雨のあとに虹 その213
「ちょっと堀川さん。」
小百合が仕事の合間で久美子に言った。
「何ですか?」
久美子が言うと
「今日はチョコレートを何人に男性にあげるの?」
小百合が言うと
「数えたけど今日会える人は限られているから義理チョコはふたつですね。」
久美子は言った。
「本チョコはいくつあげるの?」
小百合はさらに言うと
「本チョコはひとつでしょ?」
久美子は言った。
「私は三つあげるわよ。」
小百合は軽く言ったのである。
「これからお願いする仕事の中身について詳細に詰めたいと思います。」
俊之が会議室で言った。未来と長島に前田が同席していた。
「本当に私でいいの?」
未来が言うと
「未来さんが他の企業で培ったノウハウを総武で生かして欲しいと考えています。」
俊之は言った。
「それなら一所懸命させてもらいます。」
未来が言うと
「週に一度くらいのボリュームで総武が行うイベントなどのプロデュースをお願いしたいと考えています。」俊之は言った。
「私は数字面から経営のチェックをするのが専門だよ。」
長島が言うと
「それで構いませんので定期的に顔を出してください。」
俊之が長島に言った。
「私は警備員と保険の外交が主な仕事だけど高村ちゃんにお手伝いできる事があるだろうか?」
前田が言うと
「前田さんには社員たちが日ごろ行っている業務がより円滑に行くように改善提案を考えていただければと思います。」
俊之は言った。
「それは難しい役目だね。」
前田が言うと
「週に一度は立寄ってくださいよ。」
俊之は言った。
「高村ちゃんの頼みだから嫌とは言えないな。」
前田は優しく言った。
「僕が会社に居ない時もありますので管理本部長の立花のところに顔を出してくだされば解るようにしておきます。」
俊之が微笑みながら言うと三人は頷いて俊之を見ていた。
「もう上がる時間じゃないの?」
ひとみに言われて
「まだ5分ありますから大丈夫です。」
久美子は時計を見て言った。
「今日は時間が経つのが遅かったでしょ?」
ひとみが冗談を言うと
「店長まで冗談を言ってからかうのですか?」
久美子は笑いながら言うと
「今日は女性にとっては特別な日だからいいじゃない。」
ひとみは言った。
「これが一番おしゃれだったからどうぞ。」
久美子は言ってチョコレートの箱を取り出して俊之に渡した。
「ありがとう。」
俊之は嬉しさに照れながら言った。混雑するレストランでふたりは向かい合っていた。今はそれがあたり前であるがもう少し日にちが経つとあたり前でなくなるのである。俊之は嬉しさの中でやがてカナダへ行く久美子の目をじっと見ていた。短期間の旅行などではなく1年と言う時間は俊之にとっても久美子にとっても長い時間である。俊之は1年前にはクリスマスもバレンタインデーも別世界の出来事だった。今はその頃に比べると幸福と言えるかもしれないのだ。
「俊さんと私が出会ってから3ヶ月経ちましたね。」
久美子が珈琲を口に持っていきながら言うと
「もう3ヶ月経ったのか?」
俊之も珈琲を口に含んで言った。
「早いですね?」
久美子が言うと
「早いね。」
俊之は正直に言った。
「あの日から私の中では何かが始まって何かが少しずつ変ったみたいです。」
久美子が言うと
「僕もそうだよ。」
俊之は言った。
「俊さんも何かが変りましたか?」
久美子が言うと
「あの日に久美ちゃんと出会ってから少しずつ良い事があったよ。」
俊之は言った。
「笹川さんや矢島さんに育子さんと春香さんに未来さんや前田さんに関口さん。」
久美子が言うと
「みんな良い人たちだよ。」
俊之は言った。
「私が知らなかった世界の方たちに俊さんが居なかったら出会えなかったと思う。」
久美子が感慨深い表情で言った。
「僕も久美ちゃんと出会ってからひとみさんや純子さんと言う良い仲間が出来たよ」
俊之が言うと
「人の縁は不思議ですね。」
久美子は言った。
「みんなに出会えてよかったよ。」
俊之が言ひとりひとりの顔を思い出すように言った。レストランの中でたくさんの人が会話をしているが俊之と久美子ほど嬉しさと切なさと希望と不安を感じている人はいなかったはずである。