館シリーズの長編第6作。記憶喪失の人物が持ち込んだ、“黒猫館”での事件が記録された手記。関係者の話や、手記から、その所在地を探索する。他殺なのかどうかも判然としない事件。地下室に塗り込められていた白骨死体。(「・ω・)「にゃおー [???]
鮎田冬馬(あゆたとうま):“黒猫館”の管理人
風間裕己(かざまゆうき):“黒猫館”の所有者の息子, M**大学の大学院生, ロック・バンド“セイレーン”のギタリスト
氷川隼人(ひかわはやと):裕己の従兄, T**大学の大学院生, “セイレーン”のピアニスト
木之内普(きのうちしん):裕己の友人, “セイレーン”のドラマー
麻生謙二郎(あさおけんじろう):裕己の友人, “セイレーン”のベーシスト
椿本レナ(つばきもと):旅行者
天羽辰也(あもうたつや):“黒猫館”の元所有者, 元H**大学助教授, 生死不明
理沙子(りさこ):辰也の養女, 生死不明
神代舜之介(くましろしゅんのすけ):天羽の友人, 元T**大学教授
浩世(ひろよ):舜之介の孫娘
橘てる子(たちばなてるこ):天羽の元同僚, H**大学教授
足立秀秋(あだちひであき):“黒猫館”の所有者の当地での代理人
江南孝明(かわみなみたかあき):“稀譚社”の編集者
鹿谷門実(ししやかどみ):推理作家
手元にある一冊のノート。記憶を失った私に残された手掛かりはそれだけだった。それはどうやら、私自身が書いた手記らしい。そこには“黒猫館”という屋敷で起こった事件の経緯が綴られている。“鮎田”――それが私の名前のようだ。なぜ私はこんな物を持って、ホテルに滞在などしていたのだろうか。手記には1年ほど前、1989年7月の出来事と思しき話が書かれている。
私(鮎田)が管理する“黒猫館”に、所有者の息子と、その友人たちが来訪する。風間裕己、氷川隼人、木之内普、麻生謙二郎。彼らはロック・バンド仲間ということで、いかにもそんな様子だ。彼らは到着するや否や、一人旅をしていた女性――レナ――を屋敷へと連れ込んだ。その女性もかなりなものらしく、その夜すぐに破廉恥なパーティーを開いていた。
翌朝、様子がおかしい。誰も現れない。彼らがパーティーを開いていた広間は固く閉ざされたままだ。昨夜、あれだけ大騒ぎしていたのだから、今頃は疲れ果て、そのまま中で眠ってしまっているのだろう。
正午を過ぎても彼らは起きて来なかった。さすがに少々不安を感じ始めた頃、叫び声が上がった。
広間へと向かい、その中の騒ぎを聞き付けた私は、中の連中に声を掛け、なんとかその扉を開けさせた。中を覗くと、そこにはレナの死体が転がっていた。彼女の首にはスカーフが巻き付けられ、その皮膚に食い込んでいる。
広間は密室であった。この室内にいた四人は皆、彼らのうちの誰かが彼女を殺したのだろうと思い至ったらしいが、麻薬で酩酊していたため、誰も確かな記憶を持っていないようだ。
彼女の所持品や、彼女と話した内容を検討した結果、この場の者以外に彼女の行方を知る者がいる可能性は低いと思われた。私たちは、彼女の死体を地下室に塗り込め、事件ごと隠滅してしまうことにした。ところが地下室の壁を崩すと、既に空間があった。そしてそこには白骨化した死体が置かれていたのである。この際、白骨死体のことは構わずに、レナの死体もそこに隠すことにした。
そして、麻生が死んだ。内鍵を掛けたシャワー室で首を吊っていた。レナを殺したのは自分だという内容の、遺書らしき紙片も残されていた。彼の行方を知る者は多い。レナと違って、さすがに彼の死を隠し切るのは難しいだろう。レナの死が露となる紙片は処分し、警察に通報した。麻生は最愛の母を亡くしたばかりなので、動機もあり、自殺としてあっさりと処理された。
推理作家・鹿谷門実は鮎田という老人から手記の話を聞いた。“黒猫館”を建てたのはかの建築家・中村青司だという。鹿谷と青司とは、もはや因縁浅からぬ間柄である。鹿谷はさっそく調査を開始する。とにかく“黒猫館”の所在地の特定こそ重要である。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
今回は登場する死体の数が少ないw 手記の中の事件そのものの謎のほかに、その舞台となった“黒猫館”の所在地探しも重要なテーマ。作中の本来の目的は手記の記録者である鮎田冬馬が何者なのかを探ることなのだが、そっちは割と早くタネが割れてしまうだろうw
さて、問題の手記なのだが、“私”である鮎田の、事件現場での調査は奇妙なほどに手際が良い。ここを不自然に思わぬ読者がほとんどいるはずもなく、作者にも積極的にそこを隠す意図はないと思われるw 主題となる謎は、残りの20%ぶん、“黒猫館”の所在地についてなのだ。
鮎田はその手記の冒頭で、「如何なる虚偽の記述をも差し挟まない事」を誓っている。つまりそこに嘘はないが、読者が勝手に誤解するような記述がなされているということ。記述者自身にとっては書かずとも当たり前のことゆえに、読者にとっては重要なデータが省略されてることが、誤解を作り出している。まるで「間違いをいくつ見つけられるかな?」というゲームであるかのように、手掛かりがいっぱい散りばめられているw
今回の“館”は、これまでのものの中では比較的シンプルなほうで、恒例の隠し扉の果たす役割も小さく、居住性から見ても普通っぽいが、ある意味、最もスケールの大きなものと言えないこともないw
(1) 1989年8月。鮎田が管理する“黒猫館”に滞在しようと、所有者の息子・風間と、彼の友人たち、総勢4名がやって来た。彼らを迎えに行き、車に乗せる。氷川は礼儀正しい青年だが、他の者は何が面白いのか看板や標識を指差してははしゃいでおり、どうにも子供っぽい。鮎田、まともに話せそうな相手は氷川だけと判断。
(2) 屋敷に到着。広間には少女の絵画が飾られている。それは「AMO」と署名されており、彼が自身の娘・理沙子を描いたもの。風間、木之内、麻生は麻薬遊びを行なう。
(3) 風間はいかにもな金持ちのドラ息子で、コンビニがないことに不満を漏らしたり、夕食の仔羊肉にちょっと表情を曇らせたりもしているが、態度の悪さはせいぜいその程度のことで、特にそれ以上文句も付けることもない。風間の従兄でもある氷川は「理性」を重んじており、それを失わせる麻薬を嫌っている。麻生は超常現象などに興味があるらしく、UFOの目撃話はないか、絶滅したとされる狼はいないのか、散歩に行きたいが熊は大丈夫かなどと、鮎田に尋ねてくる。熊なんていませんと鮎田が答えると、安心したのかようやくビデオカメラを抱えて出ていくといった具合。
(4) ドライブに出ていた風間と木之内がレナを連れてくる。
(5) 屋根裏部屋には覗き穴。鮎田、大広間の様子を見る。大広間では風間、木之内、麻生、レナが大麻パーティーを開いている。氷川もやって来た。本を手に取り、立ち去る様子の彼を、他の者たちが大きな飾り棚で入り口を塞ぎ、強引に引き留める。鮎田、寝室へと引き上げる。
(6) 翌朝、鮎田、広間へ向かうが、扉が開かない。前夜の出来事を思い出し、入り口を塞いだまま彼らがまだ中にいるのだろうと、立ち去る。彼らの部屋を見て回る。誰もいない。
(7) 叫び声。鮎田、再び広間へ。中が騒がしい。扉が開く。まず見えたのは、下着一枚の姿の風間と木之内。部屋の中央には、レナの全裸死体。麻生は右手奥の壁際に素っ裸で寝転がってる。氷川は階段の上の回廊の机に突っ伏して眠り込んでいる様子。レナの首には真っ赤なスカーフが食い込んでいる。死後硬直状況を確認。死後から少なくとも7~8時間と推定。彼女が死んだのは、鮎田が寝室へと引き上げた午前2時半から午前6時の間と限定した。密室内にいた彼らは事情がわからないと言う。
(8) 木之内、警察へ通報しようとする。氷川、それを止める。麻薬パーティーに加え、彼らしかいなかった密室内での事件。警察沙汰は好ましくないのは、彼らの麻薬使用を知りつつ放置した鮎田も同様。一同、ひとまず彼らのみで事件の検討を始める。
(9) 鮎田、昨夜の覗き見はとりあえず隠しておき、彼らから経緯を聞く。彼が目撃した出来事はほぼ確かめられる。麻薬での酩酊状態のまま、彼女との性交渉に臨んだ模様。彼女の希望によって、首を絞めたりもしたらしい。
(10) レナの所持品を調べると、彼女の本籍地や生年月日、身長などがわかった。名前は偽名を名乗っていた。風間らの話と合わせると、彼女は一人旅をしており、その足取りを知る者がいる可能性は低い。状況を検討した結果、この屋敷の所有者は風間の父であるため、他人の手に渡ることは防げることもあり、死体を地下室に塗り込め、事件を隠蔽することに。
(11) 地下室にはL字型でかなりの広さ。その奥には、最初からそうだったという、その向こうには壁しかない扉。適当な壁に穴を開けようと、ツルハシを振り上げる風間、バランスを崩し、扉の向こうの壁に激突。壁に穴が開き、その向こうに空間がある。調べてみると、それは廊下。奥に進むと、そこには人間の白骨死体。脇には小さな四つ脚の動物の白骨。死体は理沙子のものと推定。レナの死体もそこに置き、壁をまた閉じた。
(12) 広間に、地下室へと通じる隠し扉。しかしこれは広間側からしか開けられなず、何者から地下から開き、広間へ侵入することは不可能。
(13) 木之内、麻薬を使用し、パニックに陥ったらしく、家を飛び出す。既にすっかり天候は崩れているが、皆、服が濡れるのも構わず後を追う。彼を捕らえた後、氷川の提案により、玄関と厨房の、鍵なしには内側からも開かない扉を施錠。鍵は氷川が管理。
(14) 鮎田、冷蔵庫の故障に気づく。残っていた氷も使い果たす。
(15) 麻生が撮影したビデオの存在が思い出される。テレビに繋ぎ、再生する。氷川、カメラからカセットを取り出し、テープを引き千切る。鮎田に渡し、処分を依頼。そんなものが残っていたのでは、家じゅうの証拠を隠滅した意味がない。
(16) 翌朝、鮎田、玄関を確認。施錠されている。氷川、鍵を鮎田に返却。サロンに皆が集まってくるが、麻生が現れない。彼の部屋のシャワー(木之内の部屋との境目にあり、共用)がずっと使用中となっている。皆で部屋に入る。部屋に麻生の姿なし。シャワー室は両側ともに内鍵が掛かっている。扉と壁の間にはまったく隙間も見られない。氷川、シャワー室の扉の横のクローゼットを開け、中を検める。氷川、風間、体当たりで扉を開ける。鮎田、内鍵の状態を観察。糸の切れ端も、新しい引っ掻き傷も、蝋や煤といった付着物も残っていない。反対側のものも同様。排水口にも換気口に不審な点はなかった。浴槽の中には、首を吊った麻生の死体。シャワーから冷水が出ている。部屋には彼の遺書らしき紙片。
(17) 皆での話し合いの結果、麻生には自殺するような動機(最愛の母が死んで間もない)があるので、紙片は処分し、レナの件は伏せる形で警察に通報することに。警察は、麻生の死を単純な自殺として処理。
(18) 以上のような内容の手記を、鮎田が鹿谷のもとへと持ち込む。彼はホテル火災で記憶を失い、自分を知る手がかりがその手記しかないのだという。鹿谷、まずは“黒猫館”の場所の特定から始める。
(19) 鹿谷、黒猫館の最初の所有者である天羽の旧友・神代に接触。神代は天羽とは同人誌活動で知り合った。天羽は童話のようなものを書いていた。探偵小説を好んでいた。二年ほどの留学後すぐにH**大の助教授に採用されるなど、学者としては優秀だった。出産後すぐに死んだ妹の娘(理沙子)を引き取り、養女にした。神代が中村青司を紹介すると、彼の設計の別荘を阿寒町に建てた。神代はその正確な所在地までは覚えていない。青司は皮肉めいたふうに、天羽は“どじすん”だと言っていた。
(20) 天羽はしばしば“鏡の世界の住人”を自称していた。
(21) 鹿谷、橘と面会。彼女は留学先のオーストラリアから戻ってきたばかりの天羽が招かれたH**大の元同僚。天羽は天才肌で、学会では孤立していた。絵を描くことを好み、大学の自室でも描いていた。ルックスが良く、女子学生に人気があったが、本人は彼女たちに興味を示さなかった。妹を亡くしたときはひどく落ち込んでいた。以前からとても可愛がっていた理沙子を養女として引き取った。理沙子がもうすぐ中学へと上がる頃、彼女が行方不明となった後は、昼間から酒を飲むようになり、大学でも行動が問題視され、何処かへ去って行った。彼は前内臓逆位症。
(22) 鹿谷、阿寒町にて天羽の屋敷の情報を得て、その場所へ到着。中は荒れ果て、1年ほど前に書かれたはずの手記の内容とは、様子が少々食い違う。地下を検めてみると、扉の向こうに壁はなく、普通の廊下。白骨もない。