雨のあとに虹 その188 | 開運童子のブログ

雨のあとに虹 その188

弘子の携帯が鳴ると

「出ろよ。」

牛島が言った。倉庫の中は携帯電話の着信音が大きく響いていた。く。弘子は携帯を耳に当てと電話の向こうから純一は

「ビデオを500万で買ってくれないか?」

と言った。

「ちょっと待ってね。」

言って弘子は牛島を見た。

「買うと返事をしろ!」

牛島が言うと

「本当にオリジナルビデオを持って来てくれるわね?」

弘子は言った。

「大丈夫だよ。」

純一が言うと

「コピーを撮る事も考えられるわ。」

弘子は言った。

「そんな事はしないよ。」

純一が言うと

「どうして及川友宣が撮ったビデオをあなたが思っているの?」

弘子は言った。

「小学生だった友宣くんは映画少年で偶然にも斉藤さんが入江麗子さんを突飛ばすのを撮影したようだ。」

純一が言うと

「そこまで知っているわ。」

弘子は言った。

「友宣くんは本当にテレビドラマの撮影だと思ったらしくその場面を私に見せてくれた。」

純一が言うと

「あなたは及川友宣とどんな関係なの?」

弘子は言った。

「中学生になった友宣くんがうちの石井園にバイトに来て私と親しくなって偶然に見せてもらった。」

純一が言うと

「それをあなたが買い取ったのね?」

弘子は言った。

「そうだよ。」

純一が言うと

「そうだったの?」

弘子は言った。

「当時は警察から斉藤さんの事は聞いて知っていたが容疑者ではなかったからね。」

純一思い出すように言った。

「休み明けまで待ってくれたらお金は用意します。」

弘子は言った。電話を切った純一はビニールハウスから出て来て周囲を見回していた。急いで関口は物影に隠れたて純一が離れて行くまでじっと動かなかった。

「このデザインはどうかしら?」

春香は大介に言った。画家の大介はファッションデザインには興味がないのだが春香はこの家の跡取りであり自分は養子という立場で肩身が狭かった。

「君が書いた物に僕は批評できないよ。」

春香が描いたデザインを見た大介は言った。

「はっきり批評をしてもいいのよ。」

春香が言うと

「君は自分のファッションブランドを立上げようとするほどの実力者だからね。」

大介は言った。

「はっきり言ってよ。」

春香が少し甘えたように言った。

「僕は売れない画家だからね。」

大介が言うと

「それは関係ないわよ。」

春香は言った。

「僕は会社の経営も出来ないから高村さんが現れて助かったよ。」

大介が言うと

「人には適性があるのよ。」

春香は言った。

「高村さんにずっと社長をやってほしいね。」

大介が静かに言った。そんな大介が春香は好きだった。俊之とは違う魅力が大介にはあったのである。

純一が帰宅しても静江はまだ帰って来ていなかった。千晴の姿は見えないが自分の部屋にいるのかもしれないと純一は思っていた。純一は疲れた顔でリビングのソファーに座ると

「ふっ!」

と言ってため息をした。純一が珈琲を飲もうとすると玄関のドアが開いて静江と千晴が帰って来た。

「ただいま。」

と静かに静江は言った。無言の千晴に純一は視線を向けて

「今日も帰りが遅いな?」

と言うが静江も千晴も純一の言葉には無言であった。純一にとって長い一日が終わろうとしていた。

 俊之と久美子を乗せた電車は静かに歴史の玄関口に滑り込んでいた。関東では武家政権が確立した時に政治の中心地となったこの土地には歴史を肌で感じる事ができる寺があった。大仏をはじめ有名人の墓もあり海岸線はどこまでも続いているように長く見えていた。少し足を延ばせば若者が集まる海岸がありシーズン中は賑わっていた余韻が残っていた。今は一年中で一番寒い季節であり訪れる人も少なかった。俊之は久美子とゆっくりとこの地を見て回る事にしていた。駅の改札口を出て大きな通りを歩くふたりを冬の北風が出迎えた。久美子の右手が俊之の左手を強く握り締めてくる。ふたりの指と指が絡み合い今日は特別な何かを予感させていた。

「この池が歴史的にも有名なものらしいよ。」

俊之が言うと

「この池は以前に一度来たけれどこんなに小さかったかな?」

久美子は言った。

「久美ちゃんがいくつの時に来たの?」

俊之が言うと久美子は

「中学生の時に友達とふたりで来ました。」

と言った。

「大人になってから見ると小さく見えるものもあるらしいよ。」

俊之が優しく言った。

「あの時には池がもっと広く見えたのにね。」

久美子は正直な気持ちを言った。