雨のあとに虹 その209
榊原はいつもの病室の中で静かに目を開て周囲を見回していた。多恵子が心配そうな顔をして榊原を見ていた。
「気分はどうですか?」
多恵子が榊原に言うと
「よく解らないけど悪くはないよ。」
榊原は言った。
「手術は成功したけどしばらくは経過を見ないといけないそうよ。」
多恵子が言うと
「俺もいつの間にか運が強くなったようだよ。」
榊原は言った。
「運が強くなった?」
多恵子が言うと
「入院した時点では絶望的だったからね。」
榊原が言うと
「本当にそうだわね。」
多恵子は言った。
「嘘みたいに良くなったよ。」
榊原が言うと
「本当に良くなったわね。」
多恵子は言った。
「近いうちに高村に会えないかな?」
榊原は少し微笑んで言った。
「高村さんも久美子さんも今日は忙しいところありがとうね。」
未来は言った。久しぶり俊之は久美子を連れてあすなろ会に来ていた。今日は月に一度行われる子供たちの誕生会である。真冬のクリスマスと違ってバレンタインデーが近い今では少しだけ春を思わせる季節になっていた。本当の春はまだであり外はまだ寒かった。
「みんなお行儀が良いのね。」
久美子は子供たちを見て感心しながら言った。
「未来さんに連絡してよかったよ。」
俊之は言った。
「私もここに来る事が出来てよかった。」
久美子が言うと
「今日は誕生会だったとはタイミングがいいね。」
俊之言った。
「いつも気にかけてくださってありがとうございます。」
理事長の木暮が言った。木暮は60歳を少し過ぎた穏やかな表情の男性であった。
「不躾ですがこれをお納めください。」
俊之が封筒を差し出して言った。
「そんなにお気遣いいただくと私も困りますよ。」
古暮が言うと
「少ないですけど気持ちです。」
俊之は言った。久美子はそんな俊之をただ見つめていたのだった。
直子が駅の改札へ向かって歩いていた。直子は売れればスーパーモデルとして忙しい毎日を送っていたと思われるが今はまだそんなに忙しくはなかった。今日は珍しくグラビアの撮影があって終わったばかりである。朝から始まった撮影は思ったより長くかかって先ほど終わったのである。直子が携帯を取り出してかけようとした時に
「こんにちは!」
翔太がいった。
「笹川さん。」
直子は言って携帯をバッグにしまうと
「来週あたりには斉藤弘子からお金を取り戻しましょう。」
翔太は言った。
「来週ですか?」
直子が言うと
「危険がないようにしますが気をつけてください。」
翔太は言った。
「私だって恐い思いはしたくないからおとなしくしています。」
直子が言うと
「斉藤弘子にはきちんと法の裁きを受けさせましょう。」
翔太は言った。
「本当に大丈夫ですか?」
携帯電話で話しながら歩くサラリーマンを避けて直子が言った。
「任せてください。」
翔太が言うと
「私はどうすればいいの?」
直子は言って横を見るとそこにはすでに翔太の姿はなかった。