雨のあとに虹 その149
「午後はどうしようか?」
純子は言った。ふたりは学食で昼食を取っていた。
「このあと図書室で調べものをしたあと講義に出るよ。」
久美子は言った。久美子はバイトの予定がないので講義に出るつもりでいた。
「私はちょっと行くところがあるから帰ろうかな?」
純子は相変わらず調子で言った。
「それは純子の自由だけど単位は大丈夫なの?」
久美子は他人事ながら少し心配になって言った。
「あとで補習を受けるから大丈夫よ。」
と純子は平然として言った。
「私がしっかり講義を聞いておくね。」
久美子は優しく言った。
「こちらです。」
陽子が社員食堂に案内して言った。
「広くて落着いた雰囲気だね。」
俊之は周囲を見回して言った。俊之のことは一部の関係者しか知らされていないのでほとんどの社員は俊之や陽子を注意して見ていなかった。
「しっかり昼食を取ってくださいね。」
陽子が言うと
「うん。」
俊之は言って陽子を見た。
「春香さんから言われています。」
陽子が言うと
「何を言われているの?」
俊之は言った。
「以前よりお痩せになられたそうですね。」
と陽子が言うと
「メタボにならないためだよ。」
俊之は微笑みながら言った。
あたり前であるが図書室はとても静かだった。久美子はほとんどの女性がそうであるように理数系が苦手であった。一般教養過程には理数系の講義もあるので苦手であっても勉強しないといけない。久美子はその理数系の資料を調べにたかったのだ。久美子は目的の本を見つけて空いている席に座っていた。資料を見ているうちに俊之の事が脳裏に少しずつ大きな位置を占めて思いが頭を廻っていた。
「今の時間なら総武の春香さんのところで仕事をしているかな?」
久美子の口から出てきた。時間的な余裕があるところで総武グループについて書かれている本も探してみようと考えた久美子であった。
「石井さんには何度も説明しているようにこの状態では融資は難しいですね。」
三友銀行の融資担当である折原昭次は切捨てるように言った。純一は
「そこを何とか考え直してもらえませんか?」
と哀願するように言うが
「売上げは下がっていて今まで何の経営改善策も出していないですね。」
折原は銀行の応接室で言った。
「これからがんばれば何とかなりますよ。」
純一は言うが
「このままでは当行の審査は通らないですよ。」
折原は言った。
「今を乗り切れば何とかなります。」
純一は言うが
「もっと広い視野で物事を見てください。」
折原はあくまで冷静で冷たく言った。
「ダメですか?」
純一は言ってため息をついた。
「石井さんもご存知のとおり当行も不良債権を多くなると監督官庁から責められるわけです。」
折原は本音を言った。
「本当にそうですか?」
純一が言ったひと言が折原の機嫌を損ねていた、純一の今までの人生で自分の思い通りにならないことはひとつも無かったのである。
山本は病院の廊下をひとりで歩いていた。どういうわけか病院というところは健康な人でも気分が滅入ってしまう不思議な雰囲気がある。山本は病室をひとつずつ確認して目的の部屋を見つけた。ノックをして相手の返事を待った。
「はい。」
相手の返事を確認してからドアを開けて
「失礼します。」
山本は言ってドアを開けた。
田所は山本のいない役員室の片隅に座ってじっと時間が過ぎるのを待っていた。山本の支持がないと勝手な行動は許されないのである。ただ座って時間を過ごす事が苦痛ではなかった。よく考えてみれば座っているだけで給料が貰えるのである。こんな楽な仕事はないと田所は考えていた。中村が総武と交渉で連絡をくれたら田所も一緒に時には立ち会わなければならない。田所は時計の針がゆっくり動くのを見つめていた。