アンリ・バンコラン・シリーズの長編第1作。密室殺人。長剣で切り落とされた首。被害者である公爵が室内に入ってから、その部屋を出入りした者を誰も目撃していない。公爵の命を付け狙っていたローランは整形しており、その顔を誰も知らない。[???]
サリニー公爵ラウル・ジュルダン:有名なスポーツマン
ルイズ・ローラン:公爵の新妻
アレキサンドル・ローラン:ルイズの前夫
エドワール・ヴォートレル:公爵の友人
キラール:公爵の顧問弁護士
ジェルソー:公爵の従僕
シャロン・グレイ:ヴォートレルの恋人
テレーズ:グレイの召使
シド・ゴルトン:アメリカ人
ルイジ・フェネリ:<フェネリの店>の主人
G・H・ビュイッソン:楽団指揮者
ジェローム・テルラン範士:剣術の師範
フーゴー・グラフェンシュタイン博士:ウィーンの精神病医
アンリ・バンコラン:パリの予審判事
フランソワ・ディルサール刑事:バンコランの部下
ジェフ・マール:バンコランの若い友人
サリニー公爵ラウルは、彼の妻ルイズの前夫ローランに命を狙われていた。公爵はローランが捕まるまでは妻とともに隠れる計画を立てていたが、その実行前に殺害されてしまった。
現場は<フェルミの店>の2階のカードルーム。室内に飾ってあった長剣で、背後から一刀のもとに首を刎ねられ殺されていた。不思議なことに、公爵が一人で部屋の中に入ってから、その部屋を出入りした者を誰も見ていなかった。殺人犯はどうやって逃げたのか?
ローランは整形し、その整形医を殺害している。もはや誰も彼の顔を知らない。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
その作品のほとんどで密室あるいは準密室を扱っているとも言われるディクスン・カーの長編デビュー作。(実際にはかなり広義での密室も多いが、大半が不可能犯罪なのは間違いない)
デビュー作にはその作家の資質がよく現れると言われる通り、本作には密室と怪奇性が揃っている。(そしてその怪奇性がいかにもギミック的で、あまり怖くないのもカーらしいw)
カーはこのデビュー作以来、頑固一徹、数々の不可能犯罪に挑み続けるが、あまり出来が宜しくないトリックも数多い。本作のトリックもその「あまり宜しくない」部類に入るw それでももし本作に心に引っ掛かるものを感じたら、(世界中の多くの“カーキチ”たちと同じように、)カーと波長が合う人かもしれませんw
このトリックは付属の見取り図がなければ読者にはまず解けない。というか、それをよく見ただけで、そこに極めて怪しい部分があることに気づく。目撃者の位置も重要で、真相を知らずにテキトーにこの見取り図を書くと、トリックが成り立たなくなる恐れがある。
脱出する際には扉が見張られておらず、その直後から見張られ始めるというのは御都合主義だよなぁ。このトリックは誰にも目撃されずに2回脱出する必要があり、しかも2回目はタイミングを計ることもできない。さらにこのトリックは誰かに部屋を出る姿を目撃されただけで一巻の終わりというもので、失敗した場合のリスクはかなり高い。
しかも実際に現場の実況見分すれば、すぐにバレてしまうと思うのだがw
ローランは整形して別人に成り済ましているが、これについてはどう考えてもそりゃ無茶だろ、とw 案の定、あっさりと見破られている。本人が本気でバレないつもりだったとは到底信じがたい。
その無茶っぷりがカーらしいのではあるがw
[1 墓掘り人のパトロン] ルイズはサリニー公爵ラウルと結婚したが、彼女の前夫ローランが整形して別人に成り済まし、ラウルの命を狙っている。
[2 夜歩く] <フェネリの店>の2階のサロンにて。ルイズ、バンコラン、マールが並んで座っている。公爵が来たと、ルイズがカード室のほうを指し示す。ちょうど彼は背中を向けたままカード室の中へと入って行くところ。マールが自分の腕時計を見ると11時30分。11時37分、ヴォートレルがマールたちの前に現れる。11時40分、ボーイがカード室の死体を発見。首が切り落とされ、床に置かれている。
[3 灯の下の首] フェネリ、死者を公爵と認める。凶器は室内に飾られていた長剣。格闘の跡はなく、犯人は隙を突き、背後から一刀のもとに首を切り落とし殺害したと見られる。被害者の持ち物から鍵が紛失していると思われる。
[4 人形の配置] 11半頃に呼び鈴が鳴り、ボーイが飲み物をカード室に届けたために死体は発見された。
[5 「不思議の国のアリス」] バンコランのメモ。「午後10時15分、公爵、ルイズ、ヴォートレル、キラール夫妻到着。(証人:フェネリ、ビュイッソン) 10時20分、キラール夫妻帰る。(証人:フェネリ、ビュイッソン、ヴォートレル) 10時25分~55分、ヴォートレルと公爵、喫煙室。(証人:バーテン、ボーイ) 10時30分、ルイズ、3階にてフェネリと会う。(証人:フェネリ) 10時50分~11時25分、フェネリ、3階。(証人:フェネリ自身) 10時55分、公爵、喫煙室を去る。(証人:バーテン、ヴォートレル) 10時55分~11時30分、ヴォートレル、喫煙室。(証人:ヴォートレル自身 ※ボーイは11時15分頃に彼に飲み物を運んだことを覚えている) 11時18分、ルイズ、サロンのバンコランたちのところに来る。(証人:バンコランたち) 11時30分、公爵、カード室に入る。(証人:バンコランたちとルイズ) 11時30分、フランソワが配置に着き、その直後にヴォートレルがフランソワに時刻を尋ねる。(証人:フランソワ) 11時30分~11時36分、ヴォートレル、カード室の前でフランソワと話す。(証人:フランソワ) 11時37分、ヴォートレル、バンコランたちのところに来る。(証人:バンコランたち) 11時40分、ボーイとフランソワが死体を発見」
[6 暗闇の部屋で] 11時30分に公爵がカード室に入ってから死体が発見されるまで、その部屋に出入りした人物を誰も見ていない。
[7 蛆虫との約束] 3階の部屋にグレイ。公爵と会う約束だった。
[8 「ポオの話をした」] ヴォートレルによると、公爵はまったく英語を話せなかった。グレイによると、公爵は英語の詩を引用したりした。公爵は100万フランの現金を用意していた。ローランが捕まるまで、どこかに密かに隠れる計画だった。
[9 殺人鬼の影] 公爵は雇人に暇を出し、屋敷に残っているのは雇い入れたばかりの従僕ジェルソーただ一人。公爵の死後、何者かが鍵を使って屋敷に入っていた。書類は紛失しているが、現金はそっくり残っている。酒倉の鍵がなくなっている。酒倉の鍵は公爵一人が管理していた。
[10 バンコラン策を弄す] ローランは器用な役者のような人物。
[11 剣の舞い] カード室にローランの指紋があった。
[12 糸杉の下の手は動かず] グレイの家にて。ヴォートレルがグレイに迫っているが、彼女にその気はない様子。マールが訪問すると、すぐにヴォートレルは家を出る。マールとグレイ、庭で散歩中にヴォートレルの死体を見つける。
[13 ヴェルサイユの死] ヴォートレルが書いた戯曲の原稿の余白には女の筆跡で書き込みがされている。
[14 「銀仮面」その他] <フェルミの店>にルイズの姿。彼女はすっかり麻薬中毒。
[15 壁崩るるとき] 公爵の屋敷の酒倉の壁の中に死体が埋め込まれていた。
[16 棺の中から語る男] バンコラン、説明する。
[17 犯人の名を聞く] バンコラン、殺人犯の名を告げる。
[18 最後の戦い] 殺人犯、罪を認める。
[19 勝利のとき] 密室トリックの謎解き。