金田一耕助シリーズ。スター女優の4人の元夫たちが次々と死んでいく。[??]
[主要登場人物]
鳳千代子:大スター, 忠熈の恋人
笛小路泰久:千代子の最初の夫, 戦前の映画界の二枚目, 故人
阿久津謙三:新劇俳優, 千代子の二番目の夫
槙恭吾:洋画家:千代子の三番目の夫
津村真二:作曲家, 千代子の四番目の夫
飛鳥忠熈:飛鳥元忠公爵の次男, 戦後財界の大立者, 考古学に興味を持つ, 目下千代子と恋愛中
笛小路美沙:千代子と最初の夫, 笛小路泰久とのあいだに生まれた娘
笛小路篤子:笛小路泰久の継母, 美沙を幼児期より預かって育てている
桜井鉄雄:飛鳥忠熈の女婿, 神門産業のエリート
桜井熈子:忠熈の娘にして鉄雄の妻
的場英明:考古学者, 飛鳥忠烈から発掘旅行の費用捻出を担っている
村上一彦:飛鳥忠熈が眼をかけている青年, 現在は的場英明の弟子
秋山卓造:飛鳥忠熈の股肱の部下, 忠熈のためなら水火も辞せずという男
立花茂樹:津村真二の弟子に当たる音楽学生, 村上一彦の友人
田代信吉:破滅型の音楽学生, 津村の弟子, ユキと心中未遂未遂の前歴あり, 茂樹の友人
藤村夏江:鳳千代子の二番目の夫, 阿久津謙三に捨てられた女
樋口操:藤村夏江の先輩にして友人, 軽井沢に住んでいる
日比野警部補:この事件の捜査担当者, まだ若くして功名心に燃えている
等々力警部:警視庁捜査一課所属の警部, 金田一耕助の相棒
金田一耕助:私立探偵
[その他関係者]
飛鳥元忠:公爵, 忠熈の父, 故人
飛鳥寧子:忠熈の妻, 神門雷蔵の長女, 故人
飛鳥熈寧:忠熈の息子, イギリスに留学中
神門雷蔵:寧子の父, 故人
多岐:飛鳥家使用人
登代子:同
栄子:桜井家手伝い
村上達哉:一彦の父, 元忠の書生, 故人
鳳千景:千代子の父, 美人画の大家, 故人
鳳歌子:千代子の母, 踊り手, 画家, 故人
高松鶴吉:千代子の元付き人, “佐助”
里枝:笛小路家使用人
根本ミツ子:槙の山荘の通いのばあや
小宮ユキ:田代と心中
立花梧郎:茂樹の父, 指揮者, 作曲家, 津村の師匠
沢村文子:茂樹の母, ピアニスト
篠原克巳:新現代音楽協会理事
須藤:三河屋の店員
根津:キャンプ場の管理人, バーのマスター
松村まさる:Q大生
藤田欣三:同
樋口基一:操の夫
房子:樋口家の女中, 基一の愛人
南条誠一郎:国際的弁護士, 金田一の郷土の先輩
近藤:軽井沢署刑事
古川:同
山下:長野県警警部
一時期ほどではないかも知れぬが、鳳千代子と言えば大スターである。バイタリティー溢れる彼女は戦中・戦後の混乱もなんとか乗り切り、今また新たな恋で話題を集めていた。「また」というのも、彼女には4度の結婚歴があるからである。しかしこの経歴にもかかわらず、彼女の評判はそう悪くはならなかった。それは彼女の態度が率直で、離婚についてもどれも暗い影を感じさせない円満なものであったからであろう。
数々の結婚生活の中で、千代子は最初の夫・笛小路泰久との間に娘・美沙を授かっていた。ある意味幸運だったのは、笛小路家には跡取りがなかったため、泰久と駆け落ちした千代子の子といえども厚遇されたことである。その結果、二人の入籍も許され、美沙は祖母・篤子に引き取られた。
終戦後、1年2ヶ月ぶりに千代子が美沙と再会したとき、笛小路家と千代子の立場は逆転していた。笛小路家はすっかり没落し、もはや千代子の旺盛な生活力に頼るしかなくなっていたのだ。泰久と言えば、彼は戦前には二枚目俳優として鳴らしていたが、その後の大衆の好みの変化に対応できず、映画界から見限られていた。そして二人はお互いに状況を理解し、円満に別れたのである。
それからも千代子は結婚遍歴を重ねることになるわけだが、その4度目の離婚の年に、泰久が泥酔した挙句、夜のプールに飛び込んで死亡したのだ。その前年には千代子の2番目の夫・阿久津謙三が交通事故死しているのだが、その命を奪った車の運転手は未だ判明していない。一部の刑事の間では、それらを連続殺人事件と疑う声もある。
泰久の死の翌年、千代子の3番目の夫・槙恭吾が自分のバンガローで死体となっていた。彼が突っ伏した机の上には赤と緑のマッチ棒が置かれ、そのいくつかは途中で折られていた。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
分量的にはかなり重厚。まあ、内容もそれに見合ったものだろう。「まあ」と、ちょっと歯切れが悪くなってしまうのは、本作もいつものごとく大量の登場人物たちの複雑な人間関係を明かすことに多くの筆が費やされ、事件の真相解明というよりも人間関係の把握のために読んでいるような気分になるためだ。各章の要点を記すために読み返してみたら、そこに多くの手掛かり・伏線が張られていることは充分わかったのだが、初読の際は、特に前半がキツかった。(ある程度の人脈図を把握した後の後半はテンポ良く読めた) 登場人物の数はそう変わらなくても、新本格の連中のほうがなぜかその設定はすっきりしてる気がするw
謎解き物として不満な点はほかにもある。特に大きいのが、終盤にようやく得られる藤村夏江の証言だけで事件の真相の重要な部分がほとんど明かされてしまうこと。つまり警察の手落ちによりたまたま見逃されていた彼女をもし真っ先に取り調べていれば、これはすぐに終わってしまう話なのだ。…ちょっと虚しくなるw
犯人ではない人物による、おかしな…というか作者の筋書き上の御都合主義な行動も目立つ。槙の死体とともにマッチを移動させたこととか、津村の死体を隠したこととか…。そもそも死体移動自体がページ数稼ぎみたいに思えるんだよなぁ。
プロローグとエピローグは綺麗にまとまっていて好きなんだけどね。
[プロローグ] 田代信吉・小宮ユキ、心中を試みる。田代、助かる。ユキ、死亡。
[第1章 大貴族の朝の食卓] 飛鳥忠熈の別荘・万山荘。台風直撃。笛小路美沙からの電話。美沙、台風を怖がっている。秋山卓造、美沙とは反りが合わない様子。
[第2章 役者は揃ってた] 去年の話。笛小路泰久、軽井沢のプールにパンツ一丁の姿で浮かんでいる。飲酒による精神錯乱が原因の事故として処理された。死体に性交の跡あり。
[第3章 考古学者] 金田一耕助、的場英明・村上一彦と出会う。槙恭吾が死に、その調査に呼ばれたことを説明する。
[第4章 女と考古学] 秋山の運転する車内。泰久が入水する前に泊まっていた白樺キャンプのドッグ・ハウスを通過。泰久は笛小路篤子・美沙を避けていたため、割と近くにある、彼女らの滞在する笛小路家の別荘には泊まらなかった。泰久は泥酔し別荘を訪ねたが、篤子が不在だったためドッグ・ハウスに引き返した。その途中にプールに入って死んだ。
[第5章 マッチのパズル] 槙の山荘のアトリエ。槙の死体は椅子に座り、茶托に突っ伏している。青酸カリによる毒殺。死体のズボンの尻に蛾の鱗粉。停電のため立てたと思しき蝋燭の位置が不自然。腕の下にマッチ棒が21本。赤いマッチが7本。4本は途中で折れている。緑のマッチが14本。7本が途中で折れている。
[第6章 蛾の紋章] 鳳千代子、泥酔した泰久が死の直前に電話で「津村真二から話を聞いた」と、彼女を脅迫したことを明かす。千代子には何のことなのか心当たりがないという。忠熈、槙殺害の夜に外を歩き回ってライターを紛失したことを明かす。
[第7章 楔形文字] 槙の車のトランクのスペア・タイヤに押し潰された蛾の死体。槙の死体はトランクに押し込まれ、別の場所から運ばれた可能性。
[第8章 箱根細工] 阿久津謙三の死は何者かも知れぬの暴走ドライバーによる不幸な交通事故とされている。等々力警部、軽井沢へと向かう途上、偶然に篤子と知り合う。篤子、箱根細工の小箱を落とす。等々力、それを拾い上げて渡す際、篤子に狼狽の色が見えたのを見逃さず。
[第9章 A+Q≠B+P] 泰久は死ぬ前に田代と話し込んでいた。泰久の在在していた第17号ハウスの調査。壁に落書き。「A+Q≠B+P」 「Sasuke」
[第10章 祖母と孫] 等々力警部、秋山・村上が忠熈の忠臣と知る。笛小路家の別荘の外にサングラスをした黒ずくめの男が目撃される。美沙、絢爛たる色の配合の刺繍を村上に見せた話をする。篤子、いつもまるで叱責するかのように美沙に厳しく当たっている。
[第11章 師弟関係] 津村が知人らしき女性から電話を受けたことがわかる。女性の正体は不明。田代は津村の弟子。近頃の津村はわざと悪党のような振る舞いをするが、根が善良なのでまったく付け焼刃。黒ずくめのギャングのような格好をしたりもする。
[第12章 考古学問答] 槙殺害現場にあったマッチ棒について。楔形文字ではなさそう。
[第13章 目撃者] 津村は樋口操のバンガローを借りている。そこにも彼の姿はない。田代が訪れた痕跡あり。
[第14章 青酸加里] 津村のバンガロー内の椅子に蛾の鱗粉。
[第15章 操夫人の推理] 操、藤村夏江がまるで連続殺人犯であるかのごとく彼女をチクチク突付く。
[第16章 万山荘の人びと] 万山荘に関係者たちが集まっている。皆が金田一と対面する。
[第17章 下司のカングリ] 美沙は槙が死ぬ少し前に彼や津村と会っていた。美沙は小児喘息のために小学校を途中で辞めて以来、篤子により家庭で教育されている。美沙、阿久津謙三に輸血され命を助けられたことがある。
[第18章 誰が青酸加里を持っているか] 青酸加里の持ち主についての考察。特に有益な結論は出ず。槙は生前、忠熈に会いに来たが、何か言うに言いそびれたことがあった様子。
[第19章 佐助という名のピエロ] 千代子には結婚前に“佐助”とあだ名される、高松鶴吉という知人がいた。彼はデビューしたばかりの千代子の付き人のような存在だった。鶴吉は出征する直前、千代子にキスを求め、彼女はそれに応えた。その場面を泰久に見られている。鶴吉は戦死したとされている。
[第20章 グリーンは知っていた] ゴルフ・コンペ。美沙の色盲が発覚。
[第21章 霧海] 忠熈、狙撃される。犯人である黒ずくめの男は逃亡。秋山、その後を追う。忠熈、救急車で搬送される。忠熈の血液型はAB型、千代子はA型、阿久津はB型、泰久はO型。秋山も狙撃され負傷したがそのまま追跡を続行し、行方不明となる。
[第22章 ライター] 忠熈のライターが桜井の別荘のポーチの手摺の上で見つかる。桜井熈子、津村と密会していたことを認める。忠熈はちょうどそのときそこを訪れて、それに勘付いていた。
[第23章 もうひとりの女] 泰久は死の直前に、藤村夏江によって尾行されている様子だった。「A+Q≠B+P」の落書きは、「A+O≠B」に後から修正が加えられたもの。血液型がA型の千代子とO型の泰久からはB型の美沙が生まれない、つまり美沙は千代子と泰久との間の子ではないことを津村が知り、それを泰久に打ち明けたものと思われる。
[第24章 操夫人の冒険] 津村のバンガローの隠し戸棚から、津村の死体が発見される。
[第25章 尾行] 夏江、泰久を尾行した話をする。泰久は笛小路家の別荘を訪れ、少女を強姦していた。その後、立ち去る泰久の後を少女は追った。少女が引き返した後、プールには泰久の死体が浮いていた。
[第26章 悪夢] 夏江の目撃談。津村の別荘を槙が訪れる。その外に家の中を覗く田代が現れる。少女が家から飛び出し、去る。田代がその後を追う。目撃談はここまで。金田一、折れたマッチ棒の説明。
[第27章 崖の上下] 忠熈、どうやら命を取り留める。篤子、千代子に茶を淹れる。
[第28章 信楽の茶碗] 金田一、事件の真相を語る。
[エピローグ] 秋山、救出される。