雨のあとに虹 その204
「そろそろ時間だな。」
町島が柳田に言うと
「もう約束の時間です。」
柳田は時計を見て言った。
「高村俊之さん。」
町島が呟くように言うと
「何か?」
柳田は町島を見て言った。
「わしの負けだよ。」
町島は呟いた。
「総武の人たちが来ました。」
玄関に居た若い衆が言った。町島は鏡を見て髪とネクタイを調えたると深呼吸をして大きく息を吐いた。今日の町島は珍しく緊張していた。応接室に行くと俊之の両サイドには陽子と立花が座っていた。さらに立花の横には恵子が座っているのが町島の目に入った。町島を見ると4人が立ち上がった。
「堅苦しい挨拶は抜きにしましょう。」
町島は言った。
「このたびはご迷惑をおかけしまして申し訳ありませんでした。」
立花が言うと
「座ってください。」
町島が言うと立花は拍子抜けしたように町島を見た。顔だけで判断すれば町島は今にも攻撃をしてきそうな風貌で迫力があった。陽子は俊之と町島の顔を交互に見ていた。恵子は一心に町島の顔を見据えている。
「ご無沙汰しております。」
俊之が言うと町島は右手を上げて。
「高村さんに謝らなければいけないようです。」
町島は言った。
「それはどういうことでしょうか?」
立花が言うと
「今回の件については私どもに手違いがあったようです。」
町島が言うと
「そうですか?」
立花は言って俊之と町島を見た。
「総武さんには何の落ち度もありません。」
町島が言うと
「騒音でご迷惑をおかけしたと報告を受けていますよ。」
俊之は微笑んで言った。
「ここは町島の顔に免じて無かった事にしてはもらえませんか?」
町島はなれない敬語を使って言った。
「それは大変にありがたい事で総武としても感謝しています。」
俊之が言うと立花は安心して町島を凝視した。陽子は驚きを少しだけ顔に出して恵子は何が起こったのか解らないままに話を聞いていた。
「わしは高村さんに恩があるからな。」
町島は言った。
「町島さんは大げさですよ。」
俊之が言うと
「あの場合はわしたちの世界にいる人間ならすぐにピストルに弾を入れて落とし前をつけさせたはずだ。」
町島は言った。
「僕は一般の人間ですよ。」
俊之が言うと
「高村さんがそれをしなかったのは違う理由からだと思う。」
町島は言った。
「そんな大げさな話ではないですよ。」
俊之が言うと
「生命のやり取りはくだらないとまで言って勝ち誇るでもなく落着いた振る舞いにわしは完敗したよ。」
町島は言った。
「僕は大事な友人を救いたかっただけですよ。」
俊之が言うと
「今後は高村さんと矢島さんも含めた関係者には一切手出しはしないと約束をした。」
町島は言った。
「そんなに重く考えないでください。」
俊之が言うと
「今回はまさか高村さんが総武の次期社長になると知らなかったとは言えわしが約束を破ったのだから許してほしい。」
町島は言った。立花は息を呑み陽子の心臓は震えていた。恵子は今にも泣き出しそうな表情であった。
「もう過去は忘れましょう。」
俊之は言った。
「高村さんは寛大だね。」
町島が言うと
「総武に落ち度があれば謝罪するのが当たり前ですよ。」
俊之は言った。
「ご迷惑をかけた度合いによってそれなりの保障をさせていただくつもりです。」
立花が町島を見て言った。
「いずれにしても誠意を持って対応させていただきます。」
俊之が言うと
「私たちへの保障はいらないからこれで手打ちにしましょう。」
町島は言った。