ソーンダイク博士シリーズの短編集。科学捜査探偵。倒叙物の先駆け。[???]

ジョン・イヴリン・ソーンダイク:法医学者, 探偵
クリストファ・ジャービス:医師
ナサニエル・ポルトン:時計師, ソーンダイクの研究所の助手
ミラー警視:ソーンダイクの馴染みの警官
バジャー警部:同
ストーカー:グリフィン火災・生命保険会社社員

「パーシヴァル・ブランドの替玉」:偽造死体。
「消えた金融業者」:加害者が被害者に成り済ます。
「ポンティング氏のアリバイ」:遺産相続。アリバイ。
「パンドラの箱」:犯人による凝った策略。荷物の中に証拠品を仕込むトリック。
「フィリス・アネズリーの受難」:犯行の目撃。
「バラバラ死体は語る」:バラバラ死体。死体に残る証拠。
「青い甲虫」:暗号解読。宝探し。
「焼死体の謎」:遺留品からの推理。
「ニュージャージー・スフィンクス」:犯人が残した帽子。

※以下の反転表示部はネタバレ注意。




創元推理文庫の独自編集短編集の第2集。倒叙物とそうでないものを収録した形式は第1集と同様だが、似たようなプロットで、その出来にも疑問符が付くような作品が多いことが全体的な印象を悪くしており、さらにフェアプレイの観点で見ても点数を下げざるを得ないとなれば、余り物的な感も否めないw

また当時としては新しかったのであろうが、現代においてはまず思い浮かんですぐにその可能性が排除されるような、既に使い古されてしまった機械トリックが目立ち、その評価は難しい。





「パーシヴァル・ブランドの替玉」
パーシヴァル・ブランド:通貨偽造犯
ロバート・リンゼイ:ブランドのいとこ
ブラットル夫妻:ブランドの下宿先である油屋の主人夫婦



パーシヴァル・ブランドはかなり常識的で真面目な人物であるが、数少ないながらも非常識的な悪徳も持ち合わせていることは認めねばならない。その一つがたとえば紙幣の贋造である。彼は常識的で真面目な人物であるから、これがいつか自らの破滅を招くことは充分に理解しており、不安な日々を送っている。だがもちろん彼は有能な人物でもあるから、それを避けるべく、ある予備工作を仕掛けてもいた。

ここに登場するのがブランドのいとこであるロバート・リンゼイである。彼の外見はブランドとよく似ていた。異なる点を挙げれば、リンゼイの髪は砂色に近く、ブランドのそれは黒い。ブランドの左目の下にはほくろがあるが、リンゼイにはそれがない。ただリンゼイはチョッキのポケットに密かにほくろを入れて持ち歩いていた。

彼らは親密な間柄であるらしいが、よほど不運なのか、お互いの家を訪問するときはいつも相手が留守なのである。彼らの友情は大変なもので、ブランドに至ってはリンゼイの幸福に心を配るあまり、彼を遺産の受取人とする遺言を書き、高額の生命保険にも加入しているほどである。

ブランドは競売を好んでいるのだが、「開業医の外科用医療器具」と「人体骨格の完全セット」が出品されたときはことのほか興味を示し、手強いライバルもないままあっさりとそれを落札した。

ブランドはそれらを下宿先の自室に持ち帰ると、さっそく奇妙な作業に取り掛かった。骨を正確に組み合わせて接合し、別に買ってきた牛肉を削ぎ落したものを骨に巻き付け、兎の皮を頭部に載せた。そしてクリスマスの日、予定どおりにこの家に一人になると、組み立てた人体骨格に服を着せ、家じゅうに油を撒き――この作業においてガス灯が点けっ放しであっては引火の危険性が高いことに気づいたのは彼の賢明さを示すものである――、ガス灯の栓を閉め、暖炉の明かりを頼りにいくつかの糸玉に蝋燭を立てた。薪も焚き付けもきっちり準備されている。蝋燭に火を点けると、彼は家を出た。



椅子に腰掛けたまま激しく焼け落ちたらしき焼死体を残した油屋の火災は、そのまま単純な事故として処理されそうではあった。しかし保険会社としてはブランドの死亡保険についてはいいのだが、火災保険については放火の可能性を探りたいのである。そこでソーンダイク博士に白羽の矢を立てた。

ソーンダイクはすぐに不審な点に気づいた。それは保険会社が問題にしなかったブランドの死亡についてである。人体の燃焼状況に不自然な点が多いこともあるのだが、それ以上におかしいのはブランドは白人男性であるはずなのに、この骨が黒人女性のものであることだった。

そしてソーンダイクはガス灯の栓が閉じていることにも気づいた。この状態でブランドが椅子に腰掛け読書していたなどということはあり得ないだろう。

ところでそれからリンゼイはどうしたかと言えば、さすがに彼は友情に篤い男である。まるで当然のようにブランドの代わりに刑務所に入ったのはあっぱれと言うほかない。



兎の皮と牛肉を付けた人骨で焼死体として偽装とは、当時と今との科学捜査の差を強く感じるw




「消えた金融業者」
トマス・エルトン:画家
ソロモン・ゴードン:金融業者
ハイアムズ:ゴードンの事務員



カネを借りたトマス・エルトンと、そのカネを貸したソロモン・ゴードンとが一緒に歩いている。少し前までは堂々たる姿のゴードンに対して、エルトンはひたすらしょぼくれていたのだが、今ではまるで様子が逆転してしまっている。それはゴードンが足を滑らせて深い水溜りに落ちたからである。外見がみすぼらしさは中身にまで比例するのか、精神的優位性がゴードンからエルトンへと傾いたのだ。

とは言えやはりゴードンからカネを借りているというエルトンの立場は変わらない。代わりの服を貸せとゴードンに言われれば断ることはできず、連れ立ってエルトンの部屋に帰って来た。幸いになことに、近頃痩せ細ってきたエルトンと近ごろますます肥えてきたゴードンの体格は似通っており、ゴードンがエルトンの服を着ることには何の問題もなかった。

二人は部屋を出て、また一緒に歩き出した。エルトンとしてはゴードンと一秒たりとも一緒にいたくないのだが、話し合えばあるいは自身の窮状に理解を示してもらえるかも知れぬと思ってのことである。ところが歩きながら話すうちにお互いの感情がぶつかり合い、不幸なことにゴードンは崖から浜へと転落死してしまった。

臆病風に吹かれてすぐに自宅に逃げ帰ったエルトンだったが、不安は募るばかり。死体が発見されたらまずいことになるだろう。あるいは波が遠くへ運び去ってくれるだろうか?

翌朝、エルトンは浜へと向かった。死体は波に流され、近くの洞窟内に運ばれていた。死体の顔はどこかに激しくぶつかったらしく、原型をまったく留めていない。ここでふとエルトンは思いついた。死体は彼の服を着ていて、顔は誰のものかわからない。ならばポケットからいくつかの物を持ち去れば――



海辺の洞窟で発見された、トマス・エルトンという人物のものと判断された死体についての調査依頼をソーンダイク博士は受けた。この男が崖から転落死したことについては妥当のように思われるが、保険契約の際に診断された健康状態と死体のそれとの違いが少々不審だからである。

ソーンダイクはエルトンの死亡保険を請求しているハイアムズを訪れた。彼は旅行中で居所の知れないゴードンの事務員で代理人だという。ソーンダイクはハイアムズを問い質し、エルトンが書いた約束手形が盗まれたことを知った。ハイアムズはついに自身の推測を語った。あの死体はエルトンではなくゴードンのものではないかと。

ソーンダイクの申し立てにより死体を再調査した結果、それはエルトンのものであることが判明した。



むぅ…なんだこりゃ。エルトンは指輪を持ち去ることにも触れてるのに、実際にはなぜか死体の指に残したまま。どうしても外せず仕方なくといったところだろうけど、それならそれでその記述が欲しい。エルトン(?)がゴードンの事務所から手形を盗み出した理由もわからない。どんな利点があるんだ?

これを倒叙物として見るのもどうなんだろうという出来。解決編はほとんど形だけ付け足したような内容で、最初に真相に辿り着いたのはソーンダイクですらなく、彼は単にハイアムズから話を訊き出しただけみたいな…。結果的には彼の推理は事件の真相を掴むためのものではなく、その裏付けを取るためだけのものにしかなっていないことが、物足りなさを増大させている。




「ポンティング氏のアリバイ」
チャールズ・ミード:牧師
ミリセント・フォーセット:看護婦, チャールズの婚約者
ウィリアム・ポンティング:ミリセントの義兄
フレデリック・バーネット:ミリセントの従弟, 歌手
ジェームズ・バーネット:同, 演奏家, フレデリックの弟
バーネット夫人:フレデリックの妻



ミリセント・フォーセットの父がその財産を彼女一人に遺したため、彼女の義兄・ウィリアム・ポンティングは昔から不満を持っていた。そしてミリセントの遺言書に受取人として書かれた名前が従弟のバーネット兄弟であって自分ではないと知れば、ウィリアムの不満がさらに強くなるのも当然であり、ついには彼は彼女に脅迫の言葉を吐くようになった。

ミリセントの受けていた脅迫とは遺言書の書き換えの要求であった。つまりウィリアムに有利な内容にするということである。もっとも彼女は近々ミードと結婚するのだから、いずれにせよそれまでの遺言書は無効となり、また書き換えることになるのだが、どうやらウィリアムはそんな法律をつゆ知らず、バーネット兄弟の受け取り分を自分にも割くようにと彼女にしつこく要求していたのだ。

それを当の彼女自身はさほど深刻には捉えていなかったが、彼女の婚約者であるミード牧師からすれば看過できぬのももっともなことであろう。というわけで彼はソーンダイク博士に相談したのであるが、残念ながらほんの少し遅すぎたようである。ソーンダイクがミリセントの家に到着したとき、彼女は死体となっていた。

ウィリアムはアリバイは堅固だった。この日はウィリアムが原稿書きに忙しい日なので、隣家のバーネット兄弟は演奏を控える約束になっているのだが、彼らはその約束を破って大音量で楽器を鳴らし、大声で歌い始めたのだ。そこでウィリアムは隣家に向かい、戸口に立ったバーネット夫人に苦情を申し立てたのだ。それはすぐに聞き入れられ、彼が自宅に戻った頃にはすっかり静かになっていた。それがちょうどミリセントの死亡推定時刻なのである。



当然のことながらソーンダイクたちはバーネット兄弟の家も訪問し、ウィリアムのアリバイを確認した。ところでソーンダイクは事件現場の状況から犯人が複数であろうと推理していた。バーネットは二人の兄弟である。現場では犬、猫、猿の毛を採取している。バーネット家の者たちは動物好きらしく、犬と猫と猿まで飼っている。偶然にしてはあまりにも偶然である。

ソーンダイクが部屋の片隅に置かれてカバーを掛けられた機械を作動させると、バーネット兄弟の演奏と歌声が聴こえてきた。それは蓄音機によるものだった。ウィリアムのアリバイは、見方を変えればバーネット兄弟のアリバイでもあったのだ。



この作品が書かれた当時はまだ新しいトリックだったんだろうねー。今ではそこに一捻り効かせないとメイントリックとしては使えないw




「パンドラの箱」
サミュエル・チャップマン:宝石の販売員
ジョージ・チャップマン:サミュエルの兄
レベッカ・ミングス:サミュエルの同棲相手
ギャンブル:レベッカとは親密な間柄



サミュエル・チャップマンは散々な目に遭った。

ことが始まったのは商用旅行で滞在したホテルに宝石の入った荷物を預けてから。外出し、街の通りを歩いていた彼は舗道に財布が落ちているのを見つけ、警察に届けようとポケットに入れた。そして乗合馬車に乗ると、盛装した婦人も乗り込んで来て彼の横に座った。それから彼女はサミュエルを指して財布をすられたと騒ぎ始めた。警官がやって来て調べると、サミュエルのポケットには彼女の財布が入っていた。もちろんこれは拾った物とサミュエルは主張したが、あえなく彼は裁判まで拘留されることとなってしまった。ところが裁判の日が近づき、財布を取られたと告訴した女を裁判所が呼び出そうという段になると、女はどうやら逃げた模様。サミュエルは釈放された。

ようやく解放されたサミュエルが汽車に乗り新聞を広げると、そこには彼の名が書かれていた。それは彼が戻って来ない場合は彼の荷物を処分するというホテルからの伝言だった。すぐにホテルへ向かった彼を待っていたのはまたもや警官。彼の荷物の中から切断された左腕が発見され、その後の捜索で川から右腕や脚、彼の家の地下室から内蔵や皮膚も見つかり、彼は殺人犯として手配されていたのだ。被害者は腕の刺青から、サミュエルの同棲相手だったレベッカ・ミングスと見做された。

レベッカと特に親密な者と言えば、燻製にした首を売ったりするなど、奇妙な前歴も持つギャンブルという男だが、彼は妻帯者で彼女との関係はいつでも手を切れる程度のもの。レベッカにはこれと言って敵と呼べるような者はおらず、強いて彼女を殺すほどの強い動機を持つ者と言えば、彼女との仲が破綻し揉めていたサミュエルくらいなもの。しかも左腕が発見されたサミュエルの荷物は、壊さなければ開けられぬほどしっかりとした錠が掛かっていた。荷物部屋への出入りは容易だが、その錠をこっそりこじ開けて宝石を盗み出し、その代わりに死体の左腕を入れるとなるとまず無理である。



ソーンダイクは問題の左腕を丹念に調べ上げ、それがレベッカよりも身長の低い別人のものと推定した。刺青には生前ではなく死後に入れた跡が残っており、これもその推定を裏付けていた。

サミュエルの荷物の中に腕が入っていたことについても説明された。犯人は荷物部屋にあったサミュエルの荷物ごと衣装箱に入れて持ち去り、その代わりに腕を入れた同じ品を残して行ったというのだ。

サミュエルがすりの容疑で拘留されたのは、もちろんその間に犯人が工作を行なうためである。

レベッカのものとして偽装された死体があるということは、別の女が殺されているということ。ちょうどその頃、ギャンブルの妻は田舎へ出かけたという。

その後、ギャンブルとレベッカはテレサ・ギャンブルの殺害容疑で逮捕された。



スリ事件をでっち上げた女は誰なんだろう。素直に読めばそれはレベッカなのだが、サミュエルが彼女と気づかない――あるいは気づかないだろうと犯人が期待する――のは無理がある。ならば殺すつもりのテレサをどうにか口車に乗せて…?




「フィリス・アネズリーの受難」
ルーシー・ブランド:殺人の被害者
レナード・ブランド:ルーシーの夫
フィリス・アネズリー:ブランド夫妻の友人
ジュリアス・ウィックス:レナード出資の映画館の経営者
ブロディー:目撃証人
スタントン:同
メイフィールド:弁護士



5月の中頃の夜、ブロディーとスタントンという二人の労務者がレナード・ブランドの家の前を通り掛かったときのこと。彼らは見知らぬ男に呼び止められた。ブランドの家で何やら妙なことが行われているという。

その男に促されて窓のシャッターを見ると、そこには小さな穴が空いており、その2フィートほど横にももう一つの穴。とにかく覗いてみれば、なるほど中の様子が見え、奥のほうで二人の男女が床板をはがしていた。大きな包みのようなものも見える。そのときどうやら部屋の中には別の人物もいたようで、その人物が不意に穴の前に立ちふさがり、中の様子は見えなくなった。

そしてその人物が立ち退き、再び中が見えるようになると、女は覗き穴に近づき突っ立っており、ようやくブロディーとスタントンは彼女の顔を確認できた。それは彼らのよく知るフィリス・アネズリーだった。しかしまたもや先ほどの邪魔者が穴をふさぎ、次に中が見えるようになったときには女はまた奥のほうで床に跪いていた。

そこから先は邪魔者が穴の前を頻繁にうろうろしていたため、中の様子は途切れ途切れにしか見えなかったが、突っ立っている男の顔も目撃し、それはレナード・ブランドであったという。

作業が終わったときには大きな包みは消えていた。あれは何だろうとブロディーらは話し合い、貴重品でも隠したのだろうと結論した。

ところが後にレナードの妻・ルーシーの死体が床下から発見されると、ブロディーらがあの夜に目撃した出来事の持つ意味は急変した。まさにそのときレナードとフィリスがルーシーの死体を床下に隠したのだということで、彼らは殺人容疑で逮捕された。



ソーンダイクが注目したのは、ブロディーとスタントンの証言がまったく同一であることだった。彼らの覗いた穴は2フィート以上の間隔が空いているにもかかわらず、目撃したレナードやフィリスの顔の向きまで同一なのだ。ソーンダイクはそれぞれの穴から見える物、死角に入る物は異なるのに、ブロディーらの証言ではそれがまったく反映されいないことを示し、彼らは真犯人の撮影による映画を見せられたことを証明した。はっきりと顔が確認できたときのフィリスやレナードがただ突っ立っているだけだったのは、それが写真を元にしたものだったからである。



覗き穴の間隔は2フィート以上。“第三の人物”によって二つ同時に塞がれるとは考えづらい。通り過ぎた程度にしては中の様子が急に変わり過ぎだし。もし“第四の人物”もいたとするなら目撃情報も成り立つが、二人の人物が同時に二つの穴を塞ぐというのは不自然で怪しすぎる。




「バラバラ死体は語る」
ジェームズ・マンフォード:化学研究者
マンフォード夫人:ジェームズの妻
ステファン・ビルスキー:宝石商, マンフォードの友人
クラインズ:金貸し
エリオット:同
ハードマン:弁護士



とある研究室で爆発事故が起きた。火災はすぐに鎮められたものの、室内には死体の各部品がバラバラに吹っ飛んでいた。各部品はそれぞれ激しく焼けた箇所もあればそれほどでもない箇所もあり、顔は骨まで露出している。右の腕と脚などは全体的に比較的損傷の激しい部分だった。

事故の少し前には研究室には二人の人物がいた。この部屋を与えられた研究者のジェームズ・マンフォードと、その友人のステファン・ビルスキーである。警備員の話によると、ビルスキーが階段を下り、外へ出ていく足音を聞いたという。ビルスキーは右足が不自由なので、その歩き方は特徴的なのだ。それから誰かが階段を上る音は聞いていない。

というわけで被害者はマンフィールドであることに特に疑いはなかったのだが、問題なのは彼の生命保険金である。マンフィールドはビルスキーからしょっちゅう宝石を買っていたらしい。その代金なのか、クラインズという人物から大金を借り、その返却のために生命保険を担保としてエリオットという人物からまた大金を借りていた。つまりもしマンフィールドが自殺だとすると保険金は支払われず、遺されたマンフィールド夫人は借金で破産してしまうのである。そして自殺と見做される可能性は低くはないということで、そうであろうとなかろうととにかく事実をはっきりさせるという条件で、ソーンダイクは調査の依頼を受けた。



ソーンダイクは死体の左手の甲の部分に残る汚れた指の跡に注目した。それは左手の指の跡であった。左手の甲に左手の指の跡――それはつまり被害者とは別人が付けた跡なのだ。そして火災直後に発見された死体にしては燃焼度合いが激しすぎた。これは火災以前に死体はそのように処置されていたことを意味し、それが行われたのは現場に二人の人物がいたとき。ならばビルスキーがマンフィールドを殺害し逃亡したのかというのは早計である。ビルスキーには死体を火災前に焼く必要などないのだ。

死体の各部品を観察すれば、それは丹念にビルスキーの特徴が消されていることがはっきりする。つまり事実は逆で、マンフィールドがビルスキーを殺害し、それを自身の死体と見せ掛けるつもりだったのである。保険金の受取人であるエリオットなる人物はマンフィールド自身なのであった。



ジャーヴィスのワトソンっぷりが光る。オチも含めてモロにホームズ物っぽいw




「青い甲虫」
ジェームズ・ブローグレーヴ:
ネリー・ブローグレーヴ:ジェームズの娘
サイラス・ブローグレーヴ:ジェームズの曾祖父
ルーベン・ブローグレーヴ:サイラスの弟
ウィリアム:サイラスの息子
アーサー:ルーベンの孫
ハロルド・ボーカー:アーサーの甥



ジェームズ・ブローグレーヴ宅から証書保管箱が盗まれたが、後日、手紙とともにその中身が返還されたが、ガラスの甲虫だけはしばらく預かるという。その甲虫は瑠璃のようにも見えるがまったくの模造品で、金銭的価値はないに等しい。しかしそこには何か意味ありげなエジプト象形文字が刻印されているのだ。

この甲虫の由来はジェームズの曾祖父・サイラスの代まで遡る。サイラスは弟・ルーベンとともに私掠船を指揮しており、莫大な財宝を手に入れた。その大部分は売り払い、サイラスとルーベンとで山分けしたのだが、手許に残した宝石の所有を巡っての争いで、サイラスはルーベンを殺してしまったらしい。ルーベンの死体と宝石は何処かへ消えた。その後、サイラスは息子・ウィリアムに手紙とこの甲虫を遺して死んだ。その手紙にはルーベンの死体と宝石の隠し場所をほのめかしているような文章が綴られている。しかしウィリアムとしてはルーベンの死を巡る醜聞を蒸し返したいはずもなく、甲虫はほとんど放って置かれたまま、ジェームズに受け継がれたのである。ジェームズはたまたまエジプトの考古学者が近くを訪れた機会に甲虫を観てもらったところ、安価な模造品であることは間違いなく、刻印された象形文字は無意味に並べられたものに過ぎないとの結果を得ている。



ソーンダイクは象形文字をアルファベットに置き換えた。するとそこにはルーベンの死体が埋められた場所がはっきりと記されていた。エジプトの考古学者がそれを無意味な文字列と判断したのは、彼はほとんど英語を知らず、エジプト語として読んでいたからである。

さらにソーンダイクは文章の中にある方位にも気を配った。それというのもサイラスの時代と今とでは羅針盤の指す“北”にずれが生じるからである。彼は本当の“北”と、サイラス時代に羅針盤が指す“北”、そして念のために現在の羅針盤が指す“北”から求められる3通りの地点、中でも特に第一の地点を候補とし、見事正解を得た。ルーベンの死体と宝石は、長い時を経てようやく掘り起こされたのである。



窃盗事件の解明も含まれるが、本筋は宝探しもの。考古学者が解読できなかったのは英語に通じていなかったからという説明はちょっとひどいw ポオの“黄金虫”を意識してないはずはないだろうけど、さすがにあれほどに凝ったものを書く気はなかったようで、謎解きはあっさりしてる。




「焼死体の謎」
レジナルド・リード:株式仲買人
ウォルター・ジャーマン:リードの共同経営者
アーサー・ジェラード:リードの生命保険金の受取人



牧草地の火災の後、そこに一つの焼死体が残された。現場には燃えずに済んだイニシャル入りの金属製の装飾品やクレイ・パイプなども落ちており、死体の主はレジナルド・リードと判断された。保険会社のストーカー氏にとって重要なのは、それが事故なのか自殺なのか、あるい他殺なのかということだった。もし自殺ならば保険金を支払わずに済むからである。

そこでいつものようにソーンダイク博士の出馬となった。彼は現場を調べると、そこにもう一人の人物がいたことを見て取り、他殺の線の可能性が高まった。ところでこの事件の頃からリードの共同経営者のジャーマンが姿を消していた。



ソーンダイクは現場に落ちていた歯床に煙草のヤニが付いていないことに気づいた。クレイ・パイプを用いる人物は、強い煙草を吸うヘビースモーカーである場合が多いのだから、この歯床はリードのものではない可能性が高い。歯床と死体の頭蓋骨とはぴったりと適合するだから、すなわち死体もリードのものではないと推定される。そこでジャーマンの歯を治療した歯科医に確認すると、案の定それは彼のものであった。

現場の遺留品はイニシャル入りの品物やクレイ・パイプなど、すぐにリードのものとわかるものばかり。まずソーンダイクはそこに作為の疑いを抱いたのである。

それではリードはいったいどこへ…という問いにもソーンダイクは明快に答えた。リードの保険金の受取人と名乗るジェラードこそがリード自身だったのである。



身元を偽装した死体と保険金を自身で受け取るネタは作者の好みなのかねぇ。このパターンがちょっと多すぎる気がするのだがw 保険会社のストーカー氏によるトボけたオチはウマいし面白いw 明らかにこのオチをつけるために犯人の扱いがいつもと違うのはご愛嬌。




「ニュージャージー・スフィンクス」
ディナナス・ビラムジ:ルビー専門の宝石業者, 殺人の被害者
ハイレー:冶金工, クリフォード・インの3階の住人
キャリントン:クリフォード・インの2階の住人
“ニュージャージー・スフィンクス”:凶悪犯



ディナナス・ビラムジ殺害現場には帽子が残されていた。おそらく犯人は自分の帽子と間違えてディナナスの帽子を被って逃げたのだ。ヘッドバンドの裏を探ると折り畳まれた紙片がたくさん出てきた。ほとんどは新聞の切り抜きばかりだったが、ガスストーブの料金表や破けた封筒などもあった。封筒の宛名の「――n――don, W.C.」という部分はかろうじて読み取れた。それから半分にちぎれた何かのリストらしき紙片の文字は「――el 3 oz. 5 dwts.」「――eep 9 1/2 oz.」と読めた。帽子の埃からは酸化鉛が検出された。

警察はこの殺人犯を“ニュージャージー・スフィンクス”という単独凶悪犯によるものと睨んだ。ただしこの犯罪者については、紋様が不鮮明な指紋のほかには、モジャモジャの髪の毛と尖った顎髭の姿――今もその姿のままとは限らない――を捉えたスナップ写真程度しか手掛かりがない。



封筒の宛名の「――n――don, W.C.」という文字からは、ロンドン西中区(London, W.C.)にある“n”を含む地名が推測される。そして紙片に書かれた「――el 3 oz. 5 dwts.」「――eep 9 1/2 oz.」というのは、金細工などに関わりがある者が使うものなのだ。帽子の埃に含まれた酸化鉛もそれを補強する。ガスストーブも冶金には必須である。

その材料を元にソーンダイクはクリフォード・インのハイレーという冶金工に目を付けた。そこでその貸部屋を訪れると、ハイレーの不在を預っているというシャーウッドがいた。ソーンダイクは彼にちょっとしたテストを仕掛け偽冶金工と見抜いた。本物のハイレーは既に殺され、室内にある設備で細かい破片となっていた。

帽子は複数の人物によって被られたものであろう。なぜならわざわざ紙の詰め物をしなければ頭に合わないような帽子を新たに購入するなどまずないから。つまり犯人は元々別人の帽子を被っていたのである。



ちょっとわかりにくい話だ。犯人の意図がいまいち理解し難い。姿を消した2階に住む架空の別人(キャリントン)を警察に追わせようという計画はともかく、そのすぐ上の3階の貸部屋(ハイレーの部屋)に潜むというのはどうなんだろう。ディナナスの帽子を2階の部屋に残したということは、犯人はそれが証拠品となっていることは充分理解しているわけで、もし警察がやって来るとすれば、殺害現場に残された帽子がハイレーのものであることを既に掴まれていると考えるのが自然。だったら当然警察はそのまま3階のハイレーの部屋を訪れるのは当然なのに、その部屋に犯人が潜むというのはどう考えてもおかしい。「犯人の予想よりも警察が来るのが早かった」というのはあまりにもお粗末…。

そもそもその行動は細心で、なかなか尻尾を掴ませないような犯人なのに、帽子を取り違えて証拠品を残してきてしまったことに気づいた時点ですぐにその居を離れないことにも違和感がある。

ソーンダイクが偽名を用いているが、選りに選ってなぜポルトン…。それは彼の助手の名前じゃないかw

これも成り済ましトリックだな。この作者はホントにこれが多い…w