館シリーズの長編第3作。地下迷宮のような“迷路館”での連続殺人事件。老大家の遺言による、遺産を懸けた推理小説コンテスト。屋敷に閉じ込められた参加者たちが、一人また一人と殺される。現場に残る、彼らの書きかけ原稿と思しきワープロ文書は、自身の死の状況を暗示するかのような内容。[???]
宮垣葉太郎(みやがきようたろう):推理小説界の老大家, “迷路館”の主
清村淳一(きよむらじゅんいち):推理作家
須崎昌輔(すざきしょうすけ):同
舟丘まどか(ふなおかまどか):同
林宏也(はやしひろや):同
鮫島智生(さめじまともお):評論家
宇多山英幸(うたやまひでゆき):編集者
宇多山桂子(けいこ):宇多山英幸の妻
角松冨美(かどまつふみ):“迷路館”のお手伝い
井野満男(いのみつお):宮垣の秘書
黒江辰夫(くろえたつお)
島田潔(しまだきよし):推理小説マニア
夏風邪をこじらせて寝込んでいた島田に、一冊の本が届いた。それは鹿谷門実著「迷路館の殺人」と題されていた。彼がよく知る人物の書いた本である。しかもそれは現実に起きた事件、あの“迷路館”の殺人事件を題材にしたものであり、この著者も作中の登場人物の中の一人なのだという。いったいあの事件をどのように料理したのかと、島田は読み始めた。
推理小説の大家の宮垣葉太郎の還暦パーティーにて、集まった面々は彼の自殺を知らされた。彼は体を病んでおり、その生涯最後の趣向を目論んだという。内容はビデオ・メッセージで説明された。彼が特に目を掛けている四名――この場に集まった、清村、須崎、まどか、林――がそれぞれ自身を被害者とする殺人事件を用いた探偵小説を書き、それを評論家・鮫島、編集者・宇多山、そして推理小説マニア代表として島田の三名が判定するというものである。彼らはそれを了承した。宮垣の遺産を懸けたコンテストが始まった。舞台となるのは、この“迷路館”。地下に広がる迷宮のような構造の、奇妙な屋敷である。
外部との接触を禁じられた中、最初の事件が起きた。須崎が殺されたのである。血の海に倒れた彼の死体の首は深く切られ、千切れんばかりになっており、本来の頭部の位置には、なぜか水牛の頭部の剥製が置かれていた。そしてワープロの画面には、彼の書きかけの原稿と思しき文書が表示されていた。その内容は、彼の死の状況に酷似していた。これは見立て殺人なのだろうか。
いくら外部との接触を禁じられてのコンテストの最中とはいえ、ことは殺人事件である。コンテスト中止は避けたいと渋る者も無視して、宇多川は警察への通報を試みるも、電話は不通になっており、外部へ通じる玄関の扉は非常に強固な作りで固く閉ざされている。鍵は宮垣の秘書・井野が持っているはずだが、彼は買い出しに出掛けたのか、その姿を見せない。井野の部屋を訪れると、やはりそこに彼の姿がなかった。そこには免許証や財布が残されており、彼が買い出しに出掛けたとは認めづらい状況となった。彼がどうなったのかはともかく、それが意味するのは、残された者たちは、自力では屋敷の外へ出られないということだった。
そしてまた次の犠牲者が――
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
特に叙述トリック色の濃い作品だね~。本の構成や冒頭も、遊び心のある仕掛けがされてる。本編と言える部分は、作中の人物が書いた小説の内容という設定で、その中で一つの解決が示されるのだが、その後、それを覆す真相と、この小説(作中の「迷路館の殺人」)を書いた理由が語られるという筋書き。
海外翻訳ミステリの冒頭には、たいていは登場人物の簡単な説明が書かれている。作中で再登場した人物がどんな人物だったか、思い出せないことがしばしばある僕にとっては、かなり便利。登場人物の設定をまとめて見られるというのも、それぞれの関係を整理するにも楽で、とてもありがたい。ところが国産ミステリには、それがないものも割と多い。それが僕にはちょっとした不満となったりもするわけだが、時折、あえて登場人物表を書かなかったんだな、というのもある。つまり、登場人物の説明や関係図などを書くと、読者に大きなヒントを与えてしまうケースだ。特にこれは「フェアプレイ」を重んじるタイプの作品にとっては、意外なほど厄介なもので、近頃僕もこのブログに登場人物表を書くようになって、なおさらそれを強く感じるようになったw もし、いつもは登場人物表を書いてる作者がそれを書かなかったり、あるいはその説明が妙に曖昧だったりあったりしていた場合は、それ自体に大きなデータが隠されていると睨むべきだろうw
本作についての登場人物表を書くにあたって僕の筆を止めたのは、「黒江辰夫」。本作を読んだ者ならすぐに理解していただけるだろうが、この人物の説明は非常に書きづらい。いっそのこと、他の人物も名前だけにするか、あるいは逆に長文を書いて、重要なポイントだけを上手く隠すなどの方法もあるが、それはそれで怪しくなるだろうw で、結果として、彼だけは説明なしで名前だけになった。作者に倣って、彼の名を省いてしまったほうが良かったのかも知れないが、このブログは僕が自分の貧弱な記憶力を補完することを目的とした資料でもあるので…。
さてと、作品内容はまさにパズルで、ピースを組み合わせるようになっている。作中では須崎の首が切られた理由のほぼ核心を探偵役・島田が即座に突きつつも、登場人物について読者が誤解するように書かれているために、真相に辿り着きにくい。密室殺人が行われるが、すぐに秘密の通路を発見することにより、密室自体は謎ではない。要点となるのは、「なぜ犯人は、そこを密室にしてしまったのか?」→「時間的余裕がなく、密室を開放できなかった」というところ。屋敷の奇妙な構造を利用した清村殺害のトリックの扱いは、ちょっとあっさりし過ぎかな~。いずれ余裕ができたら、“館”の図面画像も作りたいところ。特に本作は、それがないと理解が厳しいw
鍵がないと内側からも開けられない扉というのは、利便性でも防災上でもどうかと思うw
(1) 推理作家たちが宮垣邸、通称“迷路館”での宮垣の還暦パーティーに招待される。招待客がすべて集まっても宮垣は姿を現さない。秘書・井野、状況を説明。宮垣は自殺し、その遺言により、彼の遺産を懸けた推理小説のコンテストを行なうという。参加者は推理作家の清村、須崎、まどか、林の四名、審査員は編集者・宇多川、評論家・鮫嶋、マニア・島田の三名である。一同はそれに同意する。客たちは井野に買い物などを依頼。清村は、自室“テセウス”に部屋名を示す青銅板がないことについて井野に尋ねる。井野、留め具が緩んだため外していると答え、もし不便なら代わりのものを貼ることを提案するが、清村はそれなら別に構わないと告げる。林、自身は親指シフトのワープロを愛用しているため、用意された「JISかな配列」のものに不満を訴えるもどうにもならず、諦めてそれを使用することにする。
(2) 応接間“ミノタウロス”にて、須崎、死亡。首はほとんど千切れかけており、直角に近い角度に曲がっている。本来の頭部の位置には、元々はこの部屋の壁に飾られていた水牛の頭部の剥製。警察に通報を試みるも、電話は不通となっていた。秘書・井野は買い物に出掛けたのか、彼の姿はなく、外部への唯一の出入り口である玄関の扉は施錠されている。扉は鍵がないと開けられない。
(3) 数時間が過ぎても井野は姿を現さない。井野の部屋“エウロペ”に入る。施錠されていない。井野自身は居ないが、部屋の中には彼の財布や免許証、昨日頼んだ買い物メモが残されている。買い物に出掛けた形跡がない。
(4) 須崎の部屋“タロス”。照明が灯っている。ワープロの電源も入ったまま。彼の書きかけの原稿と思しきものが画面に表示されている。題名は「ミノタウロスの首」。その内容は、彼の死亡の状況に酷似している。
(5) 原稿には「死体の顔面を覆い隠すようにして置かれ」としか書かれていない。島田、なぜ犯人は須崎の首を切ったのか、あるいは見立ての見栄えの都合なら、なぜ完全には切り落とさなかったのかという点を指摘する。犯人は自身も流血する負傷を負ったために、その血痕を隠すための偽装を行なったのではないかという推論を提示する。しかし、鼻血を含め、負傷した形跡は、誰にも見当たらなかった。
(6) 清村、井野犯人説を主張。ひとまず、コンテストは続行。
(7) 宇多山、コンテストの続行よりも脱出を最優先させるべきと、まずは清村を説得すべく、彼の部屋“テセウス”へ。彼の姿はない。ワープロ画面に目を遣る。その内容は、“メデイア”の部屋にて、彼が毒殺されると暗示させるもの。題名は「闇の中の毒牙」。疑惑は拭い難く、急ぎ“メデイア”へと向かう。清村の死体発見。電灯のスイッチに毒針。死体の胸ポケットに紙片。まどかの名による、「娯楽室で待つ」というメッセージ。仮にまどかに呼び出されたとしても、彼が娯楽室ではなく“メデイア”で殺されていたことが不審。駆けつけていた島田、“メデイア”の部屋名が刻まれた青銅板が、扉から失われていることに気づく。
(8) 島田、宇多山、林の部屋“アイゲウス”を訪れる。中には、林の死体。背中に刃物が突き立てられている。ワープロの画面には、やはり彼の書きかけらしき原稿。題名は「硝子張りの伝言」。ダイイング・メッセージを扱う予定だったらしい。しかし途切れた文章の最後に、意図的に残したものなのか、それともたまたまキーを押してしまったのか、意味不明な「wwh」という3文字がある。
(9) 死体を前に、しばし沈黙の中に入っていた島田と宇多川の耳に、金属質の連続音が飛び込んでくる。まどかは痴漢撃退用のブザーを所持している。その音だろうと判断し、二人は彼女の部屋“イカロス”へ向かう。扉は施錠されている。島田、応接間の斧を取って来る。扉を破ると、室内には頭部に傷を負い、倒れて動かぬまどか。弱々しいながらもまだ命はあり、救命のため、医師経験もある桂子を呼ぶ。鮫嶋もやって来る。
(10) まどかのワープロの電源を入れる。原稿にはまだ取り掛かっていなかったらしく、ちょっとした手記のような記述しかない。作品を書かなければ、犯人も見立て殺人を行えないだろう、などということが書かれている。気に掛かっていたこともあったようだ。「それは、あの車のこと。あの車は…。いや、思い過ごしだろうか。何の関係もないことなのかもしれない」
(11) “イカロス”には、島田、宇多川夫妻、鮫嶋、冨美、そしてベッドに横たわり、瀕死のまどか。突然、呻き声を発したまどかが上体を起こした。ゆっくりと右腕を上げ、指を広げるようにして前へ差し出す。その次の瞬間に倒れた彼女が、再び起き上がることはなかった。
(12) 各部屋に通じる秘密の通路を発見。密室を自由に出入りできることは判明。フロッピィ・ディスクの落し物。「畸形の翼」と題された文書が収められている。
宮垣葉太郎(みやがきようたろう):推理小説界の老大家, “迷路館”の主
清村淳一(きよむらじゅんいち):推理作家
須崎昌輔(すざきしょうすけ):同
舟丘まどか(ふなおかまどか):同
林宏也(はやしひろや):同
鮫島智生(さめじまともお):評論家
宇多山英幸(うたやまひでゆき):編集者
宇多山桂子(けいこ):宇多山英幸の妻
角松冨美(かどまつふみ):“迷路館”のお手伝い
井野満男(いのみつお):宮垣の秘書
黒江辰夫(くろえたつお)
島田潔(しまだきよし):推理小説マニア
夏風邪をこじらせて寝込んでいた島田に、一冊の本が届いた。それは鹿谷門実著「迷路館の殺人」と題されていた。彼がよく知る人物の書いた本である。しかもそれは現実に起きた事件、あの“迷路館”の殺人事件を題材にしたものであり、この著者も作中の登場人物の中の一人なのだという。いったいあの事件をどのように料理したのかと、島田は読み始めた。
推理小説の大家の宮垣葉太郎の還暦パーティーにて、集まった面々は彼の自殺を知らされた。彼は体を病んでおり、その生涯最後の趣向を目論んだという。内容はビデオ・メッセージで説明された。彼が特に目を掛けている四名――この場に集まった、清村、須崎、まどか、林――がそれぞれ自身を被害者とする殺人事件を用いた探偵小説を書き、それを評論家・鮫島、編集者・宇多山、そして推理小説マニア代表として島田の三名が判定するというものである。彼らはそれを了承した。宮垣の遺産を懸けたコンテストが始まった。舞台となるのは、この“迷路館”。地下に広がる迷宮のような構造の、奇妙な屋敷である。
外部との接触を禁じられた中、最初の事件が起きた。須崎が殺されたのである。血の海に倒れた彼の死体の首は深く切られ、千切れんばかりになっており、本来の頭部の位置には、なぜか水牛の頭部の剥製が置かれていた。そしてワープロの画面には、彼の書きかけの原稿と思しき文書が表示されていた。その内容は、彼の死の状況に酷似していた。これは見立て殺人なのだろうか。
いくら外部との接触を禁じられてのコンテストの最中とはいえ、ことは殺人事件である。コンテスト中止は避けたいと渋る者も無視して、宇多川は警察への通報を試みるも、電話は不通になっており、外部へ通じる玄関の扉は非常に強固な作りで固く閉ざされている。鍵は宮垣の秘書・井野が持っているはずだが、彼は買い出しに出掛けたのか、その姿を見せない。井野の部屋を訪れると、やはりそこに彼の姿がなかった。そこには免許証や財布が残されており、彼が買い出しに出掛けたとは認めづらい状況となった。彼がどうなったのかはともかく、それが意味するのは、残された者たちは、自力では屋敷の外へ出られないということだった。
そしてまた次の犠牲者が――
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
特に叙述トリック色の濃い作品だね~。本の構成や冒頭も、遊び心のある仕掛けがされてる。本編と言える部分は、作中の人物が書いた小説の内容という設定で、その中で一つの解決が示されるのだが、その後、それを覆す真相と、この小説(作中の「迷路館の殺人」)を書いた理由が語られるという筋書き。
海外翻訳ミステリの冒頭には、たいていは登場人物の簡単な説明が書かれている。作中で再登場した人物がどんな人物だったか、思い出せないことがしばしばある僕にとっては、かなり便利。登場人物の設定をまとめて見られるというのも、それぞれの関係を整理するにも楽で、とてもありがたい。ところが国産ミステリには、それがないものも割と多い。それが僕にはちょっとした不満となったりもするわけだが、時折、あえて登場人物表を書かなかったんだな、というのもある。つまり、登場人物の説明や関係図などを書くと、読者に大きなヒントを与えてしまうケースだ。特にこれは「フェアプレイ」を重んじるタイプの作品にとっては、意外なほど厄介なもので、近頃僕もこのブログに登場人物表を書くようになって、なおさらそれを強く感じるようになったw もし、いつもは登場人物表を書いてる作者がそれを書かなかったり、あるいはその説明が妙に曖昧だったりあったりしていた場合は、それ自体に大きなデータが隠されていると睨むべきだろうw
本作についての登場人物表を書くにあたって僕の筆を止めたのは、「黒江辰夫」。本作を読んだ者ならすぐに理解していただけるだろうが、この人物の説明は非常に書きづらい。いっそのこと、他の人物も名前だけにするか、あるいは逆に長文を書いて、重要なポイントだけを上手く隠すなどの方法もあるが、それはそれで怪しくなるだろうw で、結果として、彼だけは説明なしで名前だけになった。作者に倣って、彼の名を省いてしまったほうが良かったのかも知れないが、このブログは僕が自分の貧弱な記憶力を補完することを目的とした資料でもあるので…。
さてと、作品内容はまさにパズルで、ピースを組み合わせるようになっている。作中では須崎の首が切られた理由のほぼ核心を探偵役・島田が即座に突きつつも、登場人物について読者が誤解するように書かれているために、真相に辿り着きにくい。密室殺人が行われるが、すぐに秘密の通路を発見することにより、密室自体は謎ではない。要点となるのは、「なぜ犯人は、そこを密室にしてしまったのか?」→「時間的余裕がなく、密室を開放できなかった」というところ。屋敷の奇妙な構造を利用した清村殺害のトリックの扱いは、ちょっとあっさりし過ぎかな~。いずれ余裕ができたら、“館”の図面画像も作りたいところ。特に本作は、それがないと理解が厳しいw
鍵がないと内側からも開けられない扉というのは、利便性でも防災上でもどうかと思うw
(1) 推理作家たちが宮垣邸、通称“迷路館”での宮垣の還暦パーティーに招待される。招待客がすべて集まっても宮垣は姿を現さない。秘書・井野、状況を説明。宮垣は自殺し、その遺言により、彼の遺産を懸けた推理小説のコンテストを行なうという。参加者は推理作家の清村、須崎、まどか、林の四名、審査員は編集者・宇多川、評論家・鮫嶋、マニア・島田の三名である。一同はそれに同意する。客たちは井野に買い物などを依頼。清村は、自室“テセウス”に部屋名を示す青銅板がないことについて井野に尋ねる。井野、留め具が緩んだため外していると答え、もし不便なら代わりのものを貼ることを提案するが、清村はそれなら別に構わないと告げる。林、自身は親指シフトのワープロを愛用しているため、用意された「JISかな配列」のものに不満を訴えるもどうにもならず、諦めてそれを使用することにする。
(2) 応接間“ミノタウロス”にて、須崎、死亡。首はほとんど千切れかけており、直角に近い角度に曲がっている。本来の頭部の位置には、元々はこの部屋の壁に飾られていた水牛の頭部の剥製。警察に通報を試みるも、電話は不通となっていた。秘書・井野は買い物に出掛けたのか、彼の姿はなく、外部への唯一の出入り口である玄関の扉は施錠されている。扉は鍵がないと開けられない。
(3) 数時間が過ぎても井野は姿を現さない。井野の部屋“エウロペ”に入る。施錠されていない。井野自身は居ないが、部屋の中には彼の財布や免許証、昨日頼んだ買い物メモが残されている。買い物に出掛けた形跡がない。
(4) 須崎の部屋“タロス”。照明が灯っている。ワープロの電源も入ったまま。彼の書きかけの原稿と思しきものが画面に表示されている。題名は「ミノタウロスの首」。その内容は、彼の死亡の状況に酷似している。
(5) 原稿には「死体の顔面を覆い隠すようにして置かれ」としか書かれていない。島田、なぜ犯人は須崎の首を切ったのか、あるいは見立ての見栄えの都合なら、なぜ完全には切り落とさなかったのかという点を指摘する。犯人は自身も流血する負傷を負ったために、その血痕を隠すための偽装を行なったのではないかという推論を提示する。しかし、鼻血を含め、負傷した形跡は、誰にも見当たらなかった。
(6) 清村、井野犯人説を主張。ひとまず、コンテストは続行。
(7) 宇多山、コンテストの続行よりも脱出を最優先させるべきと、まずは清村を説得すべく、彼の部屋“テセウス”へ。彼の姿はない。ワープロ画面に目を遣る。その内容は、“メデイア”の部屋にて、彼が毒殺されると暗示させるもの。題名は「闇の中の毒牙」。疑惑は拭い難く、急ぎ“メデイア”へと向かう。清村の死体発見。電灯のスイッチに毒針。死体の胸ポケットに紙片。まどかの名による、「娯楽室で待つ」というメッセージ。仮にまどかに呼び出されたとしても、彼が娯楽室ではなく“メデイア”で殺されていたことが不審。駆けつけていた島田、“メデイア”の部屋名が刻まれた青銅板が、扉から失われていることに気づく。
(8) 島田、宇多山、林の部屋“アイゲウス”を訪れる。中には、林の死体。背中に刃物が突き立てられている。ワープロの画面には、やはり彼の書きかけらしき原稿。題名は「硝子張りの伝言」。ダイイング・メッセージを扱う予定だったらしい。しかし途切れた文章の最後に、意図的に残したものなのか、それともたまたまキーを押してしまったのか、意味不明な「wwh」という3文字がある。
(9) 死体を前に、しばし沈黙の中に入っていた島田と宇多川の耳に、金属質の連続音が飛び込んでくる。まどかは痴漢撃退用のブザーを所持している。その音だろうと判断し、二人は彼女の部屋“イカロス”へ向かう。扉は施錠されている。島田、応接間の斧を取って来る。扉を破ると、室内には頭部に傷を負い、倒れて動かぬまどか。弱々しいながらもまだ命はあり、救命のため、医師経験もある桂子を呼ぶ。鮫嶋もやって来る。
(10) まどかのワープロの電源を入れる。原稿にはまだ取り掛かっていなかったらしく、ちょっとした手記のような記述しかない。作品を書かなければ、犯人も見立て殺人を行えないだろう、などということが書かれている。気に掛かっていたこともあったようだ。「それは、あの車のこと。あの車は…。いや、思い過ごしだろうか。何の関係もないことなのかもしれない」
(11) “イカロス”には、島田、宇多川夫妻、鮫嶋、冨美、そしてベッドに横たわり、瀕死のまどか。突然、呻き声を発したまどかが上体を起こした。ゆっくりと右腕を上げ、指を広げるようにして前へ差し出す。その次の瞬間に倒れた彼女が、再び起き上がることはなかった。
(12) 各部屋に通じる秘密の通路を発見。密室を自由に出入りできることは判明。フロッピィ・ディスクの落し物。「畸形の翼」と題された文書が収められている。