らふりぃの読書な雑記-74
館シリーズの長編第5作。時計だらけの屋敷、“時計館”で交霊会。少女の霊と、交霊会の参加者との間に因縁。出口を閉ざされ、神出鬼没の仮面の徘徊者によって、次々と殺されていく参加者たち。[???]

古峨倫典(こがみちのり):“時計館”の先代当主, 古峨精計社の前会長, 故人
時代(ときよ):倫典の妻, 故人
永遠(とわ):倫典の娘, 故人
由季弥(ゆきや):倫典の息子, “時計館”の現当主
足立輝美(あだちてるみ):倫典の妹, 由季弥の後見人
足立基春(もとはる):輝美の夫
馬淵長平(まぶちちょうへい):倫典の親友
智(さとる):長平の息子, 永遠の許嫁, 故人
野之宮泰斉(ののみややすひと):倫典の信頼を得た占い師
伊波裕作(いなみゆうさく):“時計館”の使用人, 故人
紗世子(さよこ):裕作の妻, “時計館”の管理責任者
今日子(きょうこ):裕作の娘, 故人
寺井明江(てらいあきえ):看護婦, 故人
光江(みつえ):明江の妹
長谷川俊政(はせがわとしまさ):古峨家の主治医, 故人
服部郁夫(はっとりいくお):倫典の部下, 故人
田所嘉明(たどころよしあき):“時計館”の使用人

小早川茂郎(こばやかわしげお):稀譚社が発行する雑誌“CHAOS”の副編集長
江南孝明(かわみなみたかあき):同新米編集者
内海篤志(うつみあつし):稀譚社写真部のカメラマン
光明寺美琴(こうみょうじみこと):霊能者
瓜生民佐男(うりゅうみさお):W**大学超常現象研究会の会長
樫早紀子(かたぎさきこ):同会員
河原崎潤一(かわらざきじゅんいち):同
新見こずえ(にいみ):同
渡辺涼介(わたなべりょうすけ):同
福西涼太(ふくにしりょうた):同
鹿谷門実(ししやかどみ):駆け出しの推理作家



大手時計メーカーの会長が建て、大時計を備えた塔を抱えていることで有名な“時計館”。地元では、「幽霊が出る」ということでも知られていた。その時計館にて、雑誌の企画として、霊能者・光明寺美琴を中心に交霊会を行なうことになった。参加者は美琴のほかには、雑誌の編集者たちと、W**大学超常現象研究会の会員たち、合わせて九人。

時計館は、大きく“新館”と“旧館”とに分けられる。新館は、文字通り新たに付け足されるように作られた部分で、現在の居住部となっている。旧館は半地下構造となっており、外壁に窓もなく、外部に通じているのは新館の廊下に繋がる扉のみである。今ではその内部には数多くの貴重な時計が置かれ、保管庫のようになっている。

今回の舞台となるのは旧館である。新館へと通じる扉を固く閉ざし、いよいよ交霊会を開始した。


広間のテーブルを囲み、美琴を含め、黒ずくめの九人が手を繋ぎ、輪になっている。美琴の指示により、全員がそれまで身に着けていた装身具を外し、彼女が“霊衣”と呼ぶ衣装を身にまとっていた。美琴――あるいは彼女の身体を借りた何者か――が言葉を発した。「私は永遠(とわ)です――真っ暗な穴――痛い、痛い――」


永遠――どうやらそれは、超常現象研究会の瓜生、河原崎、早紀子が幼き日に出逢った少女。記憶は曖昧ながらも、森の中で出逢い、家まで送った少女に間違いないらしい。早紀子は、先ほど新館で見掛けた彼女の弟・由季弥にも見覚えがあった。


深夜に目覚めた新米編集者・江南は部屋を出てトイレへ向かった。その帰り道、何か密かな物音を聞いた。状況が状況だけに、「まさか幽霊?」と考えるのも当然である。そちらへと足が向いた。

人影のようなものが去るのを見た――付いて行く――美琴が付けていた香水の香りを感じた――突き当りへと辿り着いた。

そこは立ち入りを禁じられている“振り子の部屋”の前だった。やはり鍵が掛かっている。しかし扉の向こうから、わずかに会話のような声が聞こえる。そのとき、突然に物が壊れるような大きな音がした。何かが倒れたような鈍い音も。そして、重々しい鐘の音が響いた。時計が午前三時半を打ったのだ。館内の時計が次々とそれに追随する。もはや夢ともうつつとも判断できぬまま、江南は恐怖から逃れるように、その場を立ち去った。


翌朝、江南が目覚めた。扉の脇の時計を見ると、もう午後二時である。すっかり寝過ごしたと、広間へと向かう。どうやらほかの者も似たようなものらしい。慣れぬ環境、それにあの時計の音とあっては、快適な眠りは期待できぬらしく、体調が優れぬ者も多いようだ。

江南は昨夜の体験のこともあり、ずっと気に懸かっていたのだが、広間に美琴の姿はなかった。そのうち誰もがそれを不審に思い始め、早紀子が様子を見に行ったが、部屋にもいないという。そこでようやく踏ん切りを付けた江南は、昨夜の体験を語った。

話を聞いた副編集長の小早川は、江南とともに問題の振り子の部屋へと向かった。なんと鍵は掛かっていない。中に入ると、そこには壊された時計が散乱している。美琴の姿はなかったが、置時計の一つと絨毯に血痕らしきものがあった。


とにかく何らかの事件はあったのではと、警察に知らせることで意見がまとまりそうだったが、一人、小早川の様子がおかしい。彼は呻くように言った。「鍵がないんだ。彼女に渡したんだ」

つまり、彼らは旧館に閉じ込められたのである。


早紀子は部屋でベッドに横たわり、森の中でのあの少女との出逢いを思い返していた。

――美しい少女だった――でもどこか翳りのある美しさだった――楽しく話してたはずだ――なのになぜ急にあんな顔をしたんだろう――「嘘!」――「信じられない」――いったい何があんなに興奮させたんだろう――急に呼吸を乱して苦しみ出した――私たちは彼女を家まで送り届けた――

早紀子は眠ってしまうつもりはなかった。ちょっと横になるだけのつもりだったのである。重い瞼を開けた。目の前には、ニヤニヤ笑いを浮かべた仮面があった。彼女は驚愕し、状況がまったく理解できなかった。彼女の上に覆い被さるようにしていた仮面の人物は、両手で持った置時計を振り上げていた。そして、その両腕が振り下ろされたとき、その顔は依然としてニヤニヤ笑いを浮かべたままだった。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



今回の舞台は、時計塔を抱えた“新館”と、螺旋を描くように部屋が配され、振り子をイメージした“旧館”から成る、時計づくしの館。時計が大量に置かれた旧館にて、連続殺人が行われる。単純な分量的には、これまでの「館シリーズ」で最も長い小説。

旧館内の出来事と、その外部の出来事を、同時進行のように交互に描かれていく構成にはもちろん事件の謎解き上の大きな意味があるのだが、両者の時間の流れを完全に把握しつつ読むのはなかなか難しい。終盤に、江南のメモを元にしたイベント進行表が提示されるが、あれを自力で細かく解析するような読者はいるのだろうか?w

倫典の詩と、それに付随するクライマックス場面なんてのは、事件の謎解きには本来は不要な部分だが、それも含めてギッシリ詰め込まれた本作に冗長さは感じない。「気まぐれ時計」の話を聞き出す場面は唐突だし、「島田潔」ではなく、「鹿谷門実」で通したことに、特に意味がない点には不満だが。(作者は「島田潔」という命名を後悔してたらしいし、良い機会だからこの際変えちゃおう、みたいな感じだったのかなぁ)

さすがにシリーズ五作目ともなると、常連読者のほぼすべてが「本作もまたアレなんだろ」と予想してるだろうから、犯人が神出鬼没でも誰も驚かないだろうというのは、本シリーズの弱点かも知れないw かと言って、アレがなけりゃないで、やっぱり物足りないww 作者にも、その辺りのジレンマはあるのかなぁ? 逆に、読者のその想定を利用するということもできるわけだが。

中村青司作の“館”のお約束を熟知してるはずの江南が、それになかなか気が回らないのは解せない。各人の孤立は絶対に避けるべきなのに、それを放置して、みすみす被害者を増やし続けてしまった。

そういや本作に限ったことじゃないけど、密閉空間に数人が集うと、ほぼ必ずと言っていいくらい、各人が単独行動して、一人また一人と殺されていくよね。殺人鬼かも知れない者と一緒にいるのは怖いという理由はもっともらしくはあるけど、見知らぬ他人同士ならともかく、よく知る者同士でも必ずそうなるってのはどうもねぇ。筋書きの都合と言ってしまえばそれまでだがw

本作で犯人が用いたトリックは面白くはあるのだが、手が込んでいる割に、その効果にはかなりの疑問符が付く。何せ犯行状況が克明に記録されたのは偶然みたいなもの。犯人は本来の標的以外の人物をも大量に殺してしまっており、記録者が最後まで生き残ったことすら幸運の産物と言わざるを得ない。下手すれば、これほどまでに手を掛けたトリックがすべて無駄になるところだった。もっとも、手間は掛かってるとは言え、それは既に用意されていた、非常に特殊な状況を利用したに過ぎないものであり、もし失敗したときは、ある人物に己の罪をなすりつけるだけで充分だったのかも知れない。



(1) 雑誌企画として、“時計館”での交霊会。参加者は霊能者の美琴、雑誌社の小早川、江南、内海、W**大学超常現象研究会の瓜生、早紀子、河原崎、こずえ、渡辺。渡辺は、急用の福西の代理。
(2) 一同、“旧館”に入る。出入口には頑丈な扉。鍵がなければ解錠も施錠もできない。中央広間の真上、高所に色ガラス張りの小さな天窓があるが、外壁には窓はない。各人が滞在する部屋の明かりは電灯に限られる。つまり、“新館”との境界となる扉の鍵がなければ、外部への脱出は困難。
(3) 交霊の儀式を行う。霊を自らに降ろした美琴、「永遠(とわ)」と名乗る。は倫典の死んだ娘。その言葉どおり、棚から鍵が見つかる。何の鍵なのか不明。美琴、その鍵を預かる。
(4) 江南、館内の懐中時計をこっそり持ち出し、所持。深夜に目覚め、美琴らしき人影を見る。入室を禁じられた“振り子の部屋”に向かった様子。室内から会話のような声や、物が壊れたような大きな音を聞いたものの、眠気のせいもあり、そのまま自室へ戻り就寝。目覚めた後、美琴が姿を現さないのを知り、前夜の出来事を他の者に伝える。
(5) 一同、振り子の部屋へ向かう。前夜は開かなかった扉が施錠されていない。室内の時計がすべて壊されている。室内に血痕。館内の鍵は美琴が持っていて、それも見当たらぬため、外部との接触ができなくなる。
(6) 早紀子、自室にて殺される。渡辺、物音を聞き、早紀子の部屋へ。室内から出てきた人物を彼女と疑うことなく近づき、殺される。現場にはそれぞれ壊れた置時計。
(7) こずえ語る。自室にノックの音。出てみると、仮面の人物が居る。付いて行くと、そこに渡辺の死体。仮面の人物は南側の部屋へと続く廊下を走り去る。そちらは行き止まりで、小早川、江南、内海の部屋と空き室が並ぶ。
(8) こずえはその後もその場で見張っていたわけではないので、仮面の人物が引き返して逆方向へ行くことも可能。仮面は新館の廊下に飾られていた物のようで、誰でもそれを入手できた。小早川、美琴とのヤラセ交霊会を認める。
(9) 内海、パニック状態で、自室に独り閉じ籠る。こずえ、自室へ。瓜生、河原崎、江南、振り子の部屋へ。小早川、広間に残る。
(10) 振り子の部屋にて紙片発見。赤いインクで「おまえたちがころした」 部屋の中にあるレコードは、ジャケットもレーベルもなぜか手作りの物。
(11) 助けを求める叫び声。広間に居た江南と瓜生、内海の部屋へ。内海の部屋の扉は固く閉ざされている。摺りガラス越しに揺らめく影。扉を破る。室内には内海の死体。凶器らしき壊れた置時計。ケースから引き出されたフィルム。カメラがない。影の主は見当たらない。
(12) 河原崎、自室にて死体となっている。現場にはやはり壊れた置時計。振り子の部屋にあったのと同様の紙片。「おまえたちがころした」
(13) 江南、元々は取材記録のために書き続けていたが、今や事件記録のようになってしまったノートを読み返す。犯人はまったく絞り込めない。
(14) 江南と内海の部屋とを繋ぐ隠し扉発見。他の部屋にも同様の仕掛け。外周の隣り合った部屋はすべて行き来可能。
(15) カメラ発見。壊されている。
(16) こずえ、廊下にて誰かに声を掛けられる。恐怖心でいっぱいのため、相手を確認することなく、逃げ出し、振り子の部屋へ入り込んでしまう。隠し通路が開いている。そこを通りぬけ、外へと通じる扉を開いた途端、異状に気づく。茫然とする背後から襲撃され、こずえが死亡。
(17) 小早川、ほとんどパニック状態。広間で暴れてる。こずえが振り子の部屋のほうへ行ったのを見たと語る。江南、小早川をなだめる。瓜生、こずえを捜しに行く。彼女は既に殺されているが、彼らがそれを知る由もない。
(18) 江南、瓜生を追う。振り子の部屋にて、彼は殺されていた。死体は写真を握っている。それは旧館の広間らしき背景に永遠と由季弥が写っているもの。江南、襲撃され、気絶する。
(19) 小早川、天窓を破っての脱出を図る。とても人間が脱出できるようなものではないが、もはや追い詰められた彼はそうせずにはいられない。殺される。
(20) 旧館の外部での出来事。鹿谷、福西と合流。ここ十年間での時計館の関係者の死について語る。それによると、1979年8月、永遠、病死。その責ゆえか、その後すぐに明江、自殺。同じ8月に今日子、病死。翌月、裕作、自身の飲酒運転から事故死。1980年9月、倫典、病死。1981年12月、長谷川、火災死。1982年3月、服部、交通事故死。
(21) 鹿谷、福西、時計館に招待される。
(22) 野之宮、納骨堂で黒マントの死神を見たと語る。
(23) 紗世子、鹿谷らに語る。永遠は不治の病のために20歳まで生きられるかどうかという身体だった。倫典はそんな娘の夢を叶えるために、16歳の誕生日に結婚を計画。永遠も、その相手となる智も、お互いを婚約相手として了承する。しかしその日の一年ほど前、付き添いの明江が目を離す間に、永遠は森の中で穴に落ち、顔に大きな傷を負う。彼女は自らの結婚式に着るはずだったウェディングドレスを切り裂き、それを身にまとい、鋏で胸を突き、自死した。記録上は病死とした。智はその後年に山で遭難事故死。
(24) 搭時計は、地元ではいつも勝手な時刻を指す、気まぐれ時計として知られている。現在は危険防止のため針を外してあるが、由季弥はそのネジ巻きを日課としている。光明寺美琴は光江の芸名。
(25) 福西、過去の記憶が蘇る。森の中で自分たち4人が永遠と出逢ったこと。皆で何かの話をしていたときに、急に顔色を変え、「嘘よ」「信じられない」などと言って、苦しみ出した彼女を家まで送ったこと。河原崎を落とそうと、穴を掘ったこと。彼女の家で葬儀が行われていたこと。福西、それぞれの細かい経緯や日付までは思い出せなかったので、10年前のカレンダーを作り、記憶の呼び起こしを図ると、そこに新たな謎があることに気づく。
(26) 江南、救出される。旧館内の時計はすべて壊されている。旧館内に残された死体は渡辺、早紀子のものだけで、内海、河原崎、小早川、瓜生のものはなくなっている。
(27) 納骨堂にて、こずえ、美琴、野之宮の死体発見。
(28) 福西、塔から突き落とされ、意識不明の状態で倒れている。
(29) 由季弥、転落死。
(30) 翌日、森の中に埋められている内海、河原崎、小早川、瓜生の死体が見つかる。