祖父の修行中の話しは、同じような話を何度も何度も祖母から聞いたものです。

祖父がなぜ、日本全国を何度も旅して歩いていたのか、本当のところは祖父しか分からないのだが、祖母は「風来坊なところがある」からと言っていた。

言葉を発することを禁じ、人に合わないように山道を歩き、火を通したものを極力食べない、こんな過酷なことを風来坊なだけではしないだろう。

今よりも人の心と生活の近くに神仏がいた当時、祖父は出会った人達に何を見て何を思っていたのか、「本人から聞けたら良かったのにな」といまだに時々思うのです。

祖父が体験した不思議な出来事の中には、神仏に帰依していたがゆえに身に降りかかったものもあるらしい。

人が住む世界と人ならざるものが住む世界の間に立つと、音が「さー――――」っと消えていくらしく。

祖父は体験するたびに「今日が最後か・・・」と瞬時に腹を括っていたそうだが、私は眉唾だと思っていた。

何度か体験したら理のはじまりに気づくはずだから、腹を括って最後と思わずともやり過ごしていたと思うのです。

祖父の時代の人達は山の中、森の中、自然の中で、そんな体験をしていたのだろう。

しかし現代を生きる私達は、街の中でふとした瞬間に同じような体験をすることになるのだろう。

心からも生活からも神仏が離れている分、かえって害がないのがありがたく思える。

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祖父の修行中の話しは、何度も祖母から聞いたものです。