金田一耕助シリーズの短編。金田一の戦友はその妹たちを案じる謎の遺言を残す。妹たちが次々と殺される。見立て殺人。(「・ω・)「にゃおー [???]

※以下すべて反転表示。ネタバレ注意。



かつて流刑の地とされたことに由来すると伝えられる獄門島。金田一耕助は、戦友・鬼頭千万太から託された手紙を届けるため、島へと向かう。千万太は息を引き取る前に、金田一に奇妙なことを告げていた。「俺が帰らないと、三人の妹たちが殺される…だが、俺はもう駄目だ…金田一君、俺の代わりに獄門島へ行ってくれ…」

手紙には、和尚・了然、村長・荒木、医師・村瀬という三つの宛名が並んでいた。金田一は島へと向かう途上で、偶然にも手紙の宛名のひとり、了然に出逢った。手紙を受け取り、千万太の訃報を聞いた了然は、大きな衝撃を受けたようだった。

獄門島で権勢を誇る、網元・鬼頭家は大きく二つに分かれている。一方は本鬼頭、もう一方は分鬼頭と呼ばれていた。親類筋であるのだが、近年の両家の関係はあまり良くないとのことだった。特に分鬼頭の現在の主である儀兵衛の妻・志保が、なかなかに個性の強い人物であることも要因である。千万太は本鬼頭の跡取りであった。

その千万太が死んだ。しかし、その従兄弟の一はなんとか生き残ったらしく、いずれビルマから復員してくると伝えられている。「本家は死んで、分家は助かる、これも是非のないこと…」 了然は吐き出すように、そう言った。

金田一は了然とともに、本鬼頭家に到着した。出迎えたのは、一の妹・早苗。千万太の祖父である嘉右衛門が健在の頃は、彼が君臨することで、本鬼頭は盤石だった。しかし彼の妻・勝野はまったくおとなしい性質である。そして、その子である、与三松は気が触れて、座敷牢に幽閉されている身であり、その妻はもう亡くなっている。というわけで、嘉右衛門亡き後の本鬼頭は、早苗が取り仕切っている。

早苗に続いて、三人の美しい娘たちが金田一の前に現れた。18を頭に三人年子の、月代、雪枝、花子。千万太が、「俺が帰らないと、殺される」と言っていた、彼の妹たちである。

千万太の通夜に、花子が殺害された。寺の庭に生えた梅の古木の枝に、逆さ吊りとなっていた。その光景を見た了然が、ふと呟く。「キチガイじゃが、仕方がない…」

ひとまず、周囲を調べてみると、寺の勝手口の南京錠がねじ切られていた。そして、賽銭箱の傍に煙草の吸殻を見つける。手巻き煙草を巻いた紙は、英語の字引きの紙らしい。そのような物がありそうなのは、この島では本鬼頭家くらいなもの。そして、本鬼頭家で煙草を吸うのは与三松。

先ほどの了然の呟きからして、もしやと、金田一は了然に問う。座敷牢に居るはずの与三松が、この事件に関わっていると、あなたは考えているのかと。それを否定する了然を、金田一はさらに追及する。ならば先ほどの「キチガイじゃが、仕方がない…」とは、いったいどういう意味なのかと。

了然は呆気に取られた。まったく覚えもなく、その意味もわからないようだった。しかし、しばし思案に暮れると、何かに気づいた。大きく目を見開いたかと思うと、両手で顔を覆い、よろめくようにあとずさりした。それを見た金田一は、どういうわけなのかと、問い詰める。しかし、了然は、「あんたは大きな勘違いをしている。確かに、そんなことを言ったかも知れんが、それは与三松とは無関係だ。いずれ打ち明けるときもあろうが、今は言えん」と、答えるのみであった。

雪枝も殺された。海に面した、「天狗の鼻」と呼ばれる場所に仮置きされていた、釣鐘の中に、その死体は座っていた。釣鐘の下から、着物の裾が覗いており、それで発見されたのである。

そして、ついに月代も殺された。そのとき彼女は祈祷所に籠り、鈴を鳴らして、祈っていたはずが、いつの間にやら、手ぬぐいで絞殺されていたのである。鈴はまだ鳴っていた。部屋の片隅には、飼い猫のミイ。その尾には、鈴を付けた布が結わえ付けられていた。

そしてその事件の横で、もう一つ、死体が増えていた。花子が殺害された夜、寺を荒らしたのは、警察に追われ、この島へ逃げ込んだ海賊であるらしかった。そしてその人物は追い詰められ、銃撃戦が始まり、倒れた。死体に弾丸の痕はなかった。撲殺だった。



事件の筋書きは、嘉右衛門によるものだった。

嘉右衛門は千万太に告げていた。千万太が無事帰還すれば、何の問題もなく、家は安泰。千万太と一、両方が死んだ場合は、仕方ないので、婿養子を取り、本鬼頭を継がせることになる。しかし、もし、千万太が死に、一が生き残った場合は、少々まずいことになる。本家の三姉妹が居る限り、分家の者である、一は本家を継ぐことができない。あの三姉妹では、とても家を守れない。ならば、どうするか。三姉妹には、死んでもらうしかない。

死の床に伏した嘉右衛門はその任を、和尚・了然、村長・荒木、医師・村瀬の三名に託した。殺害方法も詳しく伝授した。三姉妹の死体が、いずれも奇妙な状態に置かれていたのは、嘉右衛門が好んでいた句に見立てたものだったからである。


特殊な歴史によって、その住人には特異な気質が育まれた、獄門島。カリスマとも言える存在であった、故人の遺志。そのような環境なのだから、などという説明では、いまいち納得できないほど、作り物めいている。

千万太が死に、一は生き残る。そして、供出し、もう戻ることもあるまいと思われた、釣り鐘が返還された。こんな三つもの条件が揃ってしまったのは、奇跡的で、運命とすら感じられる。だから、三姉妹を殺すことを決意する…と説明されても、なお苦しい。

「見立て」は、ミステリの定番パターンのひとつだが、本作では、その理由が、「故人の遺志だから」。ミステリにおいては、何の理由もないに等しいw

雪枝殺害の釣り鐘トリックが妥当かどうか、気になる。釣り鐘の中に雪枝の死体を置き、裾を出しておく。そして、その鐘の上からハリボテの鐘を被せ、裾を隠す。まず、裾が出ていない状態の鐘を目撃させ、その後、ハリボテを外して、海へと捨てる。それにより、最初の目撃の時点までは、まだ鐘の中には死体がなかったと錯覚させ、アリバイを偽装する。

ハリボテ要るかなぁ?

たとえば、裾を袋か何かに入れて、糸を付けておいて、後から裾を引き出す。この場合は、鐘と地面の間に隙間がないと無理だけど、それを補うために、そこに目立たぬ小さな物を挟んで隙間を作っておく。そして、裾を引き出した後に、挟んでおいた物を抜けば、可能かも知れない。

もっと良さそうな方法としては、はみ出した裾の上に、別の布地でも乗せて、地面と紛れるように、土砂を掛けておけばいいんじゃないだろうか。何せ、辺りは既に夕闇に包まれている。懐中電灯で照らされた程度で気づかれるはずもない。少なくとも、ハリボテが気付かれない程度の状況ならば、充分な偽装にはなっているだろうw

月代殺害では、祭壇の脇にぶら下がった、色とりどりの吹流しの中に、長い手ぬぐいを紛れ込ませておく。すると、それは一方が固定された手ぬぐいとなり、もう一方を掴めば、片手でも絞殺できる。殺害後、手ぬぐいを適当な長さに切り取り、現場に残しておく。手ぬぐいで絞殺するのは、片手で行なうのは不可能と思われるので、左腕を負傷している、村瀬は疑われない。

うーむ…。まあ確かに、普通の手ぬぐいでの絞殺を、片手が効かない状態で行なうのは困難なのかも知れない。しかし、そんなことで、あっさり容疑が晴れるとは思えないなぁ。徹底的に調べられたらバレそうだし、このトリックだけで偽装するのはちとキツイのでは。しかも、こんなトリックのためだけに、わざと片腕を折るというのも、ちょっとなぁ…。

結局、計画にあるどの犯行も、見立てを成立させるだけのために、かなりの無理をしてるんだよね。傍から見れば、無駄な苦労と言うか…。ある目的のために用いられるトリックではなく、あるトリックを成立させること自体が目的化してる作品は、どうも萎えるんだよなぁ。そこを誤魔化すために、「故人の遺志」なんてものを持ち出してるんだろうけど。

花子殺害について、何かを目撃された可能性があるため、島をうろついていた逃亡犯を了然が殺害するのは、元々の計画外の犯行。警察も含め、島の者多数によって、逃亡犯は発見され、銃撃戦が始まる。隙を見て、逃亡犯を撲殺する。

計画外というだけあって、まったくの行き当たりばったりで、運任せの犯行となっている。逃亡犯は周囲を多数の者に囲まれている。弾丸が飛び交っている。そんな状況で、了然は特に何の工夫もなしに、誰にも目撃されず、逃亡犯の傍に寄って、撲殺。

いくら何でも、ご都合主義すぎなのでは。特殊訓練を受けたわけでもない、高齢の和尚が、銃をぶっ放し、ぶっ放されてる逃亡犯に、そんなにあっさりと近づけるくらいなら、それより先に、周囲に居る警官たちがその人物を取り押さえてしかるべきだろう。

花子殺害は了然、雪枝殺害は荒木、月代殺害は村瀬、と、各々の犯行こそ単独犯によるものだが、結局は三名による共謀ということ。こうなると、もう、四名だろうが五名だろうが、共犯者をいくら増やしてもいいような気がするし、アリバイなり何なり、偽装工作はいくらでもできるんじゃないか? アガサ・クリスティーの「オリエント急行殺人事件」のように、複数犯であること自体に特に趣向がある作品ならまだいいが、この作品においては興冷めなだけ。

早苗は逃亡犯を、復員した兄と勘違いして、その逃走生活を消極的ながら援助する、ってのもなぁ。まあ、勘違いするまでは良しとしよう。しかし、早苗もそれが兄と、決して確信を持っていたわけではない。作中でもそれは書かれている。なのに、その人物の影を目撃して以降、それまでは欠かさず聴いていた、ラジオでの復員情報をぱったりと聴かなくなるのはおかしい。

いつものこととも言えるが、今回の金田一の無能っぷりはひどすぎるんじゃなかろうか。花子殺害については、まだ何一つ掴んでいない状態だったので、これは仕方ない。雪枝殺害時には、檻の中にその身を置いており、これまた止むを得ないだろう。だが、月代殺害については、さすがに防げなかったものか。三姉妹すべてが狙われているのは、もはや明白。島民たちすら、いずれ月代が殺されるだろうと予期していた。なのに、あっさりと犯行は実行された。

一応は、金田一も警戒はしている。指示して、数人の男を鬼頭家に残しておいた。ところが、その警戒態勢がとても緩い。祈祷所などという離家に、月代がたったひとりで籠ることを問題視もせず、家に残した者には、月代を守ることについて、特に注意も与えていない。

月代殺害時、金田一は逃亡犯を追い込む山狩りに参加しているが、この時点において、この人物は犯人ではないだろうと推測している。つまり、月代を誰から守ればいいのかはまだ不明であり、それはあるいは、非常に月代の近くに居る人物の可能性もあるのだ。それにしては、無用心すぎやしないか。