篭った。ハーバートの所在は不明。10時40分頃、マーティンが家から出て行く気配に気づき、遠ざかる彼の背中を見た。フェル博士に電話し、マーティンが出発したことを告げた」 ドロシーが時刻を確認したのは大時計ではないので、正確な時刻と思われる。女中マーサの証言。「大時計が遅れているとハーバートに指摘され、9時25分から10分進ませた。他の時計も直そうとしたが、ちょうどマーティンに出会い、そんなことは放っとけと言われたので、他の時計はそのままになった」 長官室の金庫の中に書類(書かれた内容は不明)が入っていたことをペインが認める。フェル博士、それは「ティモシーが書いた、自身の殺害の真相」だったと主張。マーティンが受け取った鍵は四つ。長官室の扉の鍵、金庫の鍵、その中の鉄の箱の鍵、そしてバルコニーの扉の鍵。
[11 解けた呪い] フェル博士の推理。「ティモシーは自身を襲った犯人についての書類を書き、それを長官室の金庫に入れさせた。するとその真相はいずれ開陳されることになり、犯人にとっては時限爆弾に等しい。ティモシーはすぐに犯人の名を明かすのではなく、その人物を期限まで苦しめ続けた上で弾劾することを選んだ」 ソーンダース、死の直前のティモシーの言葉を明かす。「犯人は家族の中にいる」 そんな重大なことなら、ティモシーはソーンダースよりも自分に話すはずだと、ペインは納得しかねる様子。
[12 長官室の明かり] 長官室に明かり。それを見たランポールとドロシーは様子を見に行く。中にはフェル博士。
[13 バルコニーの秘密] アンソニーは綱を使ってバルコニーから井戸へと登り降りを繰り返し、そこに財宝を隠していた。そしてあるとき、綱が切れるか解けるかして、墜落死した。
[14 解かれた暗号詩] アンソニーの詩の暗号を解読。
[15 バッジの冒険] バッジ、休暇の帰り道で、<魔女の隠れ家>に明かりを見つけ、その様子を窺う。ランポールが何やら作業をしており、その傍らにドロシーの姿もある。ランポールはハーバートの死体を井戸から引き上げている。その近くに別の人影があり、その影は逃げ出した。バルコニーから「捕まえろ!」の声。潜んでいたバッジは事情はわからぬものの、悪いやつが逃げようとしているのだと判断し、その人物に飛びかかった。不審人物は発砲し、バッジは負傷し、倒れた。
[16 犯人はだれだ?] 不審人物は逃げてしまったものの、バッジの傷は命に関わるものではなかった。ハーバートの死体は頭を撃ち抜かれており、他殺と見られる。井戸から「T・S」のイニシャル入りのハンカチが見つかる。フェル博士たちは、列車でやって来る人物を出迎える。その顔を知っているはずなのに、なぜか見覚えがない者が一人。
[17 死神の入場] マーティンはバルコニーから投げ落とされたりはしなかった。
[18 告白] 犯人は告白書を記した。
ドロシー・スタバース:スタバース家の娘
マーティン・スタバース:ドロシーの兄
ハーバート・スタバース:ドロシーのいとこ
ティモシー・スタバース:スタバース家の先代, 故人
アンソニー・スタバース:チャターハム監獄の初代長官, 故人
バッジ:スタバース家の執事
バンドル夫人:スタバース家の家政婦
マーサ:女中
ペイン:チャターハムの弁護士
テオドシア・ペイン:ペインの妻
トーマス・オードリー・ソーンダーズ:チャターハムの牧師
マークリー:チャターハムの医者
タッド・ランポール:アメリカの青年
ギディオン・フェル博士:辞書編纂家, 探偵
ベンジャミン・アーノルド卿:警察長
ジェニングス:警部
かつて魔女を絞首刑にする場所として使われていた<魔女の隠れ家>。そこには絞首台が建ち、監獄が併設され、囚人の逃亡防止と死体処理を兼ねて大きな井戸のようなものが掘られた。しかしそれが使われていたのももはや昔の話で、伝染病の流行をきっかけにそれは閉鎖された。しかしその土地・建物は監獄の長官の家系であるスタバース家の所有となっており、取り壊されることもなく、今もその姿を留めていた。
初代長官アンソニーは奇矯な人物であり、子孫たちにある義務を負わせていた。長男は25歳になった晩に、独りで長官室に篭り、金庫の中の物をその証として持ち帰らねばならないのである。
そしてマーティン・スタバースが25歳になった。
この地域では、スタバース家の代々の当主は首を折って死ぬという噂が囁かれていた。実際のところ、それがぴったり当てはまるのは監獄の初代長官アンソニーのみなのだが、マーティンの先代ティモシーが全身の骨を折って死んだことが――首は折らずに死んだのだが――その噂に拍車を掛けていた。そんなこともあり、マーティンは儀式の日が近づくに連れ、落ち着きを失いつつあった。
そんな彼を心配して、儀式の晩には近所のフェル博士宅に、ランポール青年とソーンダース牧師も集まり、彼らは監獄の長官室の窓を眺めていた。すると窓に明かりが灯った。順当に進めば午前0時にマーティンは長官室を出るはずだったが、明かりはその10分ほど前に消えた。異変を察したランポールとソーンダースは監獄へと走った。(フェル博士の脚では、その後ろ姿が離れて行くのを眺めるのが精一杯である)
そしてランポールは長官室のバルコニーの真下で、マーティンの死体を発見した。マーティンの首は折れていた。それはまるでアンソニー・スタバースの死に方を再現したかのようだった。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
ディクスン・カーの長編第6作にして、ギディオン・フェル博士の登場作。カーはほかにもアンリ・バンコランやマーチ大佐などの名探偵を創造しているが、彼の名探偵の代表と言えば、やはりこのフェル博士と、そしてもう一人、後にカーター・ディクスン名義で生み出されるヘンリー・メルヴェール(H・M)卿。
フェル博士の容貌は、作者が敬愛するG・K・チェスタトンをモデルにしていると言われている。
フェル博士はかつて国家の諜報活動にも関わっていたらしく、「英国じゅうの人間と親しく」、「ロンドン警視庁の高官ウィリアム・ロシター卿という後ろ盾がある」ので、地元の警官もおいそれと口出しできない。そのため、表向きの肩書きとしては民間人ながら、かなり好き勝手に事件を調べ回ることができる。
ちなみにこの「ウィリアム・ロシター」というのは、カーの長編第5作「毒のたわむれ」に登場する探偵パット・ロシターの父親らしい。そこにはバンコランの相棒ジェフ・マールも登場することから、バンコランとフェル博士は、互いに相まみえることはなくても同一の世界で活躍していたということになる。
最後は犯人の自白で事件の真相が明かされるというのは残念だが、本作にして、ようやく雰囲気に見合った内容になったという印象。これ以前のカーの作品は、雰囲気の割に内容はいまいちで、それがどうにももどかしかったのでw
記述の中に手掛かりを潜ませるのが上手いのはいつも通りで、犯人の視点で再読すれば、その言動にどれほどの焦りが込められていたのかよくわかるw 他人を心配するような言動も、実は犯人はそれを意図しておらず、まったくの保身からのものなのに、受け手が勝手に勘違いしていたりする。
マーティン殺害のトリックは目撃者の思い込みを利用したもの。定刻通りに窓に明かりが灯り、定刻通りにそれが消えれば、その時間帯にはマーティンは生存していたと見做され、犯人にアリバイができる。ところが時計が一つ狂っていたために、犯人は計画変更を迫られる――
本作は決して傑作ではないが、重くなりすぎない怪奇趣味に、トリックを用いた犯行、若い男女のちょっとしたラブ・ロマンスというカーらしい娯楽性が存分に発揮された、バランスの良い代表作の一つ。H・M卿シリーズに特に顕著なドタバタ喜劇もここでは抑えられているため、ファン以外にも取っ付きやすいと思われる。端役的な執事の活躍も、作品を複雑化させずにちょっとした華を添えているようで好ましい。
[1 灰色のコートをまとった娘] タッド・ランポール、フェル博士らと知り合う。
[2 おぞましく濡れそぼったもの] かつて魔女を縛り首にした場所として知られる<魔女の隠れ家>には絞首台がある。そしてそこに監獄が併設されており、囚人の逃亡防止と処刑後の死体の処分の手間の軽減(そのまま綱を切るだけでいい)も兼ねて、大きな井戸のようなものが掘られている。2代に渡ってスタバース家の当主が長官(典獄)を務めた後、伝染病によって監獄は閉鎖されたが、その建物と土地の所有権はスタバース家が保持している。スタバース家には相続についての義務が伝わっている。25歳を迎えた晩に、長男が監獄の長官室に入り、金庫を開け、それを証明する物を持ち帰らねばならない。金庫の中身は、後継者以外には決して口外してはならない。近隣では、スタバース家の当主は首を折って死ぬと言い伝えられている。(実際にはそれは初代長官アンソニーだけで、ティモシーは全身の骨を折って死んだが、首は折っていない)
[3 恐怖の顔] ティモシーは<魔女の隠れ家>の近くで、全身を骨折しているところを発見された。そのときはまだ息があり、屋敷に運び込まれた。そして彼は「倅への書き置き」を書いた。彼のもとを訪れた神父ソーンダーズによると、ティモシーはまるで気が触れているようなことを口走り、その内容を他言しないように釘を差したという。その後、ティモシーは娘ドロシーと二人きりで話し、次に弁護士ペインと話した。そのときにティモシーの臨終は近づき、皆が集まった。ティモシーは死の直前、ニヤッと笑うようにはっきりと「ハンカチーフ」と言った。ティモシーは決してそう言わなかったが、他殺の疑いは消えなかった。ティモシーが被害に遭った晩には、なぜか長官室の窓から明かりが漏れていた。アンソニーは詩作を好み、その作をからかう身内の者を憎んでいた。ランポール、マーティンとハーバートの会話を立ち聞きする。「暗号はGallows(絞首台)だぞ」
[4 黒い遺産] マーティンは長官室での儀式を控え、落ち着かぬ様子。
[5 死の試練] フェル博士宅。ここから長官室が見守れる。午後10時半。雷鳴が近づいている。フェル博士とランポール、長官室の窓にまだ明かりが灯っていないのを見る。ソーンダースが車でやって来る。マーティンが屋敷から出て、徒歩で監獄へと向かったと、ドロシーから電話。午後11時。予定通りに長官室に明かりが灯る。11時50分の少し前。長官室の明かりが消える。予定の0時よりも早い。異変を察し、ランポールは監獄へと向かって激しい雨の中を走り出し、ソーンダースもそれに習う。ランポールはこの辺りの道を知らないので、誤って<魔女の隠れ家>へと着いてしまう。長官室のバルコニーのほぼ真下で、マーティンの死体を見つける。
[6 早すぎた真夜中] それに先立ち、ハーバートは小さな鞄に荷物を詰め、オートバイでどこかへと出掛けていた。屋敷の金庫が開放されたままになっている。執事バッジ、屋敷の大時計が10分進んでいることに気づく。
[7 長官室で] マーティンの死体は首が折れ、ほかにも打撲痕がある。誰かに殴られたのか、墜落によるものか、どちらなのかは不明。死体発見の翌朝、長官室を調査。格闘の跡はない。バルコニーの窓は開いており、その下の床には吹き込んだ雨水が残っている。金庫は文字合わせと鍵による二重ロックのもの。文字板は「S」で止まっており、扉は開いた。中には何もない。
[8 “殺人装置の仕業では?”] 室内には人が隠れていたような形跡なし。マーティンが長官室に入り、隠れていた誰かに襲われた可能性は低い。ベンジャミン卿、機械的な“殺人装置”の可能性に言及。もしマーティンがランプを手にバルコニーまで来れば、フェル博士宅からもそれが確認できたはずだが、それはなかった。バルコニーの縁には親指大のすり減った跡がある。
[9 呪われた血] マーティンのポケットの中の時計はまだ動いている。マーティンの所持品の中に鍵がない。屋敷の金庫の組み合わせ文字を知っているのはドロシー、ペイン、ハーバート。マーティンはしばらく屋敷を離れていたので知らないはず。ティモシーが複写した、アンソニーの詩が見つかる。
[10 殺人の自伝] ドロシーの証言。「午後9時少し前に夕食を終え、マーティンはすぐに自室に篭った。ハーバートの所在は不明。10時40分頃、マーティンが家から出て行く気配に気づき、遠ざかる彼の背中を見た。フェル博士に電話し、マーティンが出発したことを告げた」 ドロシーが時刻を確認したのは大時計ではないので、正確な時刻と思われる。女中マーサの証言。「大時計が遅れているとハーバートに指摘され、9時25分から10分進ませた。他の時計も直そうとしたが、ちょうどマーティンに出会い、そんなことは放っとけと言われたので、他の時計はそのままになった」 長官室の金庫の中に書類(書かれた内容は不明)が入っていたことをペインが認める。フェル博士、それは「ティモシーが書いた、自身の殺害の真相」だったと主張。マーティンが受け取った鍵は四つ。長官室の扉の鍵、金庫の鍵、その中の鉄の箱の鍵、そしてバルコニーの扉の鍵。
[11 解けた呪い] フェル博士の推理。「ティモシーは自身を襲った犯人についての書類を書き、それを長官室の金庫に入れさせた。するとその真相はいずれ開陳されることになり、犯人にとっては時限爆弾に等しい。ティモシーはすぐに犯人の名を明かすのではなく、その人物を期限まで苦しめ続けた上で弾劾することを選んだ」 ソーンダース、死の直前のティモシーの言葉を明かす。「犯人は家族の中にいる」 そんな重大なことなら、ティモシーはソーンダースよりも自分に話すはずだと、ペインは納得しかねる様子。
[12 長官室の明かり] 長官室に明かり。それを見たランポールとドロシーは様子を見に行く。中にはフェル博士。
[13 バルコニーの秘密] アンソニーは綱を使ってバルコニーから井戸へと登り降りを繰り返し、そこに財宝を隠していた。そしてあるとき、綱が切れるか解けるかして、墜落死した。
[14 解かれた暗号詩] アンソニーの詩の暗号を解読。
[15 バッジの冒険] バッジ、休暇の帰り道で、<魔女の隠れ家>に明かりを見つけ、その様子を窺う。ランポールが何やら作業をしており、その傍らにドロシーの姿もある。ランポールはハーバートの死体を井戸から引き上げている。その近くに別の人影があり、その影は逃げ出した。バルコニーから「捕まえろ!」の声。潜んでいたバッジは事情はわからぬものの、悪いやつが逃げようとしているのだと判断し、その人物に飛びかかった。不審人物は発砲し、バッジは負傷し、倒れた。
[16 犯人はだれだ?] 不審人物は逃げてしまったものの、バッジの傷は命に関わるものではなかった。ハーバートの死体は頭を撃ち抜かれており、他殺と見られる。井戸から「T・S」のイニシャル入りのハンカチが見つかる。フェル博士たちは、列車でやって来る人物を出迎える。その顔を知っているはずなのに、なぜか見覚えがない者が一人。
[17 死神の入場] マーティンはバルコニーから投げ落とされたりはしなかった。
[18 告白] 犯人は告白書を記した。