昼顔のテレパシー | 開運童子のブログ

昼顔のテレパシー

直也は夏休みに都会から海沿いの村にやって来た。夏休みを利用して10日ばかり海の自然を研究するためである。都心に住む直也にとって貝殻が落ちている砂浜や海に蟹や小魚を見ると嬉しくて胸が躍っていた。日差しが強くなると直也は砂浜に近い岩に座って一休みする事が多かった。学校の勉強とは違って自然の観察は直也にとってとても興味深いものだった。そんなある日に直也は岩の少し先の岩の近くに綺麗な植物を見つけたのだった。

「あれは朝顔かな?」

直也は言うとその植物の傍まで近づいて行った。その花は綺麗に咲いてはいるがどこか力弱く直也には見えたのである。

「ここは海岸からは少し離れているけどこんなところにも花が咲くこともあるようだね。」

直也は言ってその花を見つめてから

「ここにひとりでいては寂しいだろうから明日は仲間を連れて来るよ。」

直也はその花に言った。

 翌日になると直也は綺麗に咲く花の傍にいくつかの苗を植えていた。

「来年にならないと仲間の花は咲かないけれどこれで君はひとりぼっちではなくなるよ。」

直也は花に向かってそう言った。花は今日も綺麗に咲いていて直也はじっとその花を見つめていた。

「仲間を連れてきてくれてありがとう。」

後ろで声が聞こえて直也は驚いて振り返って見た。直也と同じ小学校の5年くらいの大人びた顔立ちの少女が立っていた。

「この花が寂しそうだったからね。」

直也は言うと

「この花は昼顔って言うのよ。」

と言ってその少女が教えてくれた。

「昼顔の色はいろは地味だけれどどこかに他の花にはない美しさと力強さがあるね。」

直也が言うと少女は

「昼顔は朝顔のような華やかさや夕顔のような強さはないけど芯が強くてとても寂しがり屋です。」

と教えてくれた。

「僕は帰るまでの間は毎日ここに来るからその間だけでも寂しくなくなると良いね。」

直也は少女に言った。

 次の日も直也は昼顔を見にやって来た。

「今日も僕が来たから寂しくないよね?」

直也が言うと

「今日もありがとう。」

いつのまにか現れた少女が直也の傍にやって来た。

「本当に来てくれたのね。」

少女が嬉しそうに言うと

「僕が来ないと寂しいだろうと思ってね。」

直也は優しく言った。

 直也は次の日もその次の日も毎日毎日昼顔を見にやって来た。直也が来ると必ず少女も現れてつかの間の楽しい邇時間が過ぎていった。そしていよいよ親が帰る日になったのである。

「寂しいけど今日で帰らなければいけない。」

直也は昼顔に話しかけてみた。何故だかその日に限って少女は現れなかった。直也は少し寂しい気持ちで都会に帰って行った。

 夏から秋へ秋から冬へ冬から春へと時間が流れて季節は移り変わっていった。ふたたび夏を迎える頃には直也の家の庭にも少しだけ花が咲くようになっていた。夏休みが近いある日に直也は

「今年は自然研究ができないなよ。」

と呟いていた。去年見たあの昼顔はどうなっただろうか?直也が植えた苗が育ち仲間が出来ただろうか?直也は昼顔が少しだけ気になっていた。

 夏休みになったある日に直也は自分の家にある庭に昼顔の花を見つけていた。

「これはあの時の昼顔ではないだろうか?」

直也が言うと

「あの時はありがとう。」

と少女の声が聞こえていつの間にか直也の傍に立っていた。

「君はあの時の女の子だね。」

直也は驚いて言うと

「あのあと花は枯れて種が出来ました。」

少女はそこで直也を見て

「その種が風に流されて秋風に耐えて雪の下で季節が変るのを待ちました。」

直也も少女を見ていた。

「そして春に他の種たちと風に乗って移動をしてあなたの家の庭にやっとたどり着きました。」

少女の顔に笑みが浮かんで

「やっとあなたに会うことが出来きました。」

少女は言うと嬉しそうに微笑んでいた。

「それでは君はもしかして?」

直也は驚いていると

「私の姿はあなたにしか見えないの。」

少女は寂しそうな顔をして

「だからあなたがひとりの時に来るからね。」

静かに言った。

「この庭は花がたくさん咲いているから寂しくないよ。」

と直也が言うと

「ありがとう。」

少女は言うとさらに

「あの海もあなたのおかげで寂しくなかったわ。」

少女が言った。

「これで来年も会えるね。」

直也が言うと

「昼顔は多年草だからあなたが私を嫌いにならない限り会えると思うわ。」

少女は言った。

「もし僕が嫌いになったらどうなるの?」

と直也が聞くと

「その時にはあなたの前に現れる事が出来なくなるの。」

少女は言った。

僕は君を嫌いにならないよ。」

直也が言うと

「嫌いになってもいいよ。」

少女は言った。

「人の心は変るものだからね。」

少女直也を見て

「あの日のあなたの優しさには嘘が無かった。」

直也も少女をじっと見ていた。

「ただそれだけで私は嬉しかった。」

少女は少しだけ嬉しそうに言った。