雨のあとに虹 その181
「たまにはこういう所に来てもいいかなと思ってね。」
俊之は久美子に言った。以前に矢島に連れてこられたすし屋である。
「落着いていて高級感があるけどここ高いですよね?」
久美子は心配になって言うと
「今月から収入が増えたから大丈夫だよ。」
俊之は決して謙虚さを忘れずに言った。
「それなら少しは贅沢をしても許されますよね。」
久美子は言った。久美子がバイトで貰う給料では来られそうもない店であった。
「久美ちゃんが好きなものを頼んでいいよ。」
俊之はメニューを久美子に見せて言った。
「何でも俊さんと同じものでいいです。」
久美子は言った。
「遅くなったけど大丈夫?」
翔太が育子に言うと
「大丈夫よ!」
育子は言った。
「高村さんと育子さんの出会いって偶然だったと聞いたよ。」
翔太が言うと
「運命的でもあるかな?」
育子は言った。
育子の寮への帰り道を歩きながら会話が弾んでいた。
「先ほどの笹川さんと同じの気配を感じたからね。」
育子は言った。
「高村さんにかい?」
翔太が不思議そうに言った。
「信号で待ちしていた私のそばでその気配が止まった時だったな。」
育子が言うと
「痴漢と間違えて手首を押さえようされたのが高村さんだった。」
翔太は言った。
「正解。」
育子が言うと
「なるほどね。」
翔太は言った。
「高村さんにさっと避けられて僕に何か用ですかと言われました。」
育子が言うと
「高村さんに何を感じたの?」
翔太は育子の目を見て言った。
「軽い身のこなしで拳法をしているのは解ったよ。」
育子が言うと
「さすが育子さんだ。」
翔太は言った。
「同じ格闘技をしている者としてどこか解り合えた部分があったみたいね。」
と育子が言うと
「それで恋愛感情より友情が芽生えた。」
翔太は言った。
「そうかもね。」
育子が言うと
「タイミングを逃したね?」
翔太は言った。
「恋愛をする時期をいつの間にか逃して気がついたら高村さんは久美ちゃんと出会っていた。」
育子が言うと
「同じ格闘技を志すものとしての友情は僕にも解るよ。」
翔太は言った。翔太と育子は恋人同士のようであった。
「今度の休みは何処かに出かけようよ。」
俊之は久美子に言った。久美子は箸を持つ手の力が抜けそうなほどの驚きもあったが嬉しかったのである。俊之と何処かへきちんとした形で出かけることは少なかったのだ。
「本当ですか?」
久美子は嬉しさを隠せないで言った。
「何処か行きたい所はあるかい?」
俊之が言うと
「今はシーズンオフだけど海に行って見たいな。」
久美子は言った。
「海もたまにはいいね。」
俊之が言うと
「誰もいない海は素敵ですよ。」
久美子は言った。
「海に行こうよ。」
俊之は久美子を見て言った。
「誰も居ない海辺をふたりで歩いてみたい。」
久美子は嬉しそうに言った。