アンリ・バンコラン・シリーズの長編第3作。バンコランのライバル、フォン・アルンハイム男爵登場。魔術師が列車から姿を消し、死体となって川に浮かぶ。彼の友人の名優が、彼から引き継いだ居城にて火を掛けられ、殺される。[???]

メイルジャア:魔術師, 髑髏城の持ち主
マイロン・アリソン:髑髏城の対岸に別荘を持つ英国の名優
アガサ・アリソン:マイロンの妹, “侯爵夫人”
ジェローム・ドオネイ:ベルギーの大富豪
イソベル・ドオネイ:ジェロームの妻
サリイ・レイン:別荘の客, 画家
エミール・ルヴァセール:同, ヴァイオリニスト
ダンスタン卿:同
フリッツ:運転手
ホフマン:アリソン家の執事
フリーダ:女中
バウワー:髑髏城の番人
ブライアン・ガリヴァン:新聞記者
アンリ・バンコラン:パリの探偵
ジェフリイ・マール:バンコランの友人, 作家
ジーグムンド・フォン・アルンハイム男爵:ベルリン警察主任警部
コンラッド警部:コブレンツの警察署長



大魔術師として知られたメイルジャアが列車の中から忽然と姿を消し、そして死体となって線路沿いの川から発見されてから数年が過ぎた。すると今度は、彼の親友であったマイロン・アリソンが死んだ。メイルジャアから引き継いだ髑髏城で、銃弾を受け火を掛けられて死んだ。

それから数日後、アリソンが死んだときから行方不明のままだった城の番人が、死体となって城の一室に出現した。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



列車からの人間消失、古城で焼かれた男…と、怪奇的な事件だが、冷静に状況を判断してみると、その表面的な事象すら怪奇でも何でもない。第一の事件は本人にその気があれば列車から脱出するのは簡単だし、第二の事件も単に焼け死んだ場所が古城だっただけの話。シリーズ中でも怪奇趣味が濃厚な作品と言われるが、怪奇っぽいのは雰囲気だけだw

アリソンが城に渡った経路や、突然に出現したバウワーの死体の謎も、その真相は結局は隠し通路によるものという陳腐なもの。しかも城の中の隠し通路の存在についてはすぐに明かされており、この辺りは読者の頭を悩ます謎でも何でもない。

見所はバンコランとライバルのフォン・アルンハイムとの対決。そしてフォン・アルンハイムに花を持たせる形で、バンコランが真相を隠匿するどんでん返しくらいか。前作の最後で冷酷な面を見せたバンコランが意外な一面を覗かせる。


メイルジャアは、フォン・アルンハイムの推理通りに城に幽閉されていた。ドオネイたちの元々の計画では、メイルジャアをすぐに殺すつもりだったらしいが、だったら何のために替え玉の死体を使ったのかよくわからない。幽閉したりせずにすぐに殺して、その死体を川に投げ込んだほうが余計な手間は省けたと思うのだが。

殺人の形跡を見破られることを恐れて、自然死の死体を利用したという解釈もできるが、犯人はその死体の顔を潰したりといった様々な細工を行なっている。そんなことするくらいだったら、素直にメイルジャアの頭に鈍器で一撃を加えて、水に投げ込めばいいのでは。

事件から時間が経ち、人目を惹かなくなってから殺すつもりだったという、もっともらしい説明がされているが、それはかなり苦しい。幽閉したメイルジャアの世話を続けるほうが、一思いに殺してしまうよりもよっぽど危険だろう。

メイルジャアを生かしておけば、万が一幽閉がバレたとしても、冗談だったと誤魔化せる保険だったというのもいかがなものか。いずれは人目を惹かなくなり、殺しても発覚の危険性が低くなるというのは確かにそうであろうが、それは決してゼロになるわけでもなく、リスクに見合ったリターンは望めない。

強いて説明を付ければ、最初からメイルジャアを幽閉し続けるつもりだったアリソンが、その真意を隠したままドオネイを説得するために作った適当な方便というところか。


フォン・アルンハイムはバンコランのライバルと言うよりは、完全に引き立て役だねぇ。



[1 ライン川の死] ドオネイ、バンコランに事件捜査を依頼する。大魔術師メイルジャアが、彼だけが乗る列車の一等車室から消え、数日後に線路沿いの川に死体となって浮いていた。彼の居城・髑髏城を引き継いた名優アリソンは銃撃された上に火を点けられて死んだ。川から揚がった死体はメイルジャアのものではない疑いあり。
[2 踊る死人] マール、髑髏城の対岸にあるアリソンの別荘への途上でガリヴァンと知り合う。前に出発していたバンコランとドオネイは、その途中で自動車事故に遭っていた。アガサ、アリソン殺害事件当夜の話をする。アリソンはモーターボートで髑髏城へ行こうとサリイを誘っていた(ようにアガサには見えた)。アガサ、モーターボートが水上を走る音を聞いた。階下の部屋からは、ルヴァセールのヴァイオリンの音が聞こえていた。アガサ自身はフリーダを相手にポーカーをしていた。激しい悲鳴を聞いた。髑髏城を見ると、炎に包まれた人間が飛び出してきて、力尽きたように墜落した。
[3 たいまつと月光] それからホフマンとフリッツが様子を見に髑髏城へと向かった。モーターボートは髑髏城側にあったので、手漕ぎボートを使った。アリソンが停泊したにしては、モーターボートの停泊の仕方がおかしい。彼らが城への丘を登っているときに、誰かがモーターボートを使って別荘へと戻った。事件以来、髑髏城から番人のバウワーが姿を消しまま。バンコラン、自動車事故について、ドオネイが彼を殺そうとして引き起こされたものとマールに告げる。
[4 おおかみ憑きの恐怖] 古城の幽霊見物でもしようというルヴァセールの軽口に、アリソンは強く反応を示し、顔面蒼白で手が震えていた。その場はドオネイとサリイが取り繕った。バンコラン、サリイの話をすべて信じてはいない。
[5 夜のヴァイオリン] ダンスタン卿とサリイは何か嘘をついている様子。事件当夜のルヴァセール、事件の少し後に、ドオネイ夫妻の部屋のほうへと向かう人影を見た。ドオネイは睡眠薬を飲み、眠っていたと証言。その妻イソベルも眠っていて、騒ぎを聞いて目覚めたと証言。
[6 フォン・アルンハイム男爵登場] バンコラン、アリソンの部屋を調査。書斎、寝室、浴室と続いており、書斎と寝室の間には小さな仕切り部屋がある。仕切り部屋には乾いた大量に泥が落ちている。アリソンが死んだときに履いていた靴は、晩餐のときにも履いていたとは思えないもの。晩餐用の靴は見つからない。泥まみれのオーバーコートが見つかる。そのポケットの中には事件で使われたものらしき拳銃。フォン・アルンハイム男爵、到着。
[7 錆びついたピストル] 髑髏城の一室にてバウワーの死体が見つかる。事件直後に調べたときにはそれはなかった。バンコラン、男爵の推理を推量。「メイルジャアの死体は偽者で、彼はまだ生きている。メイルジャアは、彼への復讐を企てるアリソンとドオネイから逃れたかった」 バンコランと男爵の一致した推理。「拳銃を用いた犯人は、手は小さいが、力の強い人物」
[8 塔上の死体] 城の調査。アリソンは撃たれた後、誰かに担がれて階段を運び降ろされた。
[9 五彩のガラス窓] かつてメイルジャアの仕事部屋だった部屋。手入れされた手錠に鎖。古新聞が一束。バウワーの死体には2発の銃弾が撃ち込まれている。死体は別の場所から移動された痕跡。城の壁の中に隠し階段を見つける。
[10 恋に迷う] ダンスタン卿とイソベルは不義密通を重ねていた。事件当夜も彼らは密会していた。ルヴァセールが見た人影は、急ぎ部屋に戻ろうとしていたイソベル。
[11 ビールと魔術] 城で見つけた古新聞には、アリソンの劇評なども載っている。メイルジャアについて、ガリヴァンから話を訊く。メイルジャアには正式な妻があり、金髪で美しい愛人もいた。愛人は既に死んでいるが、彼女との間に子を持っている。
[12 生きていたたいまつ] ガリヴァンによると、メイルジャアはアリソンの演技の拙さを鋭く指摘したりすることがあり、表面上は親友であった彼らはお互いに敵意を抱いていた。アリソンは「青銅のひげ」という戯曲に挑戦したがっていた。その主人公は最後に火刑に処せられる役。アリソンの最期と一致している。
[13 ダンスタン卿の告白――ドオネイの立ち聞き] 事件当夜、ダンスタン卿はイソベルを連れ、モーターボートで髑髏城側へと渡った。もちろんそこにアリソンはいなかった。つまりもしアリソンが髑髏城へ行くのにボートを使っていれば、手漕ぎのものは後にホフマンたちが使用しているので、どちらかのボートを別荘側に戻した人物がいるはず。ダンスタンたちは、何か重そうな物を引きずった男が地中から出てくるのを見ていた。マール、川の下を抜ける秘密の地下道の存在に気づく。
[14 髑髏城への道] 妻イソベルとダンスタンとの不義を知ったドオネイ、あっさりと彼女と離婚することと、彼らの再婚を承諾。秘密の地下道の出入口の一つは、アリソンの仕切り部屋にある。
[15 もつれあった網目] ルヴァセール、レコードを用いたアリバイ・トリックを否定。
[16 古城の晩餐] 男爵に責め上げられたドオネイ、心臓発作で死亡。マール、メイルジャアの写真を見て、彼と一緒に写っている黒髪の美女が、知っている誰かと似ているように思える。ダンスタンが目撃した地中から出て来た人物は、赤毛で長髪の男。
[17 犯人の正体は?] 男爵の推理。「アリソンとドオネイはメイルジャアを憎んでいた。彼らはメイルジャアを城に幽閉し、メイルジャアに成り済ましたアリソンが列車に乗り、窓から脱出した。川に浮かんだ死体は、彼らが別の死体を偽装したもの。ドオネイは世間の注目が事件から離れたらすぐにメイルジャアを殺すつもりだったが、より憎しみの強いアリソンは彼を殺害したとドオネイに告げ、実際には彼を生かしたまま城に幽閉し続け、嬲りものにしていた。隙を突いて虜囚の身から逃れた彼は、その場にいたバウワーを殺し、そしてアリソンに復讐した」 男爵、メイルジャアを連れて来る。彼の体は病に冒され、その命は保って数日。
[18 フォン・アルンハイムは笑う] ドオネイは椅子に座っているメイルジャアを見て、そのショックで死んだ。
[19 バンコランは笑う] バンコラン、証拠隠滅を告白。