モース警部シリーズの長編第6作。首なし死体。被害者は誰? 過去の因縁。[???]
ブラウン=スミス:オックスフォード大学の教授
ジョージ・ウェスタビー:同
アンドルーズ:同研究員
アルフレッド・ギルバート:元戦車隊員
アルバート・ギルバート:同
イヴォンヌ:謎の女
ジェーン・サマーズ:成績優秀な学生
マックス:警察医
ルイス:部長刑事
モース:主任警部
ストレンジ:主任警視
何事にもきちんとしていて、特に文法には強く拘るブラウン=スミス博士が、彼に似つかわしくないやり方で休暇に入った。送られてきた手紙がどうしても彼が書いたものとは信じられぬ学寮長の依頼で、モース警部はその件に“気を配る”こととなった。
それから一週間ほどして、運河から死体が上がった。その死体には頭部がなかった。両手がなかった。そして両脚がなかった。
その死体はブラウン=スミスのものなのか、それともそのように見せかけた別人のものなのか、モース警部はその結論を容易に出せなかった。
モース警部は死体のポケットに入っていた左半分だけ残った手紙から、被害者がちょっとした不正の誘惑を受けていたと推測した。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
モース主任警部が右往左往しつつ捜査が進むのがこのシリーズの特徴だが、本作はその右往左往にどうも手応えがない。最も大きな謎は「殺害されたのは誰?」だが、読み進めてもその進展がいまいち実感できない。被害者の正体もちょい唐突だしねぇ。
モースの推理も、それが常とはいえ特に本作は想像に頼る部分が大きすぎるようだ。この殺人には共犯者がいるのだが、あまりにも簡単に協力・信頼関係を作りすぎなように感じられる点もマイナス。
この作者は某トリックの使用頻度が比較的高く、それは本作でも用いられているが、それもさすがにそろそろ気になる。
それが気になるのは、全体的な出来があまり良くないせいかもね。
[一マイル 1] [7月7日(月) エル・アラメイン攻防戦の老兵、彼の最大の悲劇の日を想起する] 双子のアルフレッドとアルバート、その弟のジョンのギルバート三兄弟のうち、ジョンだけが戦死した。戦車に閉じ込められた兵士の救出を試みるギルバート伍長を制止した大尉は、右の人差し指を激しく負傷していた。戦車の操縦兵であったジョン・アルバートの死は後に知らされた。アルバート・ギルバートは何もかも確信しているわけではないが、少なくともあの大尉が勇気を試され、臆病さを暴露したことは知っていた。ちょっと珍しい綴りのブラウン=スミス大尉の名を忘れることはなかった。
[2] [7月9日(水) オックスフォード大学古典文学科の7人の試験委員の採点会議] ブラウン=スミス教授は反対するが、対象者に第一級口頭試験を受けさせることが決定。試験は研究員のアンドルーズが受け持つ。その翌日、ブラウン=スミスは奇妙な手紙を受け取った。
[3] [7月11日 オックスフォードの指導教員、首都の悪名高い歓楽街見物に誘われる] ブラウン=スミスは自身の余命は1年もないと既に宣告されており、それを受け入れている。彼は送られてきた手紙に興味を示している。歓楽街へと向かう。ジョージ・ウェスタビーは同僚のブラウン=スミスを嫌っている。もう顔を合わせずに済むと思うと、自身の引退も嬉しくて仕方ない。引越し作業は順調に進行している。
[4] [7月11日(金) われわれは高給売春の一断面をのぞき見る] ブラウン=スミスは目当ての家に到着。イヴォンヌという女に会う。すぐにブラウン=スミスは彼女のフランス訛りは贋物と見破った。室内には多くの種類の酒瓶が並んでいる。それぞれ二瓶ずつあるらしく、その一つは未開封。彼女は未開封の物を開けた。ブラウン=スミスが動かなくなると、彼女は部屋の外に立っている男に囁き、その役目を終えた。
[5] [7月11日(金) いかがわしい女は気持ちを楽にしようとするが、大金をもらってやった役目のことをしばしば、なまなましく思い出す] 女は彼女とその父を知っているという男と少し前に会い、用事を頼まれていた。
[6] [7月16日(水) ロンズデールの学寮長が、やや軽率に警部に同僚についての懸念をもらし、英語文法の細部を論ずる] ロンズデールの学寮長、タイプライターで打たれたブラウン=スミスからの手紙をモースに見せる。数日間留守にするという内容。いつも物事の手はずをきちんと整える彼らしくない行動であり、さらにその手紙の文章は偏執的に文法に拘る彼の手によるものとは思えないものであり、学寮長はその手紙に何
らかの疑念を抱いている。かつてブラウン=スミスの教え子だったモースもそれに同意する。
[7] [7月16日(水)からの一週間 この章では、早く最初の死体に出会いたがっている読者の期待がみたされる。またモース主任警部の性格の興味ある面が 示される] モースは大学時代の思い出に浸っている。死体発見の報を受け、渋々現場へ駆けつけた。
[8] [7月23日(水) 死体恐怖症のモースはいやいやながら死骸をしらべ、皮肉な老警察医と言葉をかわす] 運河から引き揚げられた死体は頭部と両手、両脚がなく、身元不明。尻ポケットには文字が書かれた紙片が入っていた。
[9] [7月23日(水) 警察医が水につかった死体の問題について科学的な原理をのべている間に、モースの心はあらぬところにさまよう] 死体は死後に切断され、水に入れられたと警察医は推定。死体は高級な服を身に着けていた。“サイモン・ロウボーサム”と名乗る釣り人からの電話で死体は発見された。彼は住所を告げずに電話を切った。
[10] [7月23日(水) モースは歯の痛みを我慢しながら捜査をはじめ、手紙の復元をこころみる] 死体が所持していた手紙は切断され、右半分が失われているらしい。モース、各行の後半の文章を想像力で補って、その解読に挑む。それによると、手紙の主は自分の娘の試験結果の正式な発表日を待ちきれず、謝礼をしてでも早く知りたがっているようだ。この娘というのはロンズデールの学寮の優秀な女子学生であるジェーンのことではないか。モース、歯痛に苦しむ。顎に長いマフラーを巻き、歯科医院が開くのを待つ。
[11] [7月24日(木) 歯科の治療、クロスワードの解答、カワカマス釣りなど多岐にわたる活動がモースの見方に適切な寄与をする] モース、歯科医でペニシリンを処方される。ルイス、左半分だけの手紙に書かれていた、下一桁が欠けた電話番号の候補をリストアップ。
[12] [7月24日(木) 短い幕間。ルイスは恐るべき試練の場であるオックスフォードのテスト機関、試験部にはじめて足をふみ入れる] 試験結果が発表される。ルイス、試験の合格者リストの作成手順を教わる。最終リストが出来上がる直前までは、結果について確かなことは誰も知り得ない。
[13] [7月24日(木) 偶然のことからモースは訪れるつもりのなかった学寮の部屋をのぞく] 守衛はモースの質問に答えた。学生も教授たちも、ほとんどは休暇で欧州などへ旅行に出かけている。前日か前々日にはブラウン=スミスから、通知があるまでは不在転送の不要を伝える電話連絡があったという。その声はブラウン=スミスのものだったと言う守衛は、ここの勤務を始めて3ヶ月少々。モース、ブラウン=スミスの部屋に入り、そこにあるタイプライターを試してみた。ウェスタビーの部屋の中では引越し作業員が働いていた。尋ねてみると、ウェスタビーはもう休暇に入っているだろうと作業員は答えた。モース、その部屋のタイプライターも試してみた。怪しい荷物を検めてみると、それは大理石製の頭部だった。ギルバート登場。彼もモースと同様に、下顎にマフラーを巻いていた。モースが部屋を去った後、ギルバートは密かにブラウン=スミスとウェスタビーのタイプライターを入れ替えた。
[14] [7月24日(木) 予備捜査が活発に行われるが、その中で出現する矛盾した証拠をモースは意に介しないように見える] 死体には数多くの献血の形跡が残っている。ブラウン=スミスの最近の献血記録は見つからず。モース、ブラウン=スミスからのものとされる手紙が、ウェスタビーのタイプライターで打たれていたものであることを確かめた。
[15] [7月24日(木) モースは二つの方面から、人間の心――とくにロンズデールのブラウン=スミス博士の心のはたらきかたについて貴重な洞察を得る] モース、野心家のアンドルーズと話す。彼は残り数ヶ月の命のブラウン=スミスの後を引き継ぐことになっている。学寮長の座も目指している。彼だけでなく皆がそうであり、学寮長に選出されなかったブラウン=スミスは失望したであろうとアンドルーズは信じている。モース、医学館長に質問し、脳腫瘍が原因で当人の性格や言動に変化を与えることがあると知る。
[16] [7月24日(木) モースはこれまでの事件の経過をかえりみ、ルイスはみずからそれと気づかずに、ふたたびその触媒となる] ルイスによる調査の結果、ブラウン=スミスからの手紙の文章を打ったのは彼の部屋のタイプライターと判明。モース、誰かがブラウン=スミスとウェスタビーの部屋のタイプライターを、モースが調べた後に入れ替えたと断言。ジェーンの両親は6年前に他界しており、死体の手紙の作者ではあり得ない。
[17] [7月25日(金) 身もとと死についての議論が二人の捜査官をしだいに真実に近づける] もし殺人者が死体の身元を隠すためにその頭部や手足を切断したならば、その着衣も別人のものに着せ替えるのではないか?
[18] [7月25日(金) モースはロンズデールの別の首脳の招待を受け、ルイスは単調で退屈な仕事に取り組む] モース、副学寮長と話す。学寮長は聖職者であってはならず、8名の上級特別研究員の投票で選出され、反対票が0で、かつ賛成が6票以上必要。現副学寮長は聖職者なので、候補者となる資格すらない。5年前の選挙の際にはブラウン=スミスが候補者となったが、賛成6・反対1・棄権1で彼は落選した。次にウェスタビーが候補者となったが、彼もまた賛成6・反対1・棄権1で落選した。最終的には妥協により満場一致で最も当り障りのない現在の学寮長が選出された。ブラウン=スミスとウェスタビーのそれぞれに反対票を入れた人物が誰なのかは、候補者両名ともに確信を持っていた。両者はそれ以前から相性が悪かったが、以来、彼らの関係は完全に決裂した。
[19] [7月25日(金) われわれの二人の捜査官は、バラバラ死体の意味するものを、まだ充分につかみきれないでいる] 死体がブラウン=スミスのものなのか、それとも犯人がそのように見せかけようとしているのか、未だにモースは断定できない。通報者の“サイモン・ロウボーサム”という名は、“O・M・A・ブラウン=スミス”の綴り換え?
[20] [7月26日(土) 事件の最初の段階のきわめて短い結び] モース、死体の主はブラウン=スミスではないと確信している。翌朝、モースのもとに、非常に興味をそそられる手紙が届けられた。
[二マイル 21] [間違った手がかりから正しい道を進むことになったモースは、いま自分の判断の正しさがほとんど全面的に証明されたことを知る] モース、“サイモン・ロウボーサム”は“O・M・A・ブラウン=スミス”の綴り換えではないと指摘される。一字が合わない。そして当の“サイモン・ロウボーサム”が見つかり、モースはその件から興味を失う。モースに届けられた手紙は、なぜかバークレイズ銀行経由で送られてきた。手紙には、7月21日に依頼され、26日に郵送したと添え書きがされていた。銀行側は守秘義務を盾に、その事情については口が固い。ウェスタビーが彼らの顧客であることは確認できた。
[22] [7月28日の午前中にモース主任警部とルイス部長刑事がしらべた、拝啓も最後の署名もない長い手紙の全文] ブラウン=スミスが死体を自分のもののように見せかけたと自白する内容。歓楽街での出来事などについても書かれている。モースへの挑戦状。
[23] [7月28日(月) 必要な調査の仕事を二分して調査が進められる] モースとルイスの四つの大きな調査範囲。1.遠い昔の砂漠の戦争でブラウン=スミスは真の人間を試す試金石に掛けられ――そして惨めに失敗したというが、その事実とはどういうものか? 2.ウェスタビーはますます複雑化してきた全体像の中のどこに位置するのか? 3.ブラウン=スミスが不発に終わったイヴォンヌとの性的冒険の後に会った人物は誰か? 4.発見されたのは誰の死体なのか? モースはジョン・ギルバートの死は公式記録上は戦死となっているが、事実としては自殺であることを知った。
[24] [7月29日(火) モースは二人の女――そのうちの一人には彼は一度も会ったことがない――にたいして大きな影響力をもっているように見える] モース、18日前のブラウン=スミスの足取りを辿る。
[25] [7月29日(火) ルイスは現場へもどり、驚くべき新発見をする] ルイス、死体が投げ込まれたと思しき現場付近にウェスタビーの売り家があることを知る。ウェスタビーの素描にご満悦。「ロンドンっ子。小柄でこざっぱりした我の強い男――少し耳が遠く――かなり秘密主義。少し目を細める癖がある――しかし、これはたいがい口の端に煙草を咥えているせいかもしれない」
[26] [7月29日(火) ケンブリッジ・ウェイの家でなんの応答も得られなかったモースは、“フラメンコ・トップレス・バー”の支配人と会ったときのことを思いかえす] モース、ブラウン=スミスの足取りをさらに辿り、29番地のマンションを訪問。最後は30分以上軟禁される。
[27] [7月29日(火)午後 モースはロンドンの中心地にある豪華なマンションを調べて、居住者の謎のような姿をちらりと見、第二の死体を発見する] モース、29番地のマンションを再訪。補聴器を付けた守衛に話を尋問。部屋の一つは2ヶ月前にウェスタビーが購入。その部屋を守衛に案内させ、調べる。モースは守衛が何か嘘をついていると感じ取るが、その奥にある情報を引き出すことはできなかった。マンション内を歩いている際、モースは金持ちらしいアラブ系の住人と会った。そのときその男はちょっと妙な表情でモースのほうを見た。モース、最近売れたばかりの部屋も案内させた。作り付けの衣装箪笥に錠が掛かっていた。モースの命令により、守衛はドライバーを用いてこじ開けた。背中に小さな孔の開いた死体が入っていた。守衛に尋ねると、見知らぬ男だという。モースはそれがロンズデールの学寮で一度会ったことのある、アルバート・ギルバートの顔であると気づいた。
[28] [7月29日(火) モースはすばらしい女に会い、さらにすばらしいと思われる女性のことを知る] モース、アルバート・ギルバートがイヴォンヌを雇い、ブラウン=スミスに“悪戯”を仕掛けたことを、アルバートの妻から聞き出す。モースはアルバートの死を彼女に伝えて去った。その後、夫が帰宅した途端に妻は失神した。原因がさっぱりわからず慌てた夫はすぐに医師に電話した。
[29] [7月29日(火) 人間はすべて、どんなに悲観的な者でも、一生のある時点でとほうもない希望にうつつをぬかすことがある] モース、イヴォンヌと会う。ウェスタビーがギリシャから投函した絵葉書が届く。
[30] [7月30日(水) この章では“二マイルの教え”がくわしく説明され、モースは上司に呼びつけられる] モース、絵葉書の消印は偽造と断じる。
[三マイル 31] [8月1日(金) この恐るべき事件の主人公の一人は、近来の巡礼者のように重荷を捨てようと決心する] ウェスタビーは29番地のマンションの部屋に入り、ドライバーを取り出し、仕事を始めた。そして部屋を出ると、重荷を捨てた。そして一時の住処であるホテルの部屋に戻ってベッドに倒れ込み、ようやく一息ついた。ところがホッとしたのも束の間、彼のそばに誰かがいることに気づいた。意外な人物の姿を見て驚愕したまま、ウェスタビーはその生涯を終えた。
[32] [8月2日(土) イギリス人はよくイギリスの鉄道について不平をならす。しかし、この場合、そういう不平にはあまり根拠がないように思われる] 列車から降りようとして転倒した男が死んだ。彼はモースに会いに行く途中だった。
[33] [8月2日(土) スラップの運河で発見されたのはだれの死体なのか? 残った論争点はごくわずかであることが、いまやますます明らかになった] 死体の脚が見つかった。
[34] [8月4日(月) モースとルイスは一マイルの境界線まで引きかえす] モース、抜歯する。
[35] [8月4日(月) 彼らは二マイル目をゆっくり進む。モースには途中のいたるところに道しるべがあるように見える] モース、警察医に死体の身元を明かす。
[36] [8月4日(月) いまや二マイル半の長い、曲がりくねった道を歩き終わり、大団円に近づく] モース、想像で穴を埋める。
[37] [8月4日(月) モースは主要な出来事の説明を――すこしばかり彼一流の想像力の助けを借りて――ほとんど完了する] そして誰もいなくなった。
[38] [8月4日(月) 三マイルの里程標] 因果応報。
[39] [早すぎたエピローグ] モース、ロンズデールの立食パーティーに招待される。
[40] [最後の発見] 最初の事件の凶器が見つかる。
ブラウン=スミス:オックスフォード大学の教授
ジョージ・ウェスタビー:同
アンドルーズ:同研究員
アルフレッド・ギルバート:元戦車隊員
アルバート・ギルバート:同
イヴォンヌ:謎の女
ジェーン・サマーズ:成績優秀な学生
マックス:警察医
ルイス:部長刑事
モース:主任警部
ストレンジ:主任警視
何事にもきちんとしていて、特に文法には強く拘るブラウン=スミス博士が、彼に似つかわしくないやり方で休暇に入った。送られてきた手紙がどうしても彼が書いたものとは信じられぬ学寮長の依頼で、モース警部はその件に“気を配る”こととなった。
それから一週間ほどして、運河から死体が上がった。その死体には頭部がなかった。両手がなかった。そして両脚がなかった。
その死体はブラウン=スミスのものなのか、それともそのように見せかけた別人のものなのか、モース警部はその結論を容易に出せなかった。
モース警部は死体のポケットに入っていた左半分だけ残った手紙から、被害者がちょっとした不正の誘惑を受けていたと推測した。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
モース主任警部が右往左往しつつ捜査が進むのがこのシリーズの特徴だが、本作はその右往左往にどうも手応えがない。最も大きな謎は「殺害されたのは誰?」だが、読み進めてもその進展がいまいち実感できない。被害者の正体もちょい唐突だしねぇ。
モースの推理も、それが常とはいえ特に本作は想像に頼る部分が大きすぎるようだ。この殺人には共犯者がいるのだが、あまりにも簡単に協力・信頼関係を作りすぎなように感じられる点もマイナス。
この作者は某トリックの使用頻度が比較的高く、それは本作でも用いられているが、それもさすがにそろそろ気になる。
それが気になるのは、全体的な出来があまり良くないせいかもね。
[一マイル 1] [7月7日(月) エル・アラメイン攻防戦の老兵、彼の最大の悲劇の日を想起する] 双子のアルフレッドとアルバート、その弟のジョンのギルバート三兄弟のうち、ジョンだけが戦死した。戦車に閉じ込められた兵士の救出を試みるギルバート伍長を制止した大尉は、右の人差し指を激しく負傷していた。戦車の操縦兵であったジョン・アルバートの死は後に知らされた。アルバート・ギルバートは何もかも確信しているわけではないが、少なくともあの大尉が勇気を試され、臆病さを暴露したことは知っていた。ちょっと珍しい綴りのブラウン=スミス大尉の名を忘れることはなかった。
[2] [7月9日(水) オックスフォード大学古典文学科の7人の試験委員の採点会議] ブラウン=スミス教授は反対するが、対象者に第一級口頭試験を受けさせることが決定。試験は研究員のアンドルーズが受け持つ。その翌日、ブラウン=スミスは奇妙な手紙を受け取った。
[3] [7月11日 オックスフォードの指導教員、首都の悪名高い歓楽街見物に誘われる] ブラウン=スミスは自身の余命は1年もないと既に宣告されており、それを受け入れている。彼は送られてきた手紙に興味を示している。歓楽街へと向かう。ジョージ・ウェスタビーは同僚のブラウン=スミスを嫌っている。もう顔を合わせずに済むと思うと、自身の引退も嬉しくて仕方ない。引越し作業は順調に進行している。
[4] [7月11日(金) われわれは高給売春の一断面をのぞき見る] ブラウン=スミスは目当ての家に到着。イヴォンヌという女に会う。すぐにブラウン=スミスは彼女のフランス訛りは贋物と見破った。室内には多くの種類の酒瓶が並んでいる。それぞれ二瓶ずつあるらしく、その一つは未開封。彼女は未開封の物を開けた。ブラウン=スミスが動かなくなると、彼女は部屋の外に立っている男に囁き、その役目を終えた。
[5] [7月11日(金) いかがわしい女は気持ちを楽にしようとするが、大金をもらってやった役目のことをしばしば、なまなましく思い出す] 女は彼女とその父を知っているという男と少し前に会い、用事を頼まれていた。
[6] [7月16日(水) ロンズデールの学寮長が、やや軽率に警部に同僚についての懸念をもらし、英語文法の細部を論ずる] ロンズデールの学寮長、タイプライターで打たれたブラウン=スミスからの手紙をモースに見せる。数日間留守にするという内容。いつも物事の手はずをきちんと整える彼らしくない行動であり、さらにその手紙の文章は偏執的に文法に拘る彼の手によるものとは思えないものであり、学寮長はその手紙に何
らかの疑念を抱いている。かつてブラウン=スミスの教え子だったモースもそれに同意する。
[7] [7月16日(水)からの一週間 この章では、早く最初の死体に出会いたがっている読者の期待がみたされる。またモース主任警部の性格の興味ある面が 示される] モースは大学時代の思い出に浸っている。死体発見の報を受け、渋々現場へ駆けつけた。
[8] [7月23日(水) 死体恐怖症のモースはいやいやながら死骸をしらべ、皮肉な老警察医と言葉をかわす] 運河から引き揚げられた死体は頭部と両手、両脚がなく、身元不明。尻ポケットには文字が書かれた紙片が入っていた。
[9] [7月23日(水) 警察医が水につかった死体の問題について科学的な原理をのべている間に、モースの心はあらぬところにさまよう] 死体は死後に切断され、水に入れられたと警察医は推定。死体は高級な服を身に着けていた。“サイモン・ロウボーサム”と名乗る釣り人からの電話で死体は発見された。彼は住所を告げずに電話を切った。
[10] [7月23日(水) モースは歯の痛みを我慢しながら捜査をはじめ、手紙の復元をこころみる] 死体が所持していた手紙は切断され、右半分が失われているらしい。モース、各行の後半の文章を想像力で補って、その解読に挑む。それによると、手紙の主は自分の娘の試験結果の正式な発表日を待ちきれず、謝礼をしてでも早く知りたがっているようだ。この娘というのはロンズデールの学寮の優秀な女子学生であるジェーンのことではないか。モース、歯痛に苦しむ。顎に長いマフラーを巻き、歯科医院が開くのを待つ。
[11] [7月24日(木) 歯科の治療、クロスワードの解答、カワカマス釣りなど多岐にわたる活動がモースの見方に適切な寄与をする] モース、歯科医でペニシリンを処方される。ルイス、左半分だけの手紙に書かれていた、下一桁が欠けた電話番号の候補をリストアップ。
[12] [7月24日(木) 短い幕間。ルイスは恐るべき試練の場であるオックスフォードのテスト機関、試験部にはじめて足をふみ入れる] 試験結果が発表される。ルイス、試験の合格者リストの作成手順を教わる。最終リストが出来上がる直前までは、結果について確かなことは誰も知り得ない。
[13] [7月24日(木) 偶然のことからモースは訪れるつもりのなかった学寮の部屋をのぞく] 守衛はモースの質問に答えた。学生も教授たちも、ほとんどは休暇で欧州などへ旅行に出かけている。前日か前々日にはブラウン=スミスから、通知があるまでは不在転送の不要を伝える電話連絡があったという。その声はブラウン=スミスのものだったと言う守衛は、ここの勤務を始めて3ヶ月少々。モース、ブラウン=スミスの部屋に入り、そこにあるタイプライターを試してみた。ウェスタビーの部屋の中では引越し作業員が働いていた。尋ねてみると、ウェスタビーはもう休暇に入っているだろうと作業員は答えた。モース、その部屋のタイプライターも試してみた。怪しい荷物を検めてみると、それは大理石製の頭部だった。ギルバート登場。彼もモースと同様に、下顎にマフラーを巻いていた。モースが部屋を去った後、ギルバートは密かにブラウン=スミスとウェスタビーのタイプライターを入れ替えた。
[14] [7月24日(木) 予備捜査が活発に行われるが、その中で出現する矛盾した証拠をモースは意に介しないように見える] 死体には数多くの献血の形跡が残っている。ブラウン=スミスの最近の献血記録は見つからず。モース、ブラウン=スミスからのものとされる手紙が、ウェスタビーのタイプライターで打たれていたものであることを確かめた。
[15] [7月24日(木) モースは二つの方面から、人間の心――とくにロンズデールのブラウン=スミス博士の心のはたらきかたについて貴重な洞察を得る] モース、野心家のアンドルーズと話す。彼は残り数ヶ月の命のブラウン=スミスの後を引き継ぐことになっている。学寮長の座も目指している。彼だけでなく皆がそうであり、学寮長に選出されなかったブラウン=スミスは失望したであろうとアンドルーズは信じている。モース、医学館長に質問し、脳腫瘍が原因で当人の性格や言動に変化を与えることがあると知る。
[16] [7月24日(木) モースはこれまでの事件の経過をかえりみ、ルイスはみずからそれと気づかずに、ふたたびその触媒となる] ルイスによる調査の結果、ブラウン=スミスからの手紙の文章を打ったのは彼の部屋のタイプライターと判明。モース、誰かがブラウン=スミスとウェスタビーの部屋のタイプライターを、モースが調べた後に入れ替えたと断言。ジェーンの両親は6年前に他界しており、死体の手紙の作者ではあり得ない。
[17] [7月25日(金) 身もとと死についての議論が二人の捜査官をしだいに真実に近づける] もし殺人者が死体の身元を隠すためにその頭部や手足を切断したならば、その着衣も別人のものに着せ替えるのではないか?
[18] [7月25日(金) モースはロンズデールの別の首脳の招待を受け、ルイスは単調で退屈な仕事に取り組む] モース、副学寮長と話す。学寮長は聖職者であってはならず、8名の上級特別研究員の投票で選出され、反対票が0で、かつ賛成が6票以上必要。現副学寮長は聖職者なので、候補者となる資格すらない。5年前の選挙の際にはブラウン=スミスが候補者となったが、賛成6・反対1・棄権1で彼は落選した。次にウェスタビーが候補者となったが、彼もまた賛成6・反対1・棄権1で落選した。最終的には妥協により満場一致で最も当り障りのない現在の学寮長が選出された。ブラウン=スミスとウェスタビーのそれぞれに反対票を入れた人物が誰なのかは、候補者両名ともに確信を持っていた。両者はそれ以前から相性が悪かったが、以来、彼らの関係は完全に決裂した。
[19] [7月25日(金) われわれの二人の捜査官は、バラバラ死体の意味するものを、まだ充分につかみきれないでいる] 死体がブラウン=スミスのものなのか、それとも犯人がそのように見せかけようとしているのか、未だにモースは断定できない。通報者の“サイモン・ロウボーサム”という名は、“O・M・A・ブラウン=スミス”の綴り換え?
[20] [7月26日(土) 事件の最初の段階のきわめて短い結び] モース、死体の主はブラウン=スミスではないと確信している。翌朝、モースのもとに、非常に興味をそそられる手紙が届けられた。
[二マイル 21] [間違った手がかりから正しい道を進むことになったモースは、いま自分の判断の正しさがほとんど全面的に証明されたことを知る] モース、“サイモン・ロウボーサム”は“O・M・A・ブラウン=スミス”の綴り換えではないと指摘される。一字が合わない。そして当の“サイモン・ロウボーサム”が見つかり、モースはその件から興味を失う。モースに届けられた手紙は、なぜかバークレイズ銀行経由で送られてきた。手紙には、7月21日に依頼され、26日に郵送したと添え書きがされていた。銀行側は守秘義務を盾に、その事情については口が固い。ウェスタビーが彼らの顧客であることは確認できた。
[22] [7月28日の午前中にモース主任警部とルイス部長刑事がしらべた、拝啓も最後の署名もない長い手紙の全文] ブラウン=スミスが死体を自分のもののように見せかけたと自白する内容。歓楽街での出来事などについても書かれている。モースへの挑戦状。
[23] [7月28日(月) 必要な調査の仕事を二分して調査が進められる] モースとルイスの四つの大きな調査範囲。1.遠い昔の砂漠の戦争でブラウン=スミスは真の人間を試す試金石に掛けられ――そして惨めに失敗したというが、その事実とはどういうものか? 2.ウェスタビーはますます複雑化してきた全体像の中のどこに位置するのか? 3.ブラウン=スミスが不発に終わったイヴォンヌとの性的冒険の後に会った人物は誰か? 4.発見されたのは誰の死体なのか? モースはジョン・ギルバートの死は公式記録上は戦死となっているが、事実としては自殺であることを知った。
[24] [7月29日(火) モースは二人の女――そのうちの一人には彼は一度も会ったことがない――にたいして大きな影響力をもっているように見える] モース、18日前のブラウン=スミスの足取りを辿る。
[25] [7月29日(火) ルイスは現場へもどり、驚くべき新発見をする] ルイス、死体が投げ込まれたと思しき現場付近にウェスタビーの売り家があることを知る。ウェスタビーの素描にご満悦。「ロンドンっ子。小柄でこざっぱりした我の強い男――少し耳が遠く――かなり秘密主義。少し目を細める癖がある――しかし、これはたいがい口の端に煙草を咥えているせいかもしれない」
[26] [7月29日(火) ケンブリッジ・ウェイの家でなんの応答も得られなかったモースは、“フラメンコ・トップレス・バー”の支配人と会ったときのことを思いかえす] モース、ブラウン=スミスの足取りをさらに辿り、29番地のマンションを訪問。最後は30分以上軟禁される。
[27] [7月29日(火)午後 モースはロンドンの中心地にある豪華なマンションを調べて、居住者の謎のような姿をちらりと見、第二の死体を発見する] モース、29番地のマンションを再訪。補聴器を付けた守衛に話を尋問。部屋の一つは2ヶ月前にウェスタビーが購入。その部屋を守衛に案内させ、調べる。モースは守衛が何か嘘をついていると感じ取るが、その奥にある情報を引き出すことはできなかった。マンション内を歩いている際、モースは金持ちらしいアラブ系の住人と会った。そのときその男はちょっと妙な表情でモースのほうを見た。モース、最近売れたばかりの部屋も案内させた。作り付けの衣装箪笥に錠が掛かっていた。モースの命令により、守衛はドライバーを用いてこじ開けた。背中に小さな孔の開いた死体が入っていた。守衛に尋ねると、見知らぬ男だという。モースはそれがロンズデールの学寮で一度会ったことのある、アルバート・ギルバートの顔であると気づいた。
[28] [7月29日(火) モースはすばらしい女に会い、さらにすばらしいと思われる女性のことを知る] モース、アルバート・ギルバートがイヴォンヌを雇い、ブラウン=スミスに“悪戯”を仕掛けたことを、アルバートの妻から聞き出す。モースはアルバートの死を彼女に伝えて去った。その後、夫が帰宅した途端に妻は失神した。原因がさっぱりわからず慌てた夫はすぐに医師に電話した。
[29] [7月29日(火) 人間はすべて、どんなに悲観的な者でも、一生のある時点でとほうもない希望にうつつをぬかすことがある] モース、イヴォンヌと会う。ウェスタビーがギリシャから投函した絵葉書が届く。
[30] [7月30日(水) この章では“二マイルの教え”がくわしく説明され、モースは上司に呼びつけられる] モース、絵葉書の消印は偽造と断じる。
[三マイル 31] [8月1日(金) この恐るべき事件の主人公の一人は、近来の巡礼者のように重荷を捨てようと決心する] ウェスタビーは29番地のマンションの部屋に入り、ドライバーを取り出し、仕事を始めた。そして部屋を出ると、重荷を捨てた。そして一時の住処であるホテルの部屋に戻ってベッドに倒れ込み、ようやく一息ついた。ところがホッとしたのも束の間、彼のそばに誰かがいることに気づいた。意外な人物の姿を見て驚愕したまま、ウェスタビーはその生涯を終えた。
[32] [8月2日(土) イギリス人はよくイギリスの鉄道について不平をならす。しかし、この場合、そういう不平にはあまり根拠がないように思われる] 列車から降りようとして転倒した男が死んだ。彼はモースに会いに行く途中だった。
[33] [8月2日(土) スラップの運河で発見されたのはだれの死体なのか? 残った論争点はごくわずかであることが、いまやますます明らかになった] 死体の脚が見つかった。
[34] [8月4日(月) モースとルイスは一マイルの境界線まで引きかえす] モース、抜歯する。
[35] [8月4日(月) 彼らは二マイル目をゆっくり進む。モースには途中のいたるところに道しるべがあるように見える] モース、警察医に死体の身元を明かす。
[36] [8月4日(月) いまや二マイル半の長い、曲がりくねった道を歩き終わり、大団円に近づく] モース、想像で穴を埋める。
[37] [8月4日(月) モースは主要な出来事の説明を――すこしばかり彼一流の想像力の助けを借りて――ほとんど完了する] そして誰もいなくなった。
[38] [8月4日(月) 三マイルの里程標] 因果応報。
[39] [早すぎたエピローグ] モース、ロンズデールの立食パーティーに招待される。
[40] [最後の発見] 最初の事件の凶器が見つかる。