金田一耕助シリーズの短編。淵に浮かんだ全裸死体。人面瘡にまつわる謎。[???]

金田一耕助:探偵
磯川:警部
貞二:宿の一人息子
柳:宿の隠居
松代:女中
由紀子:同, 松代の妹
万造:宿の使用人
田代啓吉:由紀子の古い知り合い
葉山譲治:松代の元婚約者



深夜に目覚めた金田一耕助は夢遊病らしき様子で歩いて行く女を目撃するも、さほど気にせずまた眠ってしまった。しかし自殺未遂があったと起こされ行ってみると、そこには先ほどの女が寝かされていた。その女――松代――の脇の下には奇妙なものがあった。それはまさしく人面瘡というもので、その皺がたまたま人間の顔のように見える程度の単なる肉腫などとは思えぬほどに人間の顔をしていた。しかもそれは松代の妹である由紀子の顔に似ているという。

松代は書き置きを残していた。そこにはこうあった。「あたしは今夜また由紀ちゃんを殺しました。由紀ちゃんを殺したのはこれで二度目です」

由紀子を殺し、しかも二度目とは面妖と、由紀子を捜すもなかなか見つからない。そしてついに発見された由紀子は、淵に全裸死体となって浮かんでいた。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



妹が殺され、自分こそがその犯人と信じた姉が自殺未遂し、その身体には妹の顔に似ている不気味な腫物が…という物語。人面瘡の正体についての考察は、それが事実なのか知らねども面白い。「妹に対する罪業感」については叙述トリック的な味もある。

由紀子殺害事件は手掛かりというか読者に対してのヒントがいくつかキーワードのように書かれているので、“犯人当て”ならそう難しくはない。

もっと枚数使っていれば、由紀子の事件に不可能性を加味したりして、そのトリックももっと活きたものと思われる。



(1) 松代、温泉宿に流れ着く。気立ての良い働き者として宿の女主人・柳に気に入られるも、その素性を決して明かさない。しかし柳が病に倒れ下半身不随になろうとも献身的に尽くす松代に対する信頼は高まるばかり。柳は密かに息子・貞二が復員したらその嫁になって欲しいとさえ思っており、貞二の復員後は実際その思惑どおりに事態は進展しつつあった。
(2) 松代の妹・由紀子も宿にやって来る。松代は妹を怖れてるかのような様子。由紀子の話から松代の過去が判明する。松代は家柄も良く、特に過去を隠すような理由も見当たらぬが、空襲で死亡した葉山譲治という婚約者がいたことから、結婚前に肉体関係を結んだことでも恥じているのだろうと柳は推測し、そんなことならまったく構わないと胸を撫で下ろす。
(3) 由紀子は多情な上に姉のものを奪い取らねば気がすまぬ性格。それは恋人についても同様で、彼女はいつもそうであるように貞二をあっさりと篭絡する。
(4) 田代啓吉、宿に客として現れる。以来、由紀子の様子がおかしい。それは由紀子がやって来たときの松代の反応に似ている。眼病に効くと言われる湯処に暮らしているにもかかわらず、由紀子は目を患ってしまったこともあり、塞ぎ込んでしまう。
(5) 由紀子が淵にて死体となって浮かんでいるとの報を受け、耕助たちは、宿に面した川沿いの道を急ぎ現場に到着。淵の柵には罠。寄り掛かるとすぐに壊れ、貞二は淵に落下しそうになる。
(6) 由紀子は溺死。全裸。脱いだ服はどこにも見当たらない。
(7) 松代はまれに夢遊病を発症する。そのため彼女は由紀子を殺したと思い込んでいたが、死亡推定時刻からそれは否定される。
(8) 松代には理由がまったくわからぬまま、昔からずっと妹に対する罪悪感のような感覚がある。また数ヶ月ほど前から脇の下に人面瘡が現れ、これが単なる肉腫のようなものではなく、あまりにも人間の顔らしく、しかも由紀子に似ていることから、さらに松代は神経質になっている。
(9) 松代はかつて夢遊病を発症した際に譲治を殺し、由紀子をも負傷させたとして、由紀子には強い負い目があった。ところがそれは松代の夢遊病をよく知る由紀子による咄嗟の策略だった。真相は由紀子が譲治との無理心中を図って由紀子だけが生き残り、たまたまそこに現れた松代に譲二殺害の罪を押し付けたというもの。
(10) 譲二殺害の真相を明かしたのは啓吉。啓吉がそんな由紀子の弱みを握っていたために、彼女は彼を殺して黙らせてしまおうと淵の柵に罠を仕掛けた。
(11) 耕助、由紀子を殺害した犯人を明かす。
(12) 耕助、松代の「妹に対する罪業感」の正体の推論を語り、後にそれは確かめられる。