雨のあとに虹 その177
純一は町内の会合でアルコールを飲み過ぎたようだった。最近は良いことがなかった純一は生まれて初めて溺れるほど水割りを飲んでいた。足取りが悪くなってまっすぐに歩けない状態になったのは初めてである。純一の足取りはとても悪かった。家までは遠くないが近所の景色はいつまで経っても家に近づいてくれなかった。交差点の信号が赤になって純一は立止まった。大きく息を吐いた純一の目に赤信号を無視して猛スピードで走ってくる車が映った。純一は足元がふらついていたが不安定なのが幸いだった。車をうまくかわして純一は転んでいた。酔いがまわった純一はその瞬間に現実に戻っていた。
俊之は病院を出て駅へ急いでいた。大通りは人が多いが横道に入るとほとんど人は居ない。足音を立てずに歩く俊之以外には周囲に誰も居ないはずであったが俊之は突然足を止めていた。その静寂に向かって俊之は
「僕に話があるのなら出てきたらどうだい。」
と響く声で言った。俊之の後ろから男の影が現れて影が影でなくなっていた。そして
「ご無沙汰しております。」
と言った。俊之は振返って相手を見た。
「沢田くんだね。」
俊之が言うと
「失礼しました。」
沢田は言った。
「僕に何か言いたいことでもあるのかい?」
俊之が言うと
「ひと言高村さんに謝罪したいと思いましてね。」
沢田が言った。
「謝罪なら先ほど君の上司からしてもらったよ。」
俊之が沢田の目を見て言った。
「そうでしたか?」
沢田が言うと
「僕に会いに来る前に君は自分の上司を見舞うべきだよ。」
俊之は言うと歩き出していた。沢田は驚いて呆然と俊之の後姿を見て
「知っていたのか?」
とだけ言った。
「これで撮影終了です。」
夜間を通しての撮影が終わってADが言った。
「お疲れ様でした。」
直子が疲れを見せずに言った。
「お疲れ様でした。」
ADが労って言った。直子は周囲に目を向けると出演者は個々に駅に向かって歩き出していた。
「帰ってもいいですか?」
直子が言うと
「いいですよ。」
ADが言うと直子も駅に向かって歩き出していた。始発はすでに動いているがまだ電車の本数は少なかった。駅で電車を待つのもいいが直子はお腹が空いてきた。本当なら眠いはずの時刻であるが仕事をしているとテンションが上がっていために眠くならないのである。24時間営業のファミレスにでも入ろうと捜していた時に目の前に見覚えが女性の姿が見えた。直子は思わず
「斉藤さん!」
大声で言った。
「いらっしゃいませ。」
ひとみが言うと
「お客様はこちらへどうぞ。」
久美子が言った。
ふたりがいると混雑していてもレジに並ぶ人が少なかった。
「ご注文は以上でよろしいでしょうか?」
ひとみが言うと
「ブレンドの客様お待たせいたしました。」
久美子が言った。朝の時間帯は活気があった。そこに50歳手前のビジネスマン見える男が入って来た。
「僕もブレンドね。」
その男は言った。ひとみはその男を見て
「社長!」
と驚いたように言った。久美子は驚いて社長と言われたその男に
「おはようございます。」
と言った。
「おはよう。」
その男は言った。
「早いですね。」
ひとみが言うと
「こちらのバイトさんは対応がしっかりしていて優秀だね。」
男は言った。
「私も頼りにしています。」
ひとみが言った。
「こちらは社長さんですか?」
久美子が言うと
「トレンドカフェの経営母体であるワールドコミュニケーションの深水社長です。」
ひとみは言った。深水隼人は久美子しっかりと見ていた。