連続児童殺人犯“森の死神”。被害者はそれぞれ体の一部を持ち去られている。犯人の正体を知るのは7歳の少女ヴィルジニーのみ。ヴィルジニーにその秘密の一部を打ち明けられたエリーズは目も見えず全身麻痺で、その内容を誰かに伝えることができない。エリーズの身に危険が及び始める。[??]

エリーズ・アンドリオリ:元映画館経営者, 全身麻痺の女性
イヴェット:エリーズの介護人
ブノワ:エリーズの亡き恋人
ヴィルジニー・ファンスタン:七歳の少女
ポール・ファンスタン:ヴィルジニーの父, 銀行の支店長
エレーヌ・ファンスタン:ヴィルジニーの母
レイボー博士:エリーズの担当医
コンブレ教授:神経精神科医
カトリーヌ・リミエ:運動療法士
ジャン=ミッシェル(ジャン=ミ)・モンディーニ:エンジニア
クロード・モンディーニ:ジャン=ミッシェルの妻
マニュエル(マニュ)・カンソン:航空会社の管理職
ベティ・カンソン:マニュエルの妻
ステファヌ(ステフ)・ミゴワン:建設請負業者
ソフィ・ミゴワン:ステファヌの妻
ジャン・ギヨーム:配管工
イサール:殺人捜査課の警視
フロラン・ガッサン:刑事
ヴィクトール・ルジャンドル:殺された少年たち
シャルル=エリック・ガリアノ:同
ルノー・ファンスタン:同
ミカエル・マスネ:同
マチュー・ゴルベール:同
ジョリス・カブロル:同



爆弾テロに巻き込まれて以来、エリーズは全身麻痺で車椅子生活となった。目も見えず口も利けず、周囲の者の多くは、もはや彼女に意識があるとすら思っていなかった。

しかしエリーズの意識はしっかり戻っていた。彼女の耳は聞こえ、皆が何を話しているのかもわかっていた。なんとか左手の人差し指を上げ下げできるようになった彼女は、自身の意識が戻っていることを伝えようとしていたが、なかなかその望みは叶わなかった。


いつものように看護人のイヴェットによって車椅子の散歩中だったエリーズに、見知らぬ少女が話しかけてきた。エリーズの指の動きから、彼女に意識があるとすぐに気づいた少女は、不気味な話をした。“森の死神”が子供たちを殺し回っているというのだ。

それは作り話だろうと思いたかったエリーズだが、少女が挙げた子供は実際に殺されていた。しかも少女は、その中の一人の死体が発見される前にそれを知っていたのだった。


エリーズに意識があり、耳が聞こえているとわかってから、彼女の生活は多少社交的となった。あの少女――ヴィルジニー――の両親とも知り合いになった。エリーズには自分の姿を見ることはできず、確かめようがないのだが、どうやら彼女は今でもそこそこ美人らしく、彼女に惹かれる男もいるようだった。


イサールという警視がエリーズのもとを訪れた。彼はヴィルジニーが何かを知っていると見ており、彼女と親しいエリーズから情報を引き出そうとやって来たのだ。エリーズはヴィルジニーが犯人を知っていること、その名前は教えてくれなかったことなどを彼に伝えた。


ある日、エリーズに好意を持つ男の一人、ステフが彼女を家に送り届けようと、車椅子を押していた。ところが不意にエリーズの背後で何かが倒れるような音がして、ステフの声が途絶えた。すると彼女を載せた車椅子は猛スピードで走り出し、そのまま池の中に飛び込んだ。

どうやら誰かがステフを背後から殴り倒し、その人物が車椅子ごとエリーズを池に落としたらしい。エリーズは誰かに命を狙われていた。そしてその人物はおそらく“森の死神”。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



フランスの女性作家、ブリジット・オベールの第4作。謎解きには重点を置いていないサスペンス。でも伏線・手掛かりはそれなりに。主人公は全身麻痺で、迫る犯人の魔の手に対してほとんど何もできず、それを他人に伝えることもできないというのが特徴。襲われるとわかっていても、それを避けることもできず、ただ待つことしかできない。

エリーズは何度も襲われるが、その理由が彼女にはさっぱりわからない。彼女は犯人の正体も知らず、それに繋がるようなものに心当たりもない。おそらく犯人はヴィルジニーが彼女に何か重大な秘密を漏らしたのだろうと疑い、そのために彼女を狙っているのであろうが、それならなぜ犯人は彼女よりもヴィルジニーの口を塞ごうとしないのか? もしやヴィルジニーは犯人と深い関わりが? そしてエリーズはヴィルジニーの実の父トニーの存在を知る。

犯人やヴィルジニーは、うっかり重大なヒントを漏らしたりもしているのだが、エリーズはその言葉を誤解してしまい、真相に気づかない。

作中でヴィルジニーの話のいくつかは嘘と見做されるが、それを嘘と見做す根拠にこそ犯人を指し示す手掛かりが隠されている。二つの話の齟齬は、裏を返せば…というもの。

いくらサスペンスものとは言え、警察がステフの死を自殺と片付けようとしているのは頂けない。彼はエリーズとの電話中に襲撃され沈黙したはずだが、大男の彼を黙らせるには強力な武器による一撃が与えられたはず。それが銃であったにしろ鈍器であったにしろ、簡単に別の場所での拳銃自殺として偽装できるとは思えない。



[1] 大怪我をして全身麻痺となったエリーズは目も見えず、話すこともできないが、意識はあり、耳は聞こえている。左手の人差し指を上げることはできるようになった。しかし周囲の者は、彼女の耳が聞こえ、意識があることに気づいてない。ある日、エリーズはヴィルジニーに話しかけられ、“森の死神”が子供たち(ヴィクトール、シャルル=エリック、ルノー、ミカエル)を殺したという話を聞かされる。その後、エリーズは四人の子供が殺されたのは事実であると知るが、ヴィルジニーはミカエルの死体が発見される前にそれを知っていた。
[2] エリーズはヴィルジニーの両親とも知り合う。エリーズの耳が聞こえていることにイヴェットがようやく気づく。エリーズは指の動きでわずかに意志を他人に伝えられるようになった。
[3a] イサール警視――ヴィルジニー曰く「ピエロみたいな顔」の人――がエリーズを訪ねて来る。彼は連続児童殺害事件の手掛かりについて、ヴィルジニーがエリーズに何かを話したのではないかと尋ねる。エリーズはヴィルジニーが犯人を知っているらしいこと、でもその名は明かしてくれなかったことなどをなんとか伝える。イサールもいくつかのことをエリーズに教えてくれる。ルノーはポール・ファンスタンとその先妻との間の子で、ヴィルジニーの義兄。イサール、立ち去る。
[3b] 誰かがエリーズの体に触れる。針のような物でエリーズの腕に文字を描いている。「SALOPE(あばずれ))」? その人物はエリーズの体中をチクチクと突き刺す。イヴェットの声がする。正体不明の人物が遠ざかって行く。
[3c] 誰かがエリーズの体に触れる。先ほどの人物と違い、彼女を優しく愛撫し、キスをする。
[3d] ステフがエリーズの車椅子を押している。彼はエリーズに好意を持っていると告げる。突然に車椅子が止まる。後ろでは何かが倒れたような気配。ステフは無言。車椅子が再び動き出す。速度を増し、ガタガタと揺れる。明らかに帰宅の道筋ではない。車椅子ごとエリーズは池に沈められた。
[4] エリーズはギヨームによって救助された。エリーズはイサールから、ステフが鈍器で後頭部を殴られ、血まみれで倒れていた(死んではいない)と知らされる。イサールによると、ヴィルジニーは連続殺人犯について何かを知っているのであろうが、まったくの真実ばかりを話しているのではないという。たとえばルノーの殺害時には彼女は風邪を引いており、さらに雨が降っていたこともあり、家から出なかった。それは彼女の母のエレーヌが明言している。そしてミカエルの場合も彼女が分譲地の外に出たはずはないという。エレーヌはルノーの一件以来、ヴィルジニーについて特に気を使うようになっており、彼女はすぐに帰宅し、庭で遊んでいた。エリーズはマスコミにも漏れていない情報を得る。被害者たちはそれぞれ異なる体の一部を持ち去られている。
[5a] ステフがエリーズを訪問。彼女を守れなかったことを謝罪し、再び特別な好意を伝え、帰っていった。
[5b] エレーヌが図書館から借りてきた朗読テープをイヴェットが掛けているが、エリーズはそれをあまり気に入っていない。
[5c] ヴィルジニーから聞いた次の犠牲者“マチュー”が誰なのかわかったが、エリーズにはそれを他人に伝えるすべがない。結局すぐにマチューは殺されてしまった。ガッサン刑事がやって来た。イサールは今はパリにいるという。
[5d] マチュー殺害を知りパリから急ぎ戻ったのか、イサールがエリーズを訪ねてきた。犯人は車を使用している可能性が高いという。
[6] ヴィルジニーが誰かに話しかけている。それはルノーで、彼はヴィルジニーが独りきりのときに会いに来るという。
[7a] エリーズとファンスタン一家とのドライブ。ポールとエレーヌの夫婦仲が悪化している様子。白のステーション・ワゴンに乗ったステフを見たとエレーヌが言うが、ポールはそれを見つけられなかった。
[7b] 警察は白いステーション・ワゴンを捜している。ステフの車は青のBMW。
[7c] エリーズ、電動車椅子を入手。制限付きながらも自らの意志での移動が可能になる。ソフィの自殺の報が入る。ステフが別れ話を持ち出したせいではという噂。イサールによると、他殺の疑いが濃厚。ステフが白い車に乗っていた目撃情報も入っているという。エリーズには、ポールとエレーヌが彼を売ったのだと察しが付く。様々な要素を総合して、ステフに逮捕状を出さないわけには行かなくなっている。妻殺しだけではなく、連続児童殺害事件の犯人としても。
[8] エリーズは自宅にいる。ステフから電話が来る。留守番電話が作動する。何やら恐ろしい陰謀があり、エリーズの身も危険だという。「やめろ!」という声とともに話は途切れる。衝撃音と荒い息遣い。通話は切れた。それからしばらくして、家の窓が破られ、誰かが侵入した。イヴェットとギヨームが帰って来て、侵入者は立ち去った。留守番電話に残されたステフのメッセージは消されていた。
[9] イヴェットが負傷し、エリーズは一時的にファンスタン家で世話されることとなった。エレーヌはソフィを殺したのはステフではなく、誰なのかわからぬが、ソフィの愛人ではないかという。エリーズはソフィの愛人はポールなのではないかと思い当たる。もし連続殺人犯がポールなら、ヴィルジニーが彼を庇ってその名を明かさないのも説明がつく。しかも彼は白いステーション・ワゴンを持っている。ステフが拳銃自殺したニュースがテレビから流れる。
[10a] ガッサン、訪問。警察はステフの自殺に疑念を抱いている。真犯人が彼に連続殺人の罪を被せる罠ではないかと。
[10b] エリーズ、おしゃべりなクロードとの散歩。ソフィの愛人はマニ。
[10c] ポールはヴィルジニーの実の父ではない。エレーヌによると、ヴィルジニーはそれを知らない。実の父は「トニー」。
[10d] マニュエルにはマチュー殺害時のアリバイがある。イサールによると、容疑者のトップスリーはジャン=ミ、ポール、ギヨーム。
[11a] エリーズ、左腕を上げられるようになる。エレーヌはポールと喧嘩して家を出ており、ポールは彼女を捜し回っている。ジョリスが列車に轢かれ即死のニュース。ヴィルジニーは死神がジョリスを線路に突き落としたのだと言う。
[11b] エレーヌによると、トニーは現在は精神病院に監禁されている。彼女は彼に腕を折られたこともある。彼女の父も暴力的な男だった。そのせいで彼女はポールの些細な暴力的な振る舞いも耐えがたい。
[12a] イヴェットは朗読テープをセットして買い物に出かけた。ところがテープが止まり、再び動き始めたとき、エリーズは異変に気づいた。それは殺人犯の告白。殺人の場面の録音。誰かが彼女のそばにいた。その誰かは彼女の体に刃物を突き立てた。エリーズは無我夢中で左腕を振り上げた。イサールがやって来た。それで不審人物は逃げ去ったらしい。テープは持ち去られていた。
[12b] エリーズは救急車で病院に運ばれた。エリーズの部屋にはナイフが落ちていた。どうやら彼女が振り上げた腕は犯人を直撃していた。イサールは入院したエリーズを訪問。犯人の指紋や血痕は見つからなかったことなどを話し、帰って行った。時刻は午前3時。なぜこんな時刻に彼はやって来たのか? 後にエリーズはイサールが死んだことを知らされた。彼が死んだのは、彼女に会いに来る前だった。イサールについて皆が話している。「彼はどう見ても飲み過ぎだった」 エリーズの知る彼は酒の匂いをさせていたことはない。「あと何ヶ月かで定年を迎えるはずだった」 彼はそんな歳には思えなかった。「相当なヘビースモーカーだった」 彼からはタバコの匂いはしなかった。エリーズは彼女のもとを訪れていたイサールが偽者だったとを知った。
[13a] 偽イサールの正体はトニー。彼は近所の8歳の少年の殺人容疑で逮捕されていたが、2年前に病院を脱走して以来、行方知れず。
[13b] イヴェットとエリーズが乗った車をエレーヌが走らせている。突然、エレーヌが声を張り上げ、エリーズは意識を失う。
[13c] 意識を取り戻したエリーズは、事故に遭ったのだと思い当たる。トニーが現れる。
[14] 小箱の中に殺人犯の戦利品が収められている。
[15] 事件の真相。マニュについての誤解が解ける。
[エピローグ] ファンスタン夫妻の葬儀。エリーズは手術を受ける。