雨のあとに虹 その147
近代ビルとでも言える総武企画の本社ビルは三友商事に負けないくらい新しい内装が施されていた。陽子に案内されて俊之は管理本部へ行く途中であった。これから管理本部長に会うためである。本来なら社長室に呼びつければいいのだが俊之の希望で社内の見るついでに管理本部へも行くことにしたのであった。
「こちらです。」
陽子が言うと
「ありがとう。」
俊之は言った。フロアーの奥から40歳の少し前に見えるエリートよりはスポーツマンタイプの男が立って俊之を迎えた。
「管理本部長の立花慎悟です。」
好青年の立花慎吾はハキハキした口調で言った。
「高村俊之です。」
俊之は言って立花と視線を合わせた。
「何でも私に言ってください。」
立花も俊之と視線を合わせて言った。
「すべて立花さんに言えば支持は伝わりますね。」
俊之が言うと
「管理本部で総武グループに全体に指示を反映させています。」
立花は言った。立花は今の時点では俊之を好意的に迎えているように思えた。
直子は銀行のキャッシュディスペンサーを操作して弘子の口座へ振込みを終えていた。80万という金額は直子にとっては大金である。それも預貯金ではなく借入金であった。それは無謀とも言えるかけであった。直子はその賭けをしてみようと決心をしていた。弘子の言葉にすべてを賭けてかけて失敗すれば直子には厳しい現実が待っているのだ。直子は振込みの控えを取り忘れて歩き出していた。すぐ後ろに並んでいた翔太は控えを取って直子を追いかけていた。
「すみません。」
翔太は大きい声で言った。直子は気がついてすぐに振り向いた。
「私ですか?」
直子が言うと
「忘れ物ですよ。」
翔太は言ってと直子の前控えを差し出した。
「これは控えね。」
直子が言うと
「大事に保管してください。」
翔太は言った。
「これはいらないわよ。」
直子が言うと
「あとで重要な証拠になりますよ。」
翔太は言った。直子は驚いて
「重要な証拠ですか?」
と言うと
「これは動かぬ証拠になりますよ。」
翔太は言った。
俊之は各部署の様子も見て歩いた。総武の社員がどんな様子で仕事をしているのかを雰囲気でも見る事ができればある程度の事は解るのである。総武は他社に比べて女性社員が多いのが特徴のひとつと言えた。年齢に関係なく女性をリーダーや管理職に抜擢するのが正樹の経営手腕によるものだと聞いていた。生き生きと明るく仕事をする社員を見て俊之は改めて感心していた。
「こちらが交渉部です。」
陽子は言った。
「三友商事との業務提携による交渉をしている部署だね?」
俊之が言うと
「そうです。」
陽子は言った。ふたりは交渉部のフロアーに入った。そこには年齢は陽子と同じくらいの女性が立っていた。活動的な雰囲気がありスポーツの選手のようなイメージを受けた。
「交渉部長の薬師寺恵子です。」
薬師寺恵子は俊之を睨みつけるように見て言った。
「高村俊之です。」
俊之は言って恵子から視線をはずさなかった。
「すべての交渉に関しては彼女が取り仕切っています。」
陽子が俊之の横で言った。
「総武は女性社員が多い職場のようですね。」
俊之は正直な感想を言ったのだがその瞬間に恵子の表情が変わっていた。
「それではいいけないですか?」
表情を変えない俊之に対して憎悪とも言えるような形相で恵子は俊之を睨んで言った。