白百合の恋人 | 開運童子のブログ

白百合の恋人

青年はひとりで公園を歩いていた。今日からこの町で寮生活に入る青年は2年間の兵役のために親兄弟と離れてひとりでやって来たのである。青年は荷物を持って空気を胸いっぱいに吸い込むとこれから始める新しい生活に期待と不安が交差していた。青年は脚を止めると目は白百合の花を凝視していた。

「白と言う素朴な色がこんなに綺麗だったと始めて気づいたよ。」

青年は言いながら真っ白な花びらを見つめると

「近いうちに来るからね。」

青年は白百合に言うと足早に歩き去ったのである。

 青年は休日には読書をしたり音楽を聴いたりひとりで過ごす事が多かった。6日間の訓練に1日の休日がる生活は最低でも2年間は続くのである。この町で生活する事が青年にとってどのような意味があるのかは青年にもよく解らなかった。訓練で疲れた青年の心を休日の散歩は癒しを与えてくれた。晴れた日には散歩の時間も長くなり青年の心も明るくなった。時には近くのベンチに座って目を閉じてみるとこの町に来て最初に見た白百合の花を思い出すのであった。目を開けた青年は真っ白な花びらを捜していた。

 厳しい訓練は今日も続いていた。時には街中での訓練もあった。隊列を組んで行進をする時には町中の人々が注目してくれるのであるが青年は心に霧がかかったような気持ちで行進していた。青年が目線を向けると白い花びらが目をよぎったのである。その花はあの白百合である事を青年にはすぐに解った。


「今日はお前に挨拶に来たよ。」

青年は公園の中でひっそりと咲く白百合に言った。

「僕たちの国は不幸にも隣の国と戦争を始めてしまった。僕はこれから国境へ行って隣の国と戦わなければいけなくなった。生きて帰れればまたここへ来るからね。」

青年は白百合に言うと花粉から花びらを伝って一滴の液がこぼれたのである。それは水のようでも涙のようでもあった。

 青年たちの部隊は国境で苦戦していた。戦争は国境で一進一退の攻防をして犠牲者の数だけが増え続けていた。敵兵に銃を向けた青年は脳裏に白百合の花がよぎりって思わず動作が止まっていた。敵兵の銃が青年に当たり青年は静かに倒れこんでいた。味方はそれを見て敵兵に銃を発射ていた。

「おい!しっかりしろ!」

味方の言葉は青年の頭に響いていた。青年はそのまま気を失い高熱にうなされた数日を過ごしていた。生死をさまよう青年が時々夢見た白百合は花びらだけが鮮明であった。

 やがて青年の国が隣の国と停戦する事になった。それぞれの責任者がルールを決めて話し合いで解決する道を選んだのであるが双方の兵士にはかなりの犠牲者を出ていた。青年は怪我が回復して予定を早めて兵役を終える事が決まった。寮を引き払って荷物を持った青年は公園にやって来て大きく息を吸い込んでいた。青年はこの町を去る事が嬉しいはずなのに少しだけ寂しさがあったのである。青年は白百合の前に立つと

「今日で本当のお別れだよ。僕は予定を早めて兵役が終わったからね。」

青年が言うと白百合の花びらは美しくいつもより大きく広がっていた。

「この町に来る事はないかもしれないけれど最初に見た時と同じようにお前は綺麗に咲いているね。僕は戦争で敵兵に銃で撃たれたおかげですぐに病院に運ばれていたからか助かったよ。あのままだったら僕もどうなっていたか解らない。」

背年が言うと白百合は弱い風に花びらを揺らすだけであった。

「さようなら。」

青年が言って背を向けると

「あなたもお元気でね。」

白百合が優しく青年に言ったのであった。