朝比奈耕作シリーズ。理由もわからずに館に閉じ込められた朝比奈と二人の美女。時折聞こえる不気味な朗読。童謡“金魚”の詩をなぞるように殺された死体。[??]
中学時代の同窓会が迫ったある日、推理作家・朝比奈耕作に、当時の同級生・熊谷須磨子の名で手紙が届く。それは指定された洋館まで、朝比奈独りでの来訪を希望するものだった。その理由は書かれておらず、戸惑う朝比奈だったが、その手紙には北原白秋の詩が引用されていて、そこに興味を抱いてもいた。その詩は「金魚」という題名で、なかなか帰宅せぬ母を寂しく思い、金魚を一匹、二匹と殺していくという内容のものだった。
朝比奈の記憶の中の須磨子は、クラスでもさほど目立つ存在ではなかった。ただ、時折急に何の脈絡もなく、妙な独り言をはっきりと呟くことがあった。たとえば曇り空なのに、「あ~あ、空が赤すぎて、海の青さが恋しくなる」といった具合に。彼女が三年の秋に父の仕事の都合で、海外へと転校したことも覚えていた。
朝比奈は卒業アルバムを眺めているうちに妙なことに気づいた。須磨子は三年の秋に転校したから、朝比奈が通っていた中学校を卒業してない。それなのに、クラスの集合写真には彼女が写っていて、巻末の寄せ書きには彼女のメッセージが書かれていたのである。写真撮影はスケジュールの都合であろう、秋になってすぐに行われたので、彼女が写っていてもおかしくないのだが、記入された彼女の名前に、転校についての何の注釈もないのは少々奇妙だった。そして寄せ書きに至っては正月以降、三学期に作ったものである。秋に転校した彼女のそれがなぜここにあるのか、まったくの謎だった。
朝比奈は同窓会の発起人・久本一郎に、須磨子のことについて何か知ることはないか、尋ねてみた。卒業アルバムの謎については久本も気づいてもいなかったが、それとは別に驚くべきことも知らされた。彼女が既に死んでいるということである。詳しいことは彼も知らないが、彼女と唯一親しかった級友である島宏美が、同窓会で話してくれることになっているのだという。
できれば下調べしてからにしたかったが、忙しさのために結局何もわからぬまま、手紙に記されていた午後7時を少し過ぎた時刻に、朝比奈はその洋館を訪れた。門扉にノッカーを叩きつけたが、一向に反応はない。どうしたものかと思いつつ、好奇心が勝ったのか、門をくぐり敷地に一歩足を踏み入れた瞬間だった。足がぬかるみにはまってしまった。昨日も今日も雨は降っていなかったのに。
ともかく洋館正面の扉へと辿り着いた。ノックしてみたが、よほど分厚く特殊な扉なのか、音を上手く響かせることはできなかった。それではと、取っ手に手を掛け引いてみると、拍子抜けするほどあっさりと扉は開いた。
その洋館は通常なら三階建て家屋ほどの高さだが、中に入ってみると、天井に至るまで完全な吹き抜け構造だった。なんとなく教会のような作りになっており、無数の蝋燭の炎に照らされていた。室内は薄暗く、その奥行きの底を見通すことはできなかった。いかにも手頃な燭台を手に取り、15メートルほど進むと、二人の女のすすり泣きのような声が朝比奈の耳に届いた。
その二人は朝比奈の級友だった。その二人、浜野由紀絵と島宏美曰く、彼女たちもまた朝比奈と同様に、須磨子から手紙を受け取り、この洋館を訪れたところ、ここに閉じ込められてしまったのであり、須磨子が死んだなどという話は初耳だという。宏美は午後3時、由紀絵は午後5時、そして朝比奈は午後7時と、三人はそれぞれ時刻をずらして招待されていた。そんな話を訊き出した朝比奈は、開けたままにしておいた入り口の扉が、いつの間にか閉じていたことに気づいた。
扉は固く閉ざされ、ビクともしない。窓はすべてはめ殺しの上、金属の桟が細かく入っているので、ガラスを割っても出られない。三人は閉じ込められた。
須磨子の死については宏美が知っていると、久本から聞いていた朝比奈が彼女にそれを尋ねてみると、彼女は驚き、まったく否定した。須磨子が死んだなんて知らなかったし、須磨子と親しかったこともないと。
今回の同窓会には、当時の担任の筒井先生も参加することになっている。宏美も由紀絵も、そして朝比奈もこの先生に好意を持っていたが、それはクラス内ではむしろ少数派で、大半の生徒やその親たちは先生をいじめていた。そんな先生がこのクラスの同窓会に出席するというのもちょっとおかしい。須磨子についてデタラメを言っている久本は、その怪しい同窓会の発起人でもあるし、この監禁に関わっているのではないかとまで、宏美は疑い始めるのであった。
炎を灯した蝋燭もどんどん少なくなってゆき、朝を待つことにした三人。しかし洋館内には、おそらく録音されたものであろう、奇妙な声が時折鳴り響き、彼らの恐怖を煽った。「犯人」の目的は不明だったが、須磨子からの手紙にあった詩は、アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」を想起させるに充分だった。この三人がひとりずつ殺されていく…?
それにしても、なぜこの自分たちが標的になったのか、何か共通点があるのか、彼らにはさっぱり心当たりがなかった。そして、ついにそれは訪れた。「金魚を一匹突き殺す…」
朗読はそこで終わり、静寂の後にけたたましい笑い声、そして「カーテンの裏を見よ」と繰り返された。その言葉に従い、カーテンを次々とめくってみると、そこには死体があった。おそらくそれは熊谷須磨子だった。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
「なぜ彼らが標的となったのか?」と来れば、普通なら「犯人は彼らに対して何らかの恨みが…」ということになるが、本作ではその裏を掻いている。しかし、中盤でほとんどズバリの解答に近いことを、あまりにもはっきりと書いてしまっており、その効果は薄れている。
この作者は割とフェアに手掛かりを提示するのだが、意図的なのか、それを読者の目からいかに隠そうかという様子はあまりない。それもあって、この作者の作品の多くは、とにかく読者を騙してやろうと日々企んでいそうな、叙述トリック満載の作家の作品よりも読みやすいのも事実w
謎解きよりもサスペンスに重点を置いた作風になっていて、朝比奈が犯人を追い詰めるのではなく、終盤になると勝手に犯人が真相を語り始めるという展開には拍子抜け。でも思い返してみれば、「そして誰も~」だって似たようなものか。
中学時代の同窓会が迫ったある日、推理作家・朝比奈耕作に、当時の同級生・熊谷須磨子の名で手紙が届く。それは指定された洋館まで、朝比奈独りでの来訪を希望するものだった。その理由は書かれておらず、戸惑う朝比奈だったが、その手紙には北原白秋の詩が引用されていて、そこに興味を抱いてもいた。その詩は「金魚」という題名で、なかなか帰宅せぬ母を寂しく思い、金魚を一匹、二匹と殺していくという内容のものだった。
朝比奈の記憶の中の須磨子は、クラスでもさほど目立つ存在ではなかった。ただ、時折急に何の脈絡もなく、妙な独り言をはっきりと呟くことがあった。たとえば曇り空なのに、「あ~あ、空が赤すぎて、海の青さが恋しくなる」といった具合に。彼女が三年の秋に父の仕事の都合で、海外へと転校したことも覚えていた。
朝比奈は卒業アルバムを眺めているうちに妙なことに気づいた。須磨子は三年の秋に転校したから、朝比奈が通っていた中学校を卒業してない。それなのに、クラスの集合写真には彼女が写っていて、巻末の寄せ書きには彼女のメッセージが書かれていたのである。写真撮影はスケジュールの都合であろう、秋になってすぐに行われたので、彼女が写っていてもおかしくないのだが、記入された彼女の名前に、転校についての何の注釈もないのは少々奇妙だった。そして寄せ書きに至っては正月以降、三学期に作ったものである。秋に転校した彼女のそれがなぜここにあるのか、まったくの謎だった。
朝比奈は同窓会の発起人・久本一郎に、須磨子のことについて何か知ることはないか、尋ねてみた。卒業アルバムの謎については久本も気づいてもいなかったが、それとは別に驚くべきことも知らされた。彼女が既に死んでいるということである。詳しいことは彼も知らないが、彼女と唯一親しかった級友である島宏美が、同窓会で話してくれることになっているのだという。
できれば下調べしてからにしたかったが、忙しさのために結局何もわからぬまま、手紙に記されていた午後7時を少し過ぎた時刻に、朝比奈はその洋館を訪れた。門扉にノッカーを叩きつけたが、一向に反応はない。どうしたものかと思いつつ、好奇心が勝ったのか、門をくぐり敷地に一歩足を踏み入れた瞬間だった。足がぬかるみにはまってしまった。昨日も今日も雨は降っていなかったのに。
ともかく洋館正面の扉へと辿り着いた。ノックしてみたが、よほど分厚く特殊な扉なのか、音を上手く響かせることはできなかった。それではと、取っ手に手を掛け引いてみると、拍子抜けするほどあっさりと扉は開いた。
その洋館は通常なら三階建て家屋ほどの高さだが、中に入ってみると、天井に至るまで完全な吹き抜け構造だった。なんとなく教会のような作りになっており、無数の蝋燭の炎に照らされていた。室内は薄暗く、その奥行きの底を見通すことはできなかった。いかにも手頃な燭台を手に取り、15メートルほど進むと、二人の女のすすり泣きのような声が朝比奈の耳に届いた。
その二人は朝比奈の級友だった。その二人、浜野由紀絵と島宏美曰く、彼女たちもまた朝比奈と同様に、須磨子から手紙を受け取り、この洋館を訪れたところ、ここに閉じ込められてしまったのであり、須磨子が死んだなどという話は初耳だという。宏美は午後3時、由紀絵は午後5時、そして朝比奈は午後7時と、三人はそれぞれ時刻をずらして招待されていた。そんな話を訊き出した朝比奈は、開けたままにしておいた入り口の扉が、いつの間にか閉じていたことに気づいた。
扉は固く閉ざされ、ビクともしない。窓はすべてはめ殺しの上、金属の桟が細かく入っているので、ガラスを割っても出られない。三人は閉じ込められた。
須磨子の死については宏美が知っていると、久本から聞いていた朝比奈が彼女にそれを尋ねてみると、彼女は驚き、まったく否定した。須磨子が死んだなんて知らなかったし、須磨子と親しかったこともないと。
今回の同窓会には、当時の担任の筒井先生も参加することになっている。宏美も由紀絵も、そして朝比奈もこの先生に好意を持っていたが、それはクラス内ではむしろ少数派で、大半の生徒やその親たちは先生をいじめていた。そんな先生がこのクラスの同窓会に出席するというのもちょっとおかしい。須磨子についてデタラメを言っている久本は、その怪しい同窓会の発起人でもあるし、この監禁に関わっているのではないかとまで、宏美は疑い始めるのであった。
炎を灯した蝋燭もどんどん少なくなってゆき、朝を待つことにした三人。しかし洋館内には、おそらく録音されたものであろう、奇妙な声が時折鳴り響き、彼らの恐怖を煽った。「犯人」の目的は不明だったが、須磨子からの手紙にあった詩は、アガサ・クリスティー作「そして誰もいなくなった」を想起させるに充分だった。この三人がひとりずつ殺されていく…?
それにしても、なぜこの自分たちが標的になったのか、何か共通点があるのか、彼らにはさっぱり心当たりがなかった。そして、ついにそれは訪れた。「金魚を一匹突き殺す…」
朗読はそこで終わり、静寂の後にけたたましい笑い声、そして「カーテンの裏を見よ」と繰り返された。その言葉に従い、カーテンを次々とめくってみると、そこには死体があった。おそらくそれは熊谷須磨子だった。
※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。
「なぜ彼らが標的となったのか?」と来れば、普通なら「犯人は彼らに対して何らかの恨みが…」ということになるが、本作ではその裏を掻いている。しかし、中盤でほとんどズバリの解答に近いことを、あまりにもはっきりと書いてしまっており、その効果は薄れている。
この作者は割とフェアに手掛かりを提示するのだが、意図的なのか、それを読者の目からいかに隠そうかという様子はあまりない。それもあって、この作者の作品の多くは、とにかく読者を騙してやろうと日々企んでいそうな、叙述トリック満載の作家の作品よりも読みやすいのも事実w
謎解きよりもサスペンスに重点を置いた作風になっていて、朝比奈が犯人を追い詰めるのではなく、終盤になると勝手に犯人が真相を語り始めるという展開には拍子抜け。でも思い返してみれば、「そして誰も~」だって似たようなものか。