モース警部シリーズの長編第1作。殺害された女と同行していた、名乗り出ない女。女たちを乗せた、名乗り出ない赤い車の運転手。[???]

シルビア・ケイ:生命保険会社のタイピスト
パーマー:同社支配人
ジェニファー・コルビー:シルビアの同僚
スウ・ウィドウスン:ジェニファーのルームメイト
メリー:同
バーナード・クローザー:大学の英語講師
マーガレット:バーナードの妻
ピーター・ニューラブ:バーナードの親友
ジョン・サンダース:インテリア資材店の従業員
ゲイ・マクフィー:“ブラック・プリンス”のホステス
メーベル・ジャーマン:未亡人
ルイス:部長刑事
モース:主任警部



ウッドストック行のバスはなかなか来なかった。しびれを切らしたシルビアはヒッチハイクすることにして歩き出した。最初は反対していたもう一人の女も、結局はシルビアの後を追った。


駐車場に女の死体が転がっていた。無残に頭を打ち砕かれたその女はタイピストのシルビア・ケイと判明した。警察の捜査により、彼女には連れの女がいて、二人は赤い車に乗ったこともわかった。しかしその女も赤い車の運転手も、警察の呼び掛けにも関わらず名乗り出て来なかった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



クロスワードパズルの鍵作りチャンピオン経験者という経歴の作者による第一作。天才型探偵のモース警部が仮説の構築と崩壊を繰り返しつつ真相に迫るスタイルは本作から既にほぼ確立されている。その作風は新保博久曰く、「天才にのみ許された書き方で、余人には真似が出来ない」。

この作者の作品の魅力は最後の解決編以上にそれに到達する過程にあるので、最後だけ読んでも作品の要点は掴めない。明白な趣向や派手なトリックに依った作風ではないので、あらすじを掻い摘んだ推理クイズの問題としては不向き。

事件解決の最初の障害となるのが、シルビアの連れの女と彼女たちを乗せた車の運転手が名乗り出てこないこと。運転手の男が名乗り出ない理由の一つは非常にありがちなものであり、シルビアの連れの女にしてもそれは似たようなもの。ところがその二つの表面的にはありがちな理由の組み合わせの中に、別の事実が隠されているのが面白い。



[プレリュード] 二人連れの女。バスを待ちくたびれ、ヒッチハイクに向かう。
[第一部 娘を捜せ 1 9月29日(水曜日)] ウッドストックの“ブラック・プリンス”にて、死体発見。
[2 9月29日(水曜日)] シルビア・ケイの死体は塀のそばに置かれている。ブロンドの長髪の女性。後頭部に打撃痕。タイヤ・スパナが落ちている。着衣はダーク・ブルーのミニ・スカートと白いブラウスのみ。ウェッジ・ヒールの靴を履いている。
[3 9月30日(木曜日)] モース警部、シルビアの部屋の調査。彼女の勤務先で訊き込み。
[4 10月1日(金曜日)] 水曜日のシルビアの行動。午後5時に会社を出て、徒歩でバス停留所へ。午後5時35分に家に着き、夕食。午後6時30分に家を出た。その後、ウッドストックに辿り着いた。モース警部、シルビアはウッドストックへはヒッチハイクで向かったと推測。
[5 10月1日(金曜日)] モース警部、メーベル・ジャーマンの証言を聞く。シルビアに連れの女があったことを知る。シルビアが「明日の朝は笑い話になるわ」と言っていたことから、連れの女は翌朝に再び会う予定のあった者、会社の同僚に目を付ける。しかし同僚たちは誰もそれを窺わせる証言をしていない。
[6 10月2日(土曜日)の午前] メーベルにシルビアの同僚を面通しさせるが、彼女は自身が目撃した相手を断定できなかった。
[7 10月2日(土曜日)の午後] モース警部、シルビアの会社で押さえた手紙の一通に注意を向ける。ジェニファー・コルビー宛の不採用通知。スペルミス多し。Gから始まる署名は判読不能。ジェニファーは、件の女かもしれないとメーベルが告げた三名の中の一人。ジェニファーの当夜の証言には怪しい点がある。彼女は図書館で木曜以降に借りた本を水曜に借りたと偽っている。
[8 10月2日(土曜日)] マーガレット・クローザーの憂鬱な週末。夫の毎週のような浮気に気づいている。
[9 10月3日(日曜日)] モース警部、ジェニファーの不採用通知の中に暗号を見出す。「Say Nothing(一言も喋るな)」。モース警部、問題のヒッチハイクの運転手を知っているのではとジェニファーを問い詰めるも、彼女は断じて認めず、のらりくらりと交わす。
[10 10月6日(水曜日)] ピーター・ニューラブ、ゲイ・マクフィーとの親密なひととき。
[第二部 男を捜せ 11 10月6日(水曜日)] マーガレット、先週は休んだクラスに今回は出席。
[12 10月6-7日(水-木曜日)] モース警部、前夜に日曜大工作業で右足を負傷。木曜の午後にルイス刑事が訪問した際、モース警部は一つの推論を開陳。オックスフォードの人口=10000、その成人男子=2500、その35歳から50歳=1250、その妻帯者=1000、その酒飲み=500、その知能の高い(トップ5%の)人物=25、女にとって魅力ある者=15、車の所有者=10、赤い車=1。数字上ではシルビアを乗せたヒッチハイクの運転手を一人に絞る。
[13 10月9日(土曜日)] バーナード・クローザーの車を警官が調査。
[14 10月9日(土曜日)] バーナードの供述。シルビアともう一人の女を乗せたことを認める。それを隠していたのは、そのドライブが妻に隠れた愛人との密会を目的としていたため。愛人の正体についての証言は拒否。もう一人の女については知らない。
[15 10月11日(月曜日)] モース警部、足の治療のため病院へ。ジェニファーのルームメイトの看護婦・スウとのデートの約束を得る。
[16 10月12日(火曜日)] モース警部、ジェニファーの不採用通知の指紋調査を怠り、それは既に手遅れになったことに気づく。
[17 10月13日(水曜日)の午前] モース警部、負傷した足が入る靴を購入。
[18 10月13日(水曜日)の午後] モース警部、スウとのデート。彼女に婚約者がいることを知る。
[19 10月14日(木曜日)] シルビアの死体の発見者であるジョン・サンダースはここしばらく気分が優れぬ様子。
[20 10月15日(金曜日)の午前] 9月29日(水曜日)の夕方6時15分に、ジェニファーはタイヤ交換の依頼をし、断られている。
[21 10月15日(金曜日)の午後] モース警部、タイプライター調査。ジェニファー宛の不採用通知はピーター・ニューラブのタイプライターで打たれたもの。ジェニファー、バーナード、ピーター、出掛けてしまっている。
[第三部 殺人者を捜せ 22 10月17日(日曜日)] スウ、帰宅。モース警部が彼女のルームメイトのメリーと楽しそうに会話している。スウ、嫉妬する。
[23 10月18日(月曜日)] ジェニファーとバーナード、お互いを知人と認めたが、愛人関係については否定。
[24 10月18日(月曜日)] マーガレット、自宅でガスによる自殺。バーナード、そのショックによる心臓発作で入院。
[25 10月19日(火曜日)の午前] マーガレットからモース警部宛の手紙。シルビア殺害を認めている。夫・バーナードの浮気を疑い尾行したこと、“ブラック・プリンス”の駐車場でバーナードがシルビアとキスしていたこと、落ちていたスパナを拾い上げ、彼が去った後に駐車場に残っていた彼女をそれで殴ったことなどが綴られている。
[26 10月19日(火曜日)の午後] ピーターは自分がジェニファー宛の不採用通知を作成したことを否定。彼のタイプライターは他人が使うことも可能。シルビアは腕の骨折により毎週火曜日と木曜日に通院中だった。
[27 10月21-22日(木-金曜日)] バーナード、シルビア殺害はマーガレットによるものではなく自分が行ったものと認め、死亡。
[28 10月22日(金曜日)の午前] モース警部、シルビア殺害前に凶器のスパナの置かれていた位置からするとマーガレットが拾い上げたとは考えづらいとし、マーガレット犯人説を退ける。
[29 10月22日(金曜日)の午後] モース警部、スウの勤務先の病院を訪ねるが、看護婦との接触は婦長のガードが固く、苦労する。モース警部、パーマーから彼の秘密を訊き出す。
[30 10月23日(土曜日)] モース警部、犯人と面会する。
[31 10月25日(月曜日)] モース警部、真相を語る。
[エピローグ] モース警部、ついにクリスチャンネームを伝えられず。