脚本を唯一知る映画監督が撮影中に失踪。劇中劇。ドタバタ劇。[??]

[スタッフ]
大柳登志蔵:監督
久本:助監督チーフ
須藤:助監督セカンド
立原:助監督サード, 雑用係, “ぼく”
永末美奈子:記録係
玉置:撮影監督
田山:照明技師
水野晴之:照明助手

[キャスト]
蓮見光太郎:辰巳洋太郎(フリーライター)役
細川拓也:細野拓二(医師)役
森美樹:林美枝(付き添い看護婦)役
藪内善造:藪井仙三(雇人)役
清原みすず:鷺沼五十鈴役
西田貴弘:西山貴雄役



往年の名女優・鷺沼潤子の自殺から、その物語は始まる。そして場面は変わり、フリーライター・辰巳洋太郎が屋敷を訪れた。行方不明になった知人を、彼は密かに捜している。屋敷の者は皆、潤子は体調が悪いからと告げ、辰巳を彼女に会わせようとしない。潤子は既に死んでいるのではないかと、辰巳は感じていたが、さらに重要な点は、なぜかそれを家人が隠しているらしいということである。知人が姿を消したことに、彼女は関わっているのではないか? 彼の疑念は確信に近くなっていった。

土砂崩れにより麓への道は閉ざされ、屋敷に滞在することとなった辰巳。その夜、事件は起こる。

どこからか女の悲鳴が聞こえる。辰巳は部屋を出る。ちょうど隣の部屋から出てきた貴雄と出くわす。西山貴雄も悲鳴を聞いていた。ふたりの部屋は二階。一階へと下りる。雇人・藪井仙三がふたりのほうへやって来る。女の悲鳴となれば、その主は鷺沼五十鈴だろうか? 浴室から五十鈴が顔を覗かせる。では、林看護婦の声かと、二階にある彼女の部屋の扉を叩く。返事はない。悲鳴は外からかも知れない。辰巳は屋敷の外へと飛び出す。誰かが死んでいると、辰巳が大声を上げる。騒ぎを聞きつけていた細野医師もそちらへと向かう。藪井と西山もついていく。雨の中、立ちすくむ辰巳の視線の先には、林の死体。その真上には彼女の部屋の、開いた窓。転落して首を折ったらしい。何かに気づいたように走りだす辰巳。彼女の部屋の前まで辿り着くと、それを確認した。扉はしっかりと施錠されていた。彼女の死は、自殺なのだろうか?


…と、このような映画を撮影しているときに監督が失踪した。この推理劇のシナリオは、スタッフには途中までしか知らされておらず、そこまでの撮影が終了した矢先だった。監督の不在に困り果てたスタッフは、とりあえず彼らなりの結末をつけて、映画を完成させることにした。


※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



読者に提示される謎は、大枠ではふたつ。ひとつは作中での推理劇の結末。もうひとつは監督失踪事件。断片的に語られるために、前者は謎解き物として読むのはキツイし、後者については第三章が終わるまでには、「共犯者」の存在やら何やら、だいたい察しがつくだろう。作中で登場人物たちが、それぞれ自分なりの推理劇の結末を披露するが、それが「毒入りチョコレート事件」のような出来になってるかと問われれば、さほどでもなく、思い返してみると、結局どの趣向も中途半端なんじゃないかという気がする。しかし、それでも面白く読めたんだから、それで充分だw

もしこれをガチガチのパズラーにしようと思ったのなら、前半に推理劇の途中までの部分を、通常のミステリのようにきっちりと書き、後半にその撮影風景というような構成にもできただろうけど、作者はそうしなかった。この作者はかなり映画好きらしく、ストーリーテリングを重視していて、そういう論理パズル・フォーマットを淡々と保守的になぞることは退屈なのかも知れない。もちろん読者に「面白く読ませる」ことは何よりも重要。何度も読んで、何度も観て、何度も聴いて、初めてその面白さや素晴らしさがわかるなどという、訳知り顔で語られる"深い"作品なんてのもあるが、少なくとも娯楽作品においては、そんなのは作者の怠慢以外の何者でもない。まず手に取ったそれを、読みたくなる、観たくなる、聴きたくなる、というのは娯楽作品の最低条件。この作品はそのラインをクリアしてますw


撮影は既に終了していたのに、まだ途中と勘違いさせるという仕掛け。